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2024/07/01 19:11 |
笑えたら良かったのに。【竹勘竹】

お前と、最期まで。

シンメトリーの日なので、左右コンビを。
色々と地雷のない方向け!


 

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俺は、お前のどんなに厄介事に巻き込まれても最期まで面倒をみたいと言うような、素直で優しいところを、そういうふうに笑ってみせるところを、大好きだからこそ知っていたはずなのに。



ゆめ。
夢を見た。
俺の足元で男が死んでゆく夢。
ゆめだ。
男は胸に大きな穴を開け、血を吐き、喘いでいた。俺は彼にしがみつく。背丈に相応しく俺より節だったその手を握る。
彼が何か言おうとして口を開くと、赤黒い塊が零れた。
これはゆめなのだ。ゆめのはずだ。
ゆめなんだよ、だからそんなに苦しむ必要なんてない。お前の優しい体温が、ひどい現実味を持ってなくなっていくのも、これがゆめだからだ。ほんとじゃないからなんだよ。
幾分呼吸が楽になったのか、開いた男の口からもうあの赤色は落ちなかった。
代わりの言葉が頭に響く。文章を読んでいるような、実感の伴わない言葉が流れ込んでくる。
まるでほんとうのように彼は笑う。
少し眉尻を下げて、照れくさそうに視線をずらして、悪いな、ちょっとしくじった、なんて、早口で言う。
ああもう、仕方がないんだから。いつもいつも俺がどれだけ心配してると思ってるの。
困った顔したら許してもらえると思ってるんだろ。
もう、許してやらないよ。
彼は困ったなあ、と溜め息をついて、どうしても駄目かな、と軽やかに言った。
ばかだな、駄目に決まってるじゃないか。
やっぱり、そう言うと思った。男は愉快そうな表情をした。
それは俺の台詞だ。お前はいつだってそんな風に言う。
じゃあ、許してくれなくていいからさ、一つだけ頼みを聞いてくれ。
これだっていつもの台詞。お前は悪戯っぽく眼を細めるのだ。
それから。
それから。
「勘右衛門、笑ってくれよ」
ゆめ。
ゆめなのだ。ゆめだから。ゆめなのに。
お前はまるで生きてるみたいに。
「お前の笑顔が好きだよ。笑ってんのが可愛いよ。なあ、勘右衛門、笑って、」
くらくらと眩暈がした。
彼は死んだ。
ならばこれは誰だ。
どうして彼のように笑う。彼のような顔をする。
俺は。おれは。
「勘右衛門、」
上手く息ができない。
涙は意識する前に頬を伝って、いとしいかのひとの姿をぼかす。
「勘右衛門、」
彼は苦しそうに眉を顰めた。
ぼたぼたと血を吐いて、それからやっぱり笑う。
哀しそうに笑う。
「やっぱ、駄目か」
その哀しみに胸を抉られた。
失うのは俺のはずなのに、悲しいのは俺のはずなのに、その哀しみで俺を責める。
ねえそんな顔をしないで、最期じゃないか。
「うん、ごめんな」
そんな哀しい顔のまま。
男は、消えた。
ゆめだから、あとには温もりさえも残さずに。
いとしいひとが、悲しい顔をして消えた。



俺は、何を笑えば良かったんだろう。

(お前がいないだけでこんなに暗い世界、ぼろぼろ欠けてゆく命、或いは、一人になれば必ず涙を零す俺の弱さだとか、嗤うべきものは数え上げればきりがないのに)


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2012/10/05 00:48 | RKRN(小噺)

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