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2024/09/29 10:19 |
初恋未満【ミカベルミカ】
命の鎖が見えるミカサと、ベルトルトの話し。
●12巻までのネタバレ注意●


ミカサとエレン(ミカエレミカ)、山奥組(ライベルライ)のペアリングです。
31日はベルミカの日!13日はミカベルの日!1月31日は、ミカベルミカの日です。



拍手[2回]





人には命の鎖がある。


エレンもアルミンも視たことがないと言う。私にそれが視えるようになったのはエレンと出逢ってからだから、エレンは見えるかもしれないと思っていたのだ。昔は。今ではそんなものは「ない」と私は知っている。
あのとき。巨人がシガンシナ区へと入ってきたあのとき、首元にネックレスのように在ったカルラさんの鎖は短く、もうほとんど見えなくて、私はそれを信じたくなくて、逃げなさいという声に首を振った。やだ。いやだ。

エレンの鎖は、カルラさんと同じように首元にある。装飾品のようで美しい、と思う気持ちと、切り取り線のようで恐ろしい、という気持ちが私の中では一緒くたになっている。

エレンと喧嘩をしてしまって、することがない。アルミンは街中にあるという区の図書館にマルコと連れ立って出掛けてしまった。二人の鎖の長さは変わらなかったので、危険はないと信じている。鎖は嘘を吐かない。エレンの自主訓練に付き合う予定がなくなってしまったから、さて、どうしようか。ずっと立っているわけにはいかないし(やってみたことはないがおそらく不可能ではない)、ずっと男子宿舎の前に居るのもおかしいだろう。図書室に行くべきか、自主訓練をしておくべきか、少し途方に暮れて、目の前をベルトルトが通り過ぎるのを見送った。
じゃらじゃらと鎖を鳴らして、ベルトルトは歩いている。日々物事の影響を受けて長さが変化し、身体のどこかに繋がる鎖。ベルトルトの場合は足枷よろしく足首に繋がっているのを視て、私はああ彼らしい、と思った。
片手には免罪符のようにいつも持ち歩いている本があって、それを持ったまま出掛けるのだろうかと不思議に思う。
「ベルトルト」
男子宿舎裏の森に入ろうとしたところで声を掛けると、ベルトルトはびくりとして振り返った。
「ミカサ。どうしたの」
「用はない。貴方はどこに行くのだろうと思って」
本を持ったまま、と付け加えた。少し眉を下げてうーん、と彼は思案する。私は女子の中では背が高い方なので、話し相手が下を向いても表情が伺える、という相手は珍しい。
「……この奥に大きな、気持ちの良い木影を作る木があるんだ。この時期は一面花畑でさ」
「そう」
「そこで本を読むつもりだったから……ミカサは、ええと、ジャンには会わなかった?」
見ていなかった。正直にいいえ、と首を横に振るとベルトルトは少し笑った。あんなに意気込んでたのに、と。
「なぜ?」
「何となくね、ジャンは君と話したがっていたような気がしたんだけど。気のせいかも知れない」
ジャンの鎖は最難度の立体機動装置を扱う演習であっても、短くなることはほとんどない。立体機動装置が得意なことを差し引いても、エレンがあのくらい慎重であってくれたら良いのにと思う。ジャンの言う死に急ぎ野郎というのは言い得て妙だ。エレンは訓練があるごとに鎖を短くしてはひやひやさせる。ジャンもエレンと同じ首近くに鎖を持っていて、だからこそそう思うのだ。エレンは本当に、私の傍に居ないと、早死にする。
ベルトルトは無言でひとつ頷いて、「一緒に来る?」とふにゃりとした顔で笑った。

一面の花畑は、シロツメクサのそれだ。ふかふかとした、草原と言って良いような広さに敷き詰められた花畑はまるで絨毯のように見える。エレンと薪を拾いに行った思い出の場所には、及ばないけど。
「……凄い」
一面の花畑に素直に溜め息を漏らすとなぜかベルトルトが凄いだろう、と誇らしそうに言う。
「ライナーも連れて来たことがないよ。まあ、言う機会がなかっただけなんだけど」
ライナーの鎖は、足首にある。ベルトルトが右足にあるのに対して、ライナーのそれは左足だ。アルミン曰く、アンクレットには左足に付けると護符や安心、右足には自ら望む力をより強める、という意味があるという。アクセサリーと同じ扱いにするのはおかしいけれど、彼等らしい、と思った。それと同時にお互いを繋いでいるのだろう、と。
「今日ライナーは、一緒に居ないの」
腰巾着と揶揄されるベルトルトだけれど、木偶の坊ではない。四六時中一緒ってわけじゃないよ、とベルトルトは応える。
「……貴方は、誰かを守りたくて、守ろうとしている人だろう。私は勝手にそう思っていた」
「……それは買い被りすぎだ。僕は君ほど強くはない」
エレンが聴いたら怒りそうだ、と思う。案外ベルトルトは私と同じように、話すのが苦手なだけかもしれない。物静かなわけじゃなくて。
「戦うだけが強さじゃない……力だけでは、何も守らせてもらえない」
「……えと。エレンと、何かあったの」
ぷつんぷつんと途切れる会話は、決して居心地が悪いものではなかった。
「エレンに怒られた。喧嘩をしてしまった……」
俺はお前の小さな弟じゃねえんだぞ。エレンは金色の目をぎらぎらとさせて私に言った。そんなこと分かっている。でも、エレンは私の家族だ。大事だから、大切にしたいから、心配させて欲しい。エレンは怒ってご飯を掻き込むと付いてくるなよミカサ、と言って男子宿舎へと引っ込んでしまった。
「心配させて欲しかった、だけだった。きっと、私のやり方がいけなかった」
それが当たり前になってしまうよね、とベルトルトは低い声で囁く。幼馴染ってそんなものだよ。
持ってきた本は読まないまま、近くにある花を茎からぷちんと千切る。ぷちん、ぷちん。風でそよぐ葉の音と、規則的な音だけが響いては止む。男性のものと言い切るには細い、少年と青年の中間に位置する指が茎を捻り、編んでいく。
「……器用だ」
私がぼんやりと眺めているうちに、ベルトルトの作った花冠はほとんど完成していた。
「得意なんだ、こういうの。ミカサもすぐに出来るよ、やってみよう」
そっと指を重ねて、花を折る。
花のついた茎を長めに切って、3本か4本で束ねて、茎のところに1本加えてくるっと巻いて。花をつめて、また茎のところに巻いて。これを繰り返して長くしていくんだ。輪にできるくらいになったら、別の茎で結んで、長くはみ出した分は輪の中に編み込んで。うん。上手。
ベルトルトの声は低くて耳に快かった。日が傾き始める頃には何とか花冠の形になった。
「完成!シロツメクサの花言葉は復讐、約束、私を思って、だ。この間図書室で調べたんだけどね」
花言葉までエレンにぴったりだ。
「……エレンとの仲直り、貴方に教えてもらった花冠と一緒なら、上手く言える気がする」
隣に座った彼は私の言葉にゆっくりと目を細めた。
「早く仲直り出来ますように」
ベルトルトの花冠が私の頭に載せられる。王冠のように。そっと髪を撫でる手。
「……ベルトルト?」
「あ、ごめ……」
つい、とベルトルトは目を伏せる。同じように座っていてもベルトルトの方が背が高い。不思議な感じがする。彼の手のひらは大きく、温かくて、ちっとも嫌ではなかった。カルラさんみたいだ、と心の中で思った。
「いいえ。ありがとう」
ベルトルトは目を細めて次の花を手折る。ミカサは強くて優しいね、と。
「喧嘩出来るってことは、大切な人ってことだよ。きっと、エレンにとっても」
「……貴方は?」
「僕には自分の意思がないから。喧嘩には、ならない」
それはとても寂しいことなんじゃないだろうか、と思う。ここに居る誰よりも背の高い彼は目が合うとゆっくり笑った。貴方には一体どんな景色が見えるのだろう。夜を閉じ込めた色をした瞳には私が映り込んでいる。
「ミカサならきっと守れるよ。大丈夫」
ぷち、と茎から千切られた花をベルトルトは器用に繋いだ。まるで鎖を編むみたいに。

私とベルトルトの、春の終わり頃の話だ。





肌寒い季節になった。寒い朝の空気は澄んでいる気がする。がさがさと森の奥に踏み入るとやはり、居た。此処に居るような気がしたので、当たったのは少し嬉しい。
「外は寒いよ、ミカサ。もっとあったかくしてこなくちゃ」
ベルトルトは慌ててカーディガンを脱いで私の肩に掛けた。まだ花は咲いていない。蕾すらない時期だ。もう一緒に此処の春を見ることはない。104期訓練兵団の解散は間近で、10位以内が確実なベルトルトは希望通り憲兵団へと進むだろう。
「エレンはきっと調査兵団だ」
全て口に出していないから彼にすれば脈絡のない言葉だろうに、ベルトルトは「ああ」と頷いた。そうだろうね。
「知っていた?」
「エレンは訓練兵団に入ったときから、決めていたみたいだったから。いつも言ってるし」
エレンはライナーやベルトルト、同室の仲間たちの話をよくする。浮いてばかりではないようで、安心した。適性試験の夜に初めて話したのだとエレンが言ったのを記憶している。
「いくら言っても聴いてはくれない」
「ミカサがエレンより何でも出来て、しかもエレンの世話を焼くから、きっとそれが不服なんだよ。ミカサは綺麗で小さな女の子だから…………」
かなりの間があった。じっと見つめるとベルトルトは言い終わるのと同時に赤くなって、次は青褪めて、冷や汗を流して、ころころと顔色を変えた。大きな身体を小さく縮こまらせている。何だか面白い。
「私は、104期生の中では1番強い、と、思う。貴方は私より背が高いけれど、私は平均身長より高いから、小さいというのには些か語弊がある」
「ご、ごめん、今の、僕、本当に無神経なことを言った……」
「でも」
遮る言葉を更に遮って、大切なことを伝える。
「ありがとう」
ベルトルトはくすぐったそうに顔を赤くしたまま笑って、ゆっくりと息を吐く。秋の光が反射して、瞳が深い緑色に光った。
「…………ミカサも調査兵団にするんだろう?」
「もちろん。エレンが調査兵団にするのなら」
「もう、会えないかもしれないね」
何と答えれば良いのか分からなかったので、私は黙った。しれない、というよりそれは確実なことのように思う。
「ミカサならきっと守れるよ。大丈夫」
いつかの春と同じ言葉を彼は言った。
「……ベルトルト、貴方も」
あのとき返せなかった言葉を渡した。何をしようと決めたのだろう。
「……うん。さあ、戻ろう」
拳を握ったベルトルトの鎖はするすると短くなった。憲兵団は安全だろうに、とそのときは不思議に思った。


トロスト区襲撃の、3日前。
私とベルトルトの、ほとんど最後の会話だ。それから彼が裏切るまでの時間、私たちが言葉を交わすことはほとんどなかった。調査兵団をえらんだベルトルトは不思議と捜せば目の届く範囲に居て、触れようと思えば触れられる距離に居るのだと、そう思っていた。


トロスト区に次々と巨人が侵入してくる。
エレンの首の鎖は、はっきりと短い。実戦なのだから当然かも知れないけれど、それはとても恐ろしいことだった。はっきりと拒絶される。私は、貴方が私の傍に居てくれるだけで、良いのに。
「悪かった……私は冷静じゃなかった……でも……頼みがある……1つだけ……どうか……死なないで……」
私を置いて行かないで。エレン。

「アニ!」
状況は何となくだが把握していた。その上で、私情を挟んで申し訳ないけど、エレンの行方が知りたかった。アルミンはエレンの班だ。
「アルミン……ケガは無い?大丈夫なの?」
アルミンの息は荒く、目を合わせてくれない。エレン。エレンは。
「エレンはどこ?」
「僕達……訓練兵……34班―――トーマス・ワグナー、ナック・ティアス、ミリウス・ゼルムスキー、ミーナ・カロライナ、エレン・イェーガー。以上5名は自分の使命を全うし……壮絶な戦死を遂げました……」
沈黙が耳にびりびりと響いて痛い。エレンが、と同期生たちにざわめきが広がる。まさか、エレンが。解散式の夜、エレンの言葉で所属兵団の志望先を変えた者は、多い。
「ごめんミカサ……エレンは僕の身代わりに……僕は……何も……できなかった、すまない……」
アルミンは小さく震えて、ごめん、と零した。左手の手首に巻き付いた鎖がしゃらしゃらと鳴って、短くなる。
「アルミン。落ち着いて、今は感傷的になってる場合じゃない。さぁ立って!」
何かしなければ。何か。今できる何か。何かしていなくては、死んでしまいそうだ。
「マルコ、本部に群がる巨人を排除すればガスの補給ができてみんなは壁を登れる、違わない?」
マルコは息を飲んだ。無茶だと上がる声に、言い切った。
「できる」
いつもは右腕から長く下がっているマルコの鎖も、髪留めのように覗くサシャの鎖も、私たちの皆の鎖が、短過ぎて見えないくらいだ。このままでは皆死ぬ。間違いなく。誰も残らない。
「私は……強い……あなた達より強い……すごく強い!……ので私は……あそこの巨人共を蹴散らせることができる……例えば……1人でも」
アニは空色の瞳を丸くして私を見ている。アニの太ももに巻きついているはずの鎖も、ライナーやベルトルトの足首の鎖もほとんど見えない。
「あなた達は……腕が立たないばかりか……臆病で腰抜けだ……とても……残念だ。ここで……指をくわえたりしてればいい……くわえて見てろ」
言うべきことは決まっているのに、伝えることは難しい。エレンから貰った言葉を紡ぐ。
「できなければ……死ぬだけ。でも……勝てば生きる……戦わなければ、勝てない……」
大丈夫。私なら、大丈夫。ああ、エレン、貴方の居ない世界など。





次はない。「次」なんてもう、 来ない。


ベルトルトはいつもと同じように、あるいはもっと嬉しそうに弾んだ声でライナーに呼び掛けた。壁の上。傷だらけで、それでも何とか生き残った仲間たち。
「そうだよ……ライナー、故郷だ!帰ろう!もう帰れるじゃないか、今まで苦労してきたことに比べれば後少しのことだよ」
聴いたことのない、はしゃいだ声だった。
貴方が守りたかったのは、ライナーでしょう?貴方には守れるの?私は。わたしは。

ベルトルトとの距離が心地良かった。

「ライナー……やるんだな!?今……!ここで!」
エレンの鎖がしゃらしゃらと軽やかな音を立てて短くなった。私の身体は意識するよりも速くエレンの敵を排除するために動き出した。私は私の身体を完璧に支配することが出来る。エレンは、死なせない。私に生きる意味をくれたエレンだけは。肉を削ぐだけの装置になって、私は仲間だった彼等を殺す。
「あぁ!!勝負は今!!ここで決める!!」
ライナーの動きを封じる。右腕を切り落とし、左腕にサーベルを一本、ダメだ。首じゃない。だけど、最優先すべきは超大型巨人だった。壁を壊し、カルラさんを殺し、私とエレンの世界を壊した巨人。化け物。人類の害。巨人化されでもしたら。
(夜を閉じ込めたような深い緑の瞳)
寒いよ、と慌てて肩にかけてくれた紺のカーディガン。そっと私の頭を撫で、ミカサは強くて優しいね、と囁いた手のひら。カーディガンを脱いだときに覗いた首筋。それら全てを斬り裂きながら、私はサーベルを振り抜く。エレンを守らなくてはならない。何に代えても。それが私の存在意義で、私に遺された唯一だった。ベルトルトの足首から下がる鎖は短くて、ほとんどない。大丈夫、私なら殺せる。首を刎ねろ。狙え。
(ミカサは綺麗で小さな女の子だから)
花冠。花で作った鎖のよう。ミカサならきっと守れるよ。大丈夫。静かに笑った顔。
あと一歩。
「……っ、」
ベルトルトが血溜まりの中で泣いていた。
「あぁ?あああ、うああああああ」
その、たった一歩が踏み出せなかった。
私とベルトルトの距離は、お互いを傷付けようとすれば傷付けられる距離で、それでも決して致命傷にはならない距離だった。刃を振り抜いてみて初めて、今更になって気が付いた。貴方が手を伸ばせば届くのに、私からはひどく遠い。
「ベルトルト!!」
ライナーに弾き飛ばされる。私の一瞬の躊躇いで、二人の鎖は長く伸びて、確かに繋がった。ライナーの瞳の色に輝いたそれが、ひどく美しくみえた。



分かっていたくせに。さんざん騙した彼等と共に歩む未来なんてないことを知っていたくせに。
誰よりも早く正しく勇敢な決断をくだしたミカサが、躊躇ったのが見えた。サーベルを振り切って、それでもなお置き去りにされた子どものような顔をしている。頬には傷。大切な人を守るためにできたもの。僕と彼女の守るものは違う。ミカサにとって僕は間違いなく敵であり仇で、僕にとっても敵なのに違いはない。

(……ベルトルト、貴方も)

ああ、神様。
弱くて卑怯な僕が、この役目を終えるまでずっと戦い続けられますように。
(運命に、抗い続ける彼女のように)
僕は正しく化け物の咆哮を上げた。爆風と雷鳴が響き、赤い肉に包まれる。



初恋未満
(美しく、強く、誰よりも優しい寂しがり屋の彼女が、これから先はどうか幸せでありますように)


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2014/01/31 01:03 | 進撃(SS)

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