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2024/09/29 10:38 |
喧嘩するほど何とやら【ジャンベル】

喧嘩をする不器用な二人の話し。

原作のベルトルトとジャンは絶対に喧嘩できないし、何も伝えてはくれない彼なので、現代のジャンベルが定期的に喧嘩していたら可愛いなあと思うのです。
ちょっと余裕のあるジャン×無自覚甘えたベルトルト。


拍手[2回]


 


「……ジャンはいつもそうだよね!」

立っていようと容赦なく頭上から降ってくるそれにびっくりして俺は同居人を見上げる。紛うことなくベルトルトの声だった。やたらと背の高い同居人は風呂から上がったばかりでタオルを首に掛けていた。近付いてくるとふんわりと石鹸の匂いがする。
「だいたいジャンはシャワーを浴びてから髪乾かさないで寝るし、プリンを食べたら容器はそのままだし、たまに燃えるゴミ日なのにゴミ出し当番忘れるし!」
俺は面食らった。おそらくベルトルトはこれまでの小さな、むっとしたことの積み重ねをずっと我慢していて、それが今爆発したんだろう、と思う。言いたいことをその場で言ってしまって、その所為で軋轢を生みまくっている俺には縁遠いキレ方だった。
「おい、ベルトルト」
口喧嘩は強い方だ。されどベルトルトにキレられるとは思っていなかったので、完全に反応が遅れた。
「出てって!」
ぐいぐいと背中を押されて部屋から閉め出される。ベルトルトは自他共に認める自分の意思がない系男子だが、力は強い。洒落にならないくらいに。それこそ「得意なのは身体を動かすこと」なだけある。同じ学部の女子たちが全会一致で「フーバー君って草食系男子って感じで可愛いよねえ」と話していたのを思い出した。どこが草食系だ。知らない女子に話しかけるくらいなら断食して死ぬような奴だぞ、たぶん。ベルトルトは人見知りが激しいのだ。命名するなら断食系だろう。仕草がくそみたいに可愛いとは思うのでその点は同意しておく。

そういうわけで、俺は今靴下のままでドアの前に立っていた。めちゃくちゃ寒い。部屋着代わりで着ている中学校の頃のジャージのポケットには携帯も入れてないから誰かに連絡もできない。すなわちマルコにSOSは出せないということで、お手上げだった。俺のSOS先少な過ぎじゃねえか。

「ベルトルト、おーい」

扉を叩いてはみるが、返事はない。
(何してんだ俺……)
冷たい玄関の扉に頭を寄り掛かって目を閉じる。このままの格好で近所のコンビニに行ってもいいが、此処から離れるのは得策でないように思う。そんな気分だった。靴下だし。近所のコンビニの店員(同い年の女子大生らしい)は今時珍しい黒髪で、それがなかなか綺麗なのだ。ミカサやベルトルトほどではないにしろ、自分の好みの相手に靴下で変人かよという印象は持たれたくない。
(そもそも此処に居なかったらベルトルトが機嫌を直したときに中に入れないじゃねえか)
連絡先としてライナーを考えなくはなかったが、ベルトルトを全力で甘やかす幼馴染は絶賛海外留学中だった。国際電話をかけたところでベルトルトの味方をするに決まっているし、全く話は進まない。ついでにいうと俺も家には入れない。ライナーの御指名と中学校からの腐れ縁により俺はベルトルトのルームシェアを許されているわけだが、好きな相手が自分以外の誰かに泣きついているところなんて見たくないのは当然だと思う。
考えているうちにだんだん眠くなってきた。これはいよいよ冬眠の兆しかもしれない、とアホなことを思う。

(あー……ねみー……)

うとうとしながらよく分からない夢を見た。ベルトルトはやっぱり夢の中でも怒っていた。







僕は怒っていた。
毎日少しずつ溜まっていく、ちょっとだけ気になっていたことを一気に口に出してしまった。ジャンはしばらくドア越しに僕の名前を呼んでいたのだけど(近所迷惑だ)、無視をした。小一時間ほどたった今、勢いだけで締め出した同居人の声はもうしない。
どこかに行ってしまったんだろうか。どこでもいい。どこかに行ってしまえ。

(……本当に?)

ジャンは自分を置いていかないのだと、何の根拠もないのに心のどこかで思っていた。見限られたのかもしれない、と思うとじわりと嫌な汗が滲む。元々考え方だってそんなに合うわけじゃない。
ライナーが長期留学をすると言ってわんわん泣く僕に「こいつなら問題ないだろ」とジャンを連れて来たのだった。中学校からずっと同じクラスで、高校も、大学まで一緒のクラスメイト。学部は違うけど大学から近い下宿を探しているのだと言った。ちょうど良いからルームシェアをしろ、とライナーが言った。ライナーが言うなら何ら異論もない。うん、分かった、と頷いた僕に「お前本当に自分の意思ないのな」とジャンが楽しそうに笑った。こんな風に笑う人だったっけ、と思った。ジャンは面倒見が良くて、僕が学部の集まりで遅くなったときも、ひどい風邪をひいたときもずっと世話を焼いてくれた。ライナーがジャンを連れてきたのがどうしてだか、一緒に暮らし始めてやっと分かった。僕はジャンの笑った顔が好きだった。

「……ジャン?」

小さく呼び掛けてみたけれど、返事はなかった。どこかに行ってしまったに違いない。どうしよう。どうしよう?
ぶわっと泣きそうになった。何とか堪えて、前に進む。玄関へ続く廊下から、名前を呼ぶ。もう一歩。

「じゃーん?」

やっぱり返事はない。
もう遠くに行ってしまったのかもしれない。そう思いながら扉を開けると足元で鈍い音が響いた。ゴンって。
鳶色の瞳が眠そうに僕を映す。座り込んでいたらしい。良かった。ジャンはどこにも行ってなかった。

「よう、機嫌はなおったか?」

焦っていたから、ひどい顔をしていたんだろう。なんだよ泣いてんのかよ、とジャンが尋ねた。
それには応えないままで手を差し伸べる。重なった手は恐ろしく冷えていて、コンビニにでも行っておけば良かったのに、と思う。僕は機嫌が悪かったわけじゃない。ジャンの生活態度に腹が立ったので怒って、少し心配になっただけだ。それだけだ。

「……何してんの」
「あ?……いつの間にか寝てた」

ジャンはふああ、と欠伸を噛み殺す。何をどうしたらそんなに図太い神経で居られるのか分からなかった。馬鹿なんだろうなあと思ってはいたが、まさかここまで馬鹿だとは。冷え切ったジャンを先に部屋の中に入れて、玄関の鍵を掛ける。かち、と響く音に安心する。ジャンがどこにも行きませんように。

「馬鹿じゃないの、こんな時期に風邪引いたら誰が看病すると思ってるのさ」
「お前だろ?」

ジャンは悪びれずいけしゃあしゃあとしている。腹が立つのと安心したのと一緒にきて、べしべしと背中を叩く。
馬鹿じゃないの。ばかじゃないの!!
胸が、ずきずき痛い。ジャンの所為だ。馬鹿のくせに生意気だ。痛えよ、と返ってきたけど無視する。僕の方が絶対に痛い。
テーブルの上には、ジャンが冷蔵庫から取り出したまま出ていったプリンが置きっぱなしで二個、並んでいた。とろけるおいしいプリン。どうして名前でこんなにハードルを上げちゃうんだろう。確かに美味しいけど。一つは間違いなく僕の分だ。
「ジャンの所為でプリンが溶けた……」
あー、とジャンは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「……複素芳香族化合物?」
「極性溶媒によく溶けるって?違うよ!カスタードプリン!プディング!僕の!」
「泣くほどかよ……」
プリンの所為にして僕は泣き出した。これはプリンがどろどろになってたから泣いてるんだ。
「……別に。泣かなくたって勝手に出て行かねえよ」
「……そうじゃない。泣いてない」

プリンの所為だ。
僕が泣いてるのは胸がずきずき痛むからじゃないし、ジャンが居なくならなくて安心したんじゃないし、ジャンが欲しい言葉をくれるからじゃない。

「泣いてるよ」
「……ジャンなんて嫌い」
「はいはい」
「顔も見たくない。声も聞きたくない。どこかに行ってよ」

泣いてるよ。君が好きだよ。声を聴いていたいし、傍に居て欲しいよ。
馬鹿なのは、僕だ。引きとめる言葉も言えないくせに。

「全部逆、だろ」
「……うう」

その通りだった。ジャンは機嫌を取るように手を伸ばして体育座りした僕の頬を撫でる。まだ冷たい。

「ほら、コート着ろ、プリン買いに行くぞ。買ってやるから機嫌直せよ」
ぐずぐずと鼻を啜りながらジャンに手をひかれる。
近所のコンビニのお姉さんは目を丸くして「大丈夫ですか」と僕に訊ねた。応えないでいると愚図ってるだけですよ、とジャンが笑って子ども扱いするので小さく蹴ってやった。

「ってえなおい!」
「僕のだからね」
「……ああ?」
ジャンは怪訝そうな顔をする。
「……プリン」
「分かってるよそんなん。誰も取らねえし」

プリンと、君の話。
そう言ったら君はどんな顔をするんだろう。







性懲りもなくエレンと殴り合いの喧嘩をして家に戻った。
大学生にもなって、と思わなくはないがいちいちエレンの奴が突っかかってくるのだから仕方がない。いつもは俺よりも遅いくせにベルトルトが珍しく先に帰っていた。面倒な、と思ったのがそのまま顔に出ていたのだろう。「たまには僕だって早く帰ってるよ」と同居人は唇を尖らせる。なんだこいつかわいい。

「で?何したの?」
「……そこで転んだ」
「嘘吐けよ」

紛うことなく嘘だった。ベルトルトの視線は冷たい。どうして分かり切ったことを訊くんだろうかと思わなくもない。

「エレンの奴と揉めただけだ」
「ミカサのことで?」
「ミカサは関係ねえ」

ごそごそとベルトルトは救急箱を漁る。消毒液と脱脂綿、絆創膏。絶対に痛い。そして予想通り痛かった。

「ジャンはなんでそんなに人間関係下手なの?損しまくりじゃない?生き辛くない?」
「うるせえお前にだけは言われたくねぇよ」

色んなとこで軋轢生みまくっている自覚はある。
しかしながらベルトルトにそれを指摘されると無性に腹が立った。本当に、お前にだけは言われたくねえ。

「僕喧嘩しないし怪我はしないから。ジャンよりマシだよ」
「なに?」
「なんだよ?」

また喧嘩をした。
お前らは本当に仲が良いなあ。どちらが正しいか判定してもらおうとかけたテレビ電話の画面の向こうでライナーが笑う。
そうじゃない!



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2013/11/24 06:03 | 進撃(SS)

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