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2024/09/29 07:56 |
クリティカル・ファンブル【伊雷】

現代に転生した善法寺先輩とハリネズミになった可愛くない後輩の話。


伊不破の日のお祝いでした( ˘ω˘)転生ハリネズミ諸々大丈夫な方のみどうぞ。

付き合いが10年を超えた友人「TRPGやってる人間からいたら恐ろしいタイトルつけやがって」
「どんぴしゃ不運善法寺と同義」「なら仕方ない」




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今日は僕の誕生日だった。


貰ったプレゼントは十一歳になって初めて飼うペット。ハムスターを買う予定が手違いでハリネズミを用意されたという父親は困ったよなあ、と笑っていた。それって詐欺ってやつじゃないかな父さん。思えばよく騙される人だった。ケースを覗き込むと、それはふしゅうと音を立てて鳴いた。色はシナモン、子どもの手のひらにも何とか乗るような大きさのハリネズミ。ヨーロッパでは「幸運のシンボル」だというけれど、僕には縁遠い話なのかもしれない。言ったことはないけど生まれる前の記憶があるだとか、そもそも生まれ変わる前から不運だったとか、色々と理由はある。母さんは僕が生まれたときに亡くなっていたし、その後だって今生の父さんは高校に上がる頃には交通事故で亡くなってしまった。そのころの僕には、これが決定打だったのだ。


ハリネズミは、かつての僕の後輩だった。


クリティカル・ファンブル



不破がハリネズミに転生した。

何百年来の付き合いの友人がそう伝えているっていうのに、留三郎の反応ときたらそれはもうひどいものだった。そうか、それは良かった、お前ここんとこ不運のせいで居残りテストがあってたもんな。終わったなら早く帰ってゆっくり寝るといい。
生まれる前の記憶があるんだよってカミングアウトしたときだってこんな酷い扱いは受けなかった気がする。思い返してみたら「俺もあるぜ、分かってるかと思った」と、そんな軽さで受け入れられていたので、やっぱり今回のほうがひどい。
小学生とはいえ、昔だったら忍術学園二年生の年だ。座学はもちろん戦場見学もあったし、ちょっとした演習もあった。お蔭で漢字や簡単な計算なら問題なく出来るので、不運でテストを受けそこなう以外、僕は基本的に暇だった。ちょっと先の予習まで出来ているなんて、は組だったとは思えない進歩だ。よく服は汚すし、持ち物はなくなるけど。不運は不運のままだけど。

「不破、ただいま」

父さんはふわふわのふわ、だと思っているようだった。確かに一般的な名字ではない。だからってハリネズミがふわふわとは思っていないけど。話しかけられた後輩はフシュフシュと不思議な音で鳴いて、自分は不機嫌だと主張している。そもそもハリネズミは人間に懐きにくい生き物らしいけど、これは極め付きだろうなあ、と餌を準備しながら思う。なんてったってあの不破だ。僕が死ぬときまで懐いたり泣いたりせず、機嫌の悪いって顔を崩さなかった、あの不破だ。
そっと手を差し入れて、散歩のために外に出す。外に出るときは噛まないし毛も立てないから、他のハリネズミよりは賢いのかもしれない。
「好きに遊んでくれていいけど、今日は教科書破らないでよ」
だけどまあ、聞く耳持たずだ。不破がキーボードに乗っかったおかげでパソコンは妙な動きをしていた。僕が触っているときだけ乗ってくるので絶対に確信犯だ。
今日は新しく温度計を買ってきた。ハリネズミはうっかり夏眠や冬眠させてしまうとそのまま死んでしまうこともあるというし、僕の不運と組み合わせたら、洒落にならない。そんな死に方なら、苦しくないのかもしれないけど。パソコンを触るのは諦めることにして、温度計を壁に掛けた。不破が届かないところ。ベッドの上あたり、時計の下。横になったベッドがぬくぬくしていて全く良い時代になったものだなあと思う。キーボードから興味を失ったらしい不破は部屋のどこかを駆け回っている。そもそも部屋に大してモノがないから、そこまで心配しなくていいのは楽かもしれない。


僕が死んだのは冬だった。城勤めをする同級生たちとはなかなか連絡を取ることもなく、半農をしながら作物の出来が悪いせいでほとんど忍びをしていた。最低限の仕事をして、そのくせ好きなように怪我人の治療をしているせいであちこちから好かれたり恨まれたりしていた僕が、あの時代、そもそも長生きするはずもなかったのだ。死にたいとは思わないけど、死んでもいいとは思っていた。やりたいことをやって、それで死ぬなら何の文句があるだろう。
善法寺先輩、と不破が僕の名前を呼んだ。忍術学園に死ぬ間際に担ぎ込まれて、実習生をしていた不破と再会した。外の音は積もった雪が吸収していて、火鉢の音だけが静まり返った医務室に響いた。

「やあ、ただいま、不破」
「ばかなんですか」

まだ実習してたの、と軽口を叩く僕を不破は睨みつけていた。唇を噛み締めて、眉間にしわを寄せて、これでもかというほど不機嫌な顔をしていた。
お互い運がないよなあ、と思う。全く、人生というのはままならない。


僕の十六歳の誕生日前日、ハリネズミの後輩と再会してから五回目になる前の日のことだ。
もう春先だっていうのにニュースでは記録的な冷え込みが予想されていて、僕は家を出る前にエアコンをつけたままにした。水道管が凍ることもあるらしいという話も聞いて、水をちょろちょろと出したまま高校に向かった。はあ、と吐き出した息が白く、学園の門から入口までや渡り廊下の雪かきをしたことを思い出す。さすがに雪までは降らなかったらしい。明日、誕生日か。誕生日だけど、張り切って用意をするほどじゃないなあと思う。留三郎からは毎年学校で祝ってもらっているし、家に帰っても不破がいるだけだ。一人と一匹、不破にはちょっと上等なエサで妥協してもらおう。父さんが居なくなってからは毎年そうだった。不破はパソコンのキーボードに乗ってみたり、相変わらず教科書をビリビリに破いたり、やりたい放題の後輩だ。破られる前に教科書の内容を覚えようと努力するおかげで勉強が得意になった気がする。

「ただいま」

エアコンをつけっぱなしにしたはずの家の中はしんと冷たかった。普段通り点けようとした電灯は点かず、静寂が満ちている。そっと覗き込んでみても恒例の威嚇はされなかった。この何年か毎日威嚇されているわけだから、こんなに珍しいことはない。

「……不破?」

あとから分かったことだけど、不運なことに我が家一帯は停電になっていた。僕が念のためゲージの底に設置しておいたカイロは不良品で、冷たくて、不運が重なって我が家のハリネズミは冬眠し始めてしまった。それだけのことだった。ペットヒーターにフリース、ゆっくり温めても、不破はとうとう動きださなかった。
残念ですが、と獣医に告知されても全く実感は湧かなかった。冷たく、少しだけ軽くなった不破を手のひらに乗せて、僕は久しぶりに途方に暮れた。

「何を勝手に居なくなってるのさ」







今日は不破の命日だった。


不破はハリネズミだったので人間のそれはあてはまらないだろうけど、十三回忌だ。留三郎をはじめとして同級生たちにも仕事があるし、昔飼っていたハリネズミが不破だということは誰も信じてくれてはいなかったので、一人で呑むことにした。そもそも昔飼ってたハリネズミの十三回忌をする、って友人を呼び出す用事にしては字面が酷過ぎる。
「うわ……明日は自転車屋に行かなきゃかなこれは……」
移動に使おうと思った自転車のサドルはブロッコリーに代えられていた。あんまりだ。

行く店は予約がいっぱい、3時間はお待ちいただくと思います、改装中で、閉店しました、と続いて家近くのパスタチェーン店に決まった。提供できるパスタはイカスミ一択だというけど、悪くない。イカスミパスタは食べものだ。パスタが出てくるまでに強盗が入ることもなく、無事に食べ始めた。何よりだ。
アルコール摂取済み、お腹はいっぱい、話を聞いてくれる相手はいないので一人で考える。全くひとが明日誕生日だってときに限って死ぬんだから、不破も先輩想いがすぎる。生れ変わったのがハリネズミというのも意味が分からない。うちにくるし。そもそも僕は今何だって医学部で講師なんてやってるんだろう。不破で遊んでいた時間がなくなったからかもしれないし、不破が破き続けたテキストが無事になったからかもしれない。忙しくて考えている暇がないから、かもしれない。

どう考えても呑み過ぎた。思考能力はゼロに近い。

イカスミパスタを食べながら赤ワイン煽りまくって、帰り道でげえげえ吐いていると真っ赤な触手を吐き出してるようにしか見えないので誰にも介抱してもらえない、なんて、人生で一番知りたくない情報だった。誰一人寄って来やしない。

「ちょっと」

アパート前の門に座り込んでいるところを支えられれば視界がぐらぐらと揺れた。なかなかきつい。戸惑ったような声が耳を打ち、控え目に背中をさすられた。触手が景気良く増加する。これは早々に水をまかなくては、大家さんになんて言われるか分からない。

「何してるんですか、貴方」

今日はお喋りだね、不破。人間みたいだ。
夢に話し掛けると嫌な顔をされる。夢なんだからちょっとくらい違う反応をしてもいいんじゃないだろうか。ずるずると引きずられるようにして、部屋の鍵を開けた。そのまま意識が飛んでいた。





ソファからなんとか起き上がってふらふらキッチンに向かう途中で、盛大に転んだ。何だこの荷物。エナメルバック、高校生の持ち物みたいなものがなぜうちにある。人生始まって以来の不運で爆発物が仕掛けられたって可能性も存在していた。そんなこと絶対ない、と言い切れないあたりが僕の不運を象徴している。

「不運大魔王先輩」

あの頃とほぼ同じ大きさの不破が立っていた。ただし最期に見たときよりもいくらか幼く、いつものように眉をしかめている。そもそも自分の部屋に自分以外の人間がいるという事実が、ちょっと信じられなかった。

「貴方の親戚の方がご病気で亡くなりました。不運でかさんだ借金の連帯保証人をされていた旦那さんが雲隠れされたので、血縁者で残ったのは貴方だけです、善法寺先輩」

全く言葉が理解できないわけじゃない。そういえば遠縁の親戚はまだ生きていたな、やっぱり不運は家系なのかな、この調子だとどこかで本当に僕の血が入ってるんじゃないだろうか。まとまらない考えのせいで、言葉はうまく紡げなかった。やっと出せたのは、言い慣れた言葉だ。

「…………だから、その呼び方やめて」
「……僕は亡くなった御親戚の友人の息子ですが、家に置いて頂いていた天涯孤独のみなしごです。どうもこんばんは。今日も最高に不運ですね」

それどころじゃないだろうに、関係のない子どもまで抱え込むあたりが、全く僕の親戚だった。飲み過ぎて倒れていたせいか頭の中で忍術学園の鐘がガンガン鳴り響いている。

「施設への手続きが済むまで、御親戚の誼で預かって頂くことになりました。宜しくお願いします。しばらく審査期間が必要になるので」
「……水貰っていい?」
「どうぞ」

用意されていた水を受け取って、目を瞑る。相変わらず視界は不安定だ。

「部屋はあるよ」
「知ってます」
「それもそうか。引っ越してないからね」
「そうですね」

記憶が、あるみたいだ。部屋の間取りだとか、使っているものだとか、全く不自由する様子がない。人間の不破は十五になったという。手荷物はエナメルのバック一つ、全財産もそれで全て。高校には奨学金制度で何とか入学していて、施設に入っても十八になれば自動的に退所することになる。就職するならそれで問題がないのだという。
自転車屋でブロッコリーじゃないサドルを買うついでに、不破の自転車も買うことにした。どうしてそんな不運なのか信じられない、という目が、昔の不破そのままだった。

「……お借りします」
「あげるよ。たまには先輩風吹かせたっていいだろ」
「ブロッコリーを握ったままの方に言われてもいまいちしまらないんですが」
「相変わらず可愛くないなあ」

不破は、僕の家から高校に通い出した。
留三郎は「本物か!」って大騒ぎしながら喜んでくれて、家にケーキを買って押しかけて来た。
もぐもぐと食べ物を頬張る仕草、紡がれる声色、本のページをめくる仕草。相変わらず僕にだけ愛想のない可愛くない後輩は、僕の隣で生きていた。ちょっとだけそれが信じられない。冷たくなった身体が手のひらの上に乗っていたのを覚えている。呼びかけても返事がなかったことも。どちらかといえば僕は周囲に迷惑をかけて振りまわす側で、昔からいつだってそうだった。そのはずだった。

「それではおやすみなさい、先輩」

もう先輩でも何でもない、ただの他人に子どもは声を掛ける。会話がほとんどなくてもおはようございますだとか行ってきますだとか、そのへんはきっちりしている。いただきます、と手を合わせる仕草も変わらない。あんまり当たり前みたいに隣に居るもんだから、すっかり気が緩んでいた。


養子縁組しようか、と考えなしに言った。

調べてみたら、僕には養子をとるだけの資格が認められるようだった。忙しさで使うタイミングを完全に失った収入がそのまま貯蓄に化けているし、仕事も安定している。どっちにしたって家に置いておくなら扶養関係は確定させたが良いに決まっている。いくら落ち着いているって言っても不破は未成年だ。

時間が止まったような沈黙が部屋におりた。そもそも関係を断とう、という発想がなかったことには後で気付いた。

不破が言葉を失って、だんだん赤くなって、その次には青ざめた顔で信じられないくらいに怒りだして、部屋に戻って閉じこもるまで。正確には、次の日の朝にリビングにおいてあった「考えて発言してください」の手紙を留三郎に見せるまで。
「おおやっと言えたのか」と笑った腐れ縁は、詳しい話を聴いて目をむいた。

「お前は、本当に、鈍い」
断腸の思い、といった風に告げられて、困惑する。そんなに力いっぱい唇を噛んだら切れるんじゃないだろうか。
「ええ……」
「よく考えろよ、お前と不破は昔そういう仲だっただろ」
「成り行きでね」
「今は一般的とは言えないし、男同士じゃ結婚できないのも分かるな?」
「それはもちろん……ああ」
「それだよ。事実上家族になれる方法が、一つだけあるだろうが」
気付かないなんて信じられない、という顔をする留三郎は店員呼び出しボタンを押した。会計する気だ。まだほとんど何も食べられていないっていうのに。
「まさか中学生を家に残して一晩飲んでべろべろで帰って、ってつもりじゃないだろ、善法寺伊作先生?」
「…………そうかあ。なるほどねえ」
「なるほどねえ、ですむか。このばか」
「すまない、留三郎」
「俺に謝るみたいに謝ればいいんだ。お前たち本当に、昔からそうだよな」

そうだろうか。そうなのかもしれない。

これはきっと恋だった。

暇さえあれば目で追い、見えなければ気にかかり、自分以外の誰かと話せば腹が立つ。決して僕もあの子も認めないけれど、世間一般で言う恋に違いなかった。恋なんてたぶん、皆が言うほど綺麗なものじゃない。きっと自分ではうまく制御できないそれに、小奇麗な名前を付けたのだ。少なくとも、僕にとってはそうだった。この感情にきちんとした名前は付けられないままだ。ハリネズミに生まれ変わった腐れ縁の後輩を、どうとでも突き放せる赤の他人を、逃がせないっていうんだから。

「不破、ちょっといいかい」

昨日のあれだけど、と切り出すとしぶしぶといった様子でリビングのこたつに入った。テレビをつける習慣がないので、音といってもエアコンくらいのものだ。
「プロポーズかよってんです。ばかばかしいったら、気付いて頂けたみたいで良かったですよ」
「留三郎にもばかっていわれたな」
「よく見捨てられませんね」
「初等部から同じクラスだったんだよ、僕たち腐れ縁だから」
それは違いありません、と不破が少し笑う。

「たぶんこれは、告白で、プロポーズだ」

バチン、と盛大な音を立ててブレーカーが落ちた。今年三回目の停電だ。電気系統の壊れやすいアパートだなあ、と思うけど、自分の所為だとは考えたくない。悲しいかな、僕たちは闇には慣れている。

「ばかなんですか」

いつかと同じ言葉を、不破が吐き出す。暗闇の中でも不機嫌な顔をしているのが分かる。お腹の空いた子どもみたいな、欲しいものが手に入らないような、大事なものを失くすのを怖がるような、そんな顔だ。いつかと同じ顔だ。

「そもそもどうせどこにいたってお互い気にかかるし気に障るんだから、合理的だと思うよ。不破雷蔵」
「知ってましたけど、ばかなんですね。善法寺伊作先輩」

手を伸ばすと、不破が居た。つかまえようとすれば刺してきたはずのトゲがいつまで経っても刺さらなくて、喋る不破のトゲなんて可愛いもんだ、と思う。別の意味で刺してきそうだけど。


「今度は勝手に死ぬんじゃないよ」
「……それは、こっちの台詞ですから」







◆いつか書きたいおまけ


■「キーボードに乗るより酷い邪魔とか初めて見るんだけど」って言われながら椅子ごと退かされる不破とか
■ことあるごとにイカスミパスタと赤ワインで生成した触手ネタでからかわれる善法寺とか
■そのネタでイケメン(顔はね)優しい(興味ないからね)善法寺先生像を壊すことに専念する不破とか
 (なおその目的で始めたツイッターが最終的にカップルアカウントみたいな扱いになってとても不本意)

色々と妄想だけは進みましたが書けそうにないのでここでお焚きあげ!
ください…………



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2016/02/11 09:28 | RKRN(小噺)

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