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2024/09/29 07:53 |
【手下】王子様不在【メンズ】
プリンセスについて話す手下まとめ。


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◆A&E


きっかけは些細なことだった。
プリンセスをどう思うか。それだけのことだ。本当にたったそれだけのことだ、口に出すほどのことでもない、とエイトフットは思っている。
親の仇、という言葉を使うならば確かに忌むべきものだろう。それでも、マスターヴィランズは何度目だろうと繰り返す。エイトフットの存在する世界においてあの小娘はどう足掻いても唯一の例外で、能天気で我が儘なお姫様だ。消えない人魚姫。面倒な、と思うし嫌な顔もする。それ以外の何でもない。

「あれは女王様にとって憎むべきものだ。だから私にとってもそうで、それが正しいに決まっている」

我らが最年長アップルポイズンにとって、白雪姫は敵である。仕える主人が厭うのに、どうして好きでいることがあろうか。考え方としては分からなくもない。人としての幼さと同じだけの純粋さで、アップルポイズンは彼女を嫌う。けれど、毒林檎としてのあいつを文字通り一番に活かして殺すのは白雪姫なのだから、全くヴィランズというのは報われない。アースラ様と契約しさえすれば、それはもう完膚なきまでに理不尽に、全てを奪ってみせるだろうに。今までアースラ様の契約を破ったのはあの小娘だけだ。

「俺はアリスのこと嫌いじゃないけどね」

事もあろうにジャックハートの意見は当然のように正反対だった。マルフィの奴も色々と考えるところはあるのだろうが(こいつのところのマスターはまた異色だ)、それを口に出すほど精神年齢は幼くない。
滞在する約束のホテルには与えられた個室の他にも図書室やら遊戯室やらが揃えられていて、そこそこ快適な住処のはずである。地上にしては。そして、馬鹿共の小競り合いを除いては。

「ちょっと、でかい身体が部屋に戻るのに邪魔なんだけど派手リンゴ」
「私は美味しい毒林檎だ愚かなトランプの一兵卒」
「ああ?なに、やんの?」
「遊んでやろうか?」

こいつらの喧嘩はだんだんとお決まりになっている。もしも本気の喧嘩になった場合には俺とマルフィが出なければならないだろうし、アップルポイズンが我を忘れた日には相性も鑑みてハーデスの協力も仰がなければならない。そうなったら最悪だ。適当なところでストップをかけるに限る。そういうストレス発散のために手合わせの機会が別に設けられたのであり、今はただの自由時間だ。そのはずだ。

「美しくないだろう二人とも、そういうときは美しい私を観て落ち着くに限るのでは」
普段は全く役に立たないマルフィを押し退けて「お前等うるせえんだよ喧嘩は余所でやれ」と手を振る。そろそろ夕飯の時間だ。頃合いだろう。
「りんごもジャックも仲良くしてくれよお」
鶴の一声よろしく犬の一声が響いた。元々が子犬だからか、ダルメシアはマスターのそれでなくとも怒鳴り声には弱い。
「……大人げなかった。そう怯えるな、ダルメシア」
「ダルメシアのリンゴは流すくせにさあ!!」



◆M


(誰かのための王子さまで在りたかった。)



「本当にプリンセスを憎んではいない、と?」

アップルポイズンの気配が冴え冴えと部屋に満ちていた。リクルートへの出勤時間に本日休暇のジャックハートと鉢合わせたアップルポイズンは、小競り合いではなく再度議論を試みたらしい。エイトフットにしてみれば平行線なのは分かり切っていることだったが、本人からすればそうではないようだった。

「ああ。僕はあの子にまた会ってもいいって思ってるさ。あんたには分からないだろうけどね」

ジャックハートが引くはずもなく、噛み付く勢いで言い返す。
雰囲気が凍りついたところで、ジャックハートと同じく本日休暇のマルフィが部屋から顔を出した。休日には常の倍時間をかけて身支度を整えるマルフィにしては早過ぎる。わざとだな食えない化け烏め、と口の中で海の悪魔は呟いた。ダルメシアが早めに外に出ていて良かった。正確にはハイエナガールに追い立てられたわけだが、子犬が尻尾を丸めているのはヴィランズと言えどなけなしの良心が痛む。

「そろそろリクルートの時間では?レディたちを待たせるものではないよ」
「しかし、マルフィ」

「プリンセスを憎む、というのはなるほどヴィランズの正しい姿ではあるだろう。だがそれは在り方の一つだ。ジャックハートの世界において、迷い込んだ少女は狂ったワンダーランドで正しく主人公であり、創造者であり、敵でもある。彼女にとっての王子様は存在しない。そうだろう、アップルポイズン」

烏の紫の瞳はプリンセスを殺した毒林檎を映している。

「……ああ。その通りだな。すまない。行ってくる」



私たちも朝食にしようか、と全員を送り出したマルフィは談話室へ向かう。

「……うん。やっぱりありがとう、マルフィ。僕たちは似た者同士だと思っていたから、庇ってくれるとは思わなかったな」

ぱん、とジャックハートが手を鳴らす。かぐわしい香りの紅茶がポットに満たされ、焼きたてのお菓子が並ぶ。少しばかりテーブルから浮いているのはワンダーランドならではだ。人間界で禁止される魔法の程度は個人によって異なるが、ジャックハートのお茶会はおおむね認められていた。たとえいつも通りに行えば机から床まで紅茶でびちゃびちゃになるとしても、お茶会の魔法は(アップルポイズンの毒などに比べれば)極めて無害な部類だ。

「おや、何についてだろう」
紅茶なら頂くが、とハートの模様の浮かんだティーカップを手に取る。仲裁ならばいつものことだ。

「王子様になりたかったヴィランズだ。お互いに」

なるほど、正しい。
目を細めて笑うと誤魔化されない、とばかりにハートの瞳孔が開かれる。

私はマスターがあの子を見守っているのを一緒に見ていたよ。
あの方のためなら、マスターがそう望まれるなら、あの子を救う王子様になりたかった。真実の愛で生涯を賭けた呪いを解けるような、月日が経つ毎に絶望するあの方を救えるような、そんな存在に。その役目は私のものではなかったけれど、そうであればと願ったよ。愚かな願いだ。馬鹿げた考えだ。それでも私は、あの子が救われて嬉しいんだ。

朝食のトーストがちん、と高らかな音を立てて出来上がった。ジャックハートは立ち上がってトーストを取り出す。宙に浮かんだバタースプレッダーがハートの形にジャムを塗っていく。

「ヴィランズは妖しく、美しく、自らのマスターヴィランズのハッピーエンドを目指さなくてはならない」

トランプ兵の言葉は詩を謳うようだった。瞳は血の色。ハートの11、王子の数字。
首を落とす動きで払われた道具はそのままどこかに消える。

だから、マルフィは正しいよ。



◆J


僕はあの子に戻ってきて欲しいんだ。だからずっと捜してる。また会って、話したくて、どこにも行かないでって。そんなことは叶わないって分かってるのに、あの世界では意味のない数字だって知ってるのに、きっと僕はあの子のための王子様になりたかった。僕たちの世界に愛はない。不思議と不条理はあっても、愛や恋は存在しないんだ。

僕たちは仕えるマスターも、存在する世界も本来ならば違う。この烏はナルシストでマイペースで、けれど自己中心的ではない。怖いくらいに周りが見えていて、だからこそ世間話にしては話過ぎた。もちろん、アップルポイズンの言うことが間違っているとは思わない。単純に気にくわないのと、僕とあれでは物語の中の役割が違いすぎる、というだけで。指についた真っ赤なジャムを舐め取って、紅茶に砂糖を投げ入れた。マルフィが笑う。

「ありがとう、ジャックハート。そして君も正しいよ、ハートのジャック≪王子様≫」

この気持ちが愛でないなら、君に忘れられた僕に残されたこれがもしも愛でないというなら、なるほど僕は今も昔も正しく夢の国の住人だろう。初めましてジャックハート、と僕に向けられた笑顔。貴方たちなんてただのトランプじゃない、別れ際の言葉。
あの子が嫌いで、大好きで、忘れないで欲しかった。

「ヴィランズは自分の欲望に素直であるべきだ」
「ワオ、ごもっとも」

アリスは僕たちを創造する主人公である。
彼女の友人であり、敵であり、彼女自身である僕たちは、あの子なくしては存在できない。だからあの子のことを敵だ仇だ、とは言い切れないのが僕の立場である。清潔な青と白のドレス、闇色のカチューシャ。たっぷりの金糸をいつだってきらきらと輝かせて。ジャック、と僕の名前を呼ぶ。


(きみはぼくのかみさま!)

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2016/01/15 06:30 | 手下(SS)

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