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2024/09/29 09:19 |
あやすてのひら【庄鉢】

一年後設定になります、ご注意ください。
気紛れ鉢屋で、庄→鉢。きっとそのうち絆されます。たぶん。







拍手[4回]







小唄都々逸なんでもできて お約束だけ出来ぬ人
(作者不詳)


うちの先輩方は優秀だから、卒業試験にひっかかることなんてないさ。
卒業試験の期間そう言って誇らしげにした彦四郎は、真っ青な顔をしていた。
僕と一緒であんまりひどい顔だから、思わず笑ってしまったくらいだ。
伊助やきり丸、彦四郎や生物委員会の二年生で集まって、勝手に学園長先生の庵に泊まった。
手を握りあって横になって、皆で祈っていた。どうか無事に帰ってきてくれますように。
「もう卒業しなくてもいいから、帰ってきてくれたらって気分になるよな」
中在家先輩に続いて二年目のきり丸はぼんやりと呟いた。
去年の先輩方は皆、無事に卒業された。
そのためにひどい怪我をして帰って来られたのを知っているから、余計に恐ろしい。
六年生の居る委員会はどこも落ち着かない時期だ。


帰って来たよ!と、実習だったらしい五年生が(正確にはタカ丸さんが)二年は組の教室に駆け込んできた。
「伊助くん、久々知先輩、帰ってきた!」
「ほんとですか!」
おい斉藤一応授業中だぞ、と注意する土井先生は諦めた声だ。
「すみませんごめんなさい、伊助くんお借りしますね!」
そう言って伊助を抱えてタカ丸は駆けだした。すっかり忍びらしくなっている。足音の消し方は赤点だが。
乱太郎が手を挙げた。
「……せんせー、庄左ヱ門がいません。きりちゃんもです」
「ああもう……この時間は自習とする」
報せを聞くなり窓から飛び出していった学級委員長ときり丸は、広い校庭を門に向って駆けている途中だ。
三治郎と虎若も後を追う。
「あいつらは逃げやしないぞ!」
窓から叫んだが、聞いているかどうか。
は組一同は僕たちも行こうか、と話し合ってまずは委員会の後輩が優先だよ、と落ち着いた。
怪我してないといいけど、と乱太郎は不安そうだ。
「これで庄左ヱ門もちゃんと眠れるねぇ」
しんべヱがうふふと嬉しそうに笑った。


今日は委員会の活動日だった。
卒業を間近に控えた先輩方はいつものように学園長先生の庵に来て、僕の点てたお茶を飲んでくれた。
鉢屋先輩を呼びとめると、俺先に行っておくね、と尾浜先輩が彦四郎を連れて出て行かれる。
「何だい庄ちゃん?」
無理を承知で申し上げますが、と僕は前置きをした。
「……素顔の先輩と口吸いがしたいんです」
彼は首を傾げ、あっさり告げた。
「いいよ」
顔は見せてはあげられないけどね。それで構わないなら。


じゅる、と音を立てて僕の唇の端の唾液を鉢屋先輩が舐め取る。
胸が苦しいはずなのに、どんなに息を吸っても大して楽にはならない。
耐え切れず開いた唇はすぐに先輩のそれに塞がれる。
そもそも他人と舌を使う口吸いをするような状況に陥ったことがない、だからこの人が巧いのかどうか比べようがなく、僕には分からない。
他の誰かと口吸いをしたとして、舌は痺れるものなのか、足は震えるものなのか。
確実に分かるのは、立っているのがそろそろ辛くなって来ていて、後頭部を包み込む鉢屋先輩の指の力が、思い詰めているかのようにいつになく力強いと言うことだ。
先輩は低い声で笑って、一生懸命に僕の舌を解し、背骨や腰に触れる。
大丈夫、だいじょうぶだよ、先輩が囁く。庄ちゃん。先輩の声は落ち着き払っている。
鏡の表面のように琥珀色の瞳が光った。僕は一歩、壁際に後退する。先輩がそれを追い掛ける。先輩の脚が僕のそれに触れ、ぞわっと背筋が震えた。
鉢屋先輩の指がうなじの髪を掻き分け、皮膚に触る。大丈夫、また先輩が言う。
何が大丈夫なんだろう、むしろ事態は悪くなる一方だ。心の臓が、いつもより速く打っている。
頬の内側を舌が探り、尖った歯の上を辿る。滑らかな部分をそろそろと這う。熱い。
一度口を離し、僕の濡れた唇の周りを舐めながら、また、大丈夫だから。
押し付けるだけの口吸いが下から顎に触れて来る。
心の臓は僕の耳の中に移動し、否応なしに顔がかっと熱くなる。息が上がっている。
この人に触れたい、触れたくて堪らない。
庄ちゃん。その言葉に我慢しきれず、僕は頑張って手を伸ばし、先輩の頬に触れた。
いつものように何となく冷たくて、僕は少し安心する。
鉢屋先輩の指が僕の指に添えられた。
瞳がきらめき、僕の親指の付け根の膨らみに唇が吸い付く。
音をたてながら手首の内側を吸い、指先を口に含んで舌を当てる。
火照った息が指を愛撫する。
僕は息を呑み、喉が上擦った悲鳴のような音を上げる。
鉢屋先輩。
呼び掛けると大丈夫、とまた繰り返してくれる。大丈夫だよ、庄ちゃん。

明りの一つもない部屋は暗闇で何も見えないけれど、僕は指で、掌で、この人のかたちを覚えていく。
「ふふ、何だかくすぐったいな」
声と、空気の震えで先輩が笑ったのだと分かる。
「これでもう、他の誰とも間違えません」
絶対に。
自分にも言い聞かせるように言い切る。
鉢屋先輩はまた笑った。
「庄ちゃんが言うとそんな気がするから不思議だ」
また逢えたら良いね、と言って僕の頭を撫でる。良い子。忍びになんてなるんじゃないよ。
気まぐれだって構わなかった。
(このたった一度の気まぐれにかけて、僕はこの人を見つけてみせる)


あやすてのひら

(次に貴方を見付けたら、もう絶対に離しません)

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2011/07/19 00:00 | RKRN(小噺)

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