「ただいま、雷蔵。お土産があるぞ!」
三郎が部屋の戸を慌ただしく開けた。
い組にはもう渡してきたんだ、ハチはいないのか、じゃあ先に食べてしまおう。
口早に言いながら包みをいそいそと取り出して、食堂から貰ってきたのだろう、お茶をお盆ごと畳に置いた。
「お帰り。甘味かい?」
「もちろん。ちょっと寄り道してきたから時間がかかってしまった」
三郎は優秀だから、その腕を見込まれてのお遣いも多い。
特に学級委員長委員会は学園長先生直属だ。
(本当は今朝早く帰って来てたくせに)
お団子を買うとか、買い出しを手伝うとか、そんなお遣いばかりではないだろう。
もう五年だし、僕だってお遣いがないわけじゃない。だけど。
「三郎。さぶろう」
抱き込んで肩口に額を押しつけて、名前を呼ぶ。
「何だい、雷蔵」
「危ないことしないで」
情けないことに、声は少し震えた。
もっと大切にしたいのに。危ないことは全部僕がしてしまえればいいのに。
「大丈夫だ。危ない状況にはならない。私がしない」
なだめるように三郎は僕の頭を撫でた。
そうじゃなくて。じれったかった。どうして伝わらないんだろうこの天才には!
「僕はお前が無事ならそれでいいんだよ。それが一番良い」
頑張って言葉を選んで、伝わりますようにと願う。
「……私もそうだから譲れないよ」
暗くなったら怪我がないかどうか確認してやろう、と勝手に決めた。
視線を上げると真っ赤な顔と涙で潤んだ瞳が見えた。
三郎は案外感動しやすいし、照れやすいし、泣き虫だ。
「お茶、冷めちゃうぞ、雷蔵」
分かってるよ、と応えたらうん分かってる、と笑った。
ああもう可愛いんだから!
「あ、さぶろー照れてる?」
「断じて照れていない!…だって当たり前のことだろう」
君が大切なのは。
あっさり言い切られて、僕もつられて赤くなった。
君が大切だから
(ずっとずっと傍に居てあげる)
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