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2024/09/29 11:15 |
ねぇ、本当はずっと、【庄鉢】
庄鉢もっと増えれば良いのに…
なぜ増えないのか解せぬ。全く解せぬ。








拍手[8回]

言葉は人を傷つけもするし、陥れもするけれど、こんなふうに幸せにもしてくれる。
「ありふれた風景画」 あさのあつこ


雷蔵。
名前を呼んだきり黙り込んで、三郎は僕の背中に寄り掛かったまま動かない。
そろそろ足も痺れてきたところで「庄左ヱ門が」と続きを言った。
「庄左ヱ門が胼胝をつくってきたんだ」
ああ。ようやく思い当たった。
「もうそんな時期か」
全員が忍びの家柄ではないから、一年生の手はぷにぷにと柔らかいのが常だ。次第に授業や鍛練で胼胝ができて固くなっていく。
新緑が落ち着いて梅雨に入る頃に早い子は手に胼胝をつくって、そうしてそのまま戻ることはない。
「真面目な子だものね」
それに誰かさんに追い付こうと必死だから。
三郎は拗ねたような声で、ぐりぐりと額を僕の背中に押しつける。
「まだ護っていてやりたいんだ。あんなに小さいのに」
三郎の護る、は徹底していて、辛いことも苦しいことも全部引き受けてしまう。
「あの子も護りたいんだろう。分かってるくせに」
「…分からないよ」
正直に言って、守られる側はたまったものじゃない。
なんだって自分の好きな人が、自分のせいで傷つくのを見なければいけないのだ。
それが一番辛くて苦しい。あの子も、きっとそう。
「…意気地なし」
「それは知ってる」
護られるのは恐ろしい。
だって、と三郎は囁く。
「いっそ繋ぎとめてくれたら、と思うのはやはり我が儘だろう。あの子には重過ぎる」
そうだね、と僕は上を向いて答える。
僕が顔を貸し、手探りで五年かけて築き上げたそれを、あの子は一年足らずで完成させようとしている。
頼もしくもあり、少し羨ましくもあった。
僕らはお互い依存しているから、あの子のように支えるなんて出来やしない。一緒に死んでやることは出来ても、三郎を助けることなんて僕には多分出来ないだろう。
「だけどあの子は強いから、大丈夫だよ。お前が何をしたって受け入れてくれる」
だから、振り向くことは許されない。どんなときだって一緒に居てやるけど。僕は目を閉じる。
きっと、三郎は泣いている。


庄ちゃんが私と同じ年になるにはまだ四年もあるんだね。
鉢屋先輩にそう言われて、たかが四年じゃないですか、と僕は答えた。
「その四年で貴方の後輩に相応しく成長してみせますからみていて下さい」
ふふ、と先輩は笑って僕の頭を撫でる。
「私がトンビなら庄左ヱ門はタカだと八左衛門が言っていたよ」
鳶が鷹を生む、か。
「あながち間違いじゃないな、私には勿体ない後輩だ」
不遜に見られることの多いこの人は、存外謙虚だ。自信はあるのだと思う。
でも慢らないし、今の自分の限界を知っている。だから努力をやめない。
素直な良い子が伸びるんだ、とこれは土井先生の教え。
「いいえ鉢屋先輩、お言葉ですが。タカはタカからしか生まれません」
たかが四年、されど四年だ。自分で言い切りはしたけど。
(だってその年の差で苦しんでいるのは、僕だ)
鉢屋先輩はからかうような口調で言う。
「庄ちゃんったらお上手なんだから!私はまだタマゴだよ。私がちゃんと忍びになったら、またそう言って」
綺麗に笑うこの人の表情を、僕は多分ずっと忘れない。そんな気がした。
「はい、必ずそのときに」
この人が僕の答えを聞いて安心したのも、分かっていた。
何年か経てばまた傍にいることを許してもらえるのだ。こんなに嬉しくて誇らしいことはない。
(そうだろう、黒木庄左ヱ門)
今この人の隣にいるのは僕じゃない。まだ足りない、知識も覚悟も、何もかも。
(ああ今、僕にこの人を守るだけの力があれば!)


「庄左は面倒な奴を好きになっちゃったね」
二人で山のような書類を仕分けしながら、尾浜勘右衛門先輩は言った。
「あいつは、隣でずっと大好きだよ、大切なんだよって言ってもらって、それでも怖がりながら信じようと頑張らなくちゃいけない奴だ。君を試すような真似もすると思う。でも許してやって。怯えているだけなんだ」
淡々と、僕に向かって尾浜先輩は言う。
鉢屋先輩も相当だけど、尾浜先輩の方が食わせ者だと僕は思っている。学級の狐と狸。
鉢屋先輩に認められた一人なのは違いない。期待するのが怖くて、助けてを言えないあの人に、僕はまだ護られる側だ。
「庄左が忘れちゃいけないのは、あいつにとって君はもう既に大切な子だってこと」
言葉の一つ一つを刻み付けていく。忘れてはいけないことだと分かっている。
「だから庄左もあいつを精一杯大切にしてやってね。約束出来る?」
「勿論です、尾浜先輩」
迷う必要は無かった。
大好きな人を大切にしないで、誰も大切には出来ない。僕はそんなに器用じゃないから。
「それなら安心だ。信用してるよ」
僕のそれよりずっとかたく、大きな手が頭を撫でた。
(早く、追い付かなきゃ)
あの人は、まだ遠い。


黒木って呼ぼうか?
そう声を掛けると少しぽかんとした表情が覗く。あ、こういう顔も年相応で可愛いな。
「どうしてまた。突然ですね」
今に始まったことでもないですけど、と付け加えられる。なかなか手厳しい。
「他の委員会と比べてどうかと思って」
「別に、呼び方は何でも構いませんが。気になりませんし」
庄左とか庄ちゃんとか、今でも適当ではある。
組の中で一人呼び方が違ったら肩身が狭いかも知れない。そう思いかけて、は組なら大丈夫かと考え直した。だから本当に言ってみただけ、なのだが。
「そお?」
小さな顔を下から見上げる。
ああ、この子はきっと立派な大人になるだろう。
今はまだ私を目指して、いつか私を超えて、そうして自分で大切な人を守れるようになったら、私のことなんて忘れていいよ。思い出さなくたっていい。
(忍びになってからのいつか、なんて来なくて良い。私を追い掛けてやって来る、いつかなんて)
はい、と落ち着いた声で庄左ヱ門は応じた。丸い大きな目。真っ直ぐに私を映す。
「僕は先輩に呼んで頂けるならそれだけで十分です」
「…庄ちゃん」
「はい」
「そういうことを平然と言わない!」
柄にもなく頬が熱くなった。面をしていて良かった、分からないと良いのだが。
「本当ですよ」
「…庄左は本当に油断出来ないな」
続きは口の中で唱えた。
私が一番嬉しいことを、不意討ちで言うんだ。
いつか、一も二もなくこの子に縋ってしまいそうで怖かった。
望んだら本当に繋ぎとめてくれそうで。
それがどんなに重荷になって、自分を殺すかもしれないと分かっていても、きっとこの子は受け入れてくれるから。
ふふ、と庄左ヱ門は笑う。
「だって好きなんですもの」

名前を呼ばれると嬉しいんです。それだけで幸せになれます。
貴方が笑った顔を見るのが好き。貴方の声が好き。
僕の名前を呼んで、僕だけに笑ってくれるのはもっと好き。


ねぇ、本当はずっと、

(貴方を縛り付けて独り占めしたかった なんて言ったら どんな顔をしますか?)





庄鉢が好きです。凄く凄く好きです。
つかまえた、って庄ちゃんが三郎の手を握って、つかまってしまったなぁ、って三郎が笑う、
そんな庄鉢はどこにありますか…?
成長黒木兄弟で庄鉢…とか……どこに………?



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2011/06/26 00:14 | RKRN(小噺)

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