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2024/09/29 07:54 |
全てのことには理由がある【ジャンベルジャン】
【続】お金のない下宿生ジャンと地縛霊ベルトルトの話し。
●10巻迄のネタばれ注意●


「部屋の隅で体育座りしてる地縛霊のベルトルトと、お金がなくて出ていけない下宿生ジャンの話」まさかの続きです。前作からどうぞ。
夏なのでひんやりしたジャンベルジャン!精神的ジャンベル!ほんのリヴァエレ!現代転生パロです。諸々大丈夫な方のみどうぞ。

▼ライベル・マルジャンマル・アルジャン・リヴァジャン・ハンベルハン・マルベル・リヴァベル・エレベル・ミントルト(アルベル)などを含む作品と共通の萌え設備で製造しています。

▼かっこいいマルコが大好きです。もうこの話はマルコが主人公でいい。
マルコと親友と地縛霊の彼が頑張る話です。ベルジャンは隔離病棟ですが、ジャンベルは自然保護公園なので門番しながら耕していますしお気軽にお越しやがれください!

拍手[6回]







✿誕生日おめでとう



マルコから電話がかかってきた。珍しい、と思いながら電話に出れば「エントランスまで来て」とお呼びがかかった。
「ジャン、ちょっと下まで降りて来れる?」
「あ?いいけど」
荷物が多いのか、買い過ぎたのか、全く人の家の冷蔵庫なんだから適当で良いのに。マルコは持てば両手いっぱいだろう買い物袋をエントランスの床に置いたまま、カードをひらひらさせた。にや、とマルコは笑う。
「誕生祝い、したくない?」


ある日、ベルトルト宛てにバースデーカードが届いた。締まらないことに、転送で。


誕生日おめでとう、ベルトルト。
そう書かれたカードはゴテゴテと装飾されて(しかも全然お洒落じゃない)、小さな子どもに与えるクリスマスカードのような配色だった。開くとリボンに巻かれた苺のケーキが描かれていて、毎年誕生会を開催する親が好むようなものだな、と思う。自分やマルコの両親がそうであるように。ベルトルトにも親が居る、というのは当然のことなのに何だか不思議だった。一度もみたことがないからだろうか。会ったときには死んでいたからか?
(……だけど)
マルコと目が合う。同じことを考えているようだった。
「……親が、息子の死を知らないことがあるか」
「ないね」
マルコはそう言い切り、俺の手からカードを取り上げた。転送と赤字で貼られたシールの下にはベルトルトが元々暮らしていただろう住所が書かれている。
「控えておくよ。ベルトルトが物をどうこうできるとは思えないけど。嫌がるだろうし」
「おう」
我が家の地縛霊は、金縛りは唯一の特技なんだよ、と渾身のドヤ顔をしていた。何でそんなに誇らしげで仕草が可愛らしいのだかさっぱり理解できなかったが、それくらいだ。金縛りはカードに効かないと思う。
「調べたいんだろ、ジャン」
「そのつもりだけどよ……」
マルコはいつもの笑顔で笑う。オレにも手伝わせろよ、と。
「オレはこれでも友人のつもりだからね」
「そりゃ、もちろん」
「ベルトルトの」
何とも言えない表情をしたら楽しそうにマルコは吹き出した。
「もちろんジャンの友人でもある、だろ」
消えたいか、と問うたことがある。
どうして此処に居るのか分からないからなあ、とのんびり返された。僕は此処で待ってるんだ。
人か。
ううん、天罰を。
灰色の、夜が明ける前の空みたいな瞳を優しく細めてベルトルトは笑う。
皆が幸せならいいなあ、と、酒は飲めないから雰囲気に酔って濡らす唇で、自分に罰が下るのを待っている。

(あんな大馬鹿野郎、俺が幸せにしないで、誰がするんだ。)



「やあ、調子はどうだい?」
真っ暗な病室に向かって。応えがないのを知っていて彼女は声を掛けた。
「誕生日おめでとう、ベルトルト。今日は君の生まれた日だ」



音頭をとれよ、とマルコがコップを俺に押し付ける。
リヴァイさんが置いて行った酒の残りと、買い足してきた分が冷蔵庫と部屋の隅、ベルトルトの定位置に集めてある。
居心地悪そうにお誕生席(といってもテーブルの一辺とベッドを合わせてあるだけのもの)に腰かけたベルトルトは困ったように眉を下げて周りを見た。立ち上がったオレを見上げて、助けを求めるような顔をする。そんな顔しても駄目だ、今日は助けてやらねえぞ。だってお前の誕生会だからな。
「あー、ベルトルトが生まれた日を祝いまして!我が家の地縛霊に、乾杯!」
「かんぱーい!」
エレン、ミカサ、アルミン。俺とマルコ、ベルトルトをいれて6人。
「……誕生会来たいとか言って、お前ら理由つけて飲みたいだけだろ」
「まあね」
広がっていくテーブルの上の惨状を見ながら呟いた言葉にマルコがくすりと笑う。ようやくミカサにお目見えしたというのに、この仕打ちはあんまりだ。テーブルは泣いてもいい。ミカサに見られて驚かれもしなかったベルトルトだけど、相変わらず人が来ると吃驚した顔をする。リヴァイさんのときみたいにならないだけ、マシか。
「エレン、飲み過ぎないで。明日がある」
「分かってるって」
極めつけが、これだ。ミカサはエレンに付きっきりで、まあいつものことなのだが、面白くも何ともない。
「アルミン本当に女子にしか見えねえな」
「ええ?失礼だなあ」
二人に並んだアルミンに声を掛ければ頬を膨らませる。いや、そういうところとか。
「そういえばジャン、オレのこと女の子だと思ってたことあったよな。初等部に入ってすぐくらい」
「うわー!やめろ!その話はやめろ!!」
マルコが爆弾を投下した。特大の、俺一人だけが傷付くやつを。
「えっなに聴きたい」
「アルミン!!」
ここぞとばかりに食い付いた。直前の言葉をひきずっているんだろう。マルコもやめろといってやめるような奴じゃない。
「赤毛のアンって知ってる?名作の……主人公のアンにはそばかすがあるじゃないか、で、そばかすがあるからオレのこと女の子だと思ってて」
「うわー!!」
思い出すとますます居た堪れなくなってきた。ミカサもこんなときだけ聴かなくて良いんだよお前マルコの話は聴くよな。
「男子トイレに入ろうとしたオレを追い出して」
「うわあああ」
その頃のマルコは、小さかった。小さくて、俺よりも華奢で、そばかすがあって。髪は今思えば日焼けだったのだろう赤茶色で、赤毛のアンを読んだばかりの俺の脳がこれは女の子であると判断した。くそ。ばかじゃねえのか。
今となってはマルコは俺よりも断然でかい。どうしてこうなった。
「なあジャン」
「やめろ……本当にやめろ……」
鉄板ネタじゃないか、って、お前今まで誰かに話したことあんのか。おい。
頭を抱えてごろごろとのた打ち回っているとミカサに名前を呼ばれた。
「ジャン、大丈夫。アルミンは未だに」
「うわああミカサやめて!!」
「先日女子トイレを教えられていたのは本当だから……」
主役のはずのベルトルトは、ベッドに腰掛けて、パーティーグッズのバースデーハットを被れないので横において、体育座りをしている。ふわふわと時折輪郭が揺れるので、笑っているのが分かった。ああ、そうだ、渡すものがあった。
「ベルトルト」
「うん?」
目が合うと、そのままの格好で首を傾げる。
「誕生日プレゼントだ、やるよ」
皆からだぞ、と笑ってマグカップを箱から取り出してやる。黒をベースに、白いウサギが一本線で描かれているものだ。エレンとミカサがこのウサギが良いと思う、と言うので選択肢がなかった。ベルトルトってウサギみたいじゃないか、震えてるし、丸くなるし、目の色が綺麗だよな。ミカサがエレンに同意するので俺も同意しただけで、エレンの言葉に納得したなんてことはない。断じてない。
「わあ、ありがとう」
届いたカードをみせたときと同じか、俺の贔屓目でなければそれ以上に、ベルトルトは嬉しそうにした。
ちょっとくすぐったかった。


飲み会の片付けをするのは、大体の場合がオレとジャンだ。二人共そこそこ飲める方だし、ジャンはセーブするのがうまい。
しかし今日はちょっと飲ませ過ぎたかも知れないなあと思う。ミカサとアルミンがエレンを連れて帰ってから(マルコはジャンを、とミカサは相変わらず凛々しかった)、またしばらく飲んだ。泊まるつもりだったから準備万端で、そもそもジャンの家にはオレやエレンが泊まるためのものがある。ついでにいえば、ベルトルトのための物も着々と増え続けている。ビーズクッション、コースター、今回はマグカップが仲間入りした。
「ベルトルト。オレは君の味方だし、君もジャンも大事に思ってる。だから伝えておく」
体育座りをした彼の正面に屈みこむ。ジャンがベルトルトの横に寄り添うようにして行き倒れているから、二人共動くことはない。今動けば、ジャンを起こしてしまう。
「……マルコ?」
ベルトルトは怪訝そうな声を出す。怯えているようにも聞こえた。
「オレは全部覚えてるよ。13歳のとき思い出した。そして、これは1回目じゃない。ベルトルトもそうだろう?」
地縛霊は返事をしない。否、できないのだ。灰色の瞳にオレを映して、息を殺している。
「だから分かると思うけど、ジャンは君を逃がせないし、死んだくらいで諦めるような奴じゃない」
「…………知ってるよ」
それならいいんだ、と彼に笑って、横に座る。ジャンが「んあ」と口を小さく開けた。よく寝ている。
ベルトルトのうなじには10センチ幅の傷が白く、部屋の照明に照らされて切り取り線のように浮かんでいた。君は一体何度の人生を生き、ここを削がれて死んだんだろう。
「よく頑張ったね、ベルトルト」
触れはしないのだけど、そっと腕を回す。ジャンの言う通りかすかに冷たかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
かつて巨人であり、仲間であり、同い年の少年だった彼は小さく震えて、そっと嗚咽を漏らした。泣き虫さん。
「オレは、また会えて嬉しいな。もう敵も味方もないんだよ」

ベルトルトは、もう逃げない。



✿ジャンは意外とすぐに怒る



珍しくも何ともないことだが、ジャンと一緒に学食に居た。そしてこれは珍しいことに、同学部の連中が何人か居た。1年次演習ではAクラスやBクラスになって分かれた、顔だけ知ってる組だ。オレたちはSクラスである。
「キルシュタインは良いとこ住んでるって聞いたぞ。俺、学校の近くに下宿してる友達が居てさ」
「ああ、まあな」
ジャンの部屋は6階で、なかなか見晴らしが良い。家賃も高い。もちろん、ジャンの部屋を除いて。
「そのへん幽霊が出るって噂なかったっけか」
オレはさりげなく席を立って、セルフサービスの飲み物を取りに行く。ジャンに友達が増えるのは望ましいことだ。
「まじかよ」
お蔭で安く済むんだぜ、金がねえからなあ、なんて言ってるけど、ジャンには出ていくつもりなんて全くない。
「安いならまあな」
「ええーでもよ、何かが化けて出てきたりしてさ」
「自殺だろ、気持ち悪い祟られそうじゃねえ」
ねえか、だったのか、ねえの、だったのか判別がつかなかった。最後の一言を言い切る前にジャンが弾丸のように飛び出して、食堂のテーブルを乗り越えるのと一緒に気持ち悪いと口にした相手を椅子ごと蹴り倒していたからだ。
「あー……」
速い。そして、完全にキレていた。ジャンは元々気が長い方ではないし、友だちは少ないし、それでも何となく話して何となく話を合わせて、そういう器用さを持っている奴だった。大抵のことはそつなくこなすから、都合の良いときだけ声を掛けられることもあるだろうに、ジャンが相手を雑に扱ったことはない。アドバイスもするし、喧嘩もそう多くはない。そのはずだった。
(こうやってぷっつりキレちゃうのは、珍しい)
マルコお前右手動くのかよ、色々困るんじゃねーのナニするときとか、と笑った相手に、中等部の頃だったと思うが、今と同じ速さで殴りかかったのだ。確か。残念オレの利き腕は左だよ、そう笑って軽く流す猶予もなかった。
生憎ベルトルトについてあんなことを言われればオレも助けてやる気は起きないし、ほどほどのところで止めてやろう。そう思っていたらアルミンが来た。
「ああ、アルミン」
「マルコ!ってあれ、ジャン!?」
「うん」
人垣の中心でマウントポジションをとったジャンは「なんつった、ああ?」とまさに相手の襟を掴んでいるところだった。たぶんそいつはお前が上に乗ってるからうまく声が出ないんだと思うよ、ジャン。
相手の顔の形が原型を留めないとなると笑い話ですまないので、さて、そろそろ止めなくては。
「ジャン、お前何してんだ?」
「エレンか」
アルミンが居れば、自然、エレンも居る。仲が良いなあ、相変わらず。ミカサも来るだろうか。
えれん、と一方的に殴られていた男子は咳き込みながら助けを求めるように手を伸ばした。
エレンもジャンも見向きもしない。
「あいつの話だ。侮辱された」
ジャンの声は静かで、低く、冷たい。
「自殺があった部屋なんて気持ち悪ぃって言っただけだろお!」

悲痛な叫び声が上がるのとほぼ同時にエレンが渾身の力で顔面を踏み付けたので、まあ当然だけど、笑い話ですまなくなった。


「エレン、学校で喧嘩はしないで欲しいと言った」
学食に来たリヴァイさんが寄ってきて(これから食事のチケットを買うところだったそうである)、ジャンとエレンの首根っこを捕まえた。お弁当を買ったミカサも合流して、ジャンとエレンの二人はリヴァイさんの研究室の罰掃除をしているところだ。僕とマルコはその場に居ただけだったのだけど、何となくついてきてお茶を頂いてしまっている。罰掃除という名の無罪放免であることを僕は知っていた(エレンはリヴァイさんと仲が良いのだ)。
「喧嘩じゃねーって。あいつは悪い奴だったんだよ」
「口よりも手を動かせよクソガキ」
リヴァイさんの声が飛ぶ。エレンが罰掃除をさせられていることでミカサの顔が恐ろしいことになっているけど、見ないふりをする。ジャンはちらちらとミカサを見ていて(怖い顔をしてるけど美人だからこその迫力なんだと思う)、ふっと相変わらず好きなんだなあ、と思った。相変わらずって、いつだろう。今年の4月から?でも、気持ちを伝える予定はなさそうだ。
「すみません、関係ないのにお茶まで頂いて……」
「いいのよ!」
にっこり笑ったペトラさんは院生さんで、リヴァイさんのゼミでティーチングアシスタントをしているのだという。僕は違うところに行くと思うけど、エレンはきっとこの研究室でリヴァイさんと過ごすようになるんだろう。予感ではなく確信があった。
「リヴァイさん、週末はお暇ですか!」
「口よりも手をと言っただろうクソガキ」
マルコは皆を見て楽しそうに笑っていた。
「何だい、アルミン」
「いや、マルコが楽しそうだな、と思って」
肩肘をついたマルコは僕を見た。見過ぎただろうか。エレンとリヴァイさん、時折ミカサの声が混じって研究室には響いている。
「うん。まあね、ジャンがベルトルトのことで怒ったのが何だか嬉しくて」
そういう奴だって知ってたけどさ、と眩しそうに目を細める。
「ジャンは周りが見えてるし、優しい人だと思うよ。地縛霊に対しても。……ベルトルトは、この間の誕生日でいくつになったんだろうね」
僕たちには分からないことだった。カードが届いて、誕生会を開こうという話になって。最初は好奇心で、地縛霊に興味があっただけなのに、僕は友だちになったような気でいる。
「今度、ベルトルトについて調べようってジャンと言っててさ。そのときはアルミンの知恵も借りたいな」
「それは、もちろん」
身を乗り出したマルコにちょっと面食らいながら頷いた。机の向こう側ではエレンが何とかリヴァイさんの予定を聞きだすことに成功している。
「ジャンとアルミンの組み合わせは相互補完が出来て完璧だと思うんだ」
「……ジャンは僕よりマルコと一緒の方が喜びそうだけど」
思ったことを正直に伝えたら「あれはオレが居なくても大丈夫だよ」とマルコは紅茶を飲み干した。
箒を持ったジャンから声が飛ぶ。
「マルコ!お前も手伝えよ、分かってて観てただろ!」
「はいはい」

ねえマルコ。きっとジャンは、君が居なかったら寂しくて壊れてしまうような、それでも死ねない、優しくて強い人だよ。
なんとなく、そんな気がするんだ。



✿喧嘩するほど



「あっ、ああ、やだ、ジャン、まだ……」

雑誌を読むのは俺の方が速いわけで、こういうことはごくまれにある。雑誌はどちらかと言えば興味がない部類らしい我が家の地縛霊だが、もはや文字ならば何でも良いらしく読んでいるときには覗き込んでくる。ベッドの横からだったり、枕だけ降ろした床の上だったり。
「まだ、ダメだってば……」
ページをめくる手を止めろと言われているのだが、何だってこんなに言い方がエロいんだろう。一人暮らしであるはずの俺は右手が友達な上に場所はトイレである。実家に居た頃より条件が悪い。なんといっても俺の城のメインにはベルトルトが居るのだから。
「どうして欲しいか言ってみろよほらベルトルトさんよお」
悪ふざけして声を掛けると無表情なベルトルトの視線に射抜かれる。
「大層賑やかなご様子でいらっしゃいますところ誠に恐縮でございますが」
「怖えよ!」
「じゃあ静かにしてて」
ご要望にお応えして、ベルトルトが読んでいる間に飲み物を継ぎ足しに行く。地縛霊専用のマグカップのウサギがこちらを見ている。二人分追加だ。すっかり2杯注いで2杯飲む癖がついてしまった。
大きな身体で雑誌の前にまあるくなって座っているので、本当にでかい犬みたいだな、と思う。
うなじの傷が見えた。長袖長ズボンを着用した幽霊の、腕やら脚の傷を俺は知らない。ここだけが目に見える傷だ。
大事にしたいとどうしたらいいが半々で混ざり合って、俺は少し呆然とした。早く調べなくては。天罰なんかが下る前に、さっさと幸せにしてやらないと。
「……ジャン?」
立ちつくしたままの俺に、ベルトルトが声を掛ける。
「めくっていいよ」
「へいへい」
隣に腰掛ける。ベルトルトの方にウサギのマグカップを置いて、自分のものをテーブルの上に。
「むしろめくって!はーやーくー!」
「だあああ分かったから!黙れ!」


誰とも約束のない休みは、ゆるゆると過ぎる。
だから、こういうのは珍しい。俺とベルトルトは盛大に喧嘩をした。


「何なの、二人共馬鹿なの……?」
マルコの言うことはもっともだ。
「ジャンの馬面馬鹿!もう知らない!」からの金縛り、という地縛霊渾身の攻撃を受けて俺は一日絶食状態だった。
ベルトルトの金縛りは、驚くなかれ、声も出ないのである。
馬面馬鹿って何だよ。意味が重複してるようでしてないようでっていうか馬面は気にしてるって言ったろ。そんな恨み事を口の中で呟きながら、朝は昼になり、昼は夜になった。いい加減腹が減って死にそうなときに、マルコがうちのチャイムを鳴らしたのだった。
「あのねベルトルト、いくらジャンでも金縛りで1日絶食したら衰弱するからね」
いくらジャンでもって何だ。
俺の言葉にはぷいとそっぽを向いたベルトルトだったが、マルコが声を掛けると目を伏せた。幽霊のくせに俺に金縛りをくらわせている間中ずっと泣いていたので、泣き腫らした目をしている。
「めっ、だよ」
何歳児に怒ってるんだという言葉が親友から飛び出したので思わず口をはさむ。
「うちのババァでもそんなこと言わねえぞ」
「ジャン、お前もベルトルトが物に触れないの分かってるだろ。何で煽るようなことを言ったんだ」
「ぐっ」
マルコには何の本を読むかで喧嘩した、としか伝えていない。事実はもっと簡単で複雑である。
俺は官能本を読むことも出来ず(トイレに長く籠っているとベルトルトが心配で声を掛けてくるのだ)、かといって文庫本を読む気にもなれず、ベッドの上でだらだらとレジュメをめくっていた。ベルトルトが続きを読みたいと言った物語を、俺は全く読みたくない気分だった。
読まねえ、どうして、そんな気分じゃない、たまにめくってくれたらいいからお願い、うるせえな。ここまでがワンセットだ。
トイレでのタイムリミットが15分になったことが思い出され、トイレットペーパー入れの一番奥裏側に挟んである官能本が頭を過った。
どうして、に返した「お前には関係ねえだろ、エロ本だったらめくってやるよ、ああ!?」はどう考えても余計だった。俺も悪い。俺の馬面馬鹿。
「……俺は悪くないからな」
いや。俺も悪い。自分で言って心の中で突っ込む。1日中金縛りをされていたので最早引っ込みがつかない。
マルコは溜息を吐いて、ベルトルトにひそひそと耳打ちをする。
「じゃあ、そんな感じで。オレはちょっと炊飯器をセットしてくるから。いいね」
あいつはもう同級生でも幼馴染でもねえ、完全におかんだ。
ベルトルトはベッドの上で腹が減って動けない俺を、体育座りをした格好で下から見上げる。上目遣いだ。
「……ジャン、おこなの?」
「おこだよ!!!」
空腹を顧みず俺は起き上がった。ミカサの黒髪や黒い瞳とは違う、ベルトルトのそれ。もしかしたら俺は黒髪黒眼に弱いんじゃないだろうか、と自分の好みを分析してしまう。たぶん間違っていない。
「ふざっけんなかわいこぶりやがって許すと思ってんのか!許すわ!!」
ベルトルトはふにゃふにゃした顔で笑って、ごめんね、と謝った。ベルトルトはネットスラングに詳しくないらしく、全くマルコの入れ知恵が的確過ぎて恐ろしい。

マルコお手製のお粥を食べながら「ごめんなさい」は、俺も強制的にさせられた。
マルコママと呼んでやろうかと思う。怒られるから、心の中で。



✿ごり押しも大事



決行日が決まった。その名も「大家にごり押ししてベルトルトの個人情報を喋らせよう大作戦」だ。
アルミンとマルコ命名で、ネーミングセンスがアレな上にストレートすぎる気がする。俺とアルミンとマルコ、3人で閉店ギリギリの不動産屋に押し掛けて個人情報を吐かせる。不可解な心霊現象に困っているという設定以外の流れはその場のノリ、俺は困っている設定と人相的に口数は少なめで居ること。以上。暴言を吐かれている気がするのだが。
「オレは明日定期検査で病院だから、今日の夜なら手伝えるしね」
「お前人の良さそうな顔してるから嘘を吐くとは思われねえな。本当にお人好しだし」
混雑が落ち着いた学食でごそごそと作戦会議をしているとエレンが「ベルトルトは祟らねえよ」とのたまった。
「ちょっとオーバーに表現するだけだろ」
エレンが作戦から外れた理由は、リヴァイさんと出掛けるだからである。デートかよ、と揶揄すればミカサ同伴だけどな、と返される。本当にデートじゃねえかこの野郎。
「まあまあ。悪人面で目つきが凶悪なのが2人もいたらいくら僕とマルコが居てもフォローしきれないよ」
「アルミンお前は言うことがえげつねえ。暴言スタンプカードとか作ってやろうか本気で」
暴言を1度吐く毎にスタンプが1つ増えるような。ペナルティを課していいくらいだ。


ともあれ、ベルトルトに勘付かれないように現地集合となった。
「行ってらっしゃい」
はっきりした輪郭の、きちんと脚もある(しかもやたら長い)地縛霊は玄関まで俺を見送りに来た。色々調べてみたが、こんな幽霊の記述はなかった。姿形がはっきりしている、とかなら分かるのだけど。
「今日は外で飯食ってくるからな」
「うん」
こいつが言うところの天罰の前に、悔いを残さないように、幸せにする。俺のために。
やりたいこととするべきことを確認して外に出る。蒸し暑いのに風があると涼しくて、何だか秋の匂いがした。
向かいのファミレスで張り込み宜しく夕飯を食べ、午後8時半を過ぎたところで立ち上がった。


「夜な夜なですよ。金縛りもされて」
「祟ってやるって。あんまり友人が怖がるので僕たちも一緒に泊まったんです」
「そしたら名乗ったんです、自分はこの部屋に住んでいたベルトルトだって」
マルコとアルミンの滔々とまくしたてる話し方は追い込み漁に近い。
「そんな、ぎりぎりのところで助かったって……」
追い込まれた不動産屋が仰け反って漏らした言葉に、俺は一瞬怯んだ。
「助からなかったんでしょう」
アルミンが間髪入れず答える。相手に何も考えさせない気だ。もちろん、俺にも。
「悔いを残さず葬送するためにも、何かヒントになることはありませんか」


「救急車か……部屋は保護者が引き払った、と」
「あとは分からないなあ」
死んだのは病院に着いてからかもしれない、とお互いに思っているのが分かった。まだ息があって運ばれたベルトルトは、病院で息を引き取った。本人は部屋で死んだと思いこんでいるから外に出ることが出来ない。
「最近の個人情報管理は厳しいからねえ」
たった今口を割らせた奴らが言う言葉じゃねえと思ったが、言わないでおいた。
「マルコのスルースキルは凄いよね。ジャンは何だかミカサやベルトルトと一緒に居るときふわふわしてない?」
心の中のアルミン暴言スタンプカードに1つ押しておく。
「幸せをお裾分けしてもらえる感じのふわふわ感だけど」
「エレンと居るときイライラしてんのなら認めてやるよこのお人好し共」
そうかい、とマルコは気にする様子もなく首をかしげる。
「ジャンはオレにお人好しって言うけどさ、お前の方がずっと優しいし、一生懸命だし、ちゃんと相手に思ったことを伝えられるだろ。昔から好きだよ、そういうところ」
恥ずかしげもなく、さらりと。
何となくこうなることは読めてたしね、と胸を張るマルコにアルミンがおお、と感嘆の声をあげる。
「ジャンが照れた!凄いよさすがマルコ!」
「どういう意味だアルミンこら!!」



✿バレても良い秘密というのがありまして



隠し事はしない主義なのだけど、オレはジャンに内緒にしていることがある。

ひとつめ、前世までの記憶。
訊かれないから言わないのだ、というスタンスで13のときから黙っていることだ。右半身の麻痺が出始めた頃に思い出した。例えば、かつての自分を覚えていること。ジャンと親友だったこと。俺は毎回先に死んで、皆を泣かせたこと。その他もろもろ。

ふたつめ、ベルトルトのこと。
そして今回、不覚ながら増えてしまった。カードの他に、一緒に送られてきた手紙。ポストを最初に確認したのがオレで良かった、と思う。

そちらの暮らしはどうですか。そのうちまた連絡してくださいね。夏季休暇の間はどこで過ごす予定ですか。ライナーとアニに貴方の住所を教えました。どうしてもと頼まれたの。勝手にごめんなさい。きっと夏季休暇に会いに行くと思います。知らせておくわね。

まとめると、こうだ。
ライナーとアニの二人は、この転送される前の住所を教えられたんだろう。二人の記憶があるにしろ、ないにしろ、ベルトルトの詳細が分からない以上はジャンに会わせるわけにはいかない。過保護かもしれない、というのは自覚してる。
調べてみたところ、差出人はどうやら児童養護施設の元職員だ。
……ああ、ベルトルトにも関わってくれる人が居たんだ。良かった。そう思ったけど、そんなに強い繋がりでもなかったらしい。
ライナー、アニ。この二人に比べれば。名前の部分をそっと撫でる。紙はすべすべとしていて、インクの部分だけ凹凸が分かる。
「覚えてなくてあの執着、だからなあ」
地縛霊だろうが何だろうが、大事な人を離さない親友を思う。
(さて、どうしようか)
書類を受け取って、次の受付に移動する。定期検査はなかなか面倒だ。今日の分は、ひとまずこれで終わり。
「検査棟の間に病室棟を増やしてあるなんて知らなかった……遠回りだなあ……」
増築された病棟の廊下を進む。病院特有の消毒液のにおい、慣れ親しんだ空間。真新しい病室の名札を辿りながら先に進む。
昔の知り合いが居るかもしれない、なんて思いながら、もはや癖に近い。


ベルトルト・フーバー


その、文字。手紙で確認した綴りを思い出して、生まれ変わったことを思い出してから、あれはドイツ系の名前だな、と思った記憶まで一緒に蘇る。
「……え?」
面会謝絶と掲げられた札なんてあってないようなものだった。病室の鍵がかからない作りになっていることを、オレは知っている。
がら、と開けた病室には窓から光が差し込んでいた。ぴ、ぴ、ぴ、ぴ。規則正しい心拍数を示す機械音。
ベッドへ一歩踏み出す。誰かが寝ている。
右半身がやけに痛い。ずきずき痛んで、マルコ・ボットが知らせている。ここに居るよ。間違いないよ。


「ベルトルト」


ベルトルトが、居た。

通常より大きめのベッドの上、眠るようにしてそこに在った。機械に繋がれたベルトルトは偽物のように見える。片腕だけブランケットの上に出されていて、上腕部に真っ白な傷が見えた。
(……ああ、本物だ)
ベルトルトは自分が逃げ出さないように、自殺する際に自ら脚の腱と腕の筋肉を切ったのだとジャンから聞いた。
かつて犯した罪の重さや、エレンの言葉や、きっと色んな事があったのだろうけど、彼は死に損なって、生きていた。
此処に、居る。
「……良かった」
君が生きていてくれて、本当に良かった。

(ジャンに、しらせなきゃ)

「やあ、その子の友だち?お見舞いの人なんて初めて来たな」
朗々とした声が響いて、振り返る。
基本的に面会謝絶だからかなあ、勝手に入れるんだけどね、と不思議そうに首をかしげる女性は白衣をまとっていた。
「すみません、勝手に入ってしまって。……担当の先生ですか」
さりげなくベルトルトの頭上、識別票の担当医を確認するけれど知り合いではない。知らない名前だ。
「ああ、いや。私はその子の家族……にあたるかな?」
「かぞく」
家族だと。息子の死も知らないような?いや、正確には死んでいない、のだ。そもそも手紙は転送されてきたのだから、家族から送られたはずはない。それでは、そこに住んでいたはずの人たちは?
ゾエ先生、と廊下から響いた看護師の声に思考は停止する。
「きちんと休まれてくださいね、午後からお休みでしょう。ハードワークなんですから、体を苛めては……」
「だーいじょぶだって!モブリットもちゃんと休みなー」
おいでおいで、と扉の向こうから手招きされる。
「こっちおいで、ここだと怒られちゃうぜ」
「……はい」

さすがにこれは、抱えきれない。



✿ベルトルトのはなし



ネームプレートに書かれた名前はハンジ・ゾエ。調査兵団の上官で、この名前を見かけたことがあると思う。
白衣を着たままオレが検査結果を受付に提出するのについてきて、「ゾエ先生、患者さんに迷惑かけちゃだめですよ」と声を掛けられていた。気安い人であるらしい。
「私、夜勤明けで午後から休みなんだ。お話しするかい?」
「はい。ですがどうしても、お話しを聴かせなくちゃいけない友人が居ます。此処に呼んでも構いませんか」
眼鏡の奥の瞳はじい、と少し低い位置からオレを覗く。女性にしては背が高いのかもしれない。
「もちろん。君がそう言うならその子は呼ばなければいけないんだろうね、マルコ」
「……あの、私、名乗ったでしょうか」
「敬語は要らないって!それに君、此処では有名人だからなあ!」
休みの度に小児科に来て、子どもたちと遊んでくれるだろ。「マルコお兄さん」、そういう評判は病院内において非常に重要だよ。知っているだろうけどさ。
一息に喋って、にこにこと笑う。オレは少し面食らって、説明には納得した。ボランティアサークルに所属している。自分が入院していたこともあって。
「倉庫が一つ空いてるからそこにしよう。携帯使って大丈夫だよ」


「ジャン。すぐ来て。オレの通ってる、そう、病院。今すぐだ」
可及的速やかに、最優先事項で。そう言い切ってしまえば、親友の行動は早かった。
立ち上がった音と同時に適当な荷物を掴んでいるのだろう、ばたばたと電話の向こうで音が響く。
本当に火急でなければこんな呼び方はしないというのもあったし、その点に関しては絶大の信頼があった。
「分かった。待ってろ。お前の命に関わるとか、そういうんじゃねえんだな」
「大丈夫だよ。その点は大丈夫」
「なら良かった。一旦切るぞ。ベルトルト、行ってくる」
ベルトルトの声は、携帯電話では聴き取ることができない。
音が途切れるのと同時にお待たせしてしまってごめんなさい、と彼女に謝った。
「構わないよ。彼が来るまで少し眠るけど、構わない?」
「はい」
「人払いはしてあるんだ、これで私意外と偉いからね。2回話すと君が疲れるだろうし」
だろうし、と言い終わったときには眠っているようだった。凄い集中力だ。

(さあジャン、お前次第だよ)


場所だけ書かれたメール通りに、病院の中で「倉庫」とプレートのさがった部屋をノックする。ドアが開くのと同時に引きずり込まれて、俺は後ずさった。
「先に自己紹介しておこう。改めまして、私はこの病院で医師をやってるハンジ・ゾエ。まあポジションについてはどうでもいいんだけど、君たちはベルトルトの友人、だよね?」
「……はい」
不可解な質問に、頷く。
マルコの姿が見えた。おそらくこの病院に運び込まれたことをあいつは発見したのだろう。仕事が早い。この人は担当医か何かだったんだろうか。
「それでは、あの子の話をしよう。お茶ならあるよ」
マルコに手招きされて隣の椅子に腰掛ける。
「ベルトルトは捨てられ子だった。児童養護施設に入り、そこからベルトルトを引き取ったご夫婦は交通事故で亡くなって、おそらくそれがきっかけだったんだろう。彼をこの世に繋ぎとめるものはなくなってしまった。一人暮らしを始めていたベルトルトは、自殺を図った。どんな方法か知ってる?」
「話だけは」
そっか、と彼女は頷いて話し続ける。

管理人さんが部屋に入ったときにはまだ奇跡的に息があって、救急車が呼ばれた。部屋の中は凄惨だったそうだよ。血塗れで、何と言っても四肢のうち利き腕以外は筋肉が包丁で切ってあった。物は綺麗に整理されていて、ほとんど家具もなくて、遺書が見つかった。事件性はないと判断された。
私は、この子が運び込まれた救命救急で初めてベルトルト・フーバーに会った。
死にかけの、身寄りがない自殺志願者を必死で助けようとするのは私くらいのもんだったけど、呼び掛けた言葉にごめんなさい、って唇が動いてさ。ああ、この子だ、と思った。何かは分からないけど。小康状態のときに病院を抜け出して養子縁組で引き取ったんだ。その方が色々と面倒臭くないしね。そうか、君はベルトルトっていうのか。独りぼっちは、私と一緒だ、って。
1度は心臓も止まったよ。この1年植物状態で、容態は良くも悪くもならない。それでも、あの子は生きてる。

「生きてるんだ。素晴らしいことだよ。さて」
ハンジさんは勢い良く立ち上がって、俺とマルコの手を引いた。
「マルコと、ええと」
名前を問われているんだと気付く。頭がぼんやりして、がんがんと響いている。
「ジャン・キルシュタインです」
「それではジャン。ベルトルトに会いに行こう」
外れないようにだろうか、バンドで止められた眼鏡のレンズの奥で彼女は笑った。

マルコの病室を見舞いに訪れたとき、こんな感じだった。どこまでも白い廊下を進む。マルコ、と呼べばまた来てくれたの、と嬉しそうに笑っていた。病院は、少し怖い。
(ベルトルトが、生きてる)
あいつ地縛霊じゃないのかよ。さっきまで一緒に居て話してたのはじゃあ、何だ。金縛りしてきたり、絶対に触れなかったり、困ったように笑いかけるあの不安定なものは、何と言う存在になる。
俺がふらふらしているのに気付いたのか、マルコがぽんと俺の背中を叩く。
「しっかりして」
「ああ」
病室に入る。ベルトルト・フーバーの文字。あんまり信じられないので遅れてきたエイプリルフールの可能性を考えなくはなかったが、それにしてはおおがかり過ぎた。
蛍光灯の灯りがわざとらしく物を照らしていた。偽物のように見えた。

「……は、まじかよ」

ここ数カ月、一緒に暮らしている姿があった。

ベッドは大きく、やっぱり実体があって体育座りしてねえと存在感が違うな、なんて考えている。
艶やかで柔らかそうな黒髪、夜明け前の色をした灰色の瞳は閉じられたまま。そっと頬に手を伸ばす。
さわれた。

「……あったけえ」

掌を合わせて、指を絡める。ひどく懐かしい感覚だった。

気付いたらベルトルトを泣き虫と笑えないくらいに泣いていたので、マルコには頭が上がらない。どん引きしなかったあの人は良い人なのかもしれない。俺とマルコと連絡先を交換していたけど、マルコとする必要はあっただろうか。
「おいマルコ、誰にも言うなよ、俺が泣いたとか……」
「言わなくても顔見たらバレるよ」
マルコは俺と目が合った瞬間に吹き出した。そんな酷い顔してるのか。
「ベルトルトに、どうする、言うか」
少し落ち着いたら気になることがいくつか浮かんできた。言うか言わないか。知っているか知らないかで言ったら、多分あいつは知らないんだろう。だったら「生き霊のベルトルトです」と名乗るような馬鹿正直な奴だ。
「急がなくても良いと思うけど、帰ったらまずちゃんと居ることを確認して、明日あたり言ったら?オレも居たが良い?」
「……お前が居た方があいつ、俺の話を信じる気がする」

ひとまず帰ったらお帰り、と言うだろう地縛霊にただいまを返して冷たい身体をぎゅっとしてやらないといけない。
何せ、大事なルームメイトなもので。 
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2013/08/28 00:00 | 進撃(SS)

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