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2024/07/03 18:57 |
僕らの適正距離【庄鉢←尾】
地の文企画様に提出させて頂きました。

記号に関する制限(縛り)を付加して、二次創作小説を書く、という企画です。


嘘吐き勘ちゃんと二人の話し。


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鉢屋先輩に名前を呼ばれるだけでいまだにドキドキするんです。
内緒ですよ、と可愛い後輩があんまり嬉しそうに笑うから、俺は何も言えなくなってしまった。
ああ、それが君の幸せなら。
俺はいつでも庄ちゃんを応援してるからね。ようやく、それだけ言った。
ありがとうございます、なんて、やめてよ。何もしてあげられなくてごめんね。正直になれなくてごめん。辛い思いをさせるかもしれないのに、とめられなくてごめん。
俺はあいつにも幸せになって欲しい。君にはそれが出来るんだ。
きっと、君だけが。


尾浜先輩はお腹が空いたときのような顔をした。
くしゃりと笑って、ただありがとう、と僕に言った。俺はいつでも庄ちゃんを応援してるからね。
先輩方は嘘がお上手だ。僕はいつも騙されてしまう。
はい、ありがとうございます。
だから、たとえ嘘だと分かっていても、僕は騙されなくてはならない。今にも泣き出しそうなこの人のために。


鉢屋、俺と賭けをしよう。俺が勝ったら庄ちゃんに何を望むか言って。
何だそれ。応えた鉢屋の声は低く静かで、聞いたこともない声音が混じっていた。怯えだ。四つも下のあの子を、鉢屋は恐れてすらいる。それが面白くて、笑いだしてしまいそうで。
ただのかるただよ。それとも怖いの、と揶揄すれば鉢屋は唇の端を吊りあげた。
良いだろう、ただしお前も言え。
かるたの勝ち負けなんてどうでも良いのだ。逃げられないのに、少しの猶予。自分を追い詰めるための。
雨がさらさらと耳を打つ。ああ、息苦しい。

俺の嘘は真綿で首を絞めるように、俺をゆっくりと殺す。

こいこい、と俺の声に私の勝ちだな、と鉢屋の笑み。
鉢屋はゆっくりかるたを表に返した。俺の負けだ。俺はいつだってお前に勝てないね。
鉢屋のかるたの腕は天下一品、そもそも駆け引きを主とする遊びだ。かるたは学級委員長委員会の備品でもある。もしも勝てたら、なんて意味のない仮定を作っては一人笑う。
嫌わないで欲しい。好きになってくれとは言わない、だから、嫌わないで欲しい。
それだけだよ、私の望みは。ほら、言ったぞ、お前の番だ。
鉢屋は吐き出すようにそう言って顔を上げた。俺の顔を見て目を丸くする。
どうした、なんで泣いてる。
校外実習のときでさえ表情一つ変えないで仲間を切り捨てる冷静な判断を下す奴なのに、狼狽しているらしい。
ああ鉢屋、俺は本当にお前のことが好きらしいよ。泣くとは思わなかったなあ。やれやれ。自分の気持ちくらいは、知ってたけど。
俺はお前や庄ちゃんが幸せになってくれますようにって願ってます。本当に莫迦なんだから。
俺の言葉を受けて何か言いたそうに、ろ組の学級委員長が口を開いた。ぼんやりした鉢屋にでこぴんをくらわせて、俺はさっさと逃げ出した。真剣に泣いてるのがバレるじゃないか。

ねえ鉢屋、好きになって欲しいのと、嫌われたくないのは同じことだよ。俺だって、そうだよ。
鉢屋がいつか、誰かを好きになれますようにと俺はずっと願っていた。
それが俺でなくても良かった。


僕のことをみておられましたか。
意を決してそう伝える。そうだといいのにと震えながら、ようやく言った。
いつから気付いてたの。鉢屋先輩は泣きそうな声を出した。
僕も知っていることがいくつかある。この人が優しいこと、自分の気持ちに怖がりなこと、泣き虫なこと。
小さく息を吐き出して、内緒です、と囁いた。どんな貴方でも僕は好きですから、何の問題もありません。
そうでしょう。


僕らの適正距離

 さあ鉢屋先輩、嘘吐きなあの人もお助けしなくては。



 

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2012/12/15 23:51 | RKRN(小噺)

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