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2024/07/01 19:17 |
うそが死んだひ【五年生】
勘右衛門と同級生の話し。灰たま。
五年生が三年の頃の捏造、勘ちゃんはこうじゃないといや!という方はご注意下さい。





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お前ほどの奴が、どうしてろ組なんだろう。
成績や能力の高さから云うなら、鉢屋はい組にどんぴしゃだ。特性としてはろ組、むしろ、は組寄りかも知れないけど。
「鉢屋優秀なんだから、今からでもい組にどーぉ?」
遠慮する、とか、寝言は寝て言え、とか。鉢屋はそのときによって言い方を変えるけど、いつも返事は芳しくない。
「ろ組も悪くないぞ」
昨日も確か、そう言ってにやりと笑った。


裏裏山使用の三年生全体演習。
二人組で指名された者から札を奪うこと、火器は使用禁止。必ずどの二人組からか指定を受けるので追い追われる身となる。
「木下先生ぇ」
「どうした」
加えて、指定でなくとも「鉢屋」の札を奪った組が最優秀。
理不尽なルールだが、それに見合うだけの能力と余裕が鉢屋にはある。
「俺、鉢屋と組みたい!」
木下先生は勘右衛門、と大きな溜め息を吐く。
「……これは上級生への進級試験も含むんだぞ。この学年の人数は現在奇数、鉢屋とお前が組んだら誰があの役をする」
頬を膨らましたら、むくれても駄目だ、と先手を打たれた。
「ちぇー」
面白そうな演習なのだが、その二人組というのがなかなか厄介だ。
(い組とろ組で二人一組なんて)
い組を見回すと、既にほぼ組を作り終えている。
「ろ組で残ったのは?」
勘ちゃん、と兵助が最後列で手を挙げた。
「こっち」
やたら量のある茶色い髪に目を引く鼻、まあるい目。
一瞬、鉢屋だと思った。よく考えてみればあいつが余るはずがない。
「あ、鉢屋じゃない方か!えーと、不破だっけ?」
俺には見分けが付かない。見分ける必要がないからだ。
不破の顔を見て、鉢屋が優秀なことを確信する。さすが鉢屋、そっくりそのままだ、と。
鉢屋はしょっちゅう顔を変えるので、覚えるだけ無駄だと思っている。本当の顔を教えてくれるならそちらを覚えるのだけど。
「うん、不破雷蔵だよ。宜しく」
変装名人よりも穏やかに不破は笑う。なるほど、鉢屋が真似しているのは姿だけらしい。
「俺は尾浜。宜しく」
「僕図書委員なんだ。君は三郎と同じで、い組の学級委員長でしょう?」
覚えられているのに、驚いた。違う組なのに。
「ああ。不破って、鉢屋と仲良いのか?」
何が面白いのか、楽しそうに不破は笑った。
「まあね」


「鉢屋じゃない方、って言われたの初めてだ!ろ組は皆呆れて苦笑いしてたけど」
報告しながら堪え切れずに僕は笑う。
「なっ……あいつ、君にそう言ったのか?」
僕が枝に引っ掛けて手当てされた頬の傷まで再現した変装名人は、口をぽかんと開けた。
「うん。勘右衛門にとっては僕の顔だけがお前じゃないんだね。当たり前のことなのに、何だか不思議だ」
なんて奴だ、と憤慨する横顔を見る。僕の顔そっくりそのまま。
思ってたより不破は優秀だな。そう言った勘右衛門にはおそらく何の悪気もなく、純粋に僕を褒めていた。奇襲の仕方がいかにもろ組っぽいや。
(三郎に、ろ組以外の友達がいて良かった)
こっそり心配していたのだけど、杞憂だったみたいだ。そうだといい。


「お前は無神経だ!私の方が顔を借りている身だぞ」
珍しく、鉢屋が声を荒げた。俺と組んだ不破のことで。
そんなことのためにわざわざ部屋まで来るとは。課題が終わって二刻と経たないだろうに、また不破の顔を見るとは思わなかった。
周囲を攪乱しつつ逃げ切って最高得点、というのが今回の鉢屋の評価だ。
俺と不破もおそらく高得点だった。不破の奇襲方法はい組に有効だったし、何か対策が必要だろう。ろ組の奴らは不破を鉢屋と間違えたりしていたので、課題よりそちらの相手が大変だったかも知れない。
「だって不破は目立たないだろ」
思っていたより優秀で、それが意外でもあった。でも、だからといって、不破はい組には来ない。
「兵助のことは対等に扱う」
「だって兵助はい組だもん」
俺と同じ組の、優秀な兵助。負けず劣らず優秀な鉢屋。
もういい、鉢屋はそう吐き捨てて部屋を出た。
「なんだよ鉢屋の奴…」
俺がいつ間違ったことを言ったんだ。全部ほんとのことじゃないか。
ろ組もは組も、それぞれに特化した能力があることは知っている。
だけど学園の外に出れば、俺たちい組の殆んどは最前線で動くことはなくなる。
俺たちは寝食を共にした相手の最期も看取らず、後も追わず、切り捨てることを選択するだろう。妙な感情は要らないのだ。それが邪魔になるものなら、なおさら。
「三郎が来てたのか」
兵助が戸をくぐるのと同時、言い当てた。何で分かった、と問えば部屋に戻る途中に不破に会ったらしい。なるほど。
「それに頭巾がなかった」
言われてみればなかった。
「三郎の奴、ハチ対策に自分の頭巾を犬に巻いてたんだ」
「ハチ?」
「ろ組の竹谷八左ヱ門。今日俺が組んだ相手だよ」
ふーん、と相槌を打つ。
「どこの忍犬かと思った」
「人間だけど、鼻がきくし目が良い。組むとなったら凄く助か……」
声が止む。兵助相手で上の空なのは隠しきれなかった。
「勘ちゃん本当に他の組は三郎以外に興味ないのだ……」
「あはは、ごめん」
じろりと白い目を俺に向けて、兵助はため息を吐く。
「雷蔵はどうだった?」
「思ってたより優秀だったよ。兵助、不破とも知り合いなのか。顔が広いね」
勘ちゃんが狭いだけだ、と兵助は言い切った。
「そっかなあ」
「そうだよ」
それでも、優しい兵助は俺を責めなかった。


勘ちゃん。
竹谷と不破の隣に立って、兵助が俺を呼ぶ。
「兵、助?」
お前だって、忘れた訳じゃないだろう?
(俺たちの学年の、は組、は)
兵助は優秀ない組だから、失敗しない。少なくとも俺だけおいていなくなったりしない。
おいで、と兵助はしっかりした声で俺を呼んだ。一緒に行こう。俺はこいつらと行くよ。
「待って。いかないで」
皆は居なくなるんじゃないかって怖いんだ。
兵助までいなくなったら、俺は一体どうすればいい?


「廊下で堂々と昼寝とは良い身分だ」
「鉢屋」
声に目を覚ますと、長屋の廊下だった。
俺の指が鉢屋の制服の袖を握り締めていた。やがて紫に変わる萌黄色。
「……ああ、ごめん。勝手に外してくれても良かったのに」
指を離す。眩暈がした。嫌な夢が俺を捕えて離さない。
鉢屋は隣に腰掛けたまま動かない。
「……なに」
「お前が、行かないでくれと言った」
「俺は鉢屋にそんなこと言わないよ」
「兵助にも、頼まれたけどな。お前に何か頼まれたのは初めてだ」
嬉しそうに鉢屋が笑う。
やめて。期待させないで。
「……何だよ、頼んだら、い組に来てくれるって言うの?」
「行かないよ。私はろ組だ」
鉢屋の指が俺のそれを握った。ぞっとするほど温かかった。
「その感情はお前の錘になるかも知れない。だけど、いつか来るその日の後も、お前を確かに突き動かし続ける」
仲良くしなさい、と昔のように先生方はもう言わない。
「なあ勘右衛門、誰かとの繋がりは良いものだろ」
「……そんなこと、知ってるよ」
だから欲しくなかったんだ。ばかはちや。


うそが死んだひ

(俺の嘘が、こいつらに殺された日)


「どこにもいきやしない。だからお前も、私たちを置いて勝手にどこかへいくな」
鉢屋の声はそんなに大きくないのに、しっかりと響いた。俺の手を握る指は温かいままだ。
俺がしゃくり上げると、「勘ちゃん」と兵助が俺に抱き付いた。
「僕、勘右衛門と仲良くなりたいな」
不破が俺に笑う。
「きっと仲良く出来るよ。僕らは同じ組にはなれないけど」
「絶対一緒に卒業してやるから、泣くなって」
竹谷が兵助の後ろから手を伸ばして、俺の頭を撫でた。俺は動物じゃない、と思ったけど、言えなかった。


「あ、木下せんせー」
「今日の演習は組対抗っすね!」
俺と竹谷が木下先生に声をかけたのはほぼ同時だった。
「最近仲が良いな、お前たち」
そうですか?と兵助が不思議そうに首を傾げた。
強面を悪戯っぽく崩して、木下先生は実技担当の言葉を寄越す。
「負けるなよ」
「もちろん」
「俺たちはい組だからね!勝ってみせましょう」
頷いた兵助の言葉に、俺は笑って付け足す。
だって俺は、い組の学級委員長だ。
「八左ヱ門、お前もだぞ」
「大事なのは連携ですよ!ろ組舐めないで下さい!」
胸を叩いてみせる竹谷に不破がうんうん唸りながら「ハチ、まだ作戦決められてないんだからやめて」と言った。
「まじか!頼むよ班長……」
木下先生は頑張れ、と笑って巡回に向かう。
「鉢屋が班長じゃないの?」
「私がいつも班長をしてると思ったら大間違いだぞ、勘右衛門」
ふうん、と俺は唇を尖らせる。
「雷蔵は迷うが、間違った選択はしない。雷蔵がお前を友人に選んだのは、そういうことだよ」
平気な顔をして、鉢屋は言う。
「……俺が班長だったら皆巧く使ってあげるのに!合同実習楽しみにしてろよ!」
本当に恥ずかしいやつ! 


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2012/03/06 20:02 | RKRN(小噺)

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