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2024/09/29 11:22 |
それでも傍に居たいので。【竹鉢と生物】

竹鉢の日であり鉢屋三郎タイム。
竹鉢、加えて孫→竹のような。
タケメン、好きです。鉢鉢も好きですが、あまり見かけません…

僅かながら暴力表現あります。CPにではありませんが、ご注意を。


 



拍手[2回]




これほど惚れたる素振りをするに あんな悟りの悪い人
(作者不詳)


「今日の夕飯何かなあ」
「ねー」
生物委員会は毒虫脱走の騒動も多いが外出も多い。ちょうど裏裏山から昆虫採集をして帰る途中だった。山道は狭く厳しい。
(………来る、)
背後から数人分の殺気を感じて、孫兵は一年生達を抱き込んだ。わ、と声が上がる。
ひゅうと風の唸る音、振りかぶって下ろされた刀を、竹谷先輩は虫採り網で軌道を逸らした。
山賊と思しき男たちを正面にこちらに跳びすさるのと同時、ピィッ、空気を裂くような指笛を鳴らす。
反応した鷹が一居飛び立ったのが、孫兵には分かった。木下先生に知らせてくれる、ター子だ。
「孫兵。分かるな」
そいつ等を連れて早く逃げろ。
ター子への指笛の合図は、“異常を発見”。救いを求めるそれではない。
(…此処に居てもただの足手まといだ)
そう判断して、一年生達に囁く。
「いちにのさんで、走るぞ」
「竹谷先輩は」
「そうです、先輩が」
夢前に続いて佐武も言う。上ノ島と初島は不安そうにこちらを見上げた。
「大丈夫だ。心配なら、早く学園に戻って先生方に知らせよう」
勇ましい子たちだ。
(でも、此処に残って、みすみすあの人を殺すような真似は、出来ない)


後輩たちは駆け出した。
目の前の敵を牽制しながら、指笛で狼を呼ぶ。
まだあの子等には見せたくなかった。血の匂いも、肉を裂く感覚も、まだ知らなくて良い。
「シロは行ったか、クロ?」
闇から生まれたように黒い狼が、下ろした右手に擦り寄った。湿った鼻先が掌に当たる。
「良い子だ。帰ったら綺麗に洗ってやるからな」
きっと、血塗れになってしまうから。クロの頭を一撫でして、苦無を逆手に握った。構える。
「ええい生意気な!」
「逃げられると思うてか!」
山賊、だろうか。刀があるし、装備も悪くはない。落武者が逃げ出したのかも知れない、と思う。
(人数・組織・根城の把握。可能であれば殲滅)
直ぐには追おうとしない。勝てると思っているからこその油断だ。
子供を襲っても、売る他には何の稼ぎにもならないだろう。
学園の近くを、こんな奴等にうろうろされてはかなわない。
(大切な、場所だ)
守られなければならない。絶対に。


だんだんと闇が迫ってきている。
お前は優しいからなぁ。虫獣遁は似合わないよ。
一年生たちを支えるように走りながら、竹谷先輩にそう言われたのを思い出す。
狼のシロがぐるぐると辺りを警戒しながら、並走している。こちらに一匹、放していた狼を付けてくれたのだ。
(ぼくがもっと強かったら、言えた)
人より毒虫が好きだ。ジュンコが好きだ。決して裏切らない彼らが好きだ。
(だって、人間は、裏切るじゃないか)
人を好きになるのが、怖かった。
伊賀の里は裏切りで出来ている。親が子を、子が親を、同じように兄弟を、裏切る。そうやって生き残ってきた。
(でも、あの人はきっと裏切らない)
腰の編み籠に入れた毒虫も、もしものときの火縄と火薬も、あの人は使うまい。
孫兵の大事な毒虫だからな、念の為だ。
出掛ける前に毒虫を編み籠に入れながら、そう言って必ずあの人は笑う。
(言っておけば良かった)
毒虫より、貴方の方がずっと大事ですって。
その子等を使っても貴方が助かるなら、学園が守れるなら、その方が良いに決まっていますって。
目頭がじんと熱くなって、鼻の奥がつんとした。
泣いたら駄目だ、下級生が不安がる。
助けを呼ばなきゃ。
あの人を、助けてもらわなきゃ。
負けるつもりなんてないだろうけど、あの人が傷付くのだって、ぼくは見たくない。


クロが相手の指を噛み千切ったのを見ながら、思う。
虫獣遁は生き物を道具として割り切れなければ使えない術だ。
(信頼関係は築けても、割り切ることが孫兵には出来まい)
本来なら敵から逃げる為に使うこれは、自分の為に他の生き物を犠牲にする術だ。例えば鼠であり、虫であり、蛇であり。
(…動いているのは、あと三人)
一人逃がしてから直ぐに応援が来た。根城は近そうだ。
うまく追い込めれば良いのだが。
「大変そうだなあ、俺?」
暗くなった頭上の森から、降って来たのは竹谷八左ヱ門の声だった。
「手伝ってやろうか」
「……ぜひ頼みたいな、俺」
安堵するのと同時に、敵には動揺が広がる。目の前と頭上、同じ姿に同じ声。
「狐狸の類かっ」
「落ち着け、何かの術に決まっている!」
動物は感情に敏感だ。怯えや恐怖は直ぐに読み取ってしまう。
こんな風に。
「ひぃっ」
クロが喉笛を狙って跳び、一人仕留めた。確実に喉を食い破る。
「このっ!」
狼に刀を振り下ろそうとした男の頸動脈を、鏢刀が裂く。
溢れる、赤。血の臭いがたちこめた。
「全く、うちの大事なお犬様に何をしてくれる」
もう一人の八左ヱ門は木の上から音無く着地する。
最後に残った一人は化け物、と上ずった声で叫んだ。
妖者の術、ばけもの、色々と呼び方はあるが、要は変装だ。そういう意味で叫んだのではないだろうけど。
「お褒めの言葉どうも」
竹谷八左ヱ門――鉢屋三郎は、戯けて一礼してみせた。この天才の、十八番だ。
クロが唸りながらも指示でぴたりと動きを止めると、男は悲鳴を上げて逃げ出した。
「クロ、おいで」
血塗れのクロは尻尾を振りながら嬉しそうに寄って来た。背中を撫でてやる。やっぱり汚れてしまった。せっかくの毛並みなのに。
「一人逃がしたら直ぐに応援が来た。拠点は近いと思うぞ」
「ああ。雷蔵が血を辿って根城に向かった。……いつも忍具はもっと持ち歩けと言うだろ」
微塵を置いてきているのはお見通しらしい。握り締めていた苦無を離す。すっかり強ばってしまった。
「悪い」
「学園長先生から、五年ろ組で始末を付けて来いとのお達しだ。早いところあいつに案内させて潰してしまおう」
もしあるならば人買いの経路も特定する気なのだと、口に出さなかったが分かった。
「向こうは雷蔵が口を割らせてくれる……ああ、ちなみに、今日の雷蔵はお前の顔だ」
「そりゃまた…」
逃げ帰った敵はたまったものではないだろうなと少し同情する。発狂しかねない。
ゆっくりと逃がした男を追いながら、三郎が横目でこちらを見た。
「伊賀崎が毒虫以外であんなに動揺しているの、初めて見たぞ」
「え、どうしてだ?危なくないようにシロを付けたし、毒虫も使ってないし……」
白い目を向けられる。
「お前は、肝心なところで鈍い。だからもてない」
「うるせぇほっとけ!」
くの一に人気はなくて構わないのだが(ない方が嬉しいくらいだ)、町娘にもてない理由がさっぱり竹谷には分からない。
「……まあ、ありがたいけどな」
私にしてみれば。
呟かれた言葉に何で?と聞き返す。
返事は貰えなかった。


「おはよう、孫兵」
夜が明けてすぐ、飼育小屋に向かった。
竹谷生物委員長代理が、いつものように脱走はないかと点検をしていた。
「…おはようございます、竹谷先輩」
傷は頬に小さく一つ、それだけだ。
「お帰りなさい」
何とかそれだけ言った。
「ただいま!孫兵、昨日は偉かったぞー」
頭がぐしゃぐしゃと撫でられる。
夢じゃ、ない。
「あいつ等も褒めてやらないとな!怪我はないか?」
「はい。大丈夫です」
それなら良かった、と嬉しそうに笑う。
木下先生に竹谷先輩が、と伝えたときのあの人の気配を、はっきりと覚えている。
(ぼくに気配を読ませたのは、わざとだろうか)
鉢屋先輩は姿を現すと学園長先生にお伝えします、と言ってから笑った。
心配することはないよ、よく頑張ったな、ゆっくりお休み。
一年生たちの頭を撫で、必ず私が連れて帰って来るよ、と僕に請け合った。
(あの人には守るだけの力があって、ぼくより竹谷先輩を信じている)
鉢屋先輩はぼくよりずっと強い。
(……かなわないな)
少なくとも、今はまだ。


それでも傍に居たいので。

(貴方にとっての唯一は、ぼくではないけど)


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2011/08/08 03:26 | RKRN(小噺)

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