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2024/09/29 10:31 |
現実主義的ロマンチスト【ジャンベル】
ロマンチストと彼が好きな鈍い彼の話し。
●12巻迄のネタバレ・捏造注意●


拍手[1回]




ジャン・キルシュタインは正直者である。

ジャンは恋をしていた。どう足掻いても叶わないだろう自分の恋が大切で、伝わらなくても構わないと思っていた。実際、死に直面したときに、ミカサには気持ちを伝えておけば良かったと思ったくせに、こいつには何も言わないでやれば良かった、とジャンは思う。
だけど。だから。

「泣くなよ」

だから、目の前で好きな相手が泣くなんて耐えられなかった。


現実主義的ロマンチスト


「今日は俺が隣な。ライナーの奴が夜警当番で遅えし」
「うん、よろしく」
僕の寝相があまりにひどいので、僕の配置はベッド最上段の一番端になった。下段のベッドに配置されて、ドアの前あたりまで動いたのがいけなかったのだと思う。時折ベッドから落ちるくらいで、部屋から出ていくよりは良かろうというのが大部屋全員の意見だ。僕の隣は対応に慣れたライナーで、ライナーが居ないときだけ他の誰かが隣に来る(誰か居ないとどこまでも動くらしい)。比較的体格のしっかりしたマルコだとか、ジャンだとか。コニーやアルミンの上にのしかかった場合助けられないという理由での人選である。
「別に。さっさと手前で寝ちまうけど、下に降りる用あるか?」
「いや。今のところない」
ジャンはごそごそと眠るための準備を進めている。僕は終えてしまって、話に参加しないで済むように壁に寄り掛かったまま教本を広げている。中央に設置されたテーブルを囲んで同じ部屋の何人かが集まっていた。「巨人が」だとか「壁が壊されて」だとか、断片的に聴こえてくる言葉を紡ぐ声は低く静かで、決して楽しい話題ではない。開いた教本の頁は超大型巨人の図説で、おぞましい僕の姿が描かれている。図解の脚の辺りをそっと撫でた。
「家がなくなって、帰れなくなって開拓地に行って、それなのに、奪還作戦で家族は、みんな」
声が大きくなった。親が居ない同期たちも多い。ウォール・マリア南端、シガンシナ区出身者は絶対的に数が少ないし、生き残った中で一番強く思い浮かぶのはエレンだ。僕が蹴り破った扉の破片で、逃げ遅れて、エレンのお母さんは死んだ。入ってきた巨人に食われて、死んだ。壁を破った鎧の巨人と夜警当番に就いている。エレンはそんなこと、知る由もないだろうけど。ライナーだって、今は兵士かもしれない。
「……お前も、こんなん聴いてないでさっさと寝ちまえ」
僕の隣に枕を投げたジャンはぶっきらぼうに言った。
「え」
ぽかんとして、情けない顔をしているだろう僕をよそに、ジャンは僕の手をそっと握った。壊れやすいガラス製品でも扱うみたいに慎重な手つきで、じわりと体温が沁みてくる。自然で、何の変哲もない動きだった。ただ僕の左手が握られただけで、不思議なことなんて何もないようにジャンは笑った。
(……あ、れ、なんで)
ぼろぼろと自分の膝に落ちる水に僕は気付いてしまった。どうしよう、と焦って空いた方の手で目を覆う。ジャンの握った左手がぎゅうと強く締め付けられて、それと同時に僕の喉からは嗚咽が零れた。
「……ひっ、うう、う」
おかしいな。止まらない。
水分をよく吸収する寝間着の袖を押し付けて、涙を拭う。拭っても拭っても止まらない。僕の袖はとうとうぐしょぐしょに濡れてしまって、それでも止まない涙に困っていると、ジャンの手が伸びてきて僕の頬に触れた。自分の涙でひんやりと冷えた頬に温かい温度が触れた。僕の頬に手を当てて隣に膝立ちになったジャンは僕の額に自分のそれをこつんと当てた。ふわふわの前髪が僕の額に触れる。ぐずり続ける小さな子どもの熱を測るみたいに。きっとそれは間違いじゃない。僕は身体ばかり大きくなって、中身は小さい頃の泣き虫のままだ。全然だめだ。僕がこんなふうに弱いから、ライナーはきっと壊れてしまった。僕の所為で。

「ベルトルト」

僕の名前を呼ぶ声は、それはそれは優しいものだった。よしよし、と囁かれる言葉に視界はますます滲んで、ぼたぼたと大粒の涙が落ちる。悲しくなんてないのに。どうして。

「ベルトルト、大丈夫だ」

ちゅ、と可愛らしいリップ音と共に額に柔らかい感触が下りた。ちゅ、ちゅ、それは続けて瞼に降ってきて、僕はそっと目を閉じる。恥ずかしい、と思いながら頭の中はジャンから貰った言葉でいっぱいだった。大丈夫。僕は、大丈夫だ。
ジャン、と名前を呼ぼうとした唇は、そのまま塞がれた。息が苦しい。
「ジャ、ン、んん……ふあ」
下唇をちゅうと吸われて、離れると同時にきらきらと光るものが糸を引く。唾液だ。ジャンの口の端に垂れているそれに舌を伸ばしてそっと舐め取る。
「……お前なあ」
そういう、期待させるようなの、やめろよな。ジャンは眉間に皺を寄せて怒ったように言った。
繋がれたままの左手を強く握る。ジャンは俯いてしまった。鳶色の瞳が見えないのがちょっと嫌だな、と思った。



肌に馴染む高めの体温が、ぎゅう、と俺の指に絡みつく。ベルトルトは首を傾げる。
どうして、と問う。どうして優しくしてくれるの。
ジャンはロマンチストである。人と距離を置くベルトルトへの、自分の恋が叶わないだろうことも知っている。だから、こんなぼろぼろの状態で泣き疲れた彼に気持ちを伝えるつもりではなかった。

「好きなんだよばか……」

俺は観念して、白状した。
部屋の中に響く声がひどく遠い。頭ががんがんする。柄にもなくプライドをかなぐり捨てて伝えたじゃないか。
(いつも以上に頑張っただろ?相手に対して何でもしてやりたいと思っただろ?そうやって、本当の気持ちを伝えられただけ、幸せじゃないか)
たった今傍に居る俺の代わりが誰かで埋まるのは、分かっている。だからこんなに無様で、必死になってんだ。付き合ってもいない相手にキスまでして。嫌なら言えばいいのに、こいつがここまで積極性がないとは思わなかった。

「僕も好きだよ」

ベルトルトの声に勢い良く顔を上げれば、近くにある夜色の瞳が細められて薄く緑色に光った。ああ、知らなかった、こいつの目はこんな色をするのか。

「僕も皆が好き」
「…………そうじゃねえ。成績良いのに本当に馬鹿だなお前」

ベルトルトが泣き止んだなら、もうそれで良かった。このまま寝てしまいたい。布団に潜って顔は見ないでいたい。繋ぐ手は右手にすべきだった、こいつの方が壁側だ。寝るには手を離さなくちゃいけないなんて。計画性が感じられない。馬鹿は俺だ。

「……僕ね、知らなかった。身体を作るのは、食べた物だけじゃないんだ。見たものや聞いたもの、出会った人、全て僕の血や肉になる。そうやって、知らないうちにどんどん僕になっていく」
「つまり?」
「ジャンも僕の一部になるんだよなあ、と思って。ちょっと嬉しかった」

紡がれる言葉は静かだった。時折ベルトルトがしゃくりあげるくらいで、ふにゃふにゃと笑っている。
一人で期待して、がっかりして、きっと俺だけが恥ずかしい。

「……だから、期待させるなって言ってんだろ」
「……してもいいよ」

こいつ、自分は壁際だから逃げられないって分かってるんだろうか。

「眠いんだろお前」
「うん」
「次の休み暇か」
「うん」
「じゃあ、デートに付き合え。街に出て、飯食って、後は何か案内してやる」
「うん」
「……嫌なら嫌って言え」
「うん。大丈夫」

これで断られたら、俺もちょっと泣くかもしれねえけど。
重ねた掌も、絡んだ指先も、触れた体温も。握ったところから心臓の音が聴こえてしまうんじゃないだろうかと思う。
ライナーは連れてくるなよ、と念を押せばうん、とまた笑う。デートだもんね。

(煽るなつってんだろうが!) 
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2013/12/15 02:17 | 進撃(SS)

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