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2024/07/01 19:06 |
死にたがりの君に生きたいと言わせたい【マルベル】
泣き虫の僕と優等生な彼の話し。
●11巻迄のネタバレ注意●

当然のように死ネタや捏造を含みます。諸々大丈夫な方のみどうぞ。
マルベルを布教出来たらそれはとっても嬉しいなって……
優男コンビでも、優等生コンビでも、モブ顔コンビでも、マイナスイオンが出ていると信じています。真ん中バースデー!何でもない日おめでとう!!

▼ライベル・ジャンベルジャン・マルジャンマル・ライジャン・アニベルアニ・エレベル・ミントルト(アルベル)などを含む作品と共通の萌え設備で製造しています。

※マルコ黒幕説はとっておりません※   


拍手[1回]





嘘でも良い、なんて、嘘だった。



「君が好きだよ」

君に惹かれている、と囁いたマルコは目を伏せた。ランプの灯りが睫毛にとまってきらきら光る。
図書室は静かだ。訓練兵団に入って一年も後半、徐々に増えるきつい実践訓練の後に本を読もうなんていう物好きはそう多くない。他に人の気配はなかった。誰かが途中で図書室に入って来てうやむやにしてくれる、なんて幸運は望めそうにない。頼みの綱のアルミンは今日の訓練でしごかれていたから、本どころではないだろう。
長椅子の上、周りから見えないところで指先が触れた。


「ベルトルトが嫌でなければ、手を握って」


マルコの触れたところからじん、と熱くなった。
逃げなければ、と思うのに、僕は逃げられない。思ったように身体が動かないのだ。逃げ道はあるし、見えている。手の届く範囲に。それが、ひどく遠い。マルコの瞳は深い色をしている。逃げられなくなる。

いけない、いけない、いけない。


「……マルコ」


こんなのはいけない。裏切りに等しい。僕たちは戦士だ。少なくとも僕だけは。そうじゃないとだめになる。
ごめんねって言うんだ。気持ちは嬉しいよ、ありがとう、それだけでいい。それで終わりだ。
なのに。ベルトルト、と僕を呼ぶ声があんまり優しいから。


「ごめんね」


僕は手を握っていた。
僕たちは人を殺してきたし、これからもきっと殺す。君のことも。それでも、離せない。今だけでいいから。
僕も好きだよ、と心の中で繰り返した。伝えてはいけないことだった。だから、ずっと胸が詰まっていて苦しいままなのだ。隠している気持ちまで溢れるようで、好きという気持ちの何と度し難いことか。


「好きになってごめん」


ベルトルト、と慈しむように呼ぶ声。謝らないで、嬉しいよ、ありがとう。マルコが喉を鳴らしてくすくすと笑って、何だか嬉しくて、と目を細める。ああ、見てはいけなかったのに。僕は深い鳶色の瞳に捕まった。泣いているのがバレてしまった。泣かないで、大好きだよ、マルコの言葉が惜しみもなく降り注ぐ。


「恥ずかしいよ……」


重ねた掌も、絡んだ指先も、触れた体温も、全て消えてなくなる。僕は知っている。人は死ぬ。
こんなことをしても、何もならないのに。
(僕は君に何もあげられないよ。それでも、いいの)

肯定されるのが怖くて、尋ねることもできなかった。







「君を泣かせた奴に容赦なんて要らない」

マルコが珍しく同期生にきつい対応(物理)をしていた理由を尋ねれば至極真面目な顔で応えた。
泣かせた、と言うのはかなり大袈裟な表現だ。彼の起こした砂埃が何人かの目に入った、よくあるアクシデントで。正確に言うなら涙が出たのは僕だけではない。
「お言葉だけど、君の方が泣かせてるよ」
告白を受けたときからそうなので、一応指摘しておく。確かに僕は涙腺が緩いし、感極まると泣いてしまうけど、それはそれとして。
「……そう?」
マルコは不思議そうに首を傾げた。自覚はないらしい。性質が悪いな、と思いながら嫌な気分ではなくて、そんな自分が不思議だった。自分じゃないみたいだなあ、なんて馬鹿馬鹿しい感想だけど。
「ライナーとジャンなら水汲み当番だよ」
尋ねる前に答えられた。
「……そうみたいだね」
重労働が重なってしまったのか、可哀想に、と思う。適度に手を抜くジャンはともかく、ライナーは戦士であれ兵士であれ真面目に訓練をしているのだ。元々そういう性格だし、頼れる兄貴分には情報が集まりやすいので、そういう役割をしている。僕やアニには難しい。
「ベルトルト」
「うん?」
同期生たちの中で、おそらく僕は一番背が高い。だから誰かに話し掛けられたときは屈むようにしていて、コニーやエレンがふざけながらシャワー室に入って行くのを見ながら、いつも通り屈んだ。
ちゅ、と可愛らしいリップ音と一緒に頬に温かいものが触れた。
「えっ」
思わず顔を向けるのと同時に首筋に両腕が回る。僕の方が高いとはいえ、マルコも小柄ではない。力もある。だから、背伸びで首筋に抱きつかれる、なんてことはないはずで。考えている間にもマルコは唇を重ねる。好きだよ、と笑みを含んだ声。
「マルコ!」
僕の非難の声はあってないようなものらしい。やめたい理由が人が来るかもしれないということだけな自分に気付いて、呆然とした。マルコは唇を食むだけ。少し焦れて舌を伸ばしたら、絡めて引き込む前に甘く噛まれて、僕はうわあだかひゃあだか、情けない声を上げてしまった。
「……そろそろジャンとライナーが戻るね。オレたちは先に浴びてしまおう」
つう、と互いの唾液が糸を引く。マルコは舌を覗かせてぺろ、と舐め取った。器用だ。
「……もう、君って奴は!」
不意打ちも初めてじゃないのに、慣れない僕が悪いんだろうか。マルコのスイッチはさっぱり分からない。
「続きはまた後でね」
それはもう正しく、悪戯っ子のように優等生の彼は目を細めて笑う。
「しないよ!」


……うん、まあ、結局僕が流されるに決まっているんだけど。


マルコの一人称が「僕」と「オレ」入り混じっていることに気付いて、何となく尋ねた。ライナーやジャンが使っているし、皆段々と変えているようだ。僕はうまく使いこなせないままで、多分これからもこのままだけど。
「……好きな人の前では格好付けていたいんだよ」
ああ、耳が赤い。そう思ったときにはたぶん僕も同じくらい顔が赤かった。マルコの温かい指先が絡む。

すきなひと。

僕はおかしかった。
演じているだけの兵士に、殺すはずの人間に入れ込み過ぎていた。僕たちは皆そうだ。
だから。

(殺さなくちゃ)

マルコ・ボット。冷静かつ現実的な洞察力と判断力を持ち、周囲への気配りやサポートも確実に出来る。作戦立案も担う。

(僕が、マルコを殺そう)

優秀な指揮官候補を、新兵のうちに、出来る限りたくさん。内地で人は死なない。
巨人討伐の主力部隊である調査兵団がいないのだ。この機会を活かすしかない。
そのはずだ。これは正しい選択だ。そうだろう、ライナー。アニ。べリック。誰か頷いて、その通りだと言ってよ。







いつも通り立体機動装置を正確に操ってベルトルトは屋根に降りた。
「大丈夫だった、19班班長さん?」
「君こそ」
言葉だけでふざけながら、ぎゅう、と薄い身体に腕を回す。
良かった。生きていた。生きていて良かった。
ベルトルトは優秀だから死なない、と自分に言い聞かせて信じこもうとする頭の隅っこで、冷静な自分が死んでいてもおかしくないだろうと嗤っていた。だってもう、僕は何人仲間が死ぬところを見た?


「ごめんねマルコ、ここで死んで」


かちりと響いた音、紡がれた言葉を理解する前に、長身のベルトルトを超える影が彼の背後に現れた。巨人だ。
「ベルトルト!」
咄嗟に反対方向へ突き飛ばしたけれど、さすがというべきか、反射神経の良いベルトルトは僕の右手を掴んだ。
がしゃん、と自分の立体機動装置の外れて落ちる音が響く。

ああ、この音は。その言葉の意味は。あのとき君が泣いていた理由は。
よくジャンからお利口さんだと揶揄されるくせに、僕は本当に察しが悪い。今更気付いたところで。一体何に。


「マルコ」


僕の好きな人が、僕の好きな声で、僕の名前を呼ぶ。
「……ああ」
左半身は巨人に掴まれている。確実に肋が何本かイった。僕はもう動けない。ぼくは、もうとべない。
「ベルトルト、死にたくないだろ」
離して、と笑って拳を握る。絡んだ指が外れる。僕が殺されている間にいつもの冷静なベルトルトに戻ってくれるだろうか。そうでないと君まで死んでしまう。君が死んで欲しいと望むなら、死ぬのが怖い僕が先に死んであげる。だから、その代わり、死にたがりの君は死なせない。

空が青い。咥内の赤さと歯列の白さ。視界を過る茶色の影。
斬撃の進入角度に非の打ち所がないと教官の覚えも良い、作ったような無表情で、どんな課題も与えられれば涼しい顔をして仕上げてみせた総合成績四位の少女。鳥のように飛翔して、回転を加える。

(もう間に合わないよ、でも、ありがとう、)

アニ。彼女の名前を呼ぶのとほぼ同時に、右半身の感覚を失った。ぶん、と勢い良く投げられたのだろう、視界が回る。不思議と痛みはなくて、泣いているベルトルトが見えた。泣き虫さん。本当だね、僕は君を泣かせてばっかりだ。好きだと伝えた日と同じような大粒の涙が落ちていた。


ああ、そうだ、僕はどうしても、
(死にたがりの君に生きたいと言わせたい)







全部覚えている。
右上半身が噛み千切られた姿。抱き締めた体温、僕の名前を呼んだ声、笑った顔、最期の指先の温度さえ。アニはマルコの立体機動装置を拾い上げて、あってないような持ち場に戻った。

だからこれは、夢だ。彼は僕が殺したじゃないか。


「生きてることそれ自体に意味があって、美しい景色や楽しい想い出が山のようにオレの心を埋め尽くしているんだけど、だからこそ。死ぬのは、怖いなって、思うよ」
マルコ・ボットは良心とそばかすで出来ている、と彼の親友はよく言った。あながち間違っていない、と僕は思っている。こんなに正直に物を言うのに皆から愛される人を僕は他に知らない。
「マルコは正直者だ」
「ベルトルト、君は?」
「さあ……少なくとも、僕は生きるのも、怖いよ」
君らしい、とマルコは笑って立ち上がった。
「オレは君と憲兵団に入らなくちゃいけないからさ。何としても、生きて」
そんなに人や世の中を信じて裏切られても知らないよ、と彼に囁く。自分に言い聞かせるように。


君は僕を信じているのだと言うなら 例えばの話
僕が君を裏切ってしまっても同じ台詞を吐くことが 出来る?


眩しそうに眼を細めて、マルコは僕を見つめる。


「オレの知ってるベルトルトはね。優しくて、卑怯な人だ」


「……あ」
呼び掛けた口を閉じた。
マルコ、と声に出さないよう口の中で名前を紡ぐ。隣で寝ているジャンが僅かに身じろぎした。ああ、さすが、君はよく分かっている。まだ知らないだろうけど、気付いたらきっと僕たちを正しく断罪しようとする人だ。親友の仇を討つために。マルコは何か彼に伝えたのだろう。だからジャンは変わったし、こうして調査兵団に居る。マルコの言葉は人を縛る。
調査兵団に所属して与えられた部屋には空いたベッドが目立つ。すぐに誰かが居なくなるから。僕たちは失った隙間をすぐに埋めることが出来ないから。
指先に残ったあの日の熱の残滓が僕を責めていた。必ず生きろと僕に笑う。


(帰ろう、故郷へ。何としても。生きて)


そうだ。そのために僕は、君にさよならを言ったんだから。
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2013/09/22 07:03 | 進撃(SS)

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