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2024/09/29 09:20 |
愛し愛されること【成長黒木兄弟で庄鉢】

庄二郎がみる、大人になった庄ちゃんと三郎のおはなし。

鉢屋の日ですね!テスト期間真っ最中なう…!
題字より下は、庄二郎がいないときの二人の会話、ほんのりいすタカ風味。
誰も書いてくれないので自分で書く暴挙に出ました(二回目)。





拍手[4回]




惚れて惚れられなお惚れ増して これより惚れよが あるものか
(作者不詳)


いつからお慕いしているの?と弟が無邪気に尋ねた。
私が忍たまで、一年生だった頃からずっとだよ。
彼の人の、擦り切れた群青の装束を纏って庄左ヱ門は答えた。
もうずっと。
(貴方と一緒にただひとつの熱になって、このまま消えてしまえたらとずっと考えていた。ずっとずっと願っていた。叶わないことだから。)


兄さんの客人は、空から降ってくる。
それは決して比喩ではなく、もっと正確にいうなら、天井裏から。重さなんて感じさせない動きで畳の上に降りてくる。
「鉢屋さん」
毎回突然だ。だけど決まって僕の居るときだから、案外上から見計らっているのかもしれない。
加えて父さんも母さんもいないとき、というのが正しい。おじいちゃんと鉢屋さんは結構仲が良いのだけど。
立ち上がるとたっぷりとした鳶色の髪が揺れる。
「やあ庄二郎、元気そうだね」
そうやって平然と笑うから、僕も思わずいらっしゃいませ、お茶をお持ちしますね、と応えてしまう。
「庄左ヱ門といい庄二郎といい冷静だから、私は忍者のし甲斐がないよ」
悪戯っぽく唇を尖らせて、お構いなく、といつものように言う。
忍者って人を驚かせるのが仕事だっただろうか。忍たまの友には書いていなかったけど。
お茶をいれて、部屋に戻る。手持ち無沙汰な様子であぐらをかいて彼は座っていた。
真っ黒な忍装束を着たこの人は兄さんよりも幾つか年上の、僕の先輩だという。
あの人はそれは凄い忍なんだよ。
兄さんはそう言うけど、僕にはよく分からない。
学園で山田先生に尋ねたらちょっと困った顔をして、優秀な忍だ、と答えてくれた。真似をしろとは言わないが、とも言われたけど。
土井先生はお願いだから真似はするな、って半分泣いていた。庄左ヱ門はあいつの薫陶を受けすぎだ。優秀なのは違いないんだが。
「お茶請けに羊羹があるんです」
兄さんが帰って来るまではまだ間があった。お得意先に挨拶に行っているのだ。
「じゃあ庄二郎も一緒に食べていよう」
見透かしたように言われて、少し頬が熱くなる。兄さんがそろそろだからそのときは一緒に食べよう、と買って来てくれたものだ。
そろそろというのは、この人の来る時宜のことだけど。
「…いただきます」
しばしの沈黙があった。お茶を飲み、羊羮に手を伸ばす。甘くて美味しい。
「学園は楽しい?」
「はい!あ、山本シナ先生が宜しくと仰っておられました」
あの人がわざわざ忍たまに?と彼は目を丸くする。
「僕がお話を伺いに行ったので」
羊羮をもう一切れすすめながら応える。
「ふうん、何か相談かい?何なら休みに入ってから私に言ってくれても良いのに」
僕ももう一切れ食べることにする。残りは兄さんと一緒に食べる分だ。
「それもそうですね。ご自分を凄い忍者だと思われますか?」
「…本人に聞いちゃうの?」
一瞬間が空いて、彼は失笑した。
「良い考えだと思ったのですけど…すみません」
「…そうありたいとは思っているけどね。なかなかどうして難しいものだ。庄左ヱ門の方がうんと凄い忍びだよ」
あの人はそれは凄い忍びなんだよ。兄さんの言葉がよみがえる。
「兄さんも、同じことを」
へぇ、本当に?と彼は相好を崩した。
(あ、可愛い)
二人のときに兄さんの話をすると、この人はよくこんな風に笑う。珍しいのと、見たらいけないものを見てしまったような気がするのとで、本人に言ったことはない。兄さんにも。
がらりと戸の開く音。
「ただいま戻りました」
精悍な声が響いて、僕は兄さんの帰宅を知る。
「お帰りなさい!」
「ただいま、庄二郎」
兄さんは腰辺りに抱き付いた僕に笑顔で答え、かの人に言う。慈しむような柔らかい声音で。
「お帰りなさい、鉢屋先輩」
「…それは私の台詞なんだが」
「ご無事で何よりです」
「あーもーただいま!…お帰り、庄左」
「はい、ただいま戻りました」
僕が気付いたときには(兄さんがまだ忍術学園の生徒だった頃からだと思う)、既に繰り返されているやり取りだ。
お帰りなさい、と鉢屋さんに言うのは兄さんの仕事なので、僕は言わない。
まろうどさん、という名前なのだと信じていたこともある。内緒だけど。

鉢屋さんと、兄さんと一緒に居るのは楽しい。
僕は二人の話を聞いているのが好きなのだけど、二人は話を聞かせて、と笑う。あの学園の話を。
だから僕はたくさん話をする。
試験で褒められたこと、食堂のおばちゃんの料理が美味しいこと、先生方がすぐに黒木庄左ヱ門の弟だと気付くこと。学園長先生の無理難題のことも。
「懐かしいねぇ庄ちゃん?」
くすくす笑いながら呼ばれたそれは、僕のあだ名でもある。
「え」
鉢屋さんはいつも、兄さんのことを庄左と呼ぶ。
話すのをやめた僕を見て兄さんが助け船を出してくれた。
「庄二郎が困っています、鉢屋先輩」
「やっぱり庄二郎もそう呼ばれている?」
はい、と正直に頷く。
「庄二郎くらいのとき、庄左も小さくってね。組の子等から庄ちゃんって呼ばれてそりゃあかわいらしかったよ」
目の前で顔を覆い隠すと、彼の顔はパッと僕の顔に変わった。
(凄い!)
学園に居ても変装を間近で見る機会は、あまりない。
山本シナ先生はくのたまの担任だし、山田先生は……うん。
「やめてください」
兄さんが呆れた声で言う。
「今は可愛くなくてすみません」
鉢屋さんはするりと顔を戻した。それも一瞬だ。そして悪戯っぽくクスクスと笑う。
「妬いたら嫌だよ、庄ちゃん?」
「妬きませんよ、鉢屋先輩」
「あ、お茶、いれてきます」
湯呑みは直に空になりそうだった。急須ごと持って来ようか。
「ありがとう庄次郎」
「いいえ」
席を立って、部屋の外に出る。
(……戻ったら話そう)
嬉しくなって笑ってしまう。
休みに入る前、委員会決めがあった。他の皆はまだ体験のようなものだけど、僕だけは決まった。
学級委員長委員会だ。
「庄二郎の兄上は学級委員長委員会の委員長だったんだろ?かっこいいな!」
うん、と僕は正直に頷いた。
兄さんのことを褒められるのは嬉しい。もしかしたら自分のことよりも。
「数えで十上なんだっけ」
「そう、四年前に卒業してるよ」
あ、と級友は目を輝かせた。凄いことを閃いたって顔をして。
「そしたらあの人と在学期間被ってるんじゃねぇ?」
「誰と?」
僕は首を傾げる。
「天才で」
「変装名人」
二人が目配せを仕合って声を合わせた。
「「鉢屋三郎!」」
おぉ、確かに、と周りが賛同する。僕はと言えば固まっていた。はちやさぶろう。
「千の顔を持ってるって忍たまだった頃から有名だったんだぜ。知らないの?」
「いや、そんなに有名な人だとは思わなくて」
頭の中で言葉がぐるぐる回る。
だって、兄さんの休みの度にうちに来ていたし。僕がいない今も多分来ているし。
鉢屋さんの下の名前、三郎だ。
皆が知っているような有名な人だったなんて知らなかった。
同室の友人は庄二郎らしい、と言って笑う。
「庄二郎の兄上も変装術お得意なんだよね。山田先生が仰ってた」
「学級委員長は皆そうなの?」
じゃあ庄二郎もきっと得意になるな、とか、文化祭に来てくれればいいのにとか、皆ざわざわと話し出した。
僕は知らないことの方がうんと多い。家に帰るまでに先生方に話しを聞こうと勝手に決めた。
(あ、でも。あの人が笑うと可愛らしいこととか、きっと皆は知らない)
鉢屋さんが兄さんと二人のとき、低くて優しい声で話すことも。
耳を塞いで聞かないようにしないと、こちらの顔が熱くなってしまうような甘い声で。
部屋の前で僕は立ち止まった。急須をお盆に乗せたまま。
「庄ちゃんさっきの気にしてる?」
「いいえ」
兄さんも、だけど。
「本当に?」
「本当です。まあ、強いて言うなら。貴方は昔からずっと、今も可愛いですよ」
三郎、と兄さんの声が耳朶を打つ。
一瞬の間と、鉢屋さんの咳払い。
「…庄左、今のは反則だと思います」
「貴方が庄二郎をからかうからでしょう」
いつからこんなに可愛くなくなったんだろう、と憤慨する声に昔からこうですよ、と兄さんが返した。

「火を起こして来ましょうか」
お客様も居ますしね、と兄さんは立ち上がる。
ありがたいなと鉢屋さんは答えて僕を見た。
「私とお風呂に入る、庄二郎?」
「はい!」
僕はぴょこんと立ち上がった。
「おや。私とは入って下さらないんですか」
兄さんが笑いを含んだ声で言う。
「大人の庄ちゃんとは入らないのー」
鉢屋さんは楽しそうに返して、僕の背中を押す。
「さ、用意しておいで」

広い背中に、深い傷のあと。いたるところに、まだ生々しいものもいくつか。不思議と指だけは滑らかなままだ。
学園の先輩の誰よりも大人で、先生方よりはずっと若い。兄さんみたいな、ひと。
「……怖いかい?」
僕の視線に気付いた鉢屋さんは振り返って尋ねる。
「いいえ。きれいだな、と思って」
正直に答えると頭を撫でられた。
「ふふ、おかしな子」
綺麗な色の瞳を細めて、鉢屋さんは笑う。
「本当です」
「嘘は吐かないって知ってるよ。おいで、髪を洗ってあげる」
結わえた髪のない鉢屋さんは(あの尻尾は取り外し出来るのだ)、随分と小さく見えた。

普段はおじいちゃんと兄さんと、三人一緒に寝るのだけど(おじいちゃん一人なんて可哀そうだもの)、鉢屋さんは来たとき必ず兄さんの部屋に泊まる。僕はおじいちゃんと二人で寝ることになる。だから、ぎりぎりまで兄さんの部屋にいる。毎回だ。
「文化祭に、来てくれたら良いのにって、皆言ってて…」
意識が、ストンと落ちた。ああもっと話したいのに。
鉢屋さんが来た夜は不思議と深く眠ってしまう。でもこれも、いつものことで。
朝起きて兄さんの部屋に行くと誰もいない、ぽっかり空いた空間があった。布団も綺麗に片付けられている。
帳簿をつけている兄さんのところに行って、おはようございますと挨拶をする。
「おはよう、庄二郎」
兄さんと一緒じゃないってことは行ってしまわれたんだ。
「お仕事に?」
兄さんが頷いた。
「庄二郎が休みの間にもう一度必ず来るって。言付けだ」
寝間着のまま背中合わせに座る。
兄さんは早く着替えなさいとも、ご飯にしようかとも言わなかった。
「……ずっと此処に居られたら良いのに」
言葉を吐き出すと何だか泣きたくて、膝を抱え込んで丸くなった。
「うん」
兄さんは肯定も否定もせず、ただ頷いてくれた。
縛ってでも繋ぎとめておけたら良いんだけどね、と兄さんは囁いた。そんな柄じゃないんだ、あの人も私も。
「一年生のときからずっとって、兄さんいつか言ってたでしょう。あれ、よく分かった」
あの人が兄さんのことをずっと守ってくれて、兄さんは追い付きたくて頑張ったこと。
「本当に?でも、いくら庄二郎にだってあの人だけはやれないな。あの人は私の一番だからね」
兄さんは悪戯っぽく笑う。会えないときに鉢屋さんの話をする兄さんはいつだって優しい声で、切ない顔をする。
あの人が無事に、出来るだけ早く戻って来ますように、と僕は神様にお願いした。
皆知らないけど、兄さんは寂しがり屋だから。
兄さんと鉢屋さんを見て、僕もこんな風に人を好きになれたら、といつも思うのだ。


愛し愛されること



自分もこんな風に小さかっただろうか、と弟を見ていつも思う。この人はよく想いを受け入れてくれたなと。
でもそうだ、あの頃のこの人はたった十四で、元服もまだの子どもだった。よく忘れてしまう。
そうやって考えている間にすっかり本来の姿は覆い隠されてしまっていた。
黒い忍び装束にたっぷりとした鳶色の髪。
「庄二郎が休みの間にはもう一度来るからと伝えておいてくれ」
最近では庄二郎も泣かなくなったけど、次はいつ、と問うのは変わらない。
「分かりました。あの、これを。本当は赤が良かったのですけど」
懐から黒い結紐を取り出した。
「目立つといけないので、芯の代わりに赤い糸を使いました」
「庄ちゃんは相変わらず器用だ」
感嘆しながら覗き込む。
確かに自分で編んだものだが、目の前のこの人ほど器用だとは思わない。
「先輩ほどでは。それに伊助の発案ですから」
ふーん、と頷いて「確かにあの人の髪には赤が似合うね」と言い当てた。お見通しだ。
「えぇ」
おひさまの色をした髪、と伊助はよく言う。あんな染料より綺麗な色なんてないよ。
「結わせて頂いても?」
鉢屋先輩は不破先輩に変装し終えているので、鬘を指差す。
卒業してから城仕えをして、何やかんやで今はあちこちを飛び回るこの人は忙しい。
「ん、任せる」
ここにずっと留まってくれないのは悲しいことだけど、戦忍でないだけ良いと僕は思っている。
精巧な鬘に結紐を結ぶ。
この人の執着するものに、僕のそれを。
「おはようおかえり下さい」
もちろん、と先輩は笑った。


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2011/08/08 00:00 | RKRN(小噺)

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