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2024/09/29 09:17 |
赤い糸に囚われた【七鉢】

七鉢。
三郎は振り回されているうちに案外あっさり絆されてしまうんじゃないかなと思っています。
暴力表現ご注意ください。





拍手[8回]





「…血の臭いがする」
目の前には同じ顔が二つ並んでいるが、双子というわけではない。
七松先輩こんばんは、と五年ろ組の名物コンビが口を揃えた直後だった。
「なあ鉢屋、お前だろ?」
五年生は実習があったと聞いた。
鉢屋は顔色を変えなかったが、不破は目に見えて青くなった。
「お前、やっぱり怪我して…」
「そんな大怪我じゃないですよ」
唇を尖らせるようにして抗議する。
「いさっくんに鉢屋の怪我は引きずってでもって言われてるんだ」
見逃す訳にはいかない。後でばれたら大変だ。
「……引きずってでも?」
「うん」
雷蔵、と鉢屋は穏やかに友人に声を掛けた。
「先に戻っておいてくれないか。医務室に行って来るから」
「私が連れて行くから安心していいぞ、不破!」
不破は不安そうに鉢屋を見遣って、宜しくお願いしますね、と笑った。

せっかく医務室に連れて来たというのに、誰もいなかった。
鉢屋だけ置いて行くと逃げられてしまうかもしれないから、探しに行くのはやめた。
「甘い匂いがするな、鉢屋の血は」
鼻をくすぐる匂いがするのだが、本人には分からないらしい。
「本当に人間なんですか先輩…」
ただの血ですよそんな訳ないでしょう、と鉢屋は切り捨てる。
「戦場の実習に行くと鼻が馬鹿になるからなぁ。腕の傷は放っておくと酷いぞ」
「…別に逃げやしません」
鉢屋は琥珀色の目を伏せた。口に含んだら甘そうな色だな、と思う。飴玉みたいだ。
「そう怯えるな」
「怯えてなんか」
平静を装った、だけどいつもより固い声で鉢屋はそう応えた。
「ねぇ鉢屋、私が怖いの?」
殺気に反応し、寸鉄を取り出そうとする手ごと押さえ付けて、笑う。
「はなっ…」
鉢屋は目の色を変えて口を開いた。
それにあわせて舌を入れるのと同時に、首を絞める。
(あ、やっぱり甘い)
ぐ、と力を込める。白い肌に指が食い込む。
息がうまく出来ないのか、鉢屋は口をあけて喘いだ。
「あ…は、ぅ…っ」
唾液が糸を引く。つぅと細い顎を伝う。
「舌、噛むつもりだった?」
させないけど。
腕の下で足掻くけど、それでも腕の力は緩めてやらない。
これだけしてもまだ、鉢屋は泣かない。

「小平太。だめ」
善法寺先輩の声と共に解放される。ひゅ、と喉が鳴った。空気が肺に満たされて、咳き込む。目の前がちかちかした。
「げほっ、…はっ、は…」
口の端から流れ出た唾液を拭い、目の前の獣を睨む。闇色に輝く眼。視線が、逸らせない。逸らすととらわれてしまう。そんな気がして。
「かわいそうなはちや。」
守って守って、独りぼっちになるのに気付いてないんだな。
低い声でしっかりと紡がれた言葉は、なけなしの理性を奪うには十分過ぎた。
殺されかけたことも忘れて、思わず掴み掛かった。
「あんたに何が分かる…っ!」
私の何が。私たちの、何が。
善法寺先輩が間に入る。
「小平太、だめだってば。長次に言い付けるよ。鉢屋も大人しくして」
「じゃあまた後でな、いさっくん!」
七松先輩が出ていったのと同時に膝が砕けた。その場に立っていられず、座り込む。
「鉢屋、らしくないね。あんな分かりやすい挑発にのって」
「…何の話ですか」
今更腕が震えた。あれが死。あんなに、身近にあるものか。
手を伸ばしたら、すぐそこにある闇色。
私の震えを押さえ込むように、善法寺先輩は腕を握って怪我を見る。
与えられた死の恐怖を、そう恐ろしくないと感じた自分が一番、恐ろしかった。
かわいそうなはちや。守って守って、独りぼっちになる。
(…だって、私が守らないと)
誰も守ってくれやしないのに。
大切だから守りたいのに。
包帯を巻かれた腕がずくずく痛んだ。
からかわれただけだ。あんなに取り乱す必要は、なかった。
(……大丈夫だ)
まだ頑張れる。

「鉢屋をいじめたらあの子たちは誰も遊んでくれなくなっちゃうよ」
屋根裏から、ひょっこりと小平太は顔を出す。
「いじめているつもりはないぞ?」
全力で押さえ付けて、首を絞めた奴が何を言うのか。
生き死にの加減は出来るから(他の加減は全く出来ない)、殺すことはないだろうけど。
「首絞めといていう台詞じゃないから…大体、怪我なんてよくあるじゃないか」
矜持だけで抱え込んだ色んなものに耐えているあの子の、大切なそれをへし折るのは容易いだろう。
自分だけ怪我をして、それでも誰かを守ろうとしているあの子の矜持を。
「あいつらはまだ、人を守れるほど強くはないだろう」
小平太は遠慮なんてしてやらないから、近々鉢屋の大切な砦は壊される。
「私のものになったら私が守ってやれるのに」
でもそれはたぶん、悪いことばかりじゃない。
「ちゃんと言ってあげないと伝わらないと思うな」
「鉢屋が泣いてるのみたいんだもん。私の前じゃ、まだ泣かないんだ」
楽しそうにあぐらをかいて、小平太は笑う。
「凄い量の暗器を仕込んであったな、いさっくん!鉢屋はもっともっと強くなるぞ」
次は何をして遊ぼう、と目を細めながら。
(…面倒な奴に好かれちゃったねぇ、鉢屋)
あんまりいじめたらだめだよ、と念を押す。
「鉢屋はかわいい。泣いてるところがみたい」


赤い糸に囚われた

(僕が思うに、逃げ切れないなぁ)


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2011/06/11 01:22 | RKRN(小噺)

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