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2024/09/29 07:55 |
かみさまどうか泣かないで【刀剣乱舞×RKRN】
御手杵と綾部の話。クロスオーバー。
やりたいことやったもん勝ち精神で書いたので、
年齢操作・軽い流血表現・捏造諸々、苦手なものがある方はご注意ください。

好きな子たちが会話するのが見たかった、
レプリカが13歳で同い年と聞いてやめられなかった、等と供述しており……
綾部と優しい神さまの話です。

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落とし穴が消える。


競合区域に作った罠が消える、というのは大体の場合誰かが罠に掛かったことを示している。ところが3日前からはそうではなくて、作ったはずのトシちゃんたちが存在しなかったように丸ごと消えてなくなってしまっているのだ。
「おやまあ」
見回った先で首を傾げた。広い学園の敷地ではあるけど隅の方だから、保健委員でも滅多に落ちないような場所だ。どちらかといえば侵入者向けだろうか。敷地とはいえ小松田さんの感知しない塀の外、ということを差し引いても考えても不可思議なことだった。

「どうしてだと思う、たき」
「それはこの酷い天候で偵察しているときに話さなければいけないことか!?」
雨はざあざあを超えてばしゃばしゃという音になっているけれど、膠着状態の戦場の偵察をやめることはできない。ここで得た情報はそのまま学園の情報として使われるものなのだろう。先行したろ組とは組は全く違う課題だったのを知っている。
「他に話すこともないからねえ」
「何を言うか、お前も私も戦場に妙な影を見掛けただろう!旗印が確認出来ないままでは戦が始まってからも戻るわけにはいかないからな。全くお前ときたら、実習で組んだのがこの優秀な平滝夜叉丸でなければ恐ろしく苦労しているところだぞ」
今回の四年い組の課題は学園から遠く離れた場所で起きた戦場の状態を把握することだった。交代で休んでいるにしても三日目だから、お互い日中も眠気がなくならないままだ。目の前は煙っていて視界はすこぶる悪く、足場にしている木の根元すら見えやしない。
「トシちゃんたちを丸ごとなくすような時間をかける意味も、あんなにすっかり痕跡をなくす方法も分からないんだよ」
「立花先輩のお考えは?」
同室はちらりと僕に目を向けた。
「立花先輩も課題で仕掛けたはずの焙烙火矢がいくつもなくなっていたって。学級委員長委員会に報告して、そのまま学園長先生のご指示待ち」
「それはかなり深刻な事態なんじゃないのか」
「やっぱりー?」
「やっぱりー、とか言っているバヤイか!学園敷地内に侵入者があるかも知れない、というのは本当に笑い事では」
そのあとに続く言葉がないんだぞ、であったのか、ないぞアホハチロー、だったのか僕には分からない。どちらにしても同じ意味だろうし、優先事項ではなくなった。頭部を串刺そうと射られた矢を滝夜叉丸が何とか苦無で逸らしたからだ。びいん、と幹に刺さった矢の音がまだ響いているうちに滝夜叉丸が枝から足を踏み外すのを見た。
「……毒矢か、」
「たき!」
間に合わない。下に降りて駆け寄ることはできない。滝夜叉丸が受け身を取れたのを信じて、飛び降りるのと同時に僕は立てかけておいた鋤を構えた。
(……三人?四人か)
囲まれている。
ただの山賊にしては装備が良すぎた。落ち武者が山賊まがいのことをしているのだろう。落とし穴といい、急な実習課題の変更といい、旗印の分からない軍勢といい、最近変なことばかり起きる。


最後の一人は刃毀れた得物を放って僕を押し倒した。折られるわけにはいかない鋤を手放して、抵抗はせずに。これが片付いたら滝夜叉丸の毒抜きをしなければ。手のひらで寸鉄を握り直したところでぐちゃ、と肉の音が響いた。ばしゃばしゃと顔に血飛沫と肉片が飛んできて、目の前の男から首から上がなくなったことを知る。おやまあ。口に出すと、真っ赤の向こうに明るい色が見えた。





身体が縮んでいた。


「……は、はあっ?」
身体が、小さい。目に入る手のひらは常よりも二回りほど小さく、足も同じくだ。慌てて槍を確かめれば、いつも通りの大きさだった。
これは、ちょっと、持てるんだろうか。手に取ればしっくりと馴染んだ。重いのもいつもの通り、動かしてみるが支障はない。さすが俺の本体。っていうか俺なんだけど。
戦場で敵の大将を追い掛けて、ちょうど同田貫と一緒に部隊から分断される形になって、相手を刺して。霧の立ち籠めた戦場ではあったが、同田貫の姿は見えていたはずだった。今はそれがない。この霧では動いても仕方が無いと判断して、合流までの休息のため森に入った、はずだ。ちょっとうたた寝しただけで身体が縮むというのは、まずいんじゃないか。此処が審神者の霊力の届かない場所なのか、それとも審神者の言っていた不具合というやつだろうか。他の本丸では稀に大きさや性別が変わる不具合もあるという。なにそれこわい。
「うえー……これどうすんだよお……」
こういう境遇、主と短刀たちが一緒に端末で見ていたアニメであった。俺知ってる。悪い奴らの秘密の取引を見て、背後から殴られて、薬飲まされるやつだ。
「目が覚めると、身体が縮んでしまっていた……」
生憎俺は秘密の取引は見てないし、背後から殴られてもいないし、薬も飲んでない。戦に参加して、相手を串刺しにして、槍で首を掲げはしたけど。じっとしているより、森の中の探索をして部隊と合流する努力をしたが良さそうだ。ただし、霧はないけど、雨がひどい。
全く妙なことばかり起きる。


「あんた、大丈夫か!」
俺が山賊の顔を串刺しにした所為でひどい有様になってしまったけど、仕方が無い。子どもが倒れている、山賊か追い剥ぎがのしかかっている、これはもう刺すしかないだろう。蜻蛉切ほどじゃないけど、俺も持ち主の影響を受けているらしい。送り込まれた先の人間と話したくらいで未来は変わらないし、人一人助けたからって歴史は変えられない。そもそも遠征任務以外で俺たちの姿が見えるやつの方が珍しいのだ。つい話掛けてしまうけど。
助けた子どもは妙に落ち着き払っていたから、死ぬ覚悟を決めていたのかもしれない。だとしたら俺の助けは要らなかっただろうか。分からない。審神者以外の誰かと話した記憶がそうそうないし、人間の考えることは難しい。
「大丈夫」
おや、と思う。見えているらしい。覆いかぶさっていた死体を押し退けると、藤色の髪をした子どもは草むらに飛び込んだ。想像よりも声が低くて、ああ男だったのかと気付いた。
「たき、滝夜叉丸」
じゅる、と何かを啜る音がして、何かが吐き出される。周りで倒れている山賊に止めを刺しながら近寄ると、もう一人子どもがいた。顔色が悪いし、怪我をしている。助けた方よりは血塗れじゃない点でましな格好だけど。じい、と子どもは俺を見つめている。
「……忍じゃないね。そこで戦してる兵にも見えない」
「あいつらと俺は関係ないよ。ちょっと仲間とはぐれちまった」
名は、とこちらに問いかける声はそれなりに張り詰めていて、獲物を持った相手から人一人抱えて逃げ切れるか分からなくて不安なんだろうなあと推測する。俺の槍は今日も鋭く、大きく、それなりに重い。
「御手杵だ」





実習とはいえ、山賊が出るなんて情報はもらえていなかった。本来、四年生に与えられる課題はそこまで厳しいものではないはずだ。
滝夜叉丸は頭を打っている。激しく動かすわけにはいかないから、この酷い雨をやり過ごして、合戦場の近くを抜けられるようになるまで待たねば。運が良ければ先生方が捜しに来てくださるかもしれない。実習期間の終わる前に、様子を見に来てくださるはずだ。意識が戻る可能性もある。それまで生きておくには、目下のところ偵察拠点の洞窟までついてきた槍使いが問題だった。
「そこ、避けて中に入って」
「おお。ここ、ちゃんと見つかりにくいとこにあるんだな。雨風も凌げるし」
雨は激しさを増して嵐になっている。この調子なら開戦はまだだろう。だからやはり、問題はこの槍使いだけだ。
「しばらくここにいんのか?」
しばらくは。応えた僕にそうか、と彼は頷いた。おてぎね、と名乗った彼は長い槍をくるりと回して、まるで道に迷った幼子のような顔をして目を伏せた。俺はどうすっかな。正国は皆と合流できてるといいんだけど。三日月のじいさんも心配だしなあ。下級生だってもっとうまく嘘を吐くだろうから、きっと本音で本名だ。
(……妙な装束)
背丈は変わらないか、僕の方が大きい。手にされたままの槍は遊びで持つには高そうな品で、だからこそ藪蛇はごめんだった。作法委員会でも武器の目利きはする。こんな形状は備品でも見たことがない。長く、大きく、切ることや薙ぐことを捨てた、刺すためだけの槍。
「そいつ、大丈夫そうか」
槍そのもの、みたいなさっきの戦い方を僕は見ている。忍たまの友にあるような、嘘を吐くときによくある癖も見られない。
「たぶん。薬草もある」
だから、正直に答えた。嘘を吐くときは本当の中に混ぜ込んだ方が良いのだから、言えることは言っておいていいだろう。
「そっか。それなら良かった。子どもが死ぬのは好きじゃない」
そこまで歳が上には見えなかった。せいぜい同い年くらいではないだろうか。
「迷子なら、置いてあげるよ」
「助かる」
雨が止む気配はない。うろうろされるよりは、目の届くところにいた方がましだ。敵意は感じない。荷物の中から薬草を出して、すり潰す。滝夜叉丸の傷口に貼らなければ。
ああ、穴を掘りたい。入り口近くに一つ、滝夜叉丸を寝かせた場所の手前に一つ、すでに掘ってある。これ以上洞窟の中に増やすわけにはいかない。
眠るわけにはいかないから、じっとこちらを見ている彼に話し掛けることにする。戦場で見かけた影に緑の装束があった記憶があるし、もしそうなら旗印とは言わずとも情報を集められるかもしれない。
「御手杵は、いくつ」
「えっ、うーん、いくつだろうな。ちゃんと数えたことねえなあ……」
僕と変わらないくらいに見える。
「主には本当なら十三だろうって言われたけど、記憶だとそれよりあるしなあ。あんたは?」
「ふーん。僕もそのくらい」
「そんなもんか」
御手杵は僕と自分の身体を見比べた。十三のからだ、と不思議そうに呟く。脇差くらいかな。





夜が明ける頃だろうか。水を汲みに行く、と立ち上がった。俺だけを残す気は無いだろう。一緒に立ち上がる。ついでに戦場のあれこれを流したが良さそうだ。彼は俺の所為でひどいことになってるわけだけど。兵粮丸、と言って分けられた食糧は、栄養はあるけど美味くはない味だった。
「川があるのか」
森の匂いがする。雨が弱まったと思ったらまた霧が濃くなってきた。
「ちょっと歩く。あ、ちょっと待って」
て、の音が発音し終わる前に俺は一歩を踏み出していた。足元が崩れて、平衡感覚を失う。見上げれば、かなりの深さの落とし穴にはまっていた。身体のあちこちが地味に痛い。
「んん……だぁいせいこう、でもないか。待ってって言ったのに」
差し伸べられた手を握る。手のひらは胼胝で硬く、どうにも顔と不釣り合いだなあと思う。
「ごめんなあ」
何せ止まれなかったのだ。僕はいいけどね、と子どもは首を傾げた。たとえ元の大きさであっても、俺一人だったらとても出られなかっただろう。それくらい良くできた落とし穴だった。
「こんなところに移動してたのか」
落とし穴の淵を撫でているのを見ていると、他にもありそうだよ、と宣言された。うええ。


「あ、俺の使えよ。これなら失くして帰っても怒られねえから」
躊躇なく腰に巻いてあった布を千切ると無言でこちらを見つめられる。少し居心地が悪い。
「飯も貰ったしな」
「ああ……兵粮ならあれが最後」
ざばざばと俺から受け取った布を洗いながら片手で水を汲む。
「へっ?」
「夜が明けてからもたきの意識が戻らなかったら、このあたりで何か食べるものを見つけなきゃ」
本当にもう手持ちがないらしい。事実を述べただけ。そういう感じだ。言い終えた途端に川に顔を突っ込むようにして汚れを洗い流している。血の色がゆっくりと流れに乗って広がっていく。
何で早く言わねえんだよ。顕現されてから久しいけれど、覚えたことのないこの感情はきっと怒りだった。話に聞いた通りはらわたが熱く、煮え滾るようで、それと同時に涙腺が緩んだ。涙も出るなんて聞いたことなかったけど、正国の奴は恥ずかしいから内緒にしてたんだろうか。
「……どーしたの?」
唇を噛み締めると血の味がした。食べなくても死にはしないのに、俺が貰ってしまった。戦の世で、俺たちからすればこんな幼い子どもたちにとっては、きっと大切なものだっただろうに。戦場で腹が減っても、血が流れても、それだけで俺たちが死ぬことはない。視界が歪む。妙な感覚だった。胸や腹がざわざわする。俺の姿を見て笑うでもなく、心配するでもなく、無表情のまま頭に手が伸ばされた。
「よしよし?」
「ガキじゃねえって……」
びしゃびしゃに濡れた手で頬を拭われる。頬を流れる熱は水分に奪われてしまった。
「早く洗っておいで」
そりゃあもう完膚無きまでに、完璧な子ども扱いだった。しかも泣き疲れて眠っちまったから、この身体の所為ってことにしとこう。





戦場は緊張状態を保ったまま、どちらの軍も動けないでいる。日課の偵察を済ませて、数を記憶した。滝夜叉丸に怒られないようにしておかなければ。
「あんた早起きなんだなあ」
木の下で欠伸を噛み殺す御手杵に「今日は一人だからね」と返した。食料調達と落とし穴の謎の解明が目下の目的だ。
周りの探索をしながら食糧になりそうなものを探す。森の中に入るとトシちゃんたちが居た。二歩前、とか、北に三歩、とか見ないままで避けるように注意をすると不思議そうにこちらを見る。
僕の掘った落とし穴だ。目印もある。通るときに見たから覚えた。色々と言えることはあったけど、言わないままでいた。
「なあ、ウサギ見つけた!ちょっと刺してくる!」
「はぁい」
その間に罠の点検をしよう。このまま戻って来なくても、まあ構わない。何も困ることはないのだから。滝夜叉丸のところまで無事に戻れるような道順は通っていなかった。もし御手杵が敵だとして、トシちゃんたちが十分に仕事をしてくれるだろう。そんなことはないって分かっているけど。目印を外して、あらかじめ決めた重量をかけながら踏み抜く。異常はない。僕が仕掛けたままの落とし穴だ。いくつか破られていたものを確認すると、中に玉が落ちているのを発見した。何だろう。弾丸ではない。硬いのに軽い音がする。発動した後の落とし穴から玉を集め終わった頃に「刺せた!」と叫びながら戻ってきた御手杵が勢い良く穴に落ちた。保健委員よりは落ちにくいと思うが、これはひどい。
「トシちゃんたちを見回ったんだけど」
「トシちゃん?」
「中に落ちてたもの、あげるよ。僕の仕掛けた罠じゃないし、火縄銃には使えそうにないし。変なのが落としていってたらいやだから」
じゃらじゃらと落とし穴から出てきた玉を、布に包んで渡す。元は滝夜叉丸の頭巾だけど、昨日は滝夜叉丸の看病のために布を貰ったんだからおあいこだろう。そういうことにする。お前はまたそうやって誰が掛かったかなんてことで機嫌を損ねる、同室がそう諌める声が響く。僕の想像だ。まあ、言うだろうけど。
「良いのか?そんじゃここ、主が言ってた運試しの里だっけ、その里の近くだったんだな」
「聞いたことない」
木の実や山菜を確認しながら、森の中を進む。雨の匂いは残っているけど霧の濃さの方がひどい。
「こっそりやってんのかなあ。実装?されんの、明日とか明後日とかって俺は聞いたんだけど」
御手杵は首を捻る。
霧のお蔭で煙も見えにくいだろう、と頷いて火を起こした。ウサギと山菜だから、昨日よりは随分豪勢な食事になった。

たきはまだ目を覚まさない。





燃える、燃える、もえる。全て焼けて溶けてなくなってしまう。身体が熱い。焼かれているようだ。炉の中とは違う。そうだ、俺はもう焼けてしまってないんだっけ。どこにも存在していないんだった。この時代の俺はどうだっただろう。
「……おてぎね。だいじょうぶ、だいじょーぶ」
ぽんぽん、と背中を柔らかく叩かれる。じっとりと嫌な感じがした。変な夢だ。いつもの夢。焼かれるだけの夢。
俺の本丸には俺の他に槍がない。脇差部屋に泊まることはあっても、大抵は一人部屋だった。寝るときに誰かが隣にいて、魘されていたら起こしてもらえる。不思議な感覚だった。腹が立ったわけでもないのに、泣いていたらしい。姿形だけじゃなくて、人間の子どもになったみたいだ、と思う。目を瞑らないでいると、藤色のそれと視線が絡んだ。
「眠ったがいいよ」
「あんたもだろ」
ぽつぽつと紡がれる声はゆっくりで、江雪左文字を思い出した。そんなに話したことないけど。
そういえば名前を訊いていないな、と思い至った。
「そういや俺、あんたのこと何て呼べばいい」
だから何気無く尋ねたのだ。どうこうするつもりはない。もし審神者と同じような力を持っていたら、名前ついでにちょっとばかし分けてもらおうかとは思ったけれど。

「おやまあ。御手杵って、名前を教えても大丈夫な神さま?」

思わず飛び起きた。いつから気付いてたんだ。確かに隠してはいなかったが、明言もしなかったはずだ。俺が飛び起きたからなんだと言いたげに、彼は薪をくべる。
「……俺はただの付喪神だけど、名前教えていい神様なんていねえと思う」
「だろうねえ。御手杵、たまに穴を掘ってると遭っちゃうモノにちょっとだけ似てる」
俺が何度か落ちた穴は自分が掘ったはずの落とし穴である、と。神さまが落ちるなら縁起が良いかもしれない、と本気かどうか分からないことを言う。落とし穴から大量に出てきた「玉」は主が集めなければならないと言っていたもので(言葉としては「小判で玉集めるなんてパチンコじゃねーか!」だったと思うが)、俺にとってみればありがたい話だ。
「それでも、御手杵は神さまだ」
「……あのな、一応言っておくと、別に何かしようってんじゃなくて、あんたって呼ぶだけだとどうかと思って」
「喜八郎だよ」
あっさり告げられた名前に、俺はまた絶句した。
「人間ってぜんっぜんわからねえ!」
頭を抱えているこっちにはお構いなしに喜八郎は話を進める。元々人の話は聴かねえんだろうな、たぶん。壁にもたれかかるとひんやりと冷たくて、変な夢の残滓が消える気がする。
「御手杵みたいなの、たまに戦場で見る。光ってるのも」
「うえー、あんた見えてんのか。俺たち、あんまりここの奴らには見えないはずなんだけど」
そう、と返される頃にはまた眠ってしまっていた。喜八郎の声と力は眠くなるくらい穏やかだ。





「お迎えだな。待ってたぜ!」
そう言って立ち上がった御手杵は今、僕よりもはっきりと大きかった。歳は利吉さんくらいだろうか。背は信じられないくらい大きい。それこそ、彼の槍に見合うくらいに。
「おお」
「ありがとうな、喜八郎」
どういたしまして、と僕は応える。特になにをした覚えもないけれど。神さまは無事、元居たどこかに還れるらしい。
「御手杵、あんまり泣くと目が溶けちゃうよ」
身体の周りがきらきら光っているので、雨か涙のようだ。
「なんだそれ怖いな。言い伝えか?」
「先輩がそう仰ってた。それはもうどろどろに。泣くときは気をつけて」
御手杵は、四年長屋で日向ぼっこをしている猫みたいに、幸せそうに笑う。

「生きろよ」

もちろん、そんなことは言われなくたって。


「喜八郎、きはちろう」
頭や腕に布を巻いた滝夜叉丸がお腹の上に突っ伏していた僕に声をかけた。勢い良く身体を起こすと、同室が笑っていた。
「お前という奴は、怪我人の看病をするのならする側が寝てしまってはいけないだろう。寝るのならもっときちんと休めるようにしなければ意味がないぞ」
助かったぞ、と背中を撫でる手があんまり温かいので、僕はまた滝夜叉丸の腹に顔を押し付けた。

滝夜叉丸の傷は貰った布を巻いていた部分だけすっかり完治していたから、付喪神にもきっとご利益はあるんだろう。
先生方が一週間も捜して見つからなかったってことは、神隠しだったのかもしれないけど。





俺が時空調整の狭間で「迷子」になっていた間、血眼になって捜してくれたらしい。
無事で良かった、と泣きそうな顔をしている主に包みを差し出す。
「えっ、なにこれ」
何しろ俺はただの槍の付喪神で、それでも神さまだ。
敵の首級を串刺しにして持って帰って来たときよりは怒られない自信がある。
「土産。役に立つかは分からないけどな。それにさ、あんた知ってるか」

「泣きすぎると目がどろどろに溶けるらしいぜ!」
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2015/10/10 03:56 | RKRN(小噺)

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