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2024/07/06 02:08 |
あの日の僕は信じていたかった【エレベル】
エレンと、ベルトルトと、エレンへの「好き」でできたミニトルトの話し。
●48話迄のネタバレ注意●

運命共同体なライベル風味でエレベルかもしれません。
山奥組はペアリングで宜しくお願いします、読み方はご自由に!
切り捨てた自分に復讐されるベルトルトは愛おしいなあと思いました。



拍手[4回]





エレン、エレン、好き。大好き。
エレン、と僕の形をした生き物が笑う。



例えば 絶望というものに色がついていたのならきっとこんな色彩をしているのだろう
例えば絶望というものに形があったとしたならばきっとこんな造詣をしていたのだろう
例えば絶望というものに温度が存在したのならきっとそれはそれはそれは  それは

(絶望は、正しく君の姿をしている)



◆◆



「ベルトルトは、何を考えてるのかよく分からないけどさ」
少し高い彼の声は屋外だというのによく響いた。分かられていたら困る、とぼんやり思う。例えば、僕が巨人であること。君のお母さんや大事な人たちを殺したのは僕であること。これからもきっとそうするだろうこと。
エレンは下からじい、と僕を見上げる。20センチほど下から向けられる視線は恐ろしいほど真っ直ぐだ。
「うん?」
順番待ちの木陰は風が吹くと昼間でも涼しく、草の匂いがした。
「オレたちの嫌がることや、酷いことは絶対にしないもんな」
息が、止まるかと思った。嬉しそうに細められた金色の瞳がいやに眩しい。
「……そうかな」
「そうだよ」
フーバー、イェーガー。続けて名前が呼ばれる。否定も肯定もしないでいると「行こうぜベルトルト!」とエレンが立ち上がった。今していた話なんて忘れたように。教官を怒らせると怖いし、面倒だ。
「今日は負けないからな!」



確か結局、その日も僕が勝ったように思う。上の空だったけど。



「ベルトルト、お前が内地に行くなんて勿体ねえよ。なあ、調査兵団に入って一緒に巨人をぶっ殺そう!」

憲兵団を志願しているのだ、と伝えてしばらくしてから、エレンが僕にそう呼び掛けるのはよくあることだった。
「またそれかよエレン、人の決定に口出しすんな」
ジャンがチャンスとばかりにエレンに噛み付いた。彼も憲兵団を志願している。
多分、これは僕の予想だけど、立体機動装置の動作でもミカサに負けたのが悔しかったのだろう。彼女は明らかに優秀の枠を飛び越えて、正しく全てにおいて「天才」だった。僕は悔しいという気持ちも感じない。
「お前には言ってねえよ脳内快適野郎」
エレンも当然、売られた喧嘩は買う。エレンは基本的に何が秀でているということもなく全ての訓練に全力投球だ。何でもできるミカサは何やかんやと彼の世話を焼くから、きっとそれがいけない。ジャンの機嫌に影響がある。
「んだとこら!」
間に挟まれた状態、僕の肩かそのあたりで二人は喧嘩を始めた。いつものことながら、懲りない。
「はいはい、二人共喧嘩しない。ベルトルト困ってるよ」
どうしたものかと考えあぐねていると、マルコが助け船を出してくれた。アルミンはエレンの後ろから顔を出して(と言っても僕からはつむじしか見えないんだけど)、「エレンあれを言ってみたらいいよ」と何か耳打ちした。嫌な予感がする。
「ベルトルト、愛してるゲームをしよう!」
「いや、ふつうに嫌だよ……」
珍しく拒絶できたことは褒められてもいいと思う。聴いたかいライナー、僕はきちんと断れたよ!大部屋のど真ん中で!
「おう、そういうと思った!というわけで大好きゲームだ!」
エレン相手だ。僕が押し切られるに決まっていた。

大好きゲーム。
ルールは簡単、ひたすら相手に色んな言葉で好きだと伝えて口説くゲームらしい。聞いたこともなかった。

「……離れたくない」
「今すぐ会いたい」
「いつも傍に居て」

エレンは絶対に目を逸らさない。いつものようにじっと金色の瞳に僕を映している。

「手を握りたい大好き」

その言葉は応用が利き過ぎるんじゃないだろうか。そう思いながら本音を織り交ぜて。

「君と一緒に居ると生きたくなる」
「生きろよ!!」
「……もう、エレン、真面目にして」
僕の勝ちだ。もっとも、エレンが真面目にゲームをして困るのは僕で間違いない。エレンは負けの代償として今週の水汲み当番を引き受けるというので、ありがたく受けておく。ライナーがからからと笑ってエレンの頭を撫でる。惜しかったな、なんて、僕を慰めて欲しいくらいだ。
「そもそも何だこの砂を吐きそうな遊びは……」
ジャンはゲームをする僕たちからある程度の距離を取っていて、何とも言えない顔をしていた。口に含んだ夕飯のスープに具が入っていなかったような顔だ。
「アルミンが提案してエレンがルールを考えたゲーム。水汲み当番を賭けるらしいよ。やってみる?」
「……勘弁しろ」
マルコも詳しいあたり、その場に居たのだろう。止めてくれてもいいんだよ。宿舎には娯楽が少ないから、止めるのはきっと無理だったのだろうけど。


「ベルトルトが好きだ」とエレンは真面目な顔で言った。

此処は宿舎の大部屋だし、皆は寝ようとベッドに入り始めているし、雰囲気諸々含めて全く気にしてくれなくて良いのだけど、出来れば何も言わないで欲しかった。
どうしたらいいのか、何が正解なのか、分からなくなる。僕には自分の意思がない。
「それは……ありがとう」
「ゲームじゃねえぞ」
「……そう」
ごめんね、と謝れば存外聡いエレンは「そっか」と頷く。
「まあオレは諦めないけどな!」


ああ、諦めてくれたら、いいのに。
僕にはライナーが居れば良かった。そのはずだった。







彼に殺される夢を見る。何度も、何度も。



僕は巨人の姿であったり、人の姿であったりした。みっともなく泣きながら、誰に助けを求めることもできずに僕は殺された。
エレンを好きな僕が僕の中には確かに在って、小さくて一生懸命で可愛いなあ、と思っていた。
エレン、と小さな声で彼の名前を呼ぶ。確かに僕の声だ。エレンを好きな僕。こんなものは捨てなくては。
ごめんね。夢の中で、僕は何度も僕を殺す。


君を好きな僕は、要らない。


「最近エレンとの関わりが多過ぎはしないか」
「……ああ。気を付けるよ」
宿舎を抜け出すと森の匂いがした。森には夜の気配が満ちている。
ライナーは戦士だ。戦っている。確かにゆっくりと壊れながら。それでも、僕たちは戦士だから、死ぬときも一緒だ。兵士のライナーがいくらエレンに惹かれ、同調しても。
「どうせ傷付けるなら、この手でって。そう、思うんだ」
僕の大事な運命共同体は苦しい、という顔をした。自分の気持ちをはっきりと表情に出せるのはライナーの長所であり、短所だ。
「殺そうとしてくるぞ、あれは」
「承知の上だよ、ライナー。僕たちは相応のことをしたじゃないか」


好きの気持ちはきちんと切り離せた。いつも通り。あの頃捨てた僕の意思みたいに。
これで元通り、何とも思わないですむのだ、と確信した次の日の朝だった。何となく冷えるな、布団に戻らなくちゃ。そう思って目を開く。

「エレン!エレン!かわいい!」

息が詰まった。冗談ではなく、僕は息を止めた。がばりと勢い良く起き上がる。
僕の姿をした小さな生き物が、枕の上に立って僕を見上げていた。

僕の寝相は、悪い。
どのくらい悪いかというと、朝起きたら上半身だけベッド最上段に残したままぶら下がっていたり、大部屋の隅で直立不動の姿勢を取っていたり、隣のライナーに寝技を仕掛けていたりとその程度だ。ライナーはいつもごめん。
同室の皆は僕の寝相について承知している。だから「枕の上に何かを置いておくという誰かの悪戯」というのは有り得ないのだ。かなりの確率で潰すか、落とすか、僕本体がベッドに居ない。
(……ど、どうしよう)
部屋の中の気配を探ったが、誰も起きていない。窓から覗く空はようやく白み始めたところで起床時間まではまだ間がありそうだった。
「エレン!すき!」
小さな生き物は笑えないことを言い出した。紺のカーディガンに白いシャツに長ズボン、僕の私服とぴったり同じものを着ている。夢かもしれない。きっとそうだ。それはぴょん、と勢い良く跳ねてマットの上に乗った。手を伸ばして、指で触れる。ちょうど僕の親指くらいの大きさだな、と思う。
「エレン!かわいい!すき!」
ああ、さわれて、しまった。
掌でにこにこと笑う小さな生き物には重さや温かさがあった。困ったことに、夢ではなさそうだ。

(……誰にも聞こえていない、のかな?)
反応がない。おそらく姿も見えないのだろう、と見当を付ける。これが手の込んだ悪戯なら仕掛けた誰かが見てくるだろうし。
小さな僕が「エレン!エレン!」と叫んでいるのを、可能な限りポケットの奥に押し込む。精一杯背筋を伸ばして、知らんぷりをする。ライナーの隣の席に座って再確認した。僕以外の皆には見えていないみたいだ。この調子で隠せるのなら、僕が無視をすれば良い。慣れれば出来ないことはない。何だって。ひとまず、今日が休みで良かった。
エレンが「おはよう」と言いながら僕の横を通る。

「エレン!」

おはよう、と、口を開くより前に小さな僕が叫んだ。聴こえないだろう、と分かっているのでそっとポケットの奥に押し込む。
「……ベルトルト、今、呼んだか?」
「……呼んでないよ」
聴こえて、いるんだろうか。
「呼ばれなくても来るけどな!」
エレンは僕の前に座った。当然のように、ミカサとアルミンがその隣に。ジャンやマルコが朝食を載せたお盆を持って。
人との繋がりが増えてしまう。関わりたくないのに。これ以上関わったら、僕たちはダメになってしまうのに。ライナーが笑う。
ぼくは、どうしたらいい。
「お前昨日盛大にフられてただろうが堂々とベルトルトの前に座ってんじゃねえぞ」
エレンとジャンはいつも通りだ。
「ああ?やめろよジャン、スープが零れちゃうだろうが!」
「心底どうでもいいわ!」
「ジャン、それは何の話」
ミカサが黒曜石のような瞳にジャンを映して、気付かないで欲しいことに気付いた。これは、まずい。ジャンとマルコ、アルミンまで雰囲気に呑まれて何も言えなくなっている。
「ベルトルトに好きだって言ったんだ」
エレンに躊躇いはない。そういう子だよね、君は。
「……断った、よ?」
立ち上がろうとしたミカサに向かってきちんと事実を伝える。ミカサはたった一人残った家族のエレンに固執しているから、誤魔化すことはできない。
「なぜ」
なぜって。それは、僕が巨人で。君たちは僕を憎んでいて。だから。
「……僕は」
「いいじゃねえかミカサ、何だって」
エレンはひょい、と自分のパンを口に投げ込んだ。
「俺はベルトルトが笑うと幸せな気持ちになるし、ベルトルトと話せると嬉しくなる。俺の気持ちを思い知れ!」
自分の声より少し高い少年のそれが高らかに食堂に響く。近くに座っていた同期生たちはぽかんと口を開けて、一瞬後に楽しそうに笑った。きっと皆は面白がっているだけだ。それでも、人の笑い声や優しさに包まれるのは、苦しい。
(好きじゃない。好きじゃない!)
すき!と叫んだ小さな僕を、僕はポケットの奥に再び押し込んだ。
そちらに気を取られていたおかげで、顔が赤いのは、誤魔化しきれなかった。


「フラれたけど、もっと好きになっちゃったから、もう一回告白しにきた!好きだ!」

エレンは、恐ろしくしつこかった。まるで巨人に対する執念みたいだね、とアルミンが言ったときには肝が冷えた。きっとそれで間違いないから。幼馴染のために気を利かせて図書室から出ていってしまった座学主席を少しだけ恨む。
「……どうして」
何とかして小さな生き物を消そうと僕は躍起になっていた。ライナーには見えないし聴こえないらしいので、相談は出来ない。午前中に自力で消すことが出来なくて、何かヒントはないだろうかと図書室を訪れたのだ。それがきっと間違いだった。
(……いや、間違ったのはもっと前なのかも知れない)
僕がエレンに話しかけたから。僕が自分の話をしたから。ぼくがきみたちをすきになったから。
「ベルトルトが好きだ。理由なんてない」
弱くて誰かに縋らなければ生きていけない僕に、抱え込んだ気持ちは重過ぎた。自衛のために切り捨てた自分は、目を逸らすことも耳を塞ぐことも許してくれなかった。これはきっと、僕から僕への復讐だ。
「……あげる」
ポケットの奥に手を伸ばして取り出してやる。それはエレンを瞳に映すと嬉しそうに小さな両手を挙げた。
「エレン!エレン!すき!」
小さな僕の姿で机に放られてもにこにこと笑う。人の気も知らないで。エレンには認識できるらしい。
「何だこれ!?」
後ろに下がるかと思いきやエレンは一歩前に出た。怖いとは思わないんだろうか、全く思考が読めない。
「分からない。僕と君にしか見えなくて、たぶんこれは僕で。これが、君の気持ちに応えるよ」
やっぱり、僕と君は似ていない。安心して余計なことまで言った。やっぱり僕は、喋らない方がいい。
エレンは金色の瞳にそれを映して、指でつついたりして、一通り遊んでいる。
「じゃあ、お前はミニトルトな」
僕は集中できないまま一冊本を読んでしまった。手掛かりなし。図書室から出ていこうかと思ったけど、これとエレンだけ残して余計なことを言ったら困る。今のところ、単語は一つ二つしか話せていないから杞憂かも知れない。
「なあ、ベルトルト」
すき、とエレンの指に抱き付いて「僕」はころころと笑っている。
「なに」
「これでもう俺に嘘は吐けないな」
エレンの特技は、僕の息を止めることで良いと思う。息の根も止められかねない。ゆっくり、長く、息を吐いた。
「……そんなのすぐに消えるさ」
殺せばいいんだ。そう思う。僕の分身は責任を持って僕が殺さなくてはならない。
「ミニトルトはベルトルトが預かっておいてくれ。俺だとアルミンやミカサに見つかっちまう。って、見えねえんだっけ?まあいいや」
エレンは小さな生き物を持ち上げて、僕に渡す。「好き!」と上がる声に「俺も好きだ!」とこちらを見て応えた。
「また後でな!」

そんな風に信用するから、君はまた傷付くんだよ。







最後って、本当に、通り過ぎてから分かるんだな。ああ、あの瞬間が、あいつに触れた最後だったんだなあって。後で思い知るんだ。



エレンがミニトルトと命名したその生き物は、同じ言葉を繰り返してやれば静かになることに気付いた。
エレン、エレン、すき。だいすき。
小さく口の中で唱えれば、寂しそうにしていたくせに「僕」は相好を崩した。どうしろというんだろう。
ぎし、と階段の軋む音。
「ライナー?」
視界に入ったのは見慣れた金髪ではなく、僕がずっと怯えている金色の瞳だった。消灯時間ギリギリだというのに、寝相のため最上段端に割り当てられた僕のベッドまで上ってきたらしい。
「ああ。エレン」
「会いに来た」
好き、と口に出さないでいるとミニトルトが代わりに叫んだ。
「小さいのに?」
「ベルトルトに」
ライナーと代わってもらった、とエレンは言う。潰されても知らないよ。大丈夫だろ、根拠はねえけど。
ライナーはまた兵士なんだろうなあ、と思う。耳を澄ませば途切れ途切れにジャンやアルミンと話す声が聴こえた。マルコは早寝だからきっともう眠ってしまったんだろう。
柔らかい色のランプが消えた。大部屋は闇に包まれる。衣擦れの音やひそひそ声。
(ライナー。らいなー。聴こえないの)
兵士になる人間の子どもたちに囲まれて、僕は独りぼっちの巨人だ。
暗くて色んなものが見えにくいはずだった。ぽろぽろ落ちている僕の涙に、エレンは気付いた。
「泣くなよ、ベルトルト」
囁く声と頬に触れる指があんまり温かくて、ライナーと違って小さくて細い指なのにひどく安心した。ライナーの代わりなんていないのに。要らないのに。
「……エレン。好き。ごめんね」
「俺も好き。ベルトルトが好きだ。謝るなよ」
ぎゅーっ、となぜか口に出しながら小さい身体が僕の腰のあたりにくっつく。胸のあたりに顔をぐいぐい押し付けながら「ミニトルトとは正反対だなあ」とエレンは喉を鳴らした。

僕は夢の中で、僕は巨人の姿だった。
人間の大きさをした「僕」が兵士の姿をして、小さな生き物は皆やエレンが好き、と確かに笑った。好き。大好き。認めなよ。
僕はその生き物を食べて、自分にした。


欠けたパーツが元に戻るように、ミニトルトは消えてしまった。


エレン。
君がもっと、僕のように弱くて汚くて何も持っていなくて、誰かに縋らなければ生きていけないような化け物だったら、良かった。
そうだったら、僕は君を嫌いになれた。好きにならないでいられた。僕は僕が大嫌いだ。


(好きだよ、と。君に笑ったあの日の嘘は、あの日は確かに嘘だった。)



◆◆



これが僕です、とベルトルトは泣いた。君の嫌いな、僕です。

独りぼっちになりたがりの嘘吐きで、泣き虫。俺とは正反対で、大人しくて背が高い。
それでも、俺がベルトルトが好きなことに理由はなかったぞ。理由がないことから、人が逃げられるわけがないんだ。
それなのに。



例えば 絶望というものに色がついていたのならきっとこんな色彩をしているのだろう
例えば絶望というものに形があったとしたならばきっとこんな造詣をしていたのだろう
例えば絶望というものに温度が存在したのならきっとそれはそれはそれは  それは

(俺の世界を壊したそれは、確かにお前の姿をしていた)



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2013/10/19 00:00 | 進撃(SS)

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