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2024/09/29 11:19 |
水の中でもがくような【庄→鉢+彦→勘】
勘右衛門と彦四郎、三郎と庄左ヱ門のおはなし。
学級の子たちはひたすらゆっくり時間をかけて、お互いに近付いて行くイメージがあります。
五年生二人の方が、きっと往生際は悪い。




拍手[2回]






力強ても叶わぬものは 場所の勝負と恋の闇
(作者不詳)



休みの日だというのに、僕たち学級委員長委員会は庵の周りの清掃を命じられていた。
日が高くなる前に水まきまで終わらせたものの暑さで動けず寝転がっている。
本当は宿題もあるし、予習もしておきたいのだけど。もう少し日が落ちたら動けるだろうか。
「あっついねえ」
網代網の方扇で自分を仰ぎながら、尾浜先輩は床にだれている。上は前掛けだけを残して全部脱いでしまっていた。
確かに暑い。汗がつうと頬を伝って、ぱたりと床に落ちた。
蝉の声が遠くで鳴り、庵は大きな雲の影に覆われる。雲の流れが速い。
「ああ、良い風だ」
鉢屋先輩が喘ぐように言う。ええ、と庄左ヱ門も応えた。
急に暗くなったので、僕の目は景色が映せなくなっている。
「彦四郎?見えないの?」
「はい。あ、でも、大丈夫です」
きっと直に見えます、と応えようとした口は何かで塞がれた。
濡れていて、冷たくて、やわらかい。
「えへへ」
ちょっと冷たいでしょう、と尾浜先輩は楽しそうに言った。
「……余計に、暑いです」
目が見えるようになった僕の前で、嬉しそうに笑った顔が見えて俯いた。
恥ずかしい。
「ね、庄ちゃん」
「結構です。僕は見えていますので」
ぴしゃりと庄左ヱ門が返して、まあつれない!と鉢屋先輩が嘆いた。


受け入れてくれなくてもいい。
幸せそうに笑っていてくれれば。
俺には何もしてくれなくていいんだ。
与えられるのは怖いから。

「尾浜先輩と鉢屋先輩はそっくりです」
庄左ヱ門は目をそらさない。
「僕たちに好きだと、お慕いしていますと、そう言うことさえ許して下さらない」
「僕がそうであるように、彦四郎だっていつまでも守られる存在ではありません」
そんなことは、分かっている。俺も。鉢屋だって。
「……だってね、庄左。それはとっても怖いことだよ」
尾浜先輩、と小さな少年は泣きそうな顔をする。
期待するのが怖くて、助けてを言えない鉢屋と、受け入れられるのが怖くて、与えられるのを拒む俺は、確かに似ている。
「でもありがとう。庄左はあいつを助けてやってね」
鉢屋は庄左が手を伸ばしたらきっと救われるよ。
それがたぶん、決定的な違いだ。


「先輩!」
「彦四郎!はやいなあ」
落ち葉の掃き掃除をする、というのが本日の学級委員長委員会の活動である。
既に箒を手にした尾浜は「集め終わったら焼き芋をしようねぇ」と言った。
楽しそうに鼻歌を歌いながら落ち葉を集める。
「僕もやります!」
「おー!鉢屋と庄左には食堂の周りをしてもらってるから、帰りに芋が来るよー」
食堂のおばちゃんに掛け合ったんだ、と嬉しそうに言う。

一刻ほどだろうか、一心不乱に落ち葉を集めているうちにいつの間にか辺りが暗くなっていることに気付いた。
「彦四郎、休憩しよう。あーこんなに冷たくなっちゃって、気付かなくてごめんね」
大きな手が僕のそれを包み込んだ。
尾浜先輩が屈みこみ、温かな息が僕の手を温める。
「…ありがとうございます」
何となく嬉しくて、僕はふにゃりと笑う。
「尾浜先輩、彦四郎!」
庄左ヱ門が食堂からそのまま走って来たのか、慌ただしく合流した。
その後ろから、襟巻を巻いた鉢屋先輩が芋を抱えて現れる。
「落ち葉の集まりはどうだ?」
「上々。彦四郎が頑張ってくれたからね」
寒いねぇ、と庄左ヱ門と体を寄せ合うと襟巻が僕たちを包んだ。鉢屋先輩のものだ。
「ありがとうございます、鉢屋先輩」
ぐるぐるに尾浜先輩が巻いてくれた。
「おい勘右衛門、妙な結び方は自分の襟巻でやれ」
「俺自分の忘れちゃったんだもん。鉢屋は二枚巻いてるしいいだろー?」
そうだ俺も入れてよ、お前なんて願い下げだ、鉢屋のケチ、誰がケチだこのばかんえもん!
頭上で言い合いをしている先輩方を見上げて、庄左ヱ門と顔を見合わせて笑った。
巻いて貰った藍色の襟巻がとても暖かくて、冬の匂いを胸一杯に吸い込んだ。

「美味しい焼き芋の作り方を伝授しよう」
鉢屋先輩が仰々しく言って、集めた落ち葉の周りに座る。
「まずは綺麗に洗って乾燥させた石を並べて、火を起こす。石をしっかり熱してから落ち葉を被せて、芋、更に落ち葉を重ねる」
手際良く石が並べられ、火が付けられる。じんわりと暖かさが広がった。
「いかに石を熱くできるかが勝負どころだな。何事も最初が肝心だ」
炎がちらちらと揺れて、皆の顔を照らし出した。
最初が肝心。何事も。
「尾浜先輩、僕」
言葉は自然に口をついて出た。
「先輩のことが大好きです」
尾浜先輩は一瞬言葉を失って、「俺も大好きだよ」と笑った。
ああ、またこの笑顔だ。
(僕は今、貴方に何もしてあげられないけど)
いつか、与えられたのと同じだけ、何万回ものありがとうと大好きを、言わせて下さい。


「鉢屋が余計なこと言うから!!」
耳に突き刺さるような矢羽根に笑う。
「先日のお前の言葉を今のお前にそっくりそのまま返してやるが」
同輩の顔が赤いのは炎の前に居るからだけではない。
「身を任せるのも悪くないぞ」


水の中でもがくような

(こんなみっともない恋があってよいものか!)


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2011/08/25 19:31 | RKRN(小噺)

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