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2024/09/29 09:19 |
今此処にある倖せ【学級委員長委員会】

彦四郎と、勘右衛門のおはなし。
彦四郎はきっと庄ちゃんに対して羨望とか、憧れに似たものを抱いているんじゃないだろうか、という妄想。
おそらく腐向けではない…はず。




拍手[5回]



尾浜勘右衛門先輩と、鉢屋三郎先輩。
多分、僕と庄左ヱ門を一番甘やかしてくれる二人だ。誰よりも優しくて身近な先輩たち。
そんなことを考えながら、僕は善法寺先輩に薬を塗ってもらった頬に触れる。少し腫れているようだ。
六年生にも劣らない変装の名人で、天才。噂に聞くそんな人が同じ委員会の先輩になるのだと知って、当然嬉しかった。実際はまあ、あんな人な訳だけど。
組が違うのに(やる気を出せば)座学も出来て、武術大会で優勝してしまうような天才が傍に居るのはどんな感じなんだろう。
(僕がたまに庄左ヱ門に対して思う羨ましいとか、どうして自分より、とか、やっぱり先輩も思われるんだろうか)
尾浜先輩は五年い組の学級委員長で凄く優秀な方だけど、良い意味でも悪い意味でも、目立たない。鉢屋先輩がやたら目立つから尚更だ。
お二人は、僕と庄左ヱ門よりはずっと仲が良さそうだけど。
「尾浜先輩!」
庵に向かう途中で尾浜先輩の背中を見付けた。彦四郎。そう僕の名前を呼んで「実技?」と苦笑しながら僕の怪我を指す。
「はい。あの、鉢屋先輩のことなんですが」
「あいつ今度は何をしたの?」
困っちゃうね、彦が被害者?それならとっちめてやらないと。
呼び止めただけで、尾浜先輩は悪戯だと断定した。あの人の日頃の行いが悪いんだと思う。
「いえ、そうではなくて」
「うん?」
「尾浜先輩は、鉢屋先輩のことをどう思っておられますか」
「俺が鉢屋を?」
「はい。羨ましいと思うことはありますか」
先輩は笑った。
「彦はそう思うの?」
「…四つも歳が上の天才に、追い付こうとは思いません」
だけど、追い付こうと必死になっている同級生を僕は知っている。前へ前へ。まだ足りない、もっと、もっと。庄左ヱ門は多分隣に並ぶだけじゃなくて、あの人を超えたいと思ってるんじゃないだろうか。
「でも僕は何も出来ないんです。い組なのに」
一年は組の誰と比べたって、僕は実践力がない。試験だっていつも一番な訳ではないし。
「決め付けるのは良くないよ。俺だって鉢屋に負けないものはあるんだから」
尾浜先輩は万力鎖の名手だ。
「いい?自分のできることを増やしていくこと。それを実践してきた自分がいて、継続できたこと、そこに誇りを持つべきだ。持っていないものを気にしていると、彦四郎がせっかく持っているものを無駄にしてしまうよ」
尾浜先輩は内緒だぞ、と屈み込んで小さな声で続ける。
「昔の鉢屋はね、他の誰か一人でも出来ることを、自分が出来ないのを嫌がった。今は違うけど」
「鉢屋先輩にも、あったんですか。出来ないこと」
とても不思議な感じだった。今のあの人は飄々と何でもこなしてしまうし。
「そりゃ沢山。一年生の中では一番だったけど、学園中の人の出来ることを全部しようとしてたと思う。俺も後になって気付いたんだけどさ」
結論だけど、と尾浜先輩は指を立てる。僕は背筋を伸ばした。
「俺は鉢屋を羨んだことはないよ。きっと彦四郎もそのうちそう思うから、心配しなくて良い。さて、委員会に行こうか」
くしゃくしゃと頭を撫でられると本当にそんな気がしてくるから不思議だった。
頑張る彦四郎には飴をあげよう、と歌うように言って手渡される。袋に入った飴玉が二つ。
(…僕と庄左ヱ門のことだってばれていたんだ)
遠回しに尋ねたのを恥ずかしく思った。五年生って凄い。きっとお見通しなんだ。
(一年生だった頃の尾浜先輩に聞けたらなぁ)
ちょっとは何か変わるかもしれない。

学園長先生の離れに居たのは庄左ヱ門だけだった。
「鉢屋はまだかー…お使いって言ってたもんな」
はい、と庄左ヱ門が応える。僕は知らなかったけど、庄左ヱ門は知っていたらしい。
「…じゃあごろごろしながら鉢屋を待とう!」
尾浜先輩は陽の当たる場所に移動して横になる。
僕は一人、飴を口に放り込んだ。借りた書物を眺めながら尾浜先輩にならう。逆らう方が面倒臭いことになるのはもう既に学んでいる。
午後、一年生は全体で実技の授業だった。何やかんやで、は組に良いとこ取りをされて、まぁいつも通り。
そのせいか、庄左ヱ門も忍たまの友を開いたまま眠そうにしている。
そのまま、まどろんで。

気が付くと、一年長屋の縁側に居た。

「……君、どこの組の子?」
丸い大きな瞳が僕を映した。
(……尾浜先輩)
隣に腰掛けた彼は小さく、ちょうど同じ年の頃に見えた。それでも尾浜先輩だ、と確信を持って言えた。なぜか。
「一年い組の、今福彦四郎、です」
組のことで嘘は吐きたくなかった。
「ふうん!見たことないから他の組かと思った!」
「まさか!あほのはと一緒にされたくな…い」
いつも言っていることなのに、その言葉は胸をちくりと刺す。
(…あほのは)
それなら、そのあほのはにすら勝てないのは、誰だ。
ころ、と口の中の飴玉が音をたてた。尾浜先輩は薬を塗られた僕の頬を見る。
「怪我してるね。痛そう」
「これくらい、なんてことないよ…あ、飴、食べる?」
もっと酷い怪我を僕は見たことがある。実習から帰って来た上級生はいつもそうだ。
言っている途中で恥ずかしくなって誤魔化すように飴を取り出した。
「俺飴好き!ありがと!」
知ってます、と口の中で応える。尾浜先輩が好きな飴だ。たまに分けてくれるのだ。よく頑張ったね、と笑いながら。
「彦四郎は頑張り屋さんだねぇ」
「…先輩方が優しいから頑張れるんだ」
心の中でありがとうを唱える。
僕は先輩方のような上級生になってみせます、といつか言うために。
「俺も頑張ろ!実は一人負かしたい奴が居てさ、ろ組なんだけどそりゃあ色々出来るんだ。面を被ってるか、こっちの顔してくるかなんだけど」
「…鉢屋三郎?」
そう、と小さな先輩は力一杯頷く。
「やっぱり彦四郎も知ってるんだなぁ。あいつより何か得意なことが出来て、いろは関係なしに仲良くなるのも悪くないと思うんだよね!」
眩しそうに目を細めて、もちろん俺はい組大好きだよ、と付け加えた。
「僕もは組に居るんだ、負けたくないけど、仲良くなりたい奴」
少し泣きそうになった。
そうだ、仲良くなりたいんだ。なかなかうまくいかないけど。
「同じ委員会で」
「それって何委員会?」
尾浜先輩は尋ねる。俺も入れるかなぁ。
当然、と力んで答えるとまた飴が口の中で転がって音をたてた。
「だってあなたの委員会ですもの」
ぐにゃりと視界が歪んで、体に何か掛けられたのを感じた。藍の上着。上級生の中でも五年生の色。
(…ああ、夢だったのか)
寝てしまったらしい。
随分と都合の良い夢だったな、と思いながらうとうとする。
真隣に庄左ヱ門が寝ているのが見えた。
「……ね?悪くないでしょ?」
尾浜先輩の声が優しく上から降ってくる。
「はい」
本当だ、悪くない。
「先輩、僕、頑張りますね」
「うん。無理しない程度にね」
怪我した頬の近くに触れている手が温かかった。
「俺は彦四郎を応援してるから、いつでも言うんだよ」
もうずっと。その囁きと一緒に、僕はまた眠りに落ちていった。

僕と庄左ヱ門は二人揃って尾浜先輩に起こされた。
鉢屋が戻って来たよ、起きた方が良いと思うな。
陽なたぼっこをしながらのんびりと先輩は言った。僕も庄左ヱ門もその言葉だけで飛び起きる。何をされるか分かったものじゃないからだ。
「団子を買ってきた!」
色々と新しい種類が出ていてな、と楽しそうに鉢屋先輩は話す。
「鉢屋、俺の飴はー?」
「お前のお使いに行った訳じゃないんだぞ、勘右衛門」
尾浜先輩は飴を袋で受け取って笑う。
「…彦四郎、どうしたの?」
相変わらず同級生とは思えない冷静さで、庄左ヱ門が尋ねた。
「何でもないよ」
ただ嬉しいんだ。
こんな風に先輩方と話して、お前と喧嘩して、それでもちょっとずつ仲良くなって。
「あ、俺の懐かしの飴も買ってある!」
「こないだ買ったときも言ったけどな、それは新しい種類だ。懐かしい訳ないだろう」
「俺には懐かしいんだよ。四年待っただけあった。ふふ」
「何だそれ…」
呆れたように鉢屋先輩が言う。
「なーいしょ!」
尾浜先輩は眩しそうに目を細めて、笑った。
「先輩方、今からお茶を点てますから飴は舐めないで下さい」
庄ちゃんったら冷静ね!
二人で口を揃える先輩方を見て、僕は一人で吹き出した。

 

今此処にある倖せ

(僕はとても、しあわせだなあと思うのです)

 

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2011/06/02 00:24 | RKRN(小噺)

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