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2024/09/29 09:16 |
君と重ねる日々【学級と鉢尾】

学級と鉢尾。
非常に尾鉢っぽいですが御愛嬌ということで…学級はみんな可愛いので仕方がないと思いました、まる。







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毎年恒例のことで、この時期には音読と読み聞かせの宿題が出ることになっている。
一年生は上級生に頼むのが常だが、ほとんどの場合は自分の所属の委員会の先輩になることが多い。
普通の休みよりは少し長い、でも家に帰れるほどの時間はない、そんなときに出る宿題。
趣旨は書物の理解の他に、親睦を深めることにある。上級生になってから知ることだ。
「忘れずしてくるように!週明けに検査する!」
土井先生の声にはぁい、と一年は組の良い子たちは声をそろえて返事をした。
「委員会の先輩たちは皆一年生のときにされているからお願いしてみると良いぞー」
宿題を無事終えたら、忍たまの友の中表紙などに名前を書いてもらうこと。


学級委員長委員会の場合、正式な委員会ではないから土井先生の助言とは少し違うんだろうけど、と庄左ヱ門は思う。
学園長先生の庵で先輩方を待ちながら、同じ宿題を出された彦四郎と膝を突き合わせて相談する。
「うちの先輩たちに頼んでも良いのかなぁ」
「お忙しそうだったらやめておいた方が良いかもしれないけど」
「……お二人が忙しそうなの見たことある?」
「……ない」
五年生ともなれば課題や実習で忙しいこともあるはずなのだが、先輩方が忙しくて委員会を休んだ、なんてことはない。
「二人共そんな深刻な顔をしてどうした?」
ひょい、と声はそのまま、伝子さんの顔をした先輩が顔をのぞかせて、彦四郎は仰け反った。
「やめてください、鉢屋先輩。僕朝に見たばっかりなんです」
「庄ちゃんったら冷静ね!確かに一日に何度も見ると疲れるな」
いつもの不破雷蔵に顔を戻して、今日は金平糖だよ、と袋を出す。
「それで二人共どうしたの?何か悩み事?」
尾浜先輩、と彦四郎が名前を呼ぶ。
「……あの、宿題が、出ていて」
「僕もです」
鉢屋は首を傾げる。
「へぇ。難しいのか?」
「読み上げを聞いていただくのと、読んでいただく宿題で」
あーあれ、と納得したのか二人は頷いた。
「誰に頼むんだ?大抵の上級生なら一緒に頼みに行ってやれるが」
「鉢屋と行ったってからかわれたと思って相手にされないよー」
お前ひどいこと言ってるぞ勘右衛門。だって本当のことでしょ。
頭上で軽口をたたく先輩たちの裾を庄左ヱ門が引いた。
「読み上げの方を、鉢屋先輩にお願いしたいんです」
彦四郎も背筋を伸ばして、一生懸命見上げる。
「尾浜先輩には聞いて頂きたいんですが」
目を丸くして、一瞬動きをとめる。尾浜先輩は喜んで!と笑った。
「……私でいいのかい?」
「鉢屋先輩がいいんです」
「僕たちの先輩は鉢屋先輩ですから」
「そうか」
そうか、と小さくもう一度呟く。
そうです、と庄左ヱ門と彦四郎は声を合わせた。
「じゃあ俺は聞くの担当ね!どっちから読むー?」
「彦四郎からどうぞ。僕はその間に鉢屋先輩にこっちを見せておくから」
「うん、じゃあ交代で」
庄左ヱ門と彦四郎が相談している間にお菓子のことで先輩方は揉めているらしかった。
「あー鉢屋俺の金平糖食べたでしょ!」
「この間私の練り切りを食べたのはお前だろう!」
庄左ヱ門が先輩方、と呼びかける。
「静かに聞いてください」
「……うん」
「ごめん」
下手な教師が言うより庄左ヱ門が言う方が効果的なんじゃないだろうか、と彦四郎はぼんやり思った。


活動が終わったときには、二人の忍たまの友に鉢屋・尾浜の名前がしっかり書かれていた。
片付けをしたら帰るから、二人は先に帰っておいで。明日は庵の周りの草取りをしないといけないしね。
そう言って先に帰してもらったので、一年長屋へ戻る途中だ。
「鉢屋先輩の読み聞かせ、凄かった」
彦四郎がぽつんと呟いた。
天才の名に違わず、彼の声は人物や台詞に応じて変化した。
書物の中の登場人物に命を吹き込んで見せる。ああ確かにこんな声だと思っていた、とか、人だけに限らず動物の鳴き声であるとか。
庄左ヱ門が同意する。
「うん。どの部分も凄かったけど、僕は地の文のところが一等好きだな」
どうしてだか分かって、彦四郎は目を細めて笑った。
「鉢屋先輩の声だもんな」
「うん」
鉢屋先輩の耳が赤かったこと、尾浜先輩の笑顔がいつもより恥ずかしそうだったこと、二人とも気付いていたけど、言わなかった。
僕たちも多分、そうだったから。


「初めてだ、あの宿題を頼まれたの」
使った文机を片づけながら、鉢屋が小さく言った。
「俺も初めて!鉢屋は悪戯しなかったらもっと、色んな子が頼むと思うけどね」
からかわれたことのない生徒は、こいつのことを雲の上の人みたいに思っているかもしれないけど。
黙っていれば「天才で変装名人」な鉢屋三郎だ。さぞかっこいいだろう。俺は残っていたお茶を飲み干して、鉢屋を見る。
「どうしたの?」
「いや、もしかしたらひどいことをしたんじゃないかと思ってな」
「うん?」
器用に袋の口を紐で綺麗にとめ、手入れされた指がそのままするりと縁をなぞる。
「きっと私はあの子たちより先にいなくなるだろう?それなのに私が読んだ本を見るたびに思い出すなんて辛いだけじゃないか」
しばらく沈黙があった。呆れて口がきけなかったので。
真剣に悩んで、真剣に言っているんだ、こいつは。
馬鹿だなぁ鉢屋は!俺は大きな声でそう言って三郎の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
ああなんてくだらない!
「やめろ鬘が取れたらどうする!」
俺の手を防ごうとする鉢屋に笑う。言い聞かせるみたいに。
「辛くないように残すんだ。あの子たちが見るものや触れるもの、色んなことを一緒にして、俺たちがいなくなっても寂しくないように残していくんだ」
俺はそう思って色んなことをしてるよ。
鉢屋は考えてもみなかったって顔で少しぽかんとして、「そうだな」と言った。
(よーく聞いてお馬鹿さん、お前は何もしなくたっていなくなったら寂しいくらい、もう大切な人なんだよ!)


こいつの言うことは大抵の場合正鵠を射ているので、少しばかり悔しい。
庵の片付けを終えて、二人で五年長屋に向かう。
「はーちやっ」
後ろを歩いていた勘右衛門はたん、と前に回り込んだ。器用なことに進行方向に背を向けたまま歩き続ける。
なんだ、と返した言葉は少し不機嫌に聞こえたかも知れない。
えへへ。いつものことだが勘右衛門は締まりのない顔で笑う。気持ちが辺り一面に散らばってしまうようなそんな笑い方だ。私には絶対にできないような。
「俺ね、鉢屋の目が好き。俺を見てくれるから」
「……これは睨んでるんだ」
「鉢屋の口が好き。かわいーこと言うから」
「………おい、勘右衛門」
手だの声だの挙げていって、名前を呼んでもやめようとしない。
「あは、鉢屋かわいー」
我慢出来なくなって腕を引く。
「……私も、私のことが好きなお前が好きだな」
勘右衛門はすぐ後ろが柱だったことに気付いたのと、私の言葉とで赤くなった。
腕の中におさまった状態で顔を押さえる。
「鉢屋恥っずかしー……」
「お前にだけは言われたくない」
可愛いのはどっちだ、まったく!


君と重ねる日々

(忘れないように、忘れられないように)


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2011/07/10 21:17 | RKRN(小噺)

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