忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/09/29 07:55 |
隣にいます。さがさないでください。【リヴァマル】
リヴァイ兵長と、そばかすの幽霊の話し。

リヴァマルが増えますように!


拍手[2回]





そばかすの幽霊が居る。


新兵たちに紛れ込んでいるそれはどう視ても幽霊だった。立場上見慣れたものではあったけれど、リヴァイに求められるのは回顧や後悔ではない。多くの兵士が死ぬときに遺すのは恐怖と後悔で、それらはリヴァイを見守るうちに安心したように消えることが多い。良くも悪くも悔いのある者が遺るので、誰かをひたすら見守るように憑いているのは珍しかった。
「おい、お前」
ふわふわと佇むそばかすの幽霊は訓練兵団の制服を身に付けている。先日のトロスト区奪還作戦で死んだばかりなのだろう。あの作戦では訓練兵も多く駆り出され、死んだ。
「はっ」
幽霊の隣、呼び掛けられた新兵は既に調査兵団の制服だ。同期だろうか。
「何期の誰だ」
「は、第104期訓練兵団に所属しておりました、ジャン・キルシュタインです。兵士長殿」
身長は175センチ程度だろう。栗毛色の髪に鋭い目付き。エレンよりも少しでかいくらいか、敬礼が様になっている。
「兵士長なんて呼ぶ奴は居ねえ。兵長で良い。キルシュタイン、お前」
一瞬だけ、何と言うべきか躊躇った。そばかすの友人は居たか、と問われてどう答えるだろうか。
「……エレンの友人か」
「……同期です。仲が良いわけではありません。考え方が合わないので」
肯定も否定もしないのは自分でも分からないからか。心底困ったという顔をしてズケズケとものを言う。さすがエレンの同期だった。上下関係の序列はどこにでもあるものだが、調査兵団以外を選んでいたら生きにくいことこの上なかっただろうと思う。
「そうか」
あっ、と嬉しそうな声があがる。キルシュタインではない。その隣からだ。

「僕のことが視える方なんですね、リヴァイ兵長」

ばっちり目が合った、と思う。そばかすの幽霊はリヴァイと目を合わせ、果たしてにっこりと笑った。



隣にいます。さがさないでください。



「俺はリヴァイだ。知ってるだろうがな」

はい。幽霊はふわふわと浮かびながら頷いた。黒髪と白い肌に映えるそばかすが特徴的で、背は高い方だろう。その他目立つ点はない。よく通る、綺麗な声だ。
「私はマルコ・ボット、第104期訓練兵団所属、19班の班長でした。卒業成績は7位で、憲兵団を志望していました。トロスト区奪還作戦で、巨人に喰われて死んだのだと思います」
自分の全てを正しく過去形で話す少年は、ひどく大人びて見えた。子どもといっても既にこの世には居ないわけで、そういう意味では子ども扱いするのはおかしいかもしれない。それでもリヴァイは彼を子どもだと認識したし、そう思うことにした。話しながらぼろぼろと泣いていたからだ。マルコ、と名前を呼べば幽霊は律儀に視線を上げた。

「お前の未練を言え」


未練、と言うなら全てが心残りだった。

死んだ瞬間のことだけがはっきりしないけれど、僕は間違いなく死んでいる。ふわふわ半分浮いた状態で、同期生たちを観察し、皆の周囲を自由に飛び回りながら「本当は生きている」というのは、ちょっと虫がよすぎるだろう。
例えば、夜。アルミンがベッドに潜り込むたびに泣いていること、コニーが空いたベッドを見つめているうちに気付かないまま眠ってしまうこと、ライナーが固く目を瞑って泣き声に気付かないふりをして眠ったふりをしてあげていること、ベルトルトがずっと上手に眠れていないこと。そしてジャンが、ずっと泣けないままでいること。僕には誰を慰めることも、励ますことも、声を掛けることさえ叶わないこと。
何のために死ぬんだ。そう思ったあのときとは違って、僕は人類の勝利に貢献して死んだ。そのために死ねたんだと、そう思いたかった。だから、僕が死んだことは良い。うまく泣き止めなかったとして、僕のことが見えるのはもうこの人だけだ。上手に笑えなくてもいい。

「…………ひとつだけ」





自分の班所属の(ただの新兵として扱うには色々と問題がある)新兵に部屋はどうだ、と問えば「えっと、そうですね、少し寒いです」と真面目な顔で答えた。割り当てられた部屋は地下室なのだから寒いのは当たり前だ。世渡りだとかそういうことを全く考えていないお蔭で、エレンへの風当たりは兵団内でも強いように思う。馬鹿な奴だと思うが、嫌いではない。
「いいか、細かいことは尋ねるな。マルコ・ボットからお前に伝言がある」
エレンはぴしりと背筋を伸ばした。「何故」や「どうして」を全て飲みこんでみせた。こいつのぎらぎらした瞳に同期生の姿が映し出されているはずもないのに。
「『エレンはもっと自分を信じていい』、以上だ」
リヴァイはたった今預かった伝言を伝えた。
にっ、とエレンは我慢できないといった感じに口元を歪ませて笑う。
「何だ」
左手で口を押さえた。はっきり言って吹き出すのは我慢しきれていなかった。うっすらと傷が残っていたはずの肌には痕一つない。
「な、なんか、兵長とマルコの組み合わせが似合わなさ過ぎて全然信じられねえというか、どうしてとか尋ねる気にもならないんですよね」
「てめえは喧嘩売ってんのかクソガキ……」
低い声も意に介さず、新兵は上官の言葉を遮った。
「でも」
エレンの金の瞳はいつも通り力強く、正しく狂っていて、獣のように美しい。
「マルコがそう言うなら、俺は俺を信じます」

ありがとう。リヴァイより大きな子どもが、隣で確かに泣いていた。





「誰かに見つけてもらったら、1週間程度で消えてしまうんだそうですね。誰も僕のことは視えないと思っていたので油断してました」

歌うようにそう囁いて、マルコ・ボットは俺のベッドに腰掛けた。同期のガキ共を見ていると辛いという。訓練兵の経歴など調べようと思えばすぐに出てくるもので、訓練したり調べたりしている間中俺に付き添っていたこいつは、あのキースをもって「惜しい子を」と言わしめたほどだ。惜しくないガキが居るのか、と問えばそんな者は訓練兵団に残りはしない、と笑った。あの男は俺と同じか、それ以上の死を見届けている。このそばかすの幽霊の死体を見つけたのは、友人だったという。ジャン・キルシュタイン。エレンに似た正直者。憲兵団の配属希望をかなぐり捨てて、調査兵団を選んだ新兵。
「どいつが言った」
「駐屯兵団のイアン・ディートリッヒ班長が、そう仰いました」
トロスト区奪還作戦で戦死したという、ピクシス(エルヴィンでも食えない)の部下だ。顔も知っていた。優先順位の分かる賢い男だったが、自分の順位は低いのが考えものでな、とあのじじいがいつか言った。こいつもきっとそうだったに違いない。
「マルコ・ボット」
洞察力と判断力があり、気配りやサポートを得意とする。もっと実戦経験を積めていたら。誰か傍に居たら。有りもしない仮定ばかりを重ねて。期待されて、託されるのには少し疲れた。兵長がいたら。リヴァイ兵長なら。
「はい」
「お前は優秀な奴だ。何度生まれ変わったって、ナイルのうすらヒゲにくれてやるのは惜しい」
ヒゲは関係ないと思います、とハシバミ色の目を細めて、年相応に笑う。
「僕の体は、王に捧げるためのものでした」
まっすぐで、周りのことだけを気にかけていて、出会う前に死んだ子ども。

「だから、次に生まれてきたときは、俺に会うまで所属兵科の希望は保留にしろ。絶対に口説き落としてやる」

子どもは、息を呑んだ。触れないまま頭を撫でるように手を伸ばす。はい、とマルコは泣きながら笑った。

「ではまた、来世で。」

ああ、なるほど。期待して、次に託すのも悪くねえ。
目の前がゆっくりと涙の色で滲んで、俺は笑った。くそみたいに嬉しかったのだ。
PR

2014/06/16 00:00 | 進撃(SS)

<<さよならポラリス【ジャンベル】 | HOME | らしくもなく願ってる【ジャンベル】>>
忍者ブログ[PR]