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2024/09/29 11:24 |
だから、笑ってよ。【鉢庄】
学級と鉢庄。
仲良し学級は真理!






拍手[2回]


あの人の どこがいいかと尋ねる人に どこが悪いと問い返す
(作者不詳)



寒いねえ、と鉢屋先輩はゆっくりと息を吐いた。学園長先生の庵は火鉢もあるし、暖かい。外で吐く息はもうすっかり白い。
「……鉢屋先輩?」
「何だい」
先輩は左手で湯呑をとる。いつも通りの流れるような動きだ。何かがいつもと違う気がして、ようやく違和感の正体に気付いた。
「目が見えておられないのは、何故ですか」
誤魔化すような間をおいて、庄ちゃんは聡いなあと鉢屋先輩は肩を竦める。
「……ちょっとした毒に慣れるための実習でね。飲んで症状が出るまでどれが当たったのか分からないんだが比較的ましだな。私は毒慣れしているから、二倍打ってある。毒が消えるまでの間、発熱して、視覚を失う」
「それで盲いる可能性は?」
「十分に」
「そんな!」
歌うように囁かれた答えに庄左ヱ門は思わず立ち上がった。ない、と嘘を吐かないところがこの人らしい。
「駄目になったら、そこまでだろう。忍びは」
「……駄目になったら、自害されるおつもりでしょう」
この人は、僕の言うことなんて聞きはしないのだ。
一生を盲いて生き長らえるより、忍者のタマゴのまま死にたいと願うはずだ。
例えばそれが同級の先輩方や、特に不破先輩を煩わせるものなら、なおさら。
「庄ちゃん、そんな顔色変えて言うほどのことじゃあないよ」
大丈夫、と何の根拠もないのに。僕の顔色を声だけで言い当てて。
「ああ泣かないで、また見えるようになったら、最初に君の笑った顔が見たいんだ」
だから笑っておいてね、と彼は勝手なことを言う。
(願いと我が儘は、似ている)
この人が弱みを見せるのが僕だけであればと思うのは傲慢なことだし、わがままだ。
「どうして分かったんだろう、私も鍛錬が足りない」
くすくす笑って「庄ちゃんが優秀な証拠かなあ」と嬉しそうにする。
不敵に笑うこの人を格好いいと僕は思うし、子どものように駄々をこねるこの人が僕は愛おしい。
「庄左たちが毒慣れの実習を受けるときのために解毒剤を残していくからね。安心しておいで」
この人を好きだと公言すれば、一時の気の迷いだと言われるだろう。は組でだって理解してくれるか分からない。
だけど誰が何と言ったって、僕はこの人が好きなのだ。受け入れてくれるかもわからないこの人が。


だから、笑ってよ。

(僕は優しくなんかないのです。)(全部僕の為だから)


あーん、と声をかけて物を食べるのは先輩方だけで十分だ。
「彦四郎、はい。あーん」
饅頭を僕の口の前に庄左ヱ門が差しだす。二人きりの庵、火鉢がぱちんと音をたてた。
「……何でだよッ!!」
危ない、流されるところだった。
「いいじゃない、別に。困ることでもなし」
「何を言ってるのか分からないんだけど庄左」
「彦四郎が無理をしないようにするのも僕の仕事だからね」
息抜きだよ、としれっとした顔で言う。
(…そんなの)
お前だってそうじゃないか。
どうして泣き腫らしたのか分からないけど、庄左ヱ門の目の端は真っ赤だ。言ってくれても良いだろう。僕とお前は先輩方ほど仲が良くないかもしれない、けど。
差し出された饅頭を口含んで、咀嚼する。
「僕の仕事でも、あるだろ」
饅頭を箱からひとつ取り出して、半ばやけくそで声を出す。
「あーん!」
庄左ヱ門の口がぱくんと饅頭を含んだ。
「……ふふ、ありがとう」
眩しそうに目を細めて笑う。嬉しい、の気持ちが辺りに広がる。僕にもうつる。
「笑い方が尾浜先輩みたいだ」
「やれやれって肩をすくめるのが鉢屋先輩っぽいよ、彦四郎」
くすくすと笑いあう。
先輩方まだかな、遅いね。
「“庄ちゃん”」
「うん?」
きっと大丈夫だよ、と何を悩んでいるのかも知らない、何の根拠もない僕の言葉に庄左ヱ門はありがとう、と囁いた。


「うちの子たち可愛過ぎない?」
悶える俺の隣で、鉢屋は頷く。
「全くだ」
「……鉢屋、ちゃんとまた見えるようになって良かったね」
あれくらいの毒で私の視界を殺せるものか、と鉢屋は飄々と言ってみせる。
かっこつけなんだから。実は怯えていたってそれを表面に出さないのが鉢屋であり、今に始まったことでもない。
「まあお前が盲いて、それで死のうとしたって死なせてやらないけどさ」
これはたぶん、全会一致で五年生の意見だ。
「……お前の方こそ、熱が酷かっただろう」
「つまりお互いさまってことだよ。俺が死のうとしたって、お前止めるだろ」
優しいんだから、と揶揄すれば庄左や彦の為だ急に先輩が居なくなったら可哀想だからだ、と憎まれ口をたたく。
「そういうことにしておいてあげる」
鉢屋がじろりと俺を見た。さあ中に入ろう、と戸に手を掛ける。
「庄ちゃんに心配掛けてごめんって、それだけちゃんと言いな」
お前は庄ちゃんにだけデレればいいさ! 

  
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2011/11/23 16:56 | RKRN(小噺)

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