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2024/07/03 18:34 |
ひとりぼっちのかみさま【ジャンベルジャン】

選ばれない魔法使いと悪い怪獣の話し。

●10巻までのネタばれ及び捏造注意● 


死ネタを含みます。ご注意ください。

ジャンは神様をみたことがあるだろうか、信じてるだろうかって考え出したら止まりませんでした。
あの世界の彼らは神様を信じているんでしょうか。
リアリストが多くて、今を生きることに精一杯で、神様への信仰は薄そうだなあって思います。どうなんだろう。
精神的ジャンベル推しなので表記に迷って両方にしました。


拍手[1回]





彼の姿は神に似ていた。
俺はこれっぽっちも神様を信じていなかったけど、神様が居るのならきっとこんな姿をしているのだろう、と思った。
絶望の体現。俺たちの敵。憎しみの象徴。

ひとりぼっちの、かみさまだった。



ああ。そういえば、この間の休み、街に出かけただろう。そのとき本屋で買った物語なんだけど、ジャンのような人が出てきたよ。怒らないで聞いてくれると嬉しいな。
彼は魔法使いで、色んな事が出来た。自信家で、偉そうで、でも自分よりも人のことを気にかけるのが上手で、今自分が何をすべきかよく分かっているひと。
でも、魔法使いの彼は大好きなお姫様に選んでもらえなかったんだ。王子様が居たからね。性格も育ちも良くて、お姫様のことだけを考えてくれる王子様。最善の策なんて関係ない、周りなんて見ずに、彼女だけを選んでくれる王子様だった。
僕だったら、絶対に王子様じゃなくて、魔法使いを選んだのにね。

やめろ。

でもね、魔法使いは王子様と協力して悪い怪獣を倒すんだ。そうして大事な人の側に居られるんだよ。
良かったね、ジャン。

「やめろ。お願いだから喋るな」
ベルトルトは珍しく馬鹿みたいに饒舌で、時折口の端から血を流しては吐き出した。皆と居るときは大人しくて目立たないくせに、時折見せる妙に男くさい仕草を覚えている。怒ったときだけ口調が乱暴になる、先に逝った俺の親友のように。
巨人化した名残りなのか、顔に残った赤いラインは消える気配がない。一方で、片腕片脚のない身体からはしゅうしゅうと蒸気が上がっている。回復する様子はなかった。そんな力は残っていないのだ。
ミカサやエレン、調査兵団が追い詰めた超大型巨人は死の淵にあった。
ふふ、とベルトルトは笑った。読んだ物語を反芻するように。
「僕を殺して英雄になってよ」
囁くような声で、願い事を言う。俺はお前が我儘なんて言うの、一度だって聞いたことがなかったんだぞ。三年も一緒に暮らして。
それなのに、どうして、今。
「殺されるならジャンにが良いなって、そう、思ってたんだ」
「……この大馬鹿野郎」
もう苦しそうなのを見ていたくなくて、自分の願いのくせに、願い事を叶えてやる魔法使いの真似事にでもなればいい、と。
そう思いながら超硬質ブレードを抜く。抜き身の刃。これだけを扱うなら、お前たちの方が俺よりずっと巧かったはずだ。
(ああ、俺は誰にも選ばれない、ただの魔法使いだ)
うなじではなく心臓を狙う。人類に捧げたはずの心臓を。嬉しそうな顔をして、ベルトルトは刃先を見つめた。
俺には何もできない。
(死にたがりのお前に、生きたいと言わせることさえ。)


痛みは感じなかった。心臓に深々と突き刺さったそれをみてひどく安堵して、ひどく幸せだった。
口からごぼ、と大量の血が零れ落ちて地面を黒く侵食する。
調査兵団のズボンは白いから、僕の血が目立った。可哀想なジャン、そんなものはもう捨てると良い。
序々に力も入らなくなった肢体はそう時間を置かずに死体に変わるね、楽になれるんだね。
ライナー、やっと君のところへ、逝けるんだね。
「ありがとう、ジャン」
アニやライナーによく笑われる泣き虫な僕が笑っているというのに、ジャンの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
憎い巨人を殺すのに。僕は悪い怪獣だから、人のかたちで殺してもらえるなんて思わなかったな。
「ふざけんな」
ああ、また怒っている。ジャンはすぐに怒るのだ。
サシャにパンを分けてあげたとき。僕の方が成績が良かったとき。意見を言わなくて注意されて、ごめんねって謝ったとき。怪我をして大丈夫だから気にしないでって笑ったとき。
(笑った顔が、好きだったなあ)
ジャンの笑顔は、甘い幸せであふれていて、それをそっと分けてくれるような笑顔だ。きっと僕のためではなかったけど。
皆と同じように接してくれてありがとう。寂しいとき傍に居ると言ってくれてありがとう。
僕のために泣いてくれてありがとう。
「さようなら」
はっきり言えよって、また怒られるかな。
大好きでした、と、最期の言葉は心の中で。声にならずに、そのまま消えた。



彼の姿は神に似ていた。

俺は何年経っても、これっぽっちも神様を信じていなかったけど、神様が居るのならきっとこんな姿をしているのだろう、と思った。こんな残酷な世界の神様は、要らないとすら思っていたのに。
絶望の体現。俺たちの敵。憎しみの象徴。

それでも、俺の目にした神様は、泣き虫で、言いたいことは全部我慢して、欲しいものを欲しいなんて絶対に言えない奴だった。
俺は耳が良いし何と言っても優秀だから、聞き逃すなんてことは有り得ないのだ。はっきり言えと言ってはいたものの、聞きとれないなんてことは今まで一度だってなかった。
「俺だって、好きだ。ばか」


俺だけの、ひとりぼっちの、かみさまだった。 



 

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2013/07/27 00:00 | 進撃(SS)

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