一寸も はなれまいぞと思うた仲は 主も五分ならわしも五分
(作者不詳)
「俺ね」
勘右衛門は三郎の髪を指に巻き付けては外す。精巧な鬘は彼の荒れた指先によく引っ掛かった。三郎は何も言わず、彼の声に耳を傾けている。
「泣かせたいけど、悲鳴は嫌だ。苛めたいけど、壊すのは嫌だ。ズタボロにしたいけど、そのまま引き裂きたくない。ちゃんと回復するところで止めたい」
勘右衛門は三郎の肩に頭を乗せる。
「嫌がるお前に、云う事聞かせて、メチャクチャにしたい。……これって、おかしいこと?」
「いいや」
三郎は静かに否定した。
「ねぇ、鉢屋は?お前はこういうこと考える?」
「少なくとも、今は思わない」
「ふうん」
勘右衛門は嘆息した。茶色の瞳は三郎のそれを映す。
「俺、鉢屋が好きだよ」
呼吸するのと同じ要領で、彼は吐き出した。三郎も表情を変えない。
「そうか」
「本当に、そう思ってるよ。皆殺さなきゃになっても、お前だけは、殺さないであげてもいい」
「ああ」
三郎は目を閉じた。優しい感触が、彼の瞼に下りる。勘右衛門は泣きそうな声を出した。
「…ほんと、だってば」
「分かってる」
勘右衛門の額に自分のそれを当てて、三郎は目を瞑る。
「大丈夫だ、勘右衛門。お前が何を言ったって、私はお前を見捨てない」
「……本当に?」
「ああ」
居場所を教えて
(生き残る術は覚えた)
(俺はずっと それがどこだか知りたかったのだ)
冒頭の都都逸の意味
「貴方が私を愛してくれる気持ちに負けないくらい、私も貴方を愛しています」
五分と五分を足すとちょうど一寸になり、一寸はちょっと、とも読めます。
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