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2024/09/29 11:28 |
生涯一度の恋をしていた【鉢雷鉢】

双忍に対する、私の中の根本的なイメージ。
どんな場所でも状況でも一緒にいてくれて、きっと一緒に死んでくれる、そんな繋がりを求めている。



 

拍手[3回]



すてられぬものは なに?
正義と称した下らぬ価値観?
友情と偽る感情?

きみのためならしねるという
おろかさ ごうまんさ?


死なないで、なんて縋る術を僕は持たない。
忍はいつか死ぬものだと分かっているし、一緒に年を重ねることだって、外に出たらほとんど叶わないと知っている。
それは三郎も分かっていることだろう(だって三郎は僕よりずっと優秀だ)。だからこそ僕に言ったのかもしれなかった。
私はいつ死んでも平気だよ。
三郎はそう言って、ぼんやりと遠くを見る。いつものように人を観察もしない。
平気なんだ。
ざあざあと雨の音が響いている。蛙の声も遠くで聞える。
湿った土と木の匂いが辺り一面にたちこめて、もうすぐ夏が来るんだな、と思った。
今朝、夏の前に姿を見せた蝉が落ちているのを見た。
死ぬということは、いなくなるということだ。そう、ちょうどあんなふうに。
僕たちは亡骸が帰って来るかだって分からない。悲しくて泣くことだって、許されないかもしれない。どうなるかなんて何も分からない。
本当はずっと、安全なところにいて欲しい。でも才能のある三郎を縛りつけたいわけじゃない。
「三郎の顔を知ってる人は居ないから、お前が居なくなったって誰も気付けないんだ。お前が本気になったら、きっと本当に誰にも分からない」
たとえ三郎が敵になって対峙しても、三郎以外は分からない。出会ったことさえ。
「三郎だけが傷つくんだ」
彼がいつか居なくなる事実を拒絶することしか出来なくて、僕は応える。
「…僕は嫌だよ」
お前が居なくなるなんて嫌だ。
いなくならないで欲しい。隣にいて欲しい。出来ればずっと、離れたくない。
「雷蔵は優しいなぁ」
僕と同じ顔で、僕の顔を瞳に映して、三郎は笑う。僕とは全然違う笑みで。
「僕は優しくないよ」
怯えてるだけだ。お前が居なくなった世界が怖いだけなんだ。
出会う前にも僕の世界はきちんと存在していたはずなのに、今ではそんな筈がないと思う。
呼吸するのと同じように、三郎は僕の傍に居る。三郎は僕の一部で、全てだ。
僕が考えているうちに三郎がどこかに行ってしまったらどうすればいいんだろう。
「優しいさ」
三郎は歌うように言って、ふふんと笑った。少しばかり誇らしげに。
「私は君に関しては一家言あるからね」


生涯一度の恋をしていた

(君に触れれば何か変わるでしょうか)
(もっと近付けますか?もっと笑ってくれるでしょうか?)


面の下から見る世界は色がなく、薄暗かった。
「ぼくはね、不破雷蔵。君の名前は?」
きらきら光る日差しの下で、少年は優しく笑った。
急に世界が色付いて、輝いたように見えた。
「…三郎。鉢屋三郎」
彼は私に世界に色を与え、居場所を与えてくれた。
彼が私の全てで、私は彼の世界の一部になった。

僕は嫌だよ。
珍しくはっきりと、雷蔵は言い切った。
「お前が居なくなるなんて嫌だ」
そんなふうにいつもの悩み癖を出しもしないから、少しだけ自惚れてしまう。
私だって、そうだ。でも君と別れるような未来なら、私は要らない。
「雷蔵は優しいなぁ」
でもだからこそ残酷だ。心の中で呟く。
蛙が鳴き続けている。雨音に紛れるようにして、雷蔵は囁いた。
「僕は優しくないよ」
迷うことを、考える自分を責めるような言い方だった。
「優しいさ」
あのとき私に伸ばされた手を思い出して、私は笑う。
どれだけ私が君を観てきたか、多分君は知らない。
「私は君に関しては一家言あるからね」
君の全部が欲しい。
私に笑ってくれるから、私のために泣いてもくれれば良いのに、と期待してしまう。
「大丈夫、当分、死ぬつもりはないよ」
死にたいわけじゃない。だけど死んでも良いと、本気で思っている。
私はいつ死んでも平気だよ。
だって今なら君が傍にいるし、きっと泣いてくれるだろうし、この先は君と一緒にいられるかだって分からないから。
そうだろう、雷蔵?
そう言うと君はまた、悩んでしまうのかもしれないけど。

 

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2011/05/30 00:25 | RKRN(小噺)

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