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2024/09/29 09:20 |
終わらない恋になれ【いすタカ+庄鉢】

あの子に任せておけば、大丈夫だね。

後輩と同級生の恋愛に良い感じに振り回される久々知先輩が居ます。
(いい夫婦の日にも、いい夫妻の日にも間に合わなかった、哀れで醜い私のお話しだ…!)というのが書きあげた私の心境です。




 

拍手[6回]



論は無いぞえ惚れたが負けよ どんな無理でも言わしゃんせ
(作者不詳)



「……タカ丸さんと、喧嘩したんだ。お家の予約がいっぱい入っちゃったから帰ってもいい?って言われて。週末、一緒に町に行く約束してたのに」
話しているうちに、止まったはずの涙が溢れてきた。
僕よりお店の方が大事なんでしょう!
僕がそう言うとタカ丸さんは傷付いた目をして、答えなかった。答えて欲しかった。何か言ってくれたら、良かった。
僕はそのまま逃げるように走って、自分の部屋でずっと泣いていた。
庄左ヱ門は委員会から帰って来ると僕を一瞥して、僕が話し出すまで何も聞かないでくれた。
「……喧嘩が出来るのは、その分近しいからだよ」
静かな声でそう言うと、冷静な我らが学級委員長はくるくると巻き物をしまった。
「僕は鉢屋先輩と喧嘩出来たことないもの。だからちょっとだけ、伊助が羨ましいな」
「庄ちゃん…」
ああでも、その通りかも知れない。
タカ丸さんが泣いたり怒ったりするのは想像出来るけど、鉢屋先輩のそれは想像すら出来ないのだ。

「タカ丸さんは僕たちよりうんと大人だから、ちゃんと話せば分かってくれるよ。伊助がどうしてそんなこと言っちゃったかも」
喧嘩は素敵なことだと思う。だって対等に近い証拠だ。
天才でありながら努力を続けるあの人には、きっといつまで経ってもかなわない。僕は天才ですらないのだ。
「次の約束をしたら、帰っておいで、伊助」
「……うん。庄ちゃんありがとう、笑わないでくれて」
だけど、それでも僕は届かない手を伸ばしてあの人を想い続けるだろう。
それなのにどうして僕が伊助を笑えようか。
「当然だよ、伊助が僕を笑ったことがあった?……行ってらっしゃい」
だからせめて、秀才であろう。これ以上あの人から離れないように。


「久々知先輩どうしよう……伊助くん泣いてた?ボクのこと嫌いになっちゃったかなあ」
俺は心底どうでもいい、という顔をしてみせると「俺に聞くな」と斉藤に言った。
「他に相談出来る先輩いないよう!」
斉藤も慣れたもので、素っ気ない返事にもめげない。
「六年生と同い年だろ。俺に委員会のない日の伊助の様子は分からない」
「だって皆忙しそうだし」
「……俺が暇そうだと言いたいのか?」
専ら、豆腐を作るのに忙しい。委員会がない放課後なのだ。
「そうじゃないよ!……兵助くんなら笑わないで聞いてくれるかなって」
一番初めに注意した名字かつ先輩呼び、まで頭から抜け落ちているらしい。いつもの備忘録も見当たらない。
はあ、と俺は作業を諦めて年上の後輩に向き直った。
「結局どうしたいんだ」
「伊助くんにちゃんと謝って……でもお店の手伝いは、させてもらいたいんだ。ボクの大事なことの一つだから、分かってくれてるって勝手に思ってた」
ハサミの練習のために、ぼろぼろになった膝。伊助も知らない訳ではないだろう。あの子の手は染料で荒れていることが多い。休み明けであれば、なおさら。
「伊助くん、まだあんなに小さいのにねえ。寂しいよね」
どうしよう、と斉藤は唇を噛み締める。
「週末は伊助にお前の店に来てもらえばいいじゃないか」
パッと顔を上げた。
「……そっかあ!凄いよ、さすが!」
何にかかるさすがだ、と問えば伊助くんが久々知先輩のこと自慢してたもん、と笑う。
(……それはつまり、さすが伊助くんの先輩、ってことだな)
どうして四年への編入が許可されたのかと思うが、一生懸命なのは確かで。
何なら仲直りの豆腐パーティーをするか、と提案すれば頭を振る。
「それは良いや」
兵助は苦笑した。
「……お前が思ってるより、伊助はずっと大人だよ」
まあいい。二人共大事な後輩なのは違いないのだ。


「タカ丸さん!」
食堂の前で伊助くんに呼び止められる。
きっと此処だと思いました、と嬉しそうにする。ボクも部屋まで会いに行こうと思っていたから、一緒に嬉しくなった。
ボクが何か言う前に、伊助くんがぴょこんと頭を下げた。
「お店はタカ丸さんの大事なものなのに、ごめんなさい。僕、色々考えたんです」
「伊助くん……」
目の端が赤い。やっぱり泣いていたんだろうか。
「タカ丸さんと夫婦になれば良いんじゃないかってひらめいて!」
「えええ?!」
声は裏返ったし、思わず仰け反った。
ぎゅ、小さな手がボクのそれを握る。
「僕のお嫁さんになって下さい」
あまりに真摯な瞳に、ボクは視線を逸らすことさえ出来ない。
「……ボクがお嫁さんになったら、女の子のお嫁さんが来てくれないよ」
「構いません」
「子どもだって出来ないし」
「そんなの、養子を貰えば良いんです」
違いますか。ち、違わない。
ボクが応えると、伊助くんは胸を張る。
「僕はタカ丸さんが好きですから。タカ丸さんが嫌でないなら、僕と添い遂げて下さい。僕にとっては良いこと尽くしです」
名案でしょう、と伊助くんが誇らし気に言う。目の前が滲む。息もうまく出来ない。
「……うん」
ああもう、本当にこの子にはかなわない!


「お前も苦労するな、黒木。俺は斉藤に相談されたよ」
そう肩を竦めた久々知先輩に、笑い掛ける。
「いいえ、僕も迷惑を掛けますから」
一息入れて。
「……鉢屋先輩」
「どうして俺が三郎だと?」
優し気な瞳が不思議そうに細められる。反応はなし。違うのだろうか。
「そうであったらいい、と思って鎌を掛けました。申し訳ありません」
今日は確信があったのに、僕もまだまだだ。
「いや、構わないさ。伊助のことを宜しく頼む」
五年生の先輩方は皆優しい。不破先輩は僕や彦四郎からしょっちゅう間違えられているのに、一度も怒られたことがない。
「はい。精進します」


ぱたぱたと嬉しそうな足音だったからすぐに分かった。仲直りは成功だ。
「夫婦の約束、してきた!」
息を切らして、伊助は僕に報告する。
「さすが、僕の同室で親友だよ、伊助」
庄左ヱ門は伊助を出迎えた。
「僕も負けてられないな」


突然五年い組の長屋にやって来た学園きっての天才は、そのまま座り込んだ。
勘右衛門は留守だ、と言えばお前に用があるのだと三郎は答える。
曰く、勝手に俺の顔を拝借し(いつものことだ)、そしてそれを庄左ヱ門に言い当てられた、と。
「鉢屋先輩のはずなんだけどなーって顔をされた……」
「一年生相手に確信を持って見抜かれたと」
献上品の煎餅をつまむ。こいつの変装はプロでも通用する域のものであり、それは身びいきでも何でもない。
俺の言葉に三郎は丸くなった。
「……私このまま立ち直れない気がする」
「庄左ヱ門に骨抜きにされて?」
「うるさい兵助間違って豆腐の小鉢落として絶望しろ」
ろくでもない呪咀を吐く。
「図星か。何ならさっきのは鉢屋三郎でしたと言って来てやろうか」
俺は全面的に、庄左ヱ門の味方である。
「……豆腐パーティー付き合ってやるから」
「許そう」
……庄左ヱ門なら自分で何とかするはずだ。
というか、三郎は既にあの子の掌中である。



終わらない恋になれ 

 

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2011/11/27 17:09 | RKRN(小噺)

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