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2024/09/29 07:56 |
忘却の彼方【ライベル】
少しずつ忘れていくライナーと、思い出すベルトルトの話。
記憶有りの現代転生。 諸々ご注意ください。
ライベル結婚アンソロに寄稿予定だった分です。


拍手[4回]



 出逢ってしまったことを後悔しているか、とベルトルトが尋ねた。
 まさか。お前と共に在れないことのほうが後悔したさ。俺は中途半端なクソ野郎だが、幸せだった。これは絶対にお前のお蔭だ。俺が言い切れる数少ないことだ。そう伝えたいけれど、喉の奥に言葉が張り付いたように引き攣って声が出ない。自分で見ることは叶わないがきっとあばらは折れて肺に刺さっているし、声帯もろくに機能してはいない。だからベルトルト、俺は真っ直ぐお前を見つめよう。それだけできっと伝わるだろう。分かってくれるだろう?
 どれほどの時間が過ぎたのか、俺には分からない。実際にはほんの数秒だったのだろうが、俺にはそれ以上の長い時間に思えた。その沈黙が一緒に過ごした長い時間を物語っているようにさえ感じた。
 ベルトルトは俺を見つめながら「そっか」と満足げな笑みを浮かべる。
 俺にはそれだけで十分だった。もう何も要らなかった。ああ、良かった。ベルトルトが笑っている。ひやりと冷たい唇が額に触れて、俺は目を閉じた。

 それが俺の、最期だったのだと思う。





 昔からベルトルトは「初めてのちゅーは大事な人と!」と言っていた。誰にからかわれても真っ赤になりながら決して譲らなかった。もう十三になる、というときに「ライナー、僕、まだキスをしたことがないんだ」と至極真面目な顔をして囁いた。ちゅーからキスに進化していたとは知らなかった。成長というのは恐ろしいものである。それはともかく、俺たちは生まれた病院も同じで、家が隣同士の幼馴染で、四六時中一緒にいるわけで、だから当然そんなことは言われなくても知っていた。言わないけど。ベルトルトにはその日あったことを全部俺に話す習慣があるのだ。

「……ちゅ、ちゅーしてくれないかな……」

 どうしてそうなった。知り尽くしたはずの幼馴染から予想外の言葉が出てきたので目を白黒させながら「お前、初めては大事な人と、ってずっと言ってたじゃねえか」と、俺はなんとか笑った。ベルトルトが違う誰かを選ぶかも知れない、その事実が恐ろしくてたまらないくせに必死で気持ちを押し殺しながら、ベルトルトをからかうように肘で突ついた。俺の大事な幼馴染は拗ねたように「だからだよ」と言う。唇をちょっと尖らせる仕草が可愛くて、引き込まれるように俺はそっと唇を寄せた。触れた唇は少し冷たく、頬だけがひどく赤い。
 ライナーは、とベルトルトは頬を膨らませる。
「僕が君のこと好きなの分かってて、そういう態度取るんでしょ?……ばか」
 そんなつもりは毛頭なかった。それでも、続く言葉に浮足立ってしまったのは、許して欲しいと思う。誰にというわけじゃない、もちろん、ベルトルトが拒むことなんてないだろうと分かっていて。

「ちゃんと思い出したんだよ。ただいま、ライナー」


 じゅる、と音を立てて僕の唇の端の唾液をライナーが舐め取る。胸が苦しいはずなのに、どんなに息を吸っても大して楽にはならない。耐え切れず開いた唇はすぐにライナーのそれに塞がれる。そもそも誰かと舌を使うキスをするような状況に陥ったことがない、だからライナーが巧いのかどうか他の誰とも比べようがなく、僕には分からない。他の誰かと口吸いをしたとして、舌は痺れるものなのか、足は震えるものなのか。確実に分かっているのは、立っているのがそろそろ辛くなってきていて、後頭部を包むライナーの指の力が、思い詰めているかのようにいつになく力強いと言うことだ。
 僕の大事な幼馴染は低い声で笑って、一生懸命に僕の舌を解し、背骨や腰に触れる。大丈夫、だいじょうぶだ。ライナーが囁く。ベルトルト。ライナーの声は落ち着き払っている。鏡の表面のように僕を映すお日様色の瞳が光った。僕は一歩、壁際に後退する。ライナーがそれを追い掛ける。彼の脚が僕のそれに触れ、ぞわぞわと背筋が震えた。
 ライナーの指がうなじにかかる僕の髪を掻き分け、皮膚に触れる。大丈夫だ、とまたライナーが言う。何が大丈夫なんだろう、むしろ事態は悪くなる一方だ。心臓が、いつもより速く打っている。人間が一生のうちに打てる心臓の回数は決まっているらしいから、僕はまさしく命を懸けてライナーを好きだと思っているわけだ。大学で聴いた講義のそんな部分ばかり、ろくに働かない頭を過ぎる。
 頬の内側を舌が探り、尖った歯の上を辿る。エナメル質の滑らかな部分をライナーの舌がそろそろと這う。熱い。一度口を離し、僕の濡れた唇の周りを舐めながら、また、大丈夫だ。押し付けるだけのキスが下から顎に触れる。僕の心臓はとうとう耳の中に移動したらしく、顔がかあっと熱くなる。息が上がっている。
 君に触れたい、触れたくて堪らない。
 ベルトルト。その言葉に我慢しきれず、僕は頑張って手を伸ばし、ライナーの頬に触れた。何となく温かくて、僕は少し安心する。いつかのように冷たくはない。君が僕の前からいなくなるいつか。ああ、いつかって、あれはいつのことだっけ。
 ライナーの指が僕のそれに添えられた。金の瞳がきらめき、僕の親指の付け根の膨らみに唇が吸い付く。音をたてながら手首の内側を吸い、指先を口に含んで舌を当てる。火照った息が指を愛撫する。僕は息を呑み、喉が上擦った悲鳴のような音を上げる。
 らいなー。
 呼び掛けると大丈夫、とまた繰り返してくれる。大丈夫だ、ベルトルト。お前が心配するようなことは何もない。
 そうだね、ライナー。そうだといいな。僕たちはずっと一緒だ。


 僕たちは十六歳と、十七歳になって、お互いを失った年になった。
 そうしてまた、僕たちはまた、彼らに逢った。中学、高校、あるいは大学で。


「ライナー、この形、ちょっとだけ立体機動装置に似てるね」
 デートの途中、雑貨屋で小さなステンレス製のペン立てを見つけた。デート、というのは少しおかしいかもしれない。僕とライナーはルームシェアを始めていて、同じところに住んでいたから。なかなかどうして、外出する時間をずらして外で待ち合わせをする遊びはとても楽しかった。円柱と底の作りが本当に立体機動装置にそっくりで、僕はライナーの袖を引いた。耳元に寄せて囁いた言葉は、不思議そうな声で返された。
「……何を言ってるんだ、ベルトルト?」
 春の風はまだひんやりと冷たく、心臓が嫌な音をたてて軋んだ。
「りったいきどうそうち?聴いた覚えはあるんだが……何だったかな」

 ああ。僕はこれを知っている。

 ライナーが忘れていくのと同時に、僕ははっきりと思い出しつつあった。全部、全部僕が君に背負わせたことだった。僕はぼんやりであれ過去のことを思い出して、だからこそこれは運命だと信じていた。僕は何も分かっていなかったんだ。自分が忘れていたことに気付いては謝るライナーを、僕は少しだけ懐かしく思った。
(君は幸せだっただろうか。今、君は幸せだろうか)
 あのとき貰った答えが事実なのか、もう僕には分からなかった。じりじりと砂を噛むような時間を、ただひたすら歯を食い縛って堪えて過ごす。闇に侵食された部屋の片隅で、膝に顔を埋め、押し寄せる過去の重さに押し潰されまいと。暗闇を切り裂くような音で携帯が着信を告げる。隣の部屋でぐっすり寝入ったライナーでないことだけは確かで、真っ暗なリビングで唯一光を放っている携帯の通話ボタンを押した。
「どうした、ベルトルさん」
 久しぶりに聴くユミルの声は素っ気なくて、投げやりで、それでも変わらず優しかった。
「……君がかけてきたんだろ」
「そうだったか?」
 この世界のユミルとは同じ高校だったけれど、大学に入った今は違う。僕とライナーと、日常的に会う誰かがユミルに教えたことになる。心当たりは数人あった。ジャンか、マルコか、それとも。
「誰に訊いたの」
「そりゃあ言えねえが、マルコさんに頼まれちゃあな」
「言っちゃってるよそれ」
 ベルトルト。ライナーの様子がおかしいの、気付いてただろう。どうして教えてくれなかったんだ?
 マルコの言葉を思い出す。ハシバミ色の瞳は心配そうに僕を見つめた。
 君たちに教えたら、優しい君たちが悲しむからだよ。そう答えた僕は、卑怯だった。何も今に始まったことじゃない。だからそれで、構わない。
 マルコは眉間にしわを寄せて、ちょっとだけ泣き出しそうな顔をしたあと、僕に笑った。いつかオレたちにも教えてねって。幸せをふりまくような、変わらない、彼らしい笑い方だった。ああ、懐かしい。そう思う僕はきっともう『ベルトルト』になってしまっているのに違いない。
「あんたは守りたいものくらい、ちゃんと自分で決められる奴だっただろ」
「……そうだったかな」
「たぶんな」
 ユミルがそういうのなら、きっとそうだ。彼女の言葉はいつも正しく、鋭く、僕を刺す。
「あのね、ユミル」
「あん?」
「見覚えのある絶望なら、愛せる気がするんだ」
 そうだ。僕たちはいつだって、辛い記憶や悲しい出来事よりも、幸せな思い出に縛られて、生きている。


 肉まんが美味しい季節になった。僕たちが大人になって、ライナーの忘却が始まって、もうすぐ三年になる。覚えている間だけ、ライナーは昔の話をする。何も変わらない。僕だってこんな気持ちはなれっこだ。これは悲しいんじゃない。ライナーがいることで僕は強くなれる。自分を見失わずにいられる。一人で立つ勇気をくれる。僕は泣き虫で、卑怯で、本当に弱い生き物だけど、君が居るから生きていける。そのことにやっと気付いたんだ。今度こそちゃんと、失くす前に気付けて良かった。


「そうだ、ベルトルト。誕生日は何が欲しい」
「君の名字」
 夕飯は何が食べたい、よりも速く返ってきた言葉に、俺の頭が追い付かなかった。ぎょうざなんて言うなよ、とからかおうとしていたはずなのに、喉の奥に言葉が張り付いてうまく話せなくなった。
「……本気か」
「……そりゃあそうだよ。冗談で言うようなことじゃない」
 少し上擦った俺の声に、ベルトルトはいつかみたいに唇を尖らせて、拗ねたような顔をした。
「俺と出逢って後悔していないか。俺と結婚して後悔はしないか」
「するはずない。僕は君のお蔭で幸せだよ」
 いつかとは逆だね、と俺の大事な幼馴染は笑う。
「俺はお前を逃がせないぞ」
「……僕は君じゃなきゃだめなんだ。だから大丈夫だよ、ライナー」


 僕は、後悔なんてしないよ。もう一人で泣いたりもしない。だけど、君を悲しませるようなこともしないし、君を一人ぼっちにもしない。一緒に戦うんだよ。一緒に幸せになるんだ。結婚しよう、と苦しいくらい僕を抱きしめるライナーに、僕は笑った。


「結婚指輪ってのは、売買婚の名残らしいぞ」

 隣に立つジャンはそわそわしながら周囲の人が遠巻きにするレベルで宝飾店のショーケースを睨みつけている。外を歩いていたら職務質問されたって文句を言えないだろうってくらいの三白眼だ。ジャンは昔から目つきが悪いし、傲慢だし、そのくせ変に人が好いから貧乏くじばかり引いている。例えば、マルコと一緒にたまたま出会った老夫婦の道案内をしてしまうとか、一人では決められない僕がライナーに贈る指輪選びに付き合わされるとか。しかもユミルの代わりに。
「何でそういうこと言うかなあ」
「こんな居心地の悪い場所に付き合わされるなんて思わねえだろ普通。ネットで注文しろ」
 確かに、宝飾店っていうのはどうしてこうキラキラで眩しくて、居た堪れなくなるんだろう。指輪のコーナーは特に、若い男女のカップルが多い。ジャンの愚痴は立て板に水を流すようだ。きっと指輪を着けるようになったら結婚の話題を出されてお互いの話をしなくてはならない僕たちのことを考えたんだろうし、指輪のサイズでそれと気付かれてしまう注文する僕の外聞を気にしてくれてるんだろうけど。
「……宝石がライナーの色してなかったら嫌だもん」
「……ふざっけんなよお前!俺はユミルが来るまでの繋ぎだからな!」
 大体俺がユミルの代役じゃなきゃ全く意味ねえだろうが、という言葉を投げるところをみても、やっぱりジャンは人が好いのだった。ちなみにユミルは最優先事項クリスタ関連のことがあったらしく、来ることはない。ジャンには言ってないけど。
「大丈夫だよ、どう見ても指輪選びに付き合わされてる人だから」
「当たり前だ。大体お前昔からライナーライナーって」
「あ、これきれい」
「ちょっとは人の話聴けよ」
 それでも、プラチナは希少で不変の輝きがゆるぎない愛の象徴らしい、とか詳しく教えてくれるあたり、ジャンは真面目に勉強してきてくれたんだろう。僕が唯一頑張って決めたことと言えば、宝石の色はライナーの色にしようってことくらいだ。頑張ってそれだけ。成績表ならもう少し頑張りましょう、って先生のコメントが付く。
「ありがとう、ジャン」
「別に大したことじゃねえだろ」
「結婚式には呼ばないかもしれないけど」
「……あいにくフランツとハンナで腹一杯だ、馬鹿夫婦は」
 僕とライナーの結婚式は、二人っきりでするつもりだった。小さい子がするおままごとみたいに、誰にも言わないで二人ですればいいと思っていた。この世界にまだアニは居ない。マルセルも。だから。だけど。

「おいおいお前等なあ、さんざん迷惑かけといてはいお疲れ様でしたってのはねえだろ。祝わせろ」
「オレがお祝いしたいって無理言ったんだ。教会の人たちをあまり責めないであげて」

 僕たちの世界は二人ぼっちじゃ、なくて。
 ジャンとマルコがユミルやクリスタ、サシャやコニー、おまけにアルミンやミカサ、エレンまで連れてきたから教会はいっきに騒がしくなった。

「ベルトルト。お前のこれからを、俺にくれないか。これからも傍に居ることを許してくれるか」
「ライナー。僕がここにいるのは、君のことが好きだから。僕の意思で、君の隣で生きていたいと、願ったから」

 握り返してくれる手が温かくて、それが嬉しくて、泣きそうになるのを何とかこらえる。それなのに、何も覚えていないエレンが「おめでとう、ちゃんと幸せになれよ」なんて言うもんだから、僕の涙腺は決壊した。全部覚えているミカサが「あなたたちは、そろそろ幸せになっていい」なんて言うから、もうだめだった。涙も汗も顔から出るものは全部出して、ぐしゃぐしゃになりながら僕は泣いた。新郎たちの顔じゃねえな、と笑ったユミルはクリスタの頭突きをくらっていた。アルミンが眩しそうに目を細めて僕たちの写真を撮った。僕の買った指輪は、ライナーの色でライナーの指で光っていた。僕も、お揃いだ。
「ありがとう」
 特別なことじゃなくていいんだ。何でもない日に、くだらないことで笑い合って、今日も大好きだよって笑って、温かい気持ちのままベッドの中に潜り込んで、君の手をそっと握る。本物の恋っていうのは、たぶんそんなにロマンチックなものじゃない。ときめきもびっくりするような幸せもいらないから、穏やかな温もりに満ちた毎日が、続きますように。

 どうか明日も明後日も、君が笑顔でありますように。
 大丈夫だよ、ライナー。次は、僕が守るから。


 ライナーは、とうとう『ベルトルト』を、忘れた。





「アルミン!こっちだ」
「……ライナー、それ」
 ライナーは車椅子に座っていても体格が良い。手動の車椅子は丈夫そうで、少しばかり規定のものより大きいようだ。
 ちょっとばかり歩くのが下手になっちまってな、そう言ってからからと彼は笑ったけれど、僕はうまく笑えなかった。僕はライナーから教えてもらった事情について考えたことを伝えるためにカフェに来たはずだった。日常的な行動もできなくなるなんて。エピソード記憶、と呼んでいいものか分からない前世の記憶だけど、意味記憶にまで影響するなんて。

「……なるほど。次に会うのは、二千年後か」
「僕の仮説によれば、だけど」
 ライナーが忘れていくにつれてベルトルトは記憶を取り戻している。ライナーはこの二千年、何度生まれ変わっても「あの頃」を忘れたことはない。同じように、これまでベルトルトが思い出したことも、ない。僕たちにとって前世であるそれは、ライナーにとって始まりの場所であり、始まりの時間だった。起点があれば終点がある。ベルトルトが思い出したということは、次はきっと彼の番だということだろう。
「大丈夫?」
 尋ねる僕の声は、少し震えた。ライナーの瞳は決意と諦めと愛情を全部煮詰めて固めたような美しい色をしている。
「今までの時間の長さに比べれば大したことじゃない」


 ライナーは段々と記憶を失っていった。それでも元来社交的な性格なのだろう、皆でご飯を食べたり、集まって話したりすると、楽しそうに笑う。毎回仲良くなる。全て忘れているライナーに、ベルトルトはまた一人ずつ紹介していく。ライナーはもう、誰のことも覚えていないから。ベルトルトのことは「一緒に暮らしている友人」として記憶しているはずだ。ベルトルトがそう望んだ。


「エレンとミカサとアルミンは幼馴染みなんだ。ユミルとマルコは黒髪でそばかすの二人ね。性格は全然似てないけど、特徴だけ言うと似てるかも。馬面で目つきが悪いのがジャン」
「どういう意味だベルトルさん」
「お前本当に覚悟しとけよベルトルト」
野次が飛んでいるけど、ベルトルトは意に介さない。いつものことだからだ。
「ずっとご飯を食べてるのがサシャ。一緒に遊んでる坊主の、そう、君の話だよ、コニー。金髪の小さい女の子がクリスタ。そして僕はベルトルト」
 ベルトルトは息をゆっくりと吸って吐き出した。夜を閉じ込めたような瞳には、ライナーと同じ色が映っている。
「……僕は君の、友だちだ。ずっと昔からね」
 そうだね、ベルトルト。ざっと二千年ほど、君たちはお互いのことだけを考えている。もうずっと。
 ミカサは耐えるように俯いた。下を向いたベルトルトのうなじの傷が見えたからだろう。ミカサの付けた傷も、リヴァイ兵長の付けた傷も、二人は全て抱えている。
「友だちか」
「ああ」
 ライナーはゆっくりと手を伸ばして、ベルトルトの手を自分の手で包んだ。皆で集まったときのカメラ担当になった僕は、毎回カメラを首から下げているけれど、ライナーの動きに見惚れて何も撮れなかった。あまりにも真摯で優雅な所作だった。

「……貴方は素敵な人だ。いつも俺に笑ってくれる。貴方が笑ってくれたら、俺はとても幸せな気持ちになる……俺と、結婚、してくれませんか」

 ベルトルトはライナーの二度目のプロポーズに涙をぽろぽろ落としながら「はい」と応えた。
 好きだよ、もうずっと、僕は君のことが好きなんだ。だから、これからも一緒に居てください。皆ベルトルトから貰い泣きして、わんわん泣いた。マルコは気付いたら泣いていた僕の頭を自分も泣きながら撫でてくれた。普段格好付けたがるジャンやユミルまで(こっそりと)貰い泣きしていたから、あれはもう仕方がなかったんだと思う。サシャはパンを食べかけたまま泣いていて、コニーは「良かったな!」とライナーの肩を叩いた。クリスタはユミルの手をしっかり握っていて、「お幸せに」って二人に綺麗に笑った。エレンははらはら涙を落とすミカサの頭を困ったように撫でていた。
「僕の初めても、二回目も、何回目になったって、全部君のものなんだ」
 ベルトルトは器用に泣きながら笑って、屈み込むと、車椅子に座ったライナーの唇にキスをした。

 何回離れ離れになっても、何回大事なことを忘れても、二人は何度だって幸せになる。それはもうずっとずっと前から決っていることだったから。

 さて、僕が知ってるのは、ここまで!
 改めて。おはよう、アニ。僕たちの眠り姫。二千年ぶりかな?
 皆に、会いに行こう。


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2015/01/24 03:13 | 進撃(SS)

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