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2024/07/01 18:56 |
つかまえた本音の端っこ【庄鉢庄+彦→勘】

庄ちゃんと鉢屋に彦にゃんと勘ちゃんが絡む話し。3月2度目の三郎の日に、愛を込めて!
あおにびさんから頂いたリクエストでした。




 

拍手[2回]




もっと愛するほかに、恋への治療薬はないのです。
ソロー


「鉢屋先輩、一年生の必要書類がまとまりました」
一緒に書類整理をしていると、この子がいかに几帳面で丁寧な仕事をするか分かる。
庄左ヱ門は関係のない部分で要領よく手を抜くから、彦四郎からすれば仕事の速さで負けて悔しいかも知れない。
「勘と庄左が帰って来たら休憩にしよう。彦四郎は仕事が丁寧で助かるよ」
気付いたことは目一杯褒めてやる、が委員会の方針だ。
「……庄左ヱ門は凄いです」
本人には思っても言えないだろうことを、彦四郎はそっと吐き出す。
「僕は好きって言うこともできないんです、なのに」
彦四郎は俯いた。唇を噛み締めて書面を睨む。
「好きっていうのは、焦って伝えることじゃないさ。君や庄左はまだ一年生だ。勘右衛門のことを好きじゃなくなるかもしれないし、これからもっと好きな人ができるかもしれない」
「そんなこと、」
ぱっと顔を上げて反論しようとする。
決してない、と言い切れる幼さがいとおしい。

しい。唇に指をあてて、鉢屋先輩は僕に笑いかける。
「そうじゃないと、私がそうであるように、勘右衛門は君を離してやれなくなる」
熱をはらんだ、それなのにひんやりした眼差しだった。困ったように笑った瞳が泣いてしまいそうだ、と思う。
「……少なくとも、庄左ヱ門は鉢屋先輩を離したくないし、離して欲しくないんだと思います。先輩と同じです」
庄左ヱ門がどんな気持ちでこの人に想いを告げて必死で繋ぎとめたか、僕は知っている。
「庄左ヱ門をつかまえたのが先輩で良かった」
「私は、どちらかといえばつかまった方な気もするけどね」
ふふ、と鉢屋先輩は嬉しそうに笑い声を上げる。
「ありがとう、彦四郎。応援してるよ」
勘右衛門は幸せ者だな、私と同じくらいは。
そう付け加えられて僕は顔を赤くした。


「これは寒椿。冬の季語のひとつとしても使われる」
ぱちん、と解説と共に軽い音で枝が落とされる。
「獅子頭、とおじいちゃんは言っていました。別称でしょうか?」
「うん。それは西の方の言葉だね。庄左は洛北の子だったっけ?」
「はい」
東の方では寒椿の方が有名かな、と尾浜先輩は言う。
鋏で伸びた枝を切り、整える。本日の委員会活動だ。鉢屋先輩と彦四郎が年末の書類整理、尾浜先輩と僕が寒椿の剪定。
「庄左ヱ門、栗は好き?」
僕は首を傾げて質問に答える。
「はい」
尾浜先輩は笑顔を振りまくように笑う。
「それなら良かった!いいこと教えてあげる。庄左の大事な鉢屋先輩は、栗が大好物です。でも進んで食べない。どうしてでしょう?」
僕は少し考えて、顔を上げた。
「……手を傷付けないように、です」
「御名答!正月には栗金団を作ろうと思ってるんだ。栗を煮潰して、芋と一緒に。俺たち五年は年越し、学園でするからさ。年明けて最初の委員会で食べようね」
首肯するとそれまでとっておくよ、と尾浜先輩が言ってくれた。
「ありがとうございます」
「俺は庄ちゃんの味方だもん」


確か、お正月休みが終わってしばらくしないと学級委員長委員会の活動はない。
三箇日の三日目、家族皆に無理を言って僕は学園に戻った。
「明けましておめでとう、へむへむ」
小松田さんもお休みでいらっしゃらない。記名した入門表をへむへむに渡して、荷物も置かずに奥へと進む。
楽しそうな声の響く五年長屋に近付いた。本当に年越しも此処で過ごしたみたいだ。
「明けましておめでとうございます、先輩方」
扉を開いてそのまま、一息に言った。
「庄ちゃん?まだお正月休みだっていうのに、どうしたの」
君の足音だとは思ったけど、と付け加えられた一言が嬉しかった。
「明けましておめでとう。別に今じゃなくたってすぐ会えるのに」
自分の頬にあてられた指をそっと握る。
「お正月は、家族と過ごすものでしょう?」
少なくとも、僕の家ではそうだ。

「僕は貴方の、家族になりたいんです」
いけませんか、と目を伏せたまま。
指を握られて震えた声で言われてしまえば、私がダメと言えるはずもなく。
「……ううん。嬉しい。凄く嬉しい」
ありがとう。小さく付け加えると、庄左ヱ門が満足そうにふくりと笑い声をこぼした。
ああ、そんなに幸せそうな声を聞いたら、自惚れてしまう。期待はしたくないのに。
明けましておめでとう。同輩達の声がいくつか重なった。
「彦四郎に謝らないと。先に尾浜先輩へのご挨拶、すませちゃいました」
「庄ちゃんったら冷静ね……」
勘右衛門が肩を竦めて参ったな、という顔をする。
目を細めて笑う小さな子が、ただいとおしかった。


つかまえた本音の端っこ

(好きだと言って。もっと好きになって。) 


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2012/03/26 21:35 | RKRN(小噺)

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