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2024/09/29 11:19 |
泣き虫ピエロの嘘【尾鉢尾】

お帰り。

診断でこのように※出まして。尾鉢なのか鉢尾なのか、微妙なところです。お好きな方でお読み下さい。
現代パロディになります。

※ねー小町、退屈と落胆に慣れ過ぎた帰国子女と嫌味で心配性で粘着質な幼馴染みとの優しい嘘の物語書いてー。http://shindanmaker.com/151526t.co/cVe0zch



 

拍手[2回]


随分と遅いご到着じゃないか。
「相変わらず嫌味だよなぁ」
惚れ惚れするような幼馴染みの英語に、俺は思わず日本語で返した。当然と言いたげに鉢屋三郎は肩を竦める。
「久しぶり、鉢屋」
「お前こそ、相変わらず能天気そうな顔をしてるな」
俺が行った学内の交換留学生枠は、本来なら学年主席の鉢屋に与えられるものだった。それを雷蔵が行かないのにどうして私がと宣って蹴った男である。旅行券じゃないんだぞ、とこれは竹谷の言葉。
そこで、兵助より英語だけは得意な俺に白羽の矢が立った。初等部まで海外にいたんだから、喋れない方がおかしい。海外在住の方が長い人生だ。
「元気そーだね」
「皆元気だ。お前は大体、連絡が遅い」
「ごめんってば」
そういえばメールが来ていた。こっそり飛行機の中で携帯を開いて、そこから記憶がない。すぐに帰るからと思ってそのまま寝てしまったのだろうか。あり得る。
「帰って来ないかと思っただろう」
「鉢屋は心配性過ぎるよ」
会った頃からそうだけど。
カートを引っ張って学校に顔を出そうと思っていたのだから、それくらいは許して欲しい。そもそも機内は携帯電話禁止なのだ。
「……あれ、俺、荷物どこに置いた?」
もう学校にいるっていうのに、俺はスーツケースを持っていない。
「預けたんだろう」
「そうだっけ」
鉢屋は答えずさっさと歩きだした。


何せ初等部から大学までの一貫校だ。
俺はいつだって退屈していて、それでいて欲しいものは手に入った試しがなかった。その筆頭に自分があがるなんてこと、多分鉢屋は考えてすらいない。
期待と落胆の繰り返しに、俺はこの数年ですっかり疲れてしまった。それと同時に慣れてもいった。交換留学をのんだのはそのせいでもある。
誰にでも適度に愛想が良くノリの良い鉢屋は、昔からモテた。
こいつは男子の悪ふざけにも、女子の話題にも完璧に対応出来るし、誕生日ともなれば山のようなプレゼントを受け取る。
こんなに嫌味な奴なのに、と俺はいつも思っていた。俺だけのものじゃない、人気者の鉢屋。
「誕生日おめでとう、鉢屋君!」
そんな風に生徒会室の前でもプレゼントを受け取ったの、俺が知らないと思っているんだろうか。
(……あれ)
そういえば先生方に挨拶に行ったっけ。頭の中にぼんやり霞がかかった感じがする。
それになんだか中等部の頃の生徒会室みたいだ。黒木と今福はどこだろう。聞いてみなくちゃ。
「今日は生徒会ないだろ」
プレゼントを抱えて入って来た鉢屋に頬杖をついて指摘すると「教室で開けるとハチが五月蝿いんだ」と宣った。左様ですか。
鉢屋は持ち込んだプレゼントの仕分けを始める。基準は食べ物か、そして手作りか否か。
「せっかく貰ったんだから、大事にすれば」
鉢屋が必要ないと判断したものはそれはもう無造作に、何の躊躇もなく捨てられる。教室でやったら間違いなく阿鼻叫喚、鉢屋は明日まで生きていないかも知れない。
長くはないけど短くもない付き合いの中で何度か見た光景だ。きっとこいつは大昔からそうだったんだろうな、と想像してみたりして。
「物は困るだろ」
鉢屋はプレゼントの包装紙をくるくる丸めた。
「誰かから貰った要らない物を、大事に出来ないのに捨てられないなんて。そんな風に扱う方が失礼じゃないか」
そうだろうか。でも、俺のあげたモノを鉢屋が捨てたことはなくて。
(だから少しだけ、期待してしまう)
そうやって俺はいつも懲りずに落ち込むのだ。
鉢屋は別の箱を開け、包装紙を破り、選別する。
「お菓子だ。食べるか勘右衛門?開けてしまおう」
返事をする前に袋は破られた。何れにしろ、手作りのものは俺が食べることになるから構わないけど。
「……で、お前は何かくれないのか?」
鉢屋はゴミ箱にプレゼントの箱ごと投げ捨てならがら尋ねる。
「何で俺が?」
俺は吐き捨てるように応えた。
不破からの腕時計、竹谷からのタオル、兵助からの豆腐キャラキーホルダー。俺からは髪留め。去年無事だったプレゼント一覧。
今鉢屋の身に付けているほとんどは、俺たちが選んだものだ。
プレゼントを平気で投げ捨てる鉢屋が捨てないでいた、それだけで十分特別だ。
(それ以上のことを望むのは馬鹿だろ、尾浜勘右衛門)
鉢屋の特別はいつだって不破なんだから。また期待して落ち込む必要は、ない。
「何かくれたって良いだろう、減るものじゃなし」
「明らかに俺のお金が減るんだけど」
どうせ渡すなら良いものをあげたい。だから断じて妥協は出来ない。
せっかく手元に残してもらえたのにすぐボロボロになってお役御免なんてあんまりじゃないか。まるで俺が抱え込んだ気持ちみたいだ、可哀想に!
「気持ちはどうだ」
お菓子を食べるか、と勧めるのと同じ調子で鉢屋は言った。
「……どういう意味?」
「そのままの意味だが」
気持ちをくれ、と。
三白眼は俺を睨むようにみている。期待しないように慎重に言葉を選ぶ。
「何だか遠回しな告白みたいなこと、言うね?」
「……お前のことは好きじゃない」
それは、知ってる。俺の欲しいものはいつだって他の誰かの一番なのだ。
「俺は好きだけどさ」
俺の言葉に鉢屋が立ち上がり、乱暴に俺の胸ぐらを掴んだ……と、思った。
鉢屋の手は空を切った。
あれ、何で。今確かに。
「……誰かを信じたことなんてないくせに。お前、心の底から気持ちを伝えたことはあるか。好きだと、面と向かってきちんと言ったことがあったか」
鉢屋は泣いていた。両腕を力なく垂らして、小さな子供みたいに涙を零していた。
頬を伝う涙を拭おうと伸ばした俺の指は、鉢屋を通り抜けた。触れられなかった。
嗚咽の混じった声で、鉢屋が言う。
「何も言わないで居なくなったくせに、偉そうなことを言うな。ばかんえもん」
ああそうか。
「……そっか、俺、死んだんだ」

飛行機事故だった。
機体が揺れ悲鳴や泣き声が響くなか、俺は携帯の電源を入れた。何をするか一切迷わず、受信したメールに返信する。「連絡が遅い!早く帰って来い」なんて、鉢屋らしくもない。いや、らしいんだろうか。
会いたかった。誕生日までに帰ってやろうと意気込んでいたのに。
「ごめんね鉢屋、帰るのお盆になっちゃいそう」
打ち込んで推敲せずそのまま送信した。
この期に及んで何も言えない自分が情けなくて少し笑えた。
(恋をするって、格好悪いな)
このメールを見た鉢屋はきっと怒るだろう。なんて奴だって怒って、そのまま忘れてくれるといい。俺のことで泣かないと、いいな。

そして気付いたとき、俺は鉢屋の目の前に立っていたのだ。

周りの景色も歪んでしまって、どこなのか判別もつかない。妙に暖かな空間だ。安心する。
「もう一度生きていいと言われたら、私を信じて、気持ちを伝える気はあるか?」
鉢屋はいつの間にか泣き止んでいて、琥珀色の目で俺を見つめる。
俺はまた期待した。落胆に慣れることなんて本当はなかった。
「……うん」
俺はたった十数年の人生で、何を分かった気になっていたんだろう。怖かっただけじゃないか。拒絶されたらと足が竦んだだけじゃないのか。
「お前は考えが足りないから分からなかったのだろうがな」
「相変わらず嫌味な奴だなぁ」
もうすぐ人が居なくなるっていうのに。
「約束するよ。もう一度お前と一緒に生きていいって言われたら、お前とまた会えたら、絶対に言う。好きだって。愛してるんだって」
鉢屋は目を丸くする。
「ね、そしたら許してくれる?」
「……考えてやる。お前が次の生に必ずと約束するなら。あのふざけた文面も忘れてやっていい」
ああ、やっぱり怒ってたんだ。当然か。最後に送ったメールが好きな人宛てで、しかもブラックジョークなんて俺らしいと思ったんだけど。
(でも、ゆっくり訪れるこれが死なら、悪くないね)


泣き虫ピエロの嘘


真っ白な病室だった。消毒液の匂いが鼻を刺激する。俺はベッドの上にいた。誰かが俺の手を握り締めている。天国に着いたから天使に連れられて行くんだろうか。
隣でごほん、と天使が咳払いをする。
「……以上、ぜーんぶ、鉢屋三郎でした」
どうだ勘右衛門、と幼馴染みは唇の端を吊り上げてにやりと笑う。
「ちゃんとお前が次の生まで行けるか心配だから、今生も私が一緒に居てやろう。何たってお前は、心だけどこかに置き忘れるような奴だし」
「鉢屋」
喉から出たのはざらざらした音だった。
俺は、生きている。
鉢屋は泣いたのか目は真っ赤に腫れて、顔色がほとんどない。身体中痛いし動かないけど、鉢屋の方がよっぽど不健康に見えた。
「……さて、約束だったな。まずは名字呼びを禁止する」
私だけ好きみたいで悔しいだろう、と鉢屋は、三郎は綺麗に笑う。
もう何も気にせず期待することにした。俺が生きていくって期待して落ち込んで、それでも続くそんなことだ。
廊下から「迷って結局二つ共買って来ちゃった」、「皆で食べればいいさ」と話し声が響く。
皆居る。兵助も、竹谷も、不破も。ああ名字呼びは禁止なんだっけ。
「どうだ勘右衛門、私の存在はお前の未練になったか?」
悪戯が成功したみたいな顔をして。
うん、そりゃあもう完璧に騙された。死んだと思ったもんね。
「……さすが三郎、とんでもない退屈しのぎだよ」
まだ声が出ない俺の唇を読んで、三郎は声を上げて笑った。
今回は俺の負け!



(退屈と落胆に慣れ過ぎた帰国子女と嫌味で心配性で粘着質な幼馴染みとの優しい嘘の物語)

 
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2011/10/23 00:41 | RKRN(小噺)

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