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2024/07/09 05:04 |
綺麗な嘘だけ信じさせてね【ジャンベル】
本当に憧れる嘘吐きの話し。
●11巻迄のネタバレ注意●


バースデーリクエストの「戦士ライナーに理不尽じゃない暴力を振るわれている様を目撃したジャンによるジャンベル」でした。


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しんしんと降り続ける小雨が羽織った外套をじんわり濡らしている。新しい情報はない、図書室の本をまた読んでみるよ、と情報を交換する。宿舎裏の林は草や土の匂いに満ちていた。
「お前浮き過ぎちゃいないか。多少は馴染む必要があるぞ、何せまだ訓練期間が残ってる」
その言葉に目を細める。ライナーの着た外套で兵站訓練や野営を思い出した。鍛えられた身体を覆う外套の上を雨粒が滑っていく。
「君は兵士の方が随分と楽しそうじゃないか、ライナー」
「……なんだと?」
いっそ兵士になってしまえばいいのに、と。そう付け加えたのと同時に頬に衝撃があった。身体が後ろに飛ぶ。ぶつかった木が太くて助かった、激高したライナーには力加減が出来ていない。人間ならきっと肋が折れていた。骨が折れて臓器に刺さっていたら全く洒落にならない。
(……僕の戦士)
唇の端を持ち上げて、笑う。残酷な気持ちになったのは、自分が傷付いたからだと僕は知っている。ライナーが傷付くのにぞくぞくして、それでもきちんと戦士であってくれるのが嬉しかった。どこか直情的で、それでも冷静に物事を考えて判断できて、裏切りは絶対に許さない。そうだね、ライナー。僕たちは、戦士だもの。
「頭を冷やしておけよ」
ライナーを怒らせてしまった。
面白くもなんともないけど、ライナーが僕に振り回されてくれるのが嬉しくて、また笑った。切れた唇は、血の味がする。


「おい、何だよさっきの」
見ていたのか。お節介にもジャンの腕には救急箱が抱えられていて、ああこの子は傷が治ることを知らないのだった、と当たり前のことを思った。入口に外套を掛けながら、出来る限り平坦な声で言う。
「何でもないさ。ただの喧嘩だと思っていてくれればいい」
僕たちの喧嘩は同期のほとんどに痴話喧嘩と見なされるだろう、と知っていた。ただでさえ悪い目つきが更に険悪になったあたり、ジャンは誤魔化されてはくれないようだったけど。
「何だよ、それ……吐くならもっと巧い嘘にしろよ」
有無を言わせない雰囲気に半ば強制的に座らせられて、僕はベッドに腰掛けていた。乱暴に付けられた消毒液がじくじくと傷を教える。
「……うん、嘘だよ」

嘘だけど、嘘でしか言えない、本当のことだよ。

僕は、嘘と一緒に生きていく。どうしても苦しくて嘘が吐けなくなるまで、全部が本当の君に憧れながら、僕は何度でも嘘を吐く。何度も、何度も。
「嘘を吐くなら死ぬまで吐き通せよ」
そうだね、きっと兵士としての僕が死ぬまで。それまでなら。
「ジャンは、面白いこと言う」
面白くもなんともねえよクソが、と正直者のジャンは不機嫌に応えた。そういう風に思ったままを応えるから、きっと皆近寄りがたいのだ。距離を置かれているジャンと距離を置いている僕は、きっと似たもの同士だ。
顎を持ち上げられて視線が交る。そのままジャンの唇が下りて来て、吐息が絡んだ。
「……ふふ」
「笑うなよ」
一つ下の少年の歯が、僕の下唇を軽く食む。じゃれつくみたいに。
「勝手だなあ」
「お前にだけは言われたくねえ……血の味がするぞ、口の中まで切りやがって」
何でもなかったようにジャンはまた救急箱をがさがさとやりだした。舌打ちまでしている。
全くだな、と思ったので言い返さないでいた。雨も止んだらしい。血の味はもう、しなかった。


綺麗な嘘だけを信じさせて ね
(みにくいほんとうはおくびょうなぼくをくろくそめてあげてしまうから)

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2013/10/24 00:00 | 進撃(SS)

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