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2024/09/29 11:15 |
君に あげるよ【庄鉢庄】
(嘘だ 本当は彼と生きる理由が欲しいのだ)

庄鉢庄は幾度も嘘を重ねて守り続けた、触れたら壊れてしまいそうな恋をしています。庄鉢にとっては、それが初恋だったのかもしれません。 http://shindanmaker.com/70105






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可愛いお方に謎かけられて 解かざなるまい 繻子の帯
(作者不詳)



「命は神様に返さなくてはならないのでしょうか」
僕は指先でつまんで饅頭を口に含んだ。
先輩のお使い土産だ。大事なものだから、まずは一口だけ。
「さあどうだろう。庄左は返すのかい?」
鉢屋先輩の応えに僕は片眉を上げる。
「神様が居られるのなら僕から奪うのではないでしょうか」
「居なかったら?」
「分かりません。……先輩はいかがですか?」
彼はそうだなぁと独り言ちた。
「神様なんて知らない人には渡したくないな」
人じゃないでしょう、僕はツッコんでから抹茶を啜る。だって神様だ。
だから、と先輩は淡白に続けた。
「君に、あげるよ。庄ちゃん」
鉢屋先輩は僕に笑う。
「……要りません」
この人は嘘吐きだ。
(悲しいくせに、寂しがり屋のくせに、そのくせ人一倍優し過ぎて傷付くことよりも傷付けることを何よりも恐れているくせに)
いつも貴方は自分以外の誰かを護って死のうとする。
僕よりも大事な人が、たくさん居るのに。
「えぇ?受け取ってよ。だって、君が死んだら私は生きていけないからさ」
そう言うと鉢屋先輩はまた笑った。
「欲しく、ないです」
笑えない冗談だ。
(貴方を失っても僕は平気だろう、と仰るのか)
よく見れば彼は苦しそうに顔を歪め、うっすらと瞳が濡れている。
今まで見たこともないくらいに真剣な眼差しに、笑うことすら躊躇わせるこの人の瞳は真っ直ぐに僕だけを映し続けている。真摯で酷薄な眼。
凛と張り詰めた空気は気付けば重苦しい沈黙に変わっていた。唇が微かに震えて、其の次に続くであろう言葉を想像し再び訪れる沈黙。
「死ぬな」と或いは「生きろ」と僕に願おうとして、貴方は躊躇い言葉を飲み込んだのだと思った。それが貴方の優しさで卑怯さだと思った。
僕は愚かな勘違いをしていた。


君に あげるよ

(君が一緒に居てくれるなら、私は命なんてなくてもいい。)
(君にだったら、殺されてもいいよ)


愛しています、と少年は言った。大きくなった庄左ヱ門は私より少し背が高い。
こみ上げる何かを喉の奥で殺し、騙されるな、と声を絞り出した。
「君ともあろう者が、こんな偽りだけで出来た男に騙されるな」
それは彼の言葉と同義だった。
幼いこの子を煙に巻き、真意が分からないようにして。一緒に居てくれるなら、本当に命なんて要らないと思っていた。殺されてもいいのだと本気で思っていた。
「貴方の為なら死んでもいい」
静かな声が耳を打つ。伝わってしまうのが、私はずっとずっと恐ろしかった。
死んでもいいという言葉の、なんと恐ろしいことか!一緒に死んでくれたらと願った私の、なんと愚かしいことか。
「どうか僕に、貴方の本当の言葉を教えて下さい」
息がうまく出来ない。私の言葉が、きっとこの子を殺す。ただ一言、それだけで。
「……たすけて、くるしい。きみがほしい」
吐き出してしまうとあまりに呆気なく、私の砦は崩れ去った。

「……逃げないでくださいね」
やっと言ってもらえた言葉を反芻しながら、僕は鉢屋先輩を抱きしめている。
もう離さない、絶対に。それで僕が死んだって。
この人は言ってしまったことを後悔しているかもしれないけど、僕は嬉しかった。一緒に居て欲しいって、僕が欲しいって、言ってもらえたこと。ずっと知りたかった。
「大丈夫、逃げない」
低く確かな声だった。落ち着き払っているように見えるのに、彼の手は震えている。
僕が見ているのに気付いて、小さく咳払いをした。
「……言っておくけど、これは武者震いであって」
「分かっています。でもちょっと、安心しました」
震える指先を握った僕のそれも、震えていた。
殺すのは嫌だけど、殺されるのは構わない。この人の為なら死ぬのだって怖くない。
「貴方が何でも出来るのは存じ上げていますけど、少し怖くて」
叶うなら、ずっと一緒に生きていたい。生きるのが下手なこの人と。
「……好きな子が慕ってくれていて結ばれようってときに怖くない奴は居ないよ」
房中術もそりゃあ優を貰ったが、と付け加えるところが矜持の高い彼らしくて僕は思わず笑った。
「大好きです、三郎先輩」
「……そこは名前を呼ぶところだけど、まあ、及第点をあげよう」


(君と一緒に居ると、どんなに暗い水の底でも、息ができるんだ。生きているのが嬉しいって思えるんだ。)





※謎=1.なぞなぞ 2.物事をそれとなくわからせるように言うこと。この場合の繻子の帯は腰帯、です。

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2011/10/30 00:06 | RKRN(小噺)

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