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2024/09/29 11:19 |
これが僕らの恋です【庄→鉢+きりくくきり】
庄ちゃんときり丸の恋愛談義。
一年生→五年生の年齢操作あります、ご注意を。
片想いも両片想いも大好きです。庄鉢とくくきり・きりくく増えろー!(念)






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寝てもさめても忘れぬ君を 焦がれ死なぬは異なものよ
(隆達小歌百首より)



「きり丸」
長い黒髪が誘うように舞って、あの人が笑う。
夢だ、届かないと分かっているのにオレは手を伸ばしてしまう。
兵助先輩。
「ごめんな」
やめて。嫌だ、置いて行かないで。
「さようなら、きり丸。もう会うこともないよ」
もう、独りは嫌だ。

自分の泣き声で、目が覚めた。枕が濡れている。オレの涙だ。
(……良かった、夢だ)
乱太郎としんべヱはぐっすり眠っているようだ。
外はぼんやりとした光に包まれていた。最近ずっと、この夢ばかりみる。


早々に目が覚めてしまって、庄左ヱ門は朝靄のなか外に出た。ぼんやりと明るくて、緑がやけに鮮やかだ。
(鉢屋先輩が見ていたのも、こんな景色だっただろうか)
今だからこそ分かるのだけど、あの頃大きく見えた彼は、決して体格は良くなかった。むしろ華奢で小柄な人だった。しなやかな身体のあの人を、もしかしたらもう背だけは抜いてしまっているかもしれない。
(…あの人は不破先輩の顔をしているし、今も一緒に居る)
私たちは双忍の術を使う忍だからな。不破雷蔵あるところ鉢屋三郎ありさ!
そう誇らし気に胸を張られてしまえば、庄左ヱ門はもう何も言うことが出来ない。
(不破先輩と双忍と呼ばれるのはあの人の誇りだから)
五年ろ組の名物コンビ、この学園に入学したときにはそう呼ばれていたあの人たちを超える双忍を、庄左ヱ門は見たことがない。
(今までも、そして多分これからも)


あの頃の一年生は、無事五年生に進級した。
お互いの色恋沙汰には踏み込まないことを学んだし、その難しさも知った。ある程度は。
ただどうしても、その相手が先輩か同級以下かで齟齬は生まれる。
いつも近くに居るかどうか。ただそれだけの差は、こんなにも大きい。
級友のどの言葉かは分からない、だけどそれは確実にきり丸の心を抉ったらしかった。
「僕が行くよ」
教室内は放課後だというのに騒然となっている。
床板を踏み抜く勢いで教室を飛び出したきり丸を、庄左ヱ門は追った。あっという間に、教室からは遠ざかり、委員会室の立ち並ぶ一画でようやく追い付いた。
「きり丸」
きり丸は応えない。
「ねぇ、きり丸」
「オレの何が分かるんだよ!放っといて、」
ぎゅう、と庄左ヱ門はきり丸を抱き締めた。
目に入るのは擦り切れた忍び装束。藍色。
(ああ、そうだ)
五年生、あの人の色。これは、鉢屋先輩の装束だ。
「…庄ちゃん、ごめっ」
「きり丸は頑張ってるよ」
きり丸は無神経な発言を悔いた。庄左ヱ門は責めようともせず、ぽんぽんと頭を撫でる。
「届かない人に手を伸ばし続けるのは、苦しいね」
目の前が滲んだ。自分の余裕の無さが恨めしかった。
庄左ヱ門だってそうじゃないか。
(オレは想いが通ったけど、庄左ヱ門は、伝えることだって許されていないのに)
庄左ヱ門の方が背はいくらか低い。耳元で泣きな、と囁く声に誘われるようにして涙が溢れた。


「…オレが一歩進むとさ、兵助先輩は三歩先に進むんだよ。これって無意味じゃないか?いつまで経っても俺があの人に追い付くことって、ないんじゃないかって最近思うんだ」
ここは才能と経験が、色んなことを決める世界だから。
「……庄ちゃんは、何で鉢屋先輩が好きなの」
天才が服を着て歩いているような庄左ヱ門の想い人は、今も多分不破先輩と一緒に居るはずだった。
同じところに就職すると言っていた。場所は教えてもらえず仕舞いで、だけど双忍の術を使う腕利きの忍びがいるのだと、そんな噂は直ぐに流れてくる。
五年生にもなれば色んな城からの誘いもあった。は組から城仕えの忍びは出るか分からないけど。何より庄左ヱ門には、継ぐ家と家族がある。
僕たちは双忍だからねぇ、と目を細めて笑った不破先輩はそれは嬉しそうで誇らし気で、庄左ヱ門に勝ち目はないんじゃないかと勝手に心配したほどだ。
(さすがに本人には言えなかったけど)
ずっと他人の顔をし続けて自分の顔を忘れたり、自分と同じ顔をした他人が傍に居るのを甘受したりできる、あの二人の間に入り込めるとはきり丸には思えない。あの二人はただの仲が良いだけじゃなくて、もっと特別な何かに見える。
「そうだなぁ……ろくでもないことばかりするし、色んな人に迷惑はかけるし、不真面目だし…でもね」
庄左ヱ門は目を伏せて、少しだけ笑った。
「僕の自慢の先輩だよ。優秀で優しい人だ。独りぼっちで寂しがりのあの人の後輩であることを、あの人を想っている自分を、僕は誇りに思っている」
たぶん、庄左ヱ門にとって不破先輩に勝つとか勝たないとか、そんなことはどうでも良いのだ。
(あー、庄ちゃん可愛い)
これで庄左ヱ門の想いを蔑ろにしたら、鉢屋三郎どうしてくれようか。庄左ヱ門の好きな人だからといって容赦はしない。は組全部を敵に回すことになるのだから、それ相応の覚悟はしてもらおう。
庄左ヱ門の笑顔につられるようにして本音が口をついた。
「オレはさ、兵助先輩の、オレが持たない強さが好きだよ。妙に真面目なところも、豆腐が大好きでも変り者でも……一度も文が来なくても」
手を繋ぐのにも一生懸命なあの人が、好きだ。座学よりずっと難しいな、そう言ってオレの手を握って恥ずかしそうに笑った。
オレの大事な人。
「……僕、顔をね、触らせてもらったんだ」
「顔を?」
それはかなり凄いことなんじゃないだろうか。
頑なに素顔を隠し続けて、そのために千の顔を持つとまで言われる人だ。
「見せてはもらえなかったけど、覚えてる」
学級委員長委員会委員長代理、おそらく学園で一番長い肩書きを持つ、は組の頭脳はにっと笑った。
「……庄ちゃんったら、笑い方が鉢屋先輩そっくり」
「ありがと。後輩は先輩に似るからね」
こういうことを何の衒いもなく言ってしまえる庄左ヱ門だから、彦四郎は大変だな、と思う。あいつ素直じゃないし。
庄左ヱ門と彦四郎、二人きりだった学級委員長委員会にも後輩が入った。ちょうど一年生が、あの頃みたいに。
「ま、便りがないのは良い便り、だろう?」
オレは自分を納得させるように笑って頷く。
「返事の紙代もかからないしな!」
訃報が届くくらいなら、もうずっと文なんて来なくて良いと思っている。
そういえば、と庄左ヱ門は丸い目をこちらに向けた。
「今日は図書委員会休みだよね?」
言われて思い出した、今日は能勢委員長不在で休みだ。
「そーいやそうだ」
「そんな次期図書委員長を学級委員長委員会に招待しよう。ちょうど良い時間だし」
庄左ヱ門の手がオレのそれを握った。ぐいと力強く引かれて、あたたかい手に安心した。
庄ちゃんオレをいくつだと思ってんの?同い年、たった十四だろ。
ふざけるように言葉を交わしながら広い敷地内を移動する。
何人かの下級生が「こんにちは黒木先輩!」とか「きりちゃん先輩今日は外出しないんですかぁ」とか、声をかけてくれた。
返事をしながら、ああオレ達もちゃんと年を重ねたな、と安心したりして。
学園長先生の庵には滅多に立ち入らない。用もないし、呼ばれるときは呼ばれるし(しかも大抵面倒事だ)。
手は繋いだままだ。冗談抜きでもこれは結構恥ずかしい。今更だけど。
「庄ちゃん後輩自慢したいだけっしょ?」
ばれたか、庄左ヱ門は笑う。
「……あのね、きり丸。本当は僕も、そのうち会いに来てくれるんじゃないかって期待してる。訃報じゃないなら文も欲しい、一言だって構わないから」
同じだよ、と。繋いだ手に力が込められた。
(庄左ヱ門も、不安なんだ)
忘れられやしないか、知らない間にいなくなってはしまわないか。学園から去ったときのように、今度は永遠に。
「……ありがと」
三年生になった頃からオレは髪を伸ばしていた。オレの髪は、兵助先輩のそれにちょっと似ている。
これは願掛けだ、オレが途中でくじけないための。
「これからもっと強くなろう。もっともっと、あの人に届くくらいに」
そうして、オレを子ども扱いするあの人に胸を張って言おう。
(もうこんなに強いんです、貴方に守ってもらなくても大丈夫なんですよって)
次は、オレ達が守る番だ。
そうして今度はちゃんと伝える。
(どうか、オレの家族になって下さい、って。)
あの人がいなくなってしまわないように、必ず。


これが僕らの恋です

(愚かで滑稽だと貴方は笑うでしょうか?)
(でも、これが僕らの精一杯で、貴方を想う全てです)



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2011/08/09 22:02 | RKRN(小噺)

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