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2024/07/03 18:02 |
終わりなんて見えなくていい。【成長黒木兄弟で庄鉢】
斬番9688のリクエスト、でした。
成長黒木兄弟で庄鉢。
庄二郎が忍術学園に入学していたりと、捏造注意です。

遅くなってごめんなさい、朔様へ。愛を込めて!


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「……もう、あの人ときたら」
兄さんが困ったように笑う。
困っているのになんだか嬉しそうで、不思議だった。
「おきゃくさまですか」
僕は兄さんを見上げた。兄さんの太腿あたりに僕の視線はあった。
僕が忍術学園に入学するずっと前、兄さんが卒業されてすぐくらいだったろうか。兄さんが家に帰ってこられたのが嬉しくて、たまにご友人の誰かが遊びにいらっしゃるのが楽しくて、僕はいつもふわふわしていた。
「うん。そうだよ」
ひょいと持ち上げられる。あの頃の兄さんの腕は温かく、力強かった。
「まだ内緒みたいだね」
「ないしょ」
僕が繰り返すと兄さんもないしょ、と返してくれた。


そう、内緒、だったはずなのだけど。


「鉢屋先輩!動かないでお待ちくださいと申し上げたはずです!」
僕は「おきゃくさま」相手に忍術学園で声を張り上げている。
「おや庄ちゃんったら。庄左だってそこまで厳しくなかったぞ」
「兄さんは兄さん、僕は僕です。さあ大人しくしていただきますよ」
鉢屋三郎その人は、卒業生であり、学級委員長委員会の来客扱いだった。だからこそ頭が痛い。先輩の不始末(とまではいかないことを祈るけど)を後で先生方に窘められるのは僕なのだ。
一緒に来られたはずの兄さんは山田先生に挨拶に行かれているから、肝心の鉢屋先輩がほったらかしになってしまった。あの人が他の在学生をからかったら、下級生たちは本気で泣いてしまうかもしれない。やたら再現率の高い伝子さんの顔とか。
「それはどうかな」
彼の人は僕の指先をかするようにして避ける。わざとだ。
「は、ち、や、せんぱい!」
「君たちにそう呼ばれるのが好きでね、どうにも弱い」
するりと伸ばされた腕が頬に触れる。背後から。気配はなかった。
(……ああ、この人は忍びだ)
悲しいほどに熟練の忍びだ。在学中から天才と呼ばれる、兄さんが追い付けない人に、どうして僕が追い付けよう。
「また何か難しいことを考えてるな、庄二郎?」
「……はい、少し」
「止めやしないけど、私は大体の場合応援してるから考えすぎないようにね」
絶対に、と言い切らないところがこの人らしい。兄さん相手であれば味方だと言い切ってくださるんだろうか。分からない。でも、そうだと良い。
「ありがとうございます。ところで、捕まえました」
「ん、ちゃっかりさん!」
僕が自分の袖を捕まえているのを見て、ころころと彼は笑った。


「私に何か御用ですか?」
可能な限り静かな声で返事をした。
日はとっぷり暮れ、忍術学園の来客者用の部屋にも虫の声が響いている。闇が忍び込む。私たちは一応来客、ということになっていた。私の場合穴丑としての「報告」も兼ねているが、庄二郎には知らせていないことだ。あの子が知らないことは、先生方だけが知っていればいい。
「つれない返事」
闇が笑った。目の前でくるりと変装が変わる。自分と同じ顔、瓜二つだ。さすが、変装の腕も上がるばかりで衰えを知らない。
「半日も放っておかれれば、つれなくもなります」
久しぶりの母校だから、楽しくなってしまうのは分かる。後輩たちの弟たちが庄二郎を始めとして何人か居るわけで、遊びたくなってしまうのも。
目の前に座った彼は丸い瞳でこちらを見上げた。琥珀色。ずっと変わらない美しい色だ。
「ごめんね」
首を傾げてあっさり謝罪されてしまった。
「そんな簡単に謝らないでください。拗ねた私がばかみたいじゃないですか」
「拗ねてたのかい?」
尋ねる声に至極真面目な顔で「拗ねておりましたとも」と応えた。
二人同時に顔を見合わせて噴き出した。一度笑ってしまうともうダメだ。
「庄二郎をあまりいじめないでやってくださいね」
「可愛いものだから。気を付けよう」
せんぱい、と呼び掛ける。くすくすと彼は笑った。そっと顔に触れて刹那、変装が解かれる。
「違うでしょう、先輩じゃないよ。ほら、何と呼ぶ?」
三郎、と口に出す前に吐息が絡んだ。ああ、いとおしい。
「御名答!」
まったく困ったひと!


終わりなんて見えなくていい。


「お二人は客室に泊まられますか」
部屋の外から庄二郎が問うた。
「今日はそうする」
三郎が行儀悪く寝転がった格好で扉を開ける。庄二郎は格好へのツッコミを放棄している。
「承知しました……って明日も居られるんですか?」
つれないねえ、と三郎は嘆息した。
「小さいときは黒木屋に遊びに行くたびにまろうどさん、まろうどさんって……」
「やめて下さいいつの話しですか!」
兄さんも黙っていないで止めてください、と庄二郎は上ずった声で助けを求めた。
「え?ああ、二人共可愛いなあ、と思って聞いてた。……内緒だよ、庄二郎?」
歌うようにないしょ、と唱えれば二人同時に赤くなった。
「庄左ヱ門、それはずるいと思う……」
庄二郎がこくこくと頷く。仲良しだ。
「なんの、鉢屋先輩に比べましたら」
「ああ、確かにそれはそうかもしれません」
「庄ちゃんってば冷静ね!」 


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2012/11/17 00:00 | RKRN(小噺)

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