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2024/10/07 00:52 |
小指に絡めた嘘【マルベル】
6歳のベルトルトとマルコの約束の話し。
●48話迄のネタバレ注意●


頂いたリクエストでした。
「マルコの膝の上に座ったショタトルト、ショタトルトに絵本読んであげるマルコとかマルベル天使(原文まま)」全くだな!



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約束をしよう。たったひとつだけ。


憲兵団に入るまで待って、と言われて、何か理由があるんだろうと納得した。
「言いたくないことや、言えないことは言わなくて良いから。自分を苦しめるような嘘は吐かないで」
応えないままベルトルトは少し俯いた。
「……ごめん」
僕よりも長くて小さな傷のたくさん付いた指を、それでも僕は美しいと思った。僕の指をそっと絡めて、指切りをした。
やっと目が合った。色素の薄い、美しい緑。
「約束だよ、ベルトルト」
生きていく中には怖いこともあるだろう、考えが合わないところもあるだろう。意見が食い違うことも、譲れない信念もあって、衝突だってするよ。それでも、僕は君と仲良くしたい。君を繋ぎ止めよう。手を取ろう。放したくない手ばかりだ。愛しい人ばかりだ。
僕は皆が大好きだから。だから、約束しよう。



小指に絡めた嘘



ベルトルト・フーバーは、背が高い。

大抵の同期生たちはベルトルトを見上げるだろうし、声も聞こえにくいという。自明だ。横幅という意味では薄いくらいだけれども、何しろ縦が大きかった。ベルトルトは誰かと話すとき屈むのが常で、192センチというのは兵団全体で見てもほとんど居ないくらいの大きさだ。だから、ベルトルトの寝相がいくら悪いと言ってもどこにいるかはすぐに目視で判別できた。ベッドから下半身だけぶら下がっているときも、部屋の隅で寝たまま直立不動になっていても、羽ばたく鳥のポーズをとっていても、すぐに分かった。だから。

「…………らいな?」


だから、こんなに小さいのは、おかしい。


ライナーの膝の上で寝間着の上をまとった状態でベルトルトはうとうとしている。黒く艶やかな髪の中に小さなつむじが見えて、そっと頭を撫でてやった。眠そうだ。
「ひとまずこいつを連れて教官室に行ってくる」
「お、おう」
面白がっていた同室者たちはライナーに気圧されるように頷いた。
こうなった原因に心当たりがあった。隠し通さなくてはならない「巨人になる能力」だ。その反動だろうか、身体に異変が起きることと言えばそのくらいしかない。姿と一緒に記憶まで退行しているようで、無事戻ってくれればいいが、と思う。
ライナー・ブラウンは戦士である。女子宿舎から出てきたアニと目が合い、これはまずい、という目配せを受けた。全くだ。巨人化能力の影響であろう、と予想はつくもののこんなことになったのは初めてだ。ただでさえいつも不機嫌な顔をしている少女の顔は打ち合わせが中止になったことも相まってか、恐ろしい形相になっている。どんな顔をしていも基本的にアニは美人である、というのが、何の揶揄もなくライナーとベルトルトの共通認識であった。しかし今日は話す相手がいないな、とのんきに考えたところで、ライナーは脛をしこたま蹴られた。


初めまして、と囲まれたベルトルトは恐ろしく小さな声でそう言った。
いつもの大きさは何のその、半分とは言わずとも訓練生の誰よりも小さい状態だ。街からほぼ隔離されている訓練所で、自分たちより小さな子どもは珍しい。同期たちは明らかに小さなベルトルトに構いたくてうずうずしていて、コニーが故郷の弟を思い出すと言いながらニヒヒと笑って頭を撫でた。身を竦める仕草が大きいときのままで、ああやっぱりベルトルトだなあ、と付き合いの長いライナーは思う。いつも通りの定位置、ライナーの後ろに袖を握ったまま立ち尽くしている。
いくつ、と尋ねる声にぱっと顔を上げて「むっつ!」と言いながら指は5本のままだった。可愛らしい。意味が分からない。
おお、と遠巻きに見ていたサシャは彼に近寄って屈み込んだ。
「私たちのが10歳程年上ですね?」
「……おねえちゃんは?」
「サシャです。貴方のご飯を半分ほど頂く者ですよ」
「何言ってんだドアホ」
べしん、とコニーがサシャの頭を殴った。皆が自己紹介していくなか「アニだ」といつも輪から外れている彼女も名乗ったので周囲は目を丸くした。さぞ珍しい光景だろう。小さな子どもは回らない舌で一人ずつ名前をゆっくりと復唱する。さしゃ、こにー、あに。あに、と彼女の名前はもう一度だけ繰り返して。
「ようライナー、やっぱりそれベルトルトか」
キース教官の許可(きちんと面倒をみるように、と拾ったペットよろしい注意と許可だった)を得た保護者代わりのライナーはジャンに声を掛けられた。意外だ。我関せずだと思っていたので。
「何だジャン、お前小さい子ども好きだったか?」
「……いや。まあな。その、なんて言うか」

ジャン・キルシュタインは自他共に認めるマルコ・ボットの友人である。子どもはどちらかといえば苦手だ。ジャンには親しい友人が少ないので、マルコの存在はかなり貴重だった。そういうわけでジャンはマルコとの関係を大切にしたいと思っているし、人間関係に修復できないような傷を負うのは断固として避けたい。彼の数少ない友人は同期からひどく好かれているので、マルコに嫌われたなら村八分も夢ではない(全く憧れないが)。叶うなら好かれたままでいたい。
ジャンはある秘密を知っていた。秘密の共有者であるアルミンもどことなく落ち着きがない様子でこちらの様子を伺っている。

「マルコの奴はやたら子どもに好かれるし、小さい子どもの扱いも巧えよなって思って。なあ」
「そっ、そんな、ことは、ないよ」
マルコが動揺するのは珍しかった。何しろ読みかけの本は上下逆になっていたし、握ったペンはジャンの物だったし、いつもは落ち着いているチョコレート色の瞳が泳ぎまくっていた。
(挙動不審過ぎんぞマルコ……!)
ライナーはほう、と深く頷いて考える。考えた結果「俺が当番の間頼めるか」とまだうとうとしているベルトルトをそっとマルコに預けた。一番間違いないだろう。
「もちろん!!」


大した秘密ではないし、隠し通せるものでもない。そう信じたい。図書室に居合わせたジャンとアルミンに対してどちらからも弁解はなかった。
「マルコ・ボットは、ベルトルト・フーバーに告白していて、ほぼオーケーのくせにベルトルトの所為でお預け状態」である。


初対面のはずのマルコに懐いているあたり、普段のベルトルトが気持ちを受け入れない理由が分からない、とジャンは思う。
何の問題もないだろうに、憲兵団に入るまで待って、と期限を伸ばす意味があっただろうか。「あろれると?」と尋ねられたアルミンは「惜しい、アルレルトです」と返しながら肩を竦めて僕に憲兵団入りはどちらにしても無理だから、と笑った。







「…………らいな、は?」
「お仕事のお手伝いに。ベルトルトは僕たちとお留守番だよ」
彼らの故郷には昼寝の習慣でもあるのだろうか、それとも子どもだからなのだろうか、大部屋で朝食を食べてからこんこんと眠りに就いていたベルトルトの横に並ぶ。ライナーをさがすようにきょろきょろと細い首を動かした。もちろん、ライナーは当番で居ない。
僕たちは出来る限り静かにカードゲームをしていたのだけど、当然盛り上がれば声も上がるわけで、エレンが「悪い起こしたか」と僕の後ろから顔を出した。明らかに怯えられていて苦笑する。
「さっきも言ったけど、僕はマルコ。大きな君の……んーと、仲の良い、友だちです」
「ともだち?」
「友だち」
友だちよりは、もっと仲良しになりたい友だちです。切実な続きは心の中で。
「らいなーはおてつだい」
「そうだよ」
「……ぼくがらいなーのじゃましたから?」

じわ、と大きな瞳に涙が滲んだ。だからおいていかれたの?

言葉と嗚咽が続く。そうくるか。なぜか室内の全員が立ち上がった。カードゲームはとうの昔に放り出されている。喜んでいるのはゲームで負けそうだったダズくらいだ。
「えええ」
「やべええマルコで泣かれたらどうすりゃいいんだ……ひとまずジャンとエレン部屋から閉め出すか!?やっぱり黙ってても顔が怖えし」
「落ち着いてコニー、大きな声は駄目だよ!確かに二人共似たような悪人面だけど!」
「おいアルミンさらっとお前ひどいこと言ってるだろ」
「そうだこの馬面野郎と一緒にすんな」
喧喧囂囂と皆で騒ぐなか、サムエルがこのままだとライナーに合わす顔がない、と凛々しい顔で呟いたもののすぐに泣き声で心を砕かれていた。分かる気がする。
「ベルトルトは邪魔なんかじゃないよ。僕がライナーの代わり。ライナーが戻ってくるまで一緒に遊んでくれたら嬉しいんだけど、僕は邪魔かな?」
僕が手を挙げると周りはしんと静まり返った。
「…………ううん」
ベルトルトは首を横に振る。交渉成立、無事に和解だ。
「さすがマルコ……」
「すげえ……」
「母ちゃんかよ……」
「そこはせめて友人と言ってもらえるかな!」



「……マルコ、ぼく、ごほんをよみたい」
僕は驚くのと嬉しいのとで、いいよ!と叫ぶ勢いで応えた。いつものベルトルトは決して我が儘を言わない。少なくとも僕には言ってくれない。何であれ絶対に、だ。どんなことだろうが何とかして見せる心意気なのだけど。だからだろうか。些細なことでもいい。夕食のパンを半分こ、とか。好きなものと嫌いなものを交換、とか。考えるだけで楽しいくらいだ。
小さなベルトルトの手を引いて図書室に移動する。何かの当番に割り当てられた何人かは残念そうにして「また飯のときになベルトルト」と挨拶していた。この子と手を繋げただけで、ライナーと話したことがあって良かった。ジャンに揶揄されても僕は優等生で良かった。
椅子に腰掛けて片手を取り、どうぞ、と恭しく言えばくすくす笑って僕の膝の上に乗った。さすがに軽い。6歳にしては大きい方なのかもしれない。
「何の本だい?」
「まほうつかいのはなし!」
アルミンの見つけてくれた絵本の表紙は少しばかり擦り切れていて、それでも凝った装丁が施されていた。誰かからの寄贈なのだろう、絵本は珍しかった。訓練兵団の蔵書は豊かとは言えない。
「あるみんがみつけてくれたんだ」
「へえ」
ベルトルトの瞳はじっと見つめると色素の薄い緑だった。綺麗だ。普段背の高い彼に見上げられる、という体験はとても貴重だと思う。小さい頃を一緒に過ごすことなんて絶対にできないことだから、大事にしなければ。
「……まるこ?」
「ベルトルトの目は宝石みたいだね」
きらきら光るそれをみて、思ったまま伝えた。にぱっ、と見たことのない笑顔で少年は笑う。
「マルコのめもきれいだよ」
砂糖を焦がした色だからきっと甘いと思うんだ、と真剣に言われて僕の方が照れてしまった。食べものなのか。
「僕もベルトルトは凄く美味しそうだと思うな」
「マルコ・ボット訓練兵、発言に注意しろよ。本気で。庇えねえから!」
うっすら顔を赤くしたジャンが本棚の向こうから顔を出す。
しーっ、と唇に指を当ててベルトルトに笑うと同じ仕草でしいっ、と笑い返してくれた。

(内緒ないしょ!)



✿ 



ライナーも吃驚するほどベルトルトは僕に懐いてくれた、と思う。もちろん、ライナーが戻って来たときには物凄い勢いで走って行って太ももあたりに抱きついていたけど。置き去りにされた僕もがっかりはするけど。
いっしょにごはんたべよ、と言われたとき意味もなく唐突に立ち上がってジャンに小突かれた。ありがとうジャン、僕は冷静じゃなかった。
「らいなー、もうおしごとのおてつだいいかない?」
「今日はな。マルコに遊んでもらったか?」
うん、と目の前で返事をする姿は微笑ましい。後光がするな、やっぱ母ちゃんだ、とトーマスとコニーはひそひそ話してるけど、聴こえてるからね、それ。家族に見えるのは悪くない。うん、全くもって悪くない!
「シャワーをどうしたもんかと思ってな」
「ライナーが連れて入れば問題無いだろ。訓練日までに元に戻らなかったら、何だったか、人体に詳しい人に協力を仰ぐんだろ?」
ライナーが聴いたところによると、その詳しい人というのは調査兵団の上官だという。知らない大人に囲まれたら今のベルトルトは絶対に泣くだろうし、というか、いつもの大きさだとしてもベルトルトなら泣いてしまいそうだ。失礼極まりない予想だけど、たぶん間違いない。
「不安過ぎる」
「それは同感だ」
おふろ?とデザート用のスプーンを持ち上げて(他に身体の大きさに合うものがなかったのだ)、話題の中心が問う。
「うん。ベルトルトはシャワー好き?」
「好き!」
食堂の椅子から立ち上がりかけた僕は隣に座った親友にまた小突かれた。


「ベルトルト、約束だよ」

何気なく言った言葉だった。湯船に浸かったら100数えるんだよとか、そんな些細なことだったと思う。
「皆ベルトルトが好きだからさ、君が風邪をひいたら皆が悲しんで困るんだから」
約束。指切り。自分を苦しめるような嘘は吐かないで。
「え、あ、その」
「……えっ?」
ベルトルトは、かあっと首筋まで赤くなった。見える範囲が全て色付いているように見えた。
「ぼくも、ちゃんとすきだよ」
「ベルトルト、もしかして、意識だけ」
ないしょだからね!とお湯を掛けられた僕は口止めされてしまった。
少し涙が出た。手を握ってくれた小さな指が、あんまりあたたかくて。
(……やっぱり好きだなあ)
お前たち仲が良いなあ、とライナーが湯船に浸かるとお湯が結構な量流れ出てブーイングの嵐だった。
「ベルトルトが風邪引いたらどうすんだ!」
端の方ではコニーがさすがお兄ちゃんな発言をして「すげえコニー今の兄貴っぽい」とエレンから褒められた。
「……だって。ふふ」
小さな僕の好きな人は、相変わらず顔まで真っ赤だった。
「……うう。なんで、こんな」
「僕は小さいベルトルトと話せて役得だったけどなあ」
「まるこ!」
僕はきっと過ごした時間ではライナーに敵わない。技術も。訓練の成績だって。だからこそ。
僕は諦めないからね、と堂々と宣言する。ジャンとアルミンの顔が少し引き攣っていて、何の話か分からないまま「いいぞマルコ!」と声が上がった。



君の声が好き。
君の指が好き。
君の瞳が好き。
君の唇が好き。
優しい君の、優しい全てが好きです。


(大好きでした 嘘吐きの僕より)


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2013/11/11 03:45 | 進撃(SS)

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