※一年後、忍術学園は襲撃に遭い、既に壊滅している。実はエンドレスループ。
昔言われた言葉を大事に抱え込んで夢のなかを生きている勘ちゃんと、彼の作った世界に気付いた利吉さんの話し。少しだけきり丸と雷蔵の話しも。
ひとまず書きたいところだけダイジェストで。庄ちゃんと鉢屋の話しも……書きたかったり。
焼け崩れた建物、生き物の焼ける臭い。
地下の隠し部屋で、下級生は皆致死量の毒を飲まされていた。眠るように死ねる毒。いつも騒がしい二年は組が静寂に包まれている。
もはや勝機なしと、先生方は考えてたのだ。戦況は僕たちの目にも明らかだった。生きているより辛いことが、この乱世にはある。
鮮やかな浅葱色の装束が累々と倒れていた。
ああ、この子は兵助のところの子か。金糸色の髪をした五年生は彼を抱き締めて事切れている。
そんな中、動く影が一つだけあった。
見覚えのある姿に思わず駆け寄る。
「きり丸!」
乾いた小さな唇が言葉を紡ぐ。
「……おれ、また独り、残っちゃったの、かな」
きり丸の目が彷徨って、ようやく僕の姿を映した。
苦無を振り上げた僕を。
「ふわ、せんぱい。おれ、を、みんなといっしょ、おくってくれるんすね?」
言葉は途切れとぎれで、それでも嬉しそうに歯を見せてきり丸は笑った。
こんどは、おれ、ひとりじゃないんですね?
「独りじゃないよ」
君が此処に来てから独りだったことなんて、ありはしないのだ。乱太郎としんべヱがきり丸の手を決して離すまいと握っていた。
君が生きてきたのはたった十一年。これから楽しいことも嬉しいことも、君が感じてきた悲しみよりもっとたくさんあったはずなんだ。
(だからせめて、苦しまないように僕が、送るね)
新しい学年になる前に時間が巻き戻って、俺達はこの時に留まり続けている。
「…以上、ぜーんぶ鉢屋三郎でした」
「ごめんね、でも、三郎の居ない世界なんて僕には耐えられない」
「勘右衛門だけ残っちまうなぁ」
「勘ちゃん、泣き虫なのに」
鉢屋は俺たちを庇って死なない。だから雷蔵も後を追うように逝き急がないし、兵助もハチもいなくならない。俺だけが生き残って独りぼっちになることも、ない。
あの日、俺は大切な人達を一人残らず失った。
失った者は、もう二度と手に入れることも、取り戻すことも、出来ない。
それでも俺は生きている。
湧き上がる思いを握り潰して、気付かない振りをしながら。
そうしないと、生きていける訳がない。
だから、どうか、
『勘右衛門』
俺を殺さないで
『生きろ』
俺が、大切に握り締めていた想いを
「どうして、」
暴かないで。
「俺だけ」
どうして俺だけ生きている?
どうしてあの時死ななかった?
生きる俺を待っていたのは、戻らない者に対する絶望と、罪悪感だ。
『大丈夫。勘ちゃんは何も悪くない。死んだ奴等に悪いなんて、生きてるから思うんだよ』
だから、君は生きていていい。
ああ、こんな未来なんて要らなかった!
何回目かの春が来た。
俺たちは先へ進まず、ずっと巡り続けている。これは輪廻と同じことなのだ。
「どうした、勘右衛門」
群青色の制服を着た鉢屋がこちらを振り返った。
「何でもないよ」
俺だけが知っている。俺だけが知っていればいい。
こいつは天才だから、気付いたらこの停滞を解いてしまうかも知れない。俺が泣きながら掻き集めた世界を、壊してしまうかも知れない。
そんなの俺には耐えられない。
「君たちは、いつ来ても楽しそうだな」
年を取らない子ども達は幸せそうに笑う。
いらっしゃい利吉さん。今日も山田先生にご用事ですか?終わったら僕たちと遊んで下さい!
この場所に立ち入るときだけは、私はあの頃の自分に戻れる。たった十八歳、自分には何でも出来ると信じていた。何も出来なかったくせに。
こんなにも優しく、閉塞的で、空虚な空間を、私は他に知らない。
ありがとう
笑ってくれて泣いてくれて怒ってくれて願ってくれて祈ってくれて傍にいてくれて
温もりをくれて繋いだ手を握り返してくれて守ってくれて守らせてくれて背中を預けてくれて
俺の名を呼んでくれて愛してくれて愛することを愛しさを教えてくれて
君に出逢えて出逢わせてくれて
ありがとう ありがとう
幸せに恋する