忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/07/01 18:53 |
これは俺だけの恋【綾勘】
壱さんへ、愛を込めて。相互記念の綾勘、です。
都都逸もつめつめ。


拍手[1回]

忍都都逸様に投稿させて頂いたもの 全て綾勘綾

 掘った罠には 貴方をはめる 僕の獲物だ 逃がさない
 ここにあるなと 気付いた罠に 落ちてみせるは 君がため
 善い人ぶるのが お上手ですね あれも嘘なら これも嘘



しとしとがざあざあに変わり、目の前が白く映っている。土の匂いが噎せ返るほどだ。どうやらあの穴掘り小僧、まだ帰ってきていないらしい。困った奴だね、全く。俺は迎えに行くことに決めた。同室の平は戻ってきても委員会のお蔭で半死半生だろう。
勘ちゃん行ってらっしゃい、と兵助が言った。巻物から目をあげて違うの、というように首をかしげる。察しが良いんだから。
「行ってくる!」

「あーやべ」
穴の中に呼び掛けると吸い込まれる。闇に慣れた目には綾部の淡い色の髪と光る瞳が映った。
「尾浜先輩」
ぼうと立ち尽くしている。足元は雨と泥でおそらくひどいことになっているのだろう。掘られてすぐの土の匂いがした。穴掘り小僧め。
「帰るよ。風邪ひいちゃう」
おいで、と穴の中に声をかけた。傘を置いて手を伸ばす。降り注ぐ雨粒。
握った手のひらは胼胝でかたく、そしてひどく冷たかった。

「嵐になろうって時まで穴掘ってたらダメだろ」
「はあ、すみません」
握れば手がじんとあたたまった。この人は温かい。万力鎖の胼胝だろうか、皮膚は硬い。
滝も三木も来ない、タカ丸さんには場所が分からない。そんなときに迎えが来る。誰が頼んでいるわけでもない、らしい。少なくとも立花先輩がご存知なかった。
「聞いてないだろーもー」
「尾浜先輩、ありがとうございます」
思い出して言った。勝手に尾浜先輩が迎えに来てるんだよ、と同室に言ったところ御礼くらい言えとのお言葉だった。
「滝夜叉丸が御礼を言えと」
「そうだろうねえ」
お前が自分で御礼を言ってくれたのは嬉しいけどさ、と笑いながら僕の手を引く。
あたたかい。


それが、去年の話しだ。
僕は上級生になった。あの人と同じ色の衣を身につけるようになった。


体を引きずるようにして洞窟に入った。痕跡は残していない、追手には分からないはずだ。
学園に近付いた証拠に罠が多くなってきた。競合区域のあかし。このあたりに居るときの綾部はきっと水を得た魚だろうな、と思う。
「……あやべ」
土の匂いがする。酷い雨だ。外に出てなきゃいいけど。身体を丸めると少し暖かい気がした。寒いの嫌いなのになあ、と唇を尖らせて眠りに落ちる。
ああ、寒い。

人の気配で目が覚めた。
何かを引きずるような音、足音は軽い。町人ではなさそうだった。音を消すのがうますぎる。洞窟の中で響かなかったら気付くまい。苦無を確認して、息を殺す。夜は更けている。朝はまだ来ない。雨の日に出歩く者など限られている。
追手ならば振り切らなければ。学園に連れ帰るわけには、いかない。
(寒い。手が冷たい)
でも、殺さなきゃ。俺が。
「おやまあ、尾浜先輩ですか」
「あ、綾部?」
「こんばんはあ」
思わず座り込んだ。一つ下の後輩は鋤を抱えたままふてぶてしく挨拶を寄越した。いつも通りに。
「塹壕も掘ってないんです?風邪ひきますよお」
俺の周囲を見て、それだけ。実習だとか何をしていたとか、そういうことは一切尋ねずそう言った。
「……うん。寒い」
「そーでしょうね」
すとんと俺の隣に腰を下ろす。泥が跳ねて乾いた装束、土の匂いと雨のそれ。あやべのにおい。
淡い藤色の髪によく光る瞳が俺を映した。
「寒いよ」
「知ってます」
俺の手を握った綾部の手がばかみたいにあたたかくて、雨で濡れているのに離せなかった。
寄り添ってうとうとしているうちに夜が明けた。光が差し込んで、土の匂いが強くなった。
穴ばかり掘るもぐらのようなこの後輩を、ああ好きだなあ、と思った。


食堂に入れば、身綺麗にした綾部を見つけた。
「綾部。おはよう」
喜八郎、と綾部は言いながら視線をあげる。食堂は良い匂いに満ちている。おばちゃんのご飯だ。
「喜八郎です」
え、と一歩下がれば後輩は一歩詰めよった。
「……おはよう、喜八郎?」
「おはようございます」
朝日が差し込む頃には「僕は罠の見回りがあるので」と早々に居なくなった綾部だ。
会ったこと、覚えてたのか、なんて思ったりして。
「今日、二回目ですね」
見透かしたように。綾部の隣に座っていた平がぴしりと硬直した。今日一回目の挨拶はどこで会ったのか、生憎俺は教えてやれない。綾部も言わないだろう。
「二回目だね」
平の隣に腰かけようとしたところで、平は立ち上がった。食べ終わったらしい。
「私は食べ終わりましたので、どうぞ。喜八郎、始業時間は守れよ」
「おー」
「大した用じゃないんだけど」
綾部の返事に頷きながら平はいいえ、と首を振った。礼儀正しく頭を下げて去っていく。なんだかんだでよく出来た後輩なのだ、自分のことさえ語らせなければ。先輩を敬うし、立ててくれる。七松先輩には引っ張り回されてるけど。喜八郎と違って。
「朝はありがとね」
「何もしてませんよ、僕は」
「知ってる」
目を細めて笑うと綾部は不思議そうな顔をした。
お前を、絶対に連れ帰ってあげる。でも好きなのは教えないよ。俺だけの秘密。誰にも内緒。

これは俺だけの恋


何か月かして、綾部から好きですよ先輩、って伝えられて慌てる勘ちゃんが目に浮かぶようです。

PR

2013/02/07 23:23 | RKRN(小噺)

<<2013・2月 | HOME | 2013・1月>>
忍者ブログ[PR]