忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/07/01 19:17 |
もう怖くない。【逆転庄鉢庄】

(きみがいるもの)

pixivではなぎこさんから素敵な表紙を頂きました。以前のリクエストをようやく!
一年生鉢屋くんと、五年生黒木先輩のお話しになります。
年齢操作ご注意ください。



 

拍手[2回]

星の数ほど男はあれど 月と見るのは主ばかり
(作者未詳)



最初は、からかってやろうと思ったのだ。
これまでからかった上級生がそうだったように、驚かれて。気味が悪いと嫌がられて。それで良かったし、満足だった。
精悍な眉に目元の涼しい五年生に、私は化けてみせた。
「ああ、確かに良い腕だ」
眩しそうに目を細めて、彼は確かに私に笑った。
「僕は黒木庄左ヱ門。初めまして、三郎」
五年は組の学級委員長であるらしい、とその日のうちに知った。学級委員長委員会委員長代理で、文武両道。人好きのする顔をした人気者の黒木先輩。
(……私とは大違い)


「僕、三郎が学級委員長すればいいと思うな」
同室の不破雷蔵が推薦した。
凄いんだねえ!お面の代わりに、僕の顔を使ってよ。その方が便利だと思うから。
そう言ってくれた雷蔵がその頃唯一といっていい理解者だったから、私は受け入れた。
学級委員長委員会委員長代理に興味があったのも、本当だけど。


入ってくれてありがとう。当の学級委員長委員会委員長代理は、礼儀正しくお礼を述べた。
「お茶をたてるから少し待っていて。直に彦四郎が…あ、五年い組の学級委員長が、もう一人連れて来るよ。三郎と同い年の子」
気付いたときには座布団の上で、お菓子を前にちょこんと正座していた。
「……黒木先輩は、どうして私のことご存知だったんですか?」
初めて会ったときに名字ではなくて、名前を呼ばれたこと。そもそも悪戯をする私が名乗るはずもなく。
「ずっと見てたの、バレちゃった?」
黒木先輩は屈んで、私と目を合わせた。ひゅうと喉が鳴る。
「…いえ」
私は俯いた。恥ずかしかった。
「それとも、三郎が僕を見てた?」
声も出せずに首を横に振る。そう、と残念そうに黒木先輩は言う。
「そうだったら嬉しいのにな」
乱れた息を殺す。
なんて顔をするのだ、この人は!
(ああ。逃げられない)
そう思ってすぐに、逃げなくても良いのだと気付いた。
(この人なら、あるいは。きっと)

それが、春のことだ。



あの人の声が私の名前を呼ぶたび、身体の奥が熱くなる。呼ばれるだけで嬉しくて、震えてしまうくらいにくらくらする。これが好きという気持ちなら、なんと苦しく御しがたいものか。
「ああ寒い!」
「まあ、冬だからね」
炭の匂いであの人を思い出す。ふわりと香る炭の匂いがとてもいとおしい。
火鉢をぼんやり見つめていると雷蔵がくすりと笑った。鼻の頭が赤い。
「何だい、雷蔵?」
三郎は首を傾げる。
「黒木先輩のこと考えてる顔だ」
「さすが雷蔵!」
三郎が雷蔵に抱き付くと鬘とちゃんちゃんこがまふまふと揺れた。
「三郎?」
「……私は分かりやす過ぎるか?」

先輩に嫌われたらどうしよう、と小さな声で囁く三郎の頭を撫でてやる。
「お前を嫌う人なんていやしないよ」
羨む人は沢山あろう。それでも、少なくともこの学園には、三郎を嫌う人なんていない。
三郎を傷付けるのは誰であろうと僕が許さない。
「今日は一緒の布団で寝よう」
「うん」
その方がずっとずっと暖かい。
(黒木先輩も居るしと思って学級委員長に推薦したの、間違いじゃなかった)
三郎は毎日楽しそうだ。それが純粋に嬉しい。悪戯も日に日に増えて、僕は結構迷惑のはずなのだけど。
(きっと、大丈夫だよね)
こんな穏やかな日がずっと続く。ずっとずっと。


「今日の委員会はお休み。お土産を買って来るから、それまでいい子にお留守番しておくんだよ」
このお使いは少し難しいから、と今福先輩が付け加えた。
「いやです」
わかりました、そう頷いた勘右衛門が自分の言葉に飛び上がったのを、三郎は視界の端で捉えた。
「鉢屋?」
子供扱いしないで下さい、と三郎は黒木先輩に言った。泣き出しそうな声になったけれど、必死で言い募る。
「私は子供じゃありません。手裏剣は的の中心に当てられるし、体術は一番だし、変装だって得意です。座学でも優をとりました。どうして私を子供扱いなさるんですか」
あんまり勢い良く言ったので、三郎は肩で息をした。嘘ではない。一年生の中では、一番巧く何でもできる。
「……お前は確かに凄く優秀で、僕の自慢の後輩だけどね」
黒木先輩の声は低く確かだった。
「大人は、自分を子供扱いしないでくれなどと言わないよ」

僕の言葉に打ち拉がれて、でも理解出来ないほど愚かでもない三郎は黙り込んだ。握り締められた指が白む。
「傷になったらどうするの」
握り込まれた細く小さな指を外してやる。
「………ごめんなさい」
良い子、本当に良い子だ。僕が守る。作られた壁など壊してみせよう。
脆くて壊れやすい三郎が僕は大好きだ。
(だから、この子から嫌われることだけが、こんなに恐ろしい)

「庄左、お前三郎のこと、」
皆まで言わせず、庄左ヱ門が遮った。
「僕は、ちゃんと怖いよ」
「そんなことは分かってるさ。そう怯えなくたって、三郎はちゃんとお前が好きだ」
知ってる、と苦笑する臆病な同級生に彦四郎は顔をしかめてみせた。こいつの臆病さはどうも性質が悪いのだ。
「お前の後輩は、僕の後輩でもあるんだからな。……あんまり泣かせるなよ」
「極めて了解」
そう殊勝に頷かれても、こちらは照れくさいのだが。


先輩方を引っ掛けるまでは、と今日も今日とて三郎は悪戯を考えている。委員会が始まるまでずっと、だ。
隣で三郎以外いないのをいいことにごろごろしていた勘右衛門が、突然起き上った。
「鉢屋、黒木先輩のことが好きなんだ!」
同級生の言葉に三郎は息をのんだ。
「…そんなこと言ってないだろ」
「認めて欲しいから悪戯ばっかりしてるんだろ?違わないじゃん」
ずけずけと勘右衛門は指摘する。鋭いのだが、いかんせん遠慮がない。
「うるさい!違う!」
自分でも分かっているけど、言われたくなかった。
好きなんだって、雷蔵になら素直に言えるのに。なのに。
(こいつが先輩の居るところで言うから!)

気持ちは疾うにバレているし(そもそもそうなるように仕向けたのは庄左ヱ門なのだし)、今更なのだが。
同級生の前では見栄を張りたいのだ。彦四郎には三郎の考えが手に取るように読めた。ただ、隠せるものでもなく。
「……庄左、にやけてるぞ」
彦四郎がそうなら、当事者は言わずもがなだった。
「だって嬉しいんだもの」
喜色を隠さず、庄左ヱ門は笑う。
「ね、こんなにいとおしい」
「……全く。酷い喧嘩になる前に止めるからな」
庵の中にずかずかと立ち入った彦四郎は、三郎に掴みかかろうとする勘右衛門を抱き上げた。
「ほら勘右衛門、喧嘩をするな。まずは僕に言ってごらん」
小さな指が庄左ヱ門の袖を掴む。
「せんぱい?」
どこにも行ったら嫌です、そう続けられた言葉に立ち竦んだ。
「僕はどこにも行かないよ」
「……私と一緒に居て下さい」
三郎が囁く。
(この小さな手に捕まっただけで、僕は満足に嘘さえ吐けない)
このままだとまた泣かせてしまいそうだ、と思う。鬘の上から頭を撫でてやる。
「…そうだね、三郎がそう願ってくれるうちはそうしよう」


「動かないで下さいね」
三郎は僕のボサボサの髪を結おうと四苦八苦している。髪に触れる感覚だけで表情が見えるようだ。
「ねえ三郎」
「何ですか、黒木先輩?」
「ふふ。呼んだだけ」
動かないで下さいったら、と声変わり前の幼い声が耳をうつ。
「三郎」
もう一度名前を呼んでみる。
三年の斉藤に頼もうか、という失言に私だって髪結いくらい出来ます!との三郎の御言葉だ。
「もう!怒りますよ!」
「好きだよ」
ぱっと手が離されたのと同時、振り向いた。
三郎はみるみる赤くなって、首筋まで真っ赤になった。はくはくと口を動かして、何も言えずに俯く。
ああ本当に可愛い子!


もう怖くない。

(別々にうまれてきてよかったね。出会えて、よかった。)


PR

2012/01/16 00:03 | RKRN(小噺)

<<2012・1月 | HOME | 2011・12月>>
忍者ブログ[PR]