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2024/09/29 11:24 |
こじ開けたのは【文鉢】
(あんただった)

文鉢って少ないんですね……私は大好きですが!






拍手[2回]



諦めましたよ どう諦めた 諦めきれぬと諦めた
(作者不祥)


ぎりぎりと、文次郎の首を少年の指が締め付けていた。
容赦ない力を以て、だけど身体は拘束しないまま。だから彼はいつだって、苦無でも暗器でも取り出せるはずだった。
「私を殺さないんですか、潮江先輩。死んじゃいますよ」
「ああ」
文次郎の瞳は揺るがない。三郎も、彼の首から手を離さない。
「何で?」
「だってお前、泣いてるだろう」
ぼたぼたと雫が落ちた。首を絞め、殺そうとする少年の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
琥珀色の瞳から零れるそれは蝋燭の光で輝いている。
「……だから?」
「ああ」
三郎はくしゃりと顔を歪める。
文次郎の首から手を離し、顔を伏せた。嗚咽を殺すようにして言葉を紡ぐ。
「七松先輩だって、そんなバカなこと言いませんよ」
文次郎は小さく咳をして、首肯する。
「だろうな。俺もそう思う」
細かいことは気にするなが信条の同級生は何も言うまい。
殺されそうになったら何の躊躇いも逡巡もなく、相手を殺してやるだろう。相手がそれを望むと望まざるとに関わらず。
「じゃあどうしてですか」
文次郎は苦笑した。考えてもみなかったのだ。
「分からん」
「……あんたいつかそれで痛い目みますよ」
「バカタレ、今ので十分だ。そう簡単に殺されてやるつもりはねぇよ」
涼しい顔をして、意味の分からない理由の所為でたった今殺されそうになった人が何を言うのか。
ふふ、堪え切れずに三郎は笑った。人の一世一代の宣言を笑いやがって、と自分も笑いながら文次郎は彼の頭を乱暴に撫でる。
(……私たちに安らかな死なんて訪れるはずがないから、貴方が死ぬとき痛みや苦しみや絶望と一緒に、私のことを思い出してくれればいいと、思ったのです)
文次郎は突然三郎の手首ごと持ち上げ、指に触れた。怒りに任せて折られたとしても致し方がない。三郎は動かなかった。この人は危うく私に殺されるところだったのだ。しばらくの間は狐面にしておけば何とかなるだろう。指くらい、命に比べたら。
「良かった、怪我はねえな。ちょっと動かしてみろ」
いつまで待っても、指の折れる衝撃は訪れなかった。
「……あの、潮江先輩」
「痛むのか」
内側だろうか、と眉根に皺を寄せて文次郎は呟く。
「いえ。私は、大丈夫です」
「そうか?……変装には、指が大事だろう。お前に力技は向かない」
あまり無理な使い方をしてやるな、と武骨なそれが三郎の指をなぞる。確かな温度があった。
「……嘘だ」
思わず吐き出すと、文次郎は顔を上げた。首筋にははっきりと指のあとが残っていた。
「何で優しいんですか。指くらい折ればいいでしょう、早くしちゃって下さい」
「何を言って………ああ」
お前、怖いのか。
的確に言い当てられて、止まっていた涙がまた溢れた。
「お前が怖がるようなことはしねぇよ」
嘘だ、と年相応に怯える後輩を文次郎は無理矢理抱き込んだ。
「びっくりして、怖かったんだろう。泣いちまえ」
暫しの間。わんわん声を上げて泣き始めた三郎を視界の隅に映して、文次郎は目を閉じる。
(……後で五年から何をされるか)
良くも悪くも、一つ下の後輩たちは仲が良い。
(同じ学年に甘えるのはもう、無理だろうな)
それならば己が思い切り甘やかしてみせよう。決して得意ではないのだが。


こじ開けたのはあんただった

(だから、お願いだから、この感情に理由を与える隙なんて つくらないで) 



 

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2011/11/23 16:52 | RKRN(小噺)

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