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2024/09/29 07:54 |
104回目のプロポーズ【ジャンベルジャン】

ジャンがベルトルトにフラれ続ける話し。 
●10巻までのネタバレ注意●

「死ネタ・ループ・現代転生・女体化」あります。
ジャンベルジャンからのジャンベル♀です。いずれにせよ精神的ジャンベルです。

諸々大丈夫な方のみどうぞ。


▼ライベル・マルジャンマル・マルベル・エレベル・ミントルト(アルベル)・ミカベルなどを含む作品と共通の萌え設備で製造しています。


拍手[2回]





◆1回目◆



「殺しに来てくれたの」
調査兵団が追い詰めた超大型巨人は、死の淵にあった。
ベルトルト・フーバー。そこまで仲良くはなかったし、俺とこいつは顔と名前が一致する少しばかり話すことが多い同期、それだけの関係だったはずだ。むしろ仲が良いほうだっただろうライナー・ブラウンは鎧の巨人で、こいつを守ろうと死んだ。ミカサとエレンが、仕留めた。俺は超大型巨人を追跡するために編成された班に居て、アルミンがジャンになら任せられるよ、そう言った意味が、少しだけ分かった。分かりたくなかった。終わらせるのは俺であることが望まれた終末だった。
ふふ、とベルトルトは笑う。
「殺されるならジャンにが良いなって、そう、思ってたんだ」
「……お前の冗談はいつもつまらねえな、全くよ」
超硬質ブレードを抜く。抜き身の刃。
こいつは優秀で、見目が良くて、積極性はないけどいつだって凛と構えている男だった。俺は積極性の欠片もないこいつに、立体機動装置の操作以外で勝てたことが一度もない。
「いつも喋らねえのに、こんなときだけ冗談言おうとするからだ」
うなじではなく心臓を狙う。人類に捧げたはずの心臓を。泣きながら笑っているくせに心底嬉しそうな顔をして、ベルトルトは刃先を見つめた。俺がお前にしてやれることなんてない。何も。
「……冗談じゃないよ」

俺は、このふざけた存在が好きだった。
大それた名前を持ち、相応の実力と潜在能力を持ち、それでもなお他人に依存して、切り離されて、自分の役目を果たそうとする、化け物と呼ばれるベルトルトが好きだった。

「ありがとう、ジャン」
「ふざけんな」
「さようなら」


大好きでした、とベルトルトが口の中で唱えたのを、聞いてしまった。



◆◆


お前が愛するものを知ってお前が救おうとするものを知っている
ならば そんなお前を愛しそんなお前が救われるものとは一体何だろうかと思案することの苛立ちに塗れた不安定な感情はまるで叶わぬ夢を追いかける道化にも似ていて笑えやしない
誰かの為の救世主でありたかった
なれるのならたったひとりの為の英雄でありたかった
名誉や栄誉を返上する代わりに救いを知らぬお前だけの救世主でありたかった
何も与えられやしないこの指でそれでもお前の安寧を 望みたかった
(なんと愚かな男がいるのかと笑いたくば声高らかに笑えばいい!!決して叶わぬ夢物語に縋りつく男がいかほどまでに滑稽な ピエロであるのか と!)


104回目のプロポーズ

◆◆



◆2回目◆



2回目の人生。この記憶が何なのかを理解する頃には、俺は訓練兵になっていた。
同年代の、あのときと同じ同期生たちが並んでいる。
一列に並んだものの、1回目と違い俺は教官の「洗礼」を受けなかった。
視線の先に居たマルコが隣で、相変わらず馬鹿正直に「王にこの身を捧げるためです!」と叫ぶのを聞いていた。ああ、こいつ何も変わらねえんだな。優等生め。
エレンとぶつかり(内地が良いというのはもはや他の理由になっていたけど)、マルコと仲良くなり、馬鹿二人の面倒を見、ライナーと軽口をたたく。ベルトルトにも気を配るようにはなったが、距離を置かれるのは相変わらずだった。さすがに分かる。意図的に人との関わりを避けている。
訓練兵になって2年目、ライナーと痴話喧嘩をした(というのは噂でおそらくライナーが兵士だったんだろう)、と一人で居るところに押しかけた。兵舎の裏の、少し大きな木の上がベルトルトの隠れ場所の一つだった。1回目のときに散々捜しまわったので、知っている。
「ジャン?どうしたの?」
良く見つけられたね、何か急な連絡があったの、と尋ねる声を無視して俺は木に登った。灰色の瞳を見つめて、手を握る。泣き過ぎて頬まで赤い。
「これまでのことはどうでもいい。俺を全部やる。だから、お前のこれからをくれ」
「…………無理です」
目を丸くしたベルトルトは、びっくりしたように声を裏返して答えた。
「敬語で断るなよ傷付くだろ!気が変わったら言え!むしろ言わせてみせる!大体なんで断んだよ!」
ベルトルトは何が楽しいのか、俺の顔を見て、泣き腫らした目のまま少し笑った。


結果は、何も変わらなかった。
エレンは巨人化したし、マルコはトロスト区奪還作戦で誰も知らないところで死んだ。女型の巨人が壁外調査で現れて、練兵たちを殺していった。アニは水晶の中に閉じこもって物言わぬ石になり、俺も何度か死にかけた。
ライナーとベルトルトは壁の上で正体を明かし、そのまま、逃亡した。


「俺が交渉する。あいつが何かしようとしたら、すぐに殺してくれ」
「分かった」
ミカサは俺の横を歩き、屈んだ俺の横に立つ。エレンは巨人になり過ぎていたし、気絶するほど疲弊していた。ベルトルトを逃がそうとするライナーを仕留めたのはエレンだった。ベルトルトは壁を壊す唯一絶対の矛であり、ライナーは彼を守る盾だった。
以前と変わらない。
「ベルトルト」
随分遠くまで来てしまった。壁がほとんど見えない、広い世界の真ん中。森の奥。
ベルトルトは左脚を失い、巨大な木によりかかっていた。しゅうしゅうと蒸気が上がる。生きている。まだ。
「超大型巨人、ベルトルト・フーバー。提案をする。一切の抵抗を止め、人類の元に下るならば、生かしてやる」
灰色の瞳が俺を見上げる。吸い込まれるようだ。
「……ああ、君たちが来たのか」
視線だけで俺とミカサを確認する。身体はぴくりとも動かない。こいつの立体機動装置のガスはもう切れているはずだ。
「反対派も大勢出るだろうし、お前を殺せという奴等も多いだろう。でも、お前が提案を受け入れてくれるなら、アルミンほどじゃねえがお前の戦術価値を説いて、いかに有用で使える駒かを説得してやる。俺が守ってやる。だから」
ジャン、俺の名前を呼ぶ声が言葉を遮る。
「あのときは、断ってごめんね」
「ふっざけんなよお前!今はそんなのどうでもいいんだよ!」
交渉に応じる気はないのだと、3年間一緒に過ごした思い出と勘で分かってしまった。こいつの命はそう長く持たないことも。
「あはは、ジャン、また怒ってる」
誰のせいだ。誰のせいで。
(俺に、守らせてくれよ)
さようなら、と笑いながら俺に向かってベルトルトは超硬質ブレードを振り上げた。俺は避けなかった。このまま死んでもいいとすら思った。人のかたちをした超大型巨人の首を、誰よりも速く反応したミカサが、刎ねた。
血飛沫が顔を濡らす。蒸発しなかった。人の血だ。お前やっぱり人じゃねえか。
捕まえたはずの身体は、するりと俺の腕を抜けた。


(……ああ、俺はまた失敗したのか)


思い通りにならないことだらけだった。
何をしても変わらないなら、こんな結末になるなら、俺が記憶を持っている意味は、一体何だ。



◆3回目◆



3回目。俺は早々にベルトルトにプロポーズをした。
訓練兵になって3カ月、俺と付き合えと告白した。結婚を前提で。俺は断られても諦めねえぞ、と。即決即断で断ろうとしたベルトルトを何とか考えさせて(どの口が僕には自分の意思がないと言うのだか)、翌日貰った返事は「訓練兵団を卒業するまで待って」だった。ベルトルトは、断らなかった。
憲兵団に所属されることが決まったら、訓練兵最後の週末に一緒に出掛けよう。その頃にはきっと色んなことが決まっているだろうから。
そこで結婚してしまおう、と俺は勝手に心に決め、その約束を受けた。
今回、アニは見当たらない。いないこともあるのだろうか。結果、ベルトルトはライナーと仲が良いし、相変わらず俺の卒業成績はベルトルトに勝てずじまいで、精一杯やって4番手だった。ベルトルトはライナーのすぐ下、3番。1回目や2回目と同じ。


こいつが幸せでありますように、少しでも幸福を感じられますようにと毎日を過ごした。俺の精一杯で。
俺は自分の気持ちが拒否されなかったことが嬉しくて、受け入れられたんだと、今度こそうまくいくんだと思っていた。
自惚れだった。俺は愚かな勘違いをしていた。
こいつの気持ちの強さを、俺は確かに知っていたはずなのに。


訓練兵として過ごす、最後の金曜日。
壁は再び超大型巨人によって蹴破られ、大きく破損した。固定砲整備班だった俺は、壁を壊した超大型巨人が掻き消えたそこに現れた恋人を見つめていた。徐々に集まってくる巨人の足音が近付く。ずしん、ずしん、ずしん。嫌な音だ。本当に嫌な音だ。こんな音を聞かなくてすむように、かつての俺は快適な内地を望んでいた。ベルトルトは君らしいよ、と笑ったし、マルコは恥を知れよと俺を窘めていた。大事な同期たちは誰ひとり傷付かず、無事だった。
「僕が最初で最後のスパイだよ。この中から逃げ切るのは無理かなあ」
壁の上、人類の活動可能領域の一番端っこで、ベルトルトは笑う。
「……ベルトルト?」
呼び掛けた声はみっともなく震えた。俺は知っていたはずなのに。何をする。何をする気だ。
ベルトルトは自分の立体機動装置を外し、抜き身の超硬質ブレードだけを首に当てて、とん、と地面を蹴る。壁の外へ。
「さよなら、ジャン。よいしゅうまつを」
そう言うのと同時にブレードは真横に引かれ、ベルトルトの身体は赤く染まりながら壁外へ落ちていった。
俺の手の届かないところへ。
「だから、お前の冗談は面白くないっつってんだろうが!泣き虫!」


週末と、終末と。俺は、お前の居ないしゅうまつなんて要らない。



◆◆


俺の気持ちは受け取られずに、拒否される。受け入れられて拒否されなかったとしても、ベルトルトは自分から死ぬ。
何度目だったか、おそらく10回巡った頃だったと思うが、俺はそう仮定した。
ライナーやアニが巨人でないこと、そもそもいないこと、同期たちが生き残ったり死んだりすること。俺の記憶が戻るタイミング。
総合的に見ると変更点はいくつかあって、色んな終末があった。
だけど、ベルトルトと俺が居て、俺のプロポーズが毎回断られるのは変わらなかった。
ベルトルトはいつも、俺より先に逝く。これを、変えられたら。


◆◆



◆20回目◆



初めて、巨人であることを知っている、と最初に告げた。兵士になって1週間ほど。知っているのはほとんど名前だけという状況で。ライナーやアニのこと、ユミルについては様子を伺っても分からなかった。だからベルトルトだけを宿舎裏の森に呼びだして、俺はお前の味方で在りたいのだ、と言った。
「どんな姿になっても最後まで俺が守るから。だから」
「……ありがとう」
ベルトルトは、いつものように少し笑って、また話を聞かせてと言った。
「ああ。信用してくれ」


深い森での行軍訓練。来るならこのときだろうな、と思っていた。


「ごめんね」
ベルトルトは元々持っていたのだろう、サーベルではない、15センチほどの刃渡りがあるナイフを動かない俺に向かって振りかぶった。
「それは、俺の台詞だ」
口の中で呟く。
巨人であることをひた隠しにしている慎重なベルトルトが、訓練にかこつけて俺を殺そうとするのは読めていたことだった。俺の取った行動は、あまり賢いやり方とは言えない。
ああ、でも、これでやっと死ねる。お前より先に、お前に殺されて。そうしたら何か変わるかも知れない。この馬鹿馬鹿しい繰り返しを終わらせることが出来るかも知れない。

目の前が、真っ赤に染まった。

「大丈夫かい、新兵!」
先に俺が死ねば何か変わるんじゃないか、あるいは、ベルトルトに殺されるなら。
そう思っていたのに、俺の目の前に倒れているのはベルトルトだった。どくどくと流れる血。心臓を一突き。いつかのようにごぼりと血を吐いて、ベルトルトは笑った。唇が動く。ごめんね。そうして動かなくなる。助からないのか。修復はどうしたんだよ。なあ。拍動が消える。また。まただ。
「君とこの子の話を聴いていた者があってね、君たちを監視をしていたんだ」
生け捕りにできたら良かったんだが、とどこか遠くで上官の声がする。


そうか。俺はお前より先には死ねないのか。



◆50回目◆



「命は神様に返さなくてはならない、と思うか?」
「どうだろう……ジャンは返すの?」
ベルトルトはうーん、と首を捻る。
今の俺とベルトルトは1回目や2回目と同じように、顔と名前が一致する少しばかり話すことが多い同期、それだけの関係だ。
この用心深く誰よりもしっかりした同期を俺はゆっくりと、確実に懐柔しなくてはならない。
今度こそ、幸せな終末にするために。
「神様が居るのなら俺から奪うんじゃないか」
「居なかったら?」
「分からねえな。……ベルトルトはどうだ?」
彼はそうだなぁと独り言ちた。
「神様なんて知らない人には渡したくないかなあ」
人じゃないだろう、神様なんだから。そう思う。こいつは巨人で、巨人になったときの姿は神様に似ている。誰にも伝えたことはない、俺の感想だ。圧倒的な力があり、孤高で美しい。お前が神様なら、俺は喜んで命くらい差し出すだろうに。
だから、とベルトルトは淡白に続けた。
「たぶん、ライナーに、あげるよ。ジャンが貰ってくれるなら、あげてもいいけど」
「……要らねえ」
こいつは嘘吐きで、泣き虫だ。
(悲しいくせに、寂しがりのくせに、そのくせ人一倍優し過ぎて傷付くことよりも傷付けることを何よりも恐れているくせに)
お前はいつも自分以外の誰かを護って死のうとする。自分の命よりも大事なものないと嘯きながら、ライナーや、アニや、故郷の誰か。あるいは、自分の使命や役割。俺よりも大事なものは、たくさん在るのに。
「欲しくねえよ、死んでも良いと思ってるような奴の命は」
笑えない冗談だ。
(お前を失っても俺は平気だろう、と言いたいのか)
よく見ればベルトルトは苦しそうに顔を歪め、うっすらと瞳が濡れていた。
見たこともないくらいに真剣な眼差しに、笑うことすら躊躇わせるこいつの瞳は真っ直ぐに俺だけを映し続けている。真摯で酷薄な眼。凛と張り詰めた空気は気付けば重苦しい沈黙に変わっていた。唇がかすかに震えて、続くであろう言葉を想像し再び訪れる沈黙。
「そうだよね」
「……は、お前なあ。自分の意思がないって言ったって命くらい大事に持っとけよ」
俺は、なんとか笑った。俺ではお前の未練にはなれない。


思い出すのはあのときの、微笑を浮かべながらけれども何かを決意したような真っ直ぐで強い、眼差し。
俺はお前の死を匂わせるような台詞を吐いたけど、本当は死んでほしくなかったからあんなこと言ったって分かったのかよ。
いやお前ことだからきっと分かっちゃいねぇんだろうけれど、今でも大切だと断言できるものは片手で数え切れるほどしかなくてその中の筆頭にお前が挙げられているなんてこと知る由もないだろうし、お前の名前を呼ぶ度に想いだすたびにどうしてこんなにも愛しさと切なさが募ること、だって。


「僕も死にたいわけじゃないんだけど、神様がそう言うから、仕方がないし、返してあげるんだ。ぼくのいのち」
「神様なんて知らない人に渡すのは嫌なんじゃなかったのかよ」
「よく覚えてるね、ジャン」


ライナーは、すっかり壊れてしまった。否、俺が壊したのだ。信頼で首を絞め、言葉で縛りつけた。
ライナーは自分が人間だと信じて、ベルトルトの裏切りに怒った。ベルトルトの困惑をはっきりと理解したのは俺だけだっただろう。どうして、と彼は言ったし、腕を斬り落とされるまで固くライナーを信じて動かなかった。

(俺だって、策の一つや二つ試すし、賭けにだって出る。もう何度目だろう、お前たちと出会うのは)

ライナーを眠らせたのは、ベルトルトだった。自分を人間だと信じていたライナーは、傷が修復することもなく、死んだ。ライナー・ブラウンは兵士だ。だからこそ同期生たちはすっかり動揺して、コニーやサシャは泣きながら誰に向ければいいのか分からないサーベルを震える手で握っている。
「やってくれたね」と笑ったベルトルトは綺麗だった。
今度こそ降伏して従ってくれ、そう願った俺を嘲笑うように巨人化したこいつは、やっぱり神様に見えた。おれのかみさま。おれだけの。


「僕には自分の意思がないから」
「意思はなくても感情はあるだろクソッタレ!」


それは、お前の意思だ。この死にたがりめ、俺はお前に生きたいって言わせられた試しがないんだ。何回生まれ変わっても。



◆◆


「君の幸せを何よりも願うよ」


兵士を演じる間の本音だった。そうやって心の中から兵士を演じている間は、少しだけ楽で居られた。
「あれは、嘘だったのかよ」
何度目の生だったか、ジャンは僕にそう尋ねた。
戦士の僕が言うはずもないあれは嘘なんだけども、でも言ったその時は本当にそう思っていて、君に幸せになって欲しかった。僕に関わらない人生を歩んで欲しいと思っていたし、そうなるんじゃないかって少しだけ期待してた。
だけど、事実としてはそうだね、


「嘘だったよ」


言葉足らずだ。いつだっただろう、マルコに「ベルトルトは少しだけ言葉足らずだよね」と言われたのを覚えている。
言葉足らずでいい。何も伝わらないのがいい。これが愛だとか恋だとか言うなら、僕は何も知らないままで居たかった。
意思がないなら、感情も要らない。何回繰り返したって、僕だけが幸せを望むことなんて出来ないのだから。



彼に 御伽噺のように幸せな結末を求めた自分を許せずに
そして 同時に
皮肉なことに誰よりも救いを拒絶しながら
誰よりも彼に救われたがっている自分を 認めてしまったからだ


◆◆



◆100回目



100回目。俺の生まれた世界は、初めて、巨人の居ない世界だった。


高校までに目立つことは全部した。
生徒会長、新体操の大会出場で優勝、その他もろもろ。
優等生のマルコは中学校の頃から生徒会をしていたらしく、目立つことをしているくせに口の悪い俺はすぐに見つかった。マルコに記憶はない。高校にあいつが居ないことを確認して、それからずっと勉強漬けになった。他の奴等も、同期生は誰ひとりなかった。
ベルトルトは優秀で、単純な実力のみでは俺は一生勝てないかもしれない、と何回も繰り返す人生の中で思った相手だ。だから、高望みしなければ楽に入れる大学がたくさんあるなか、俺は最難関を選んだ。
そうやって選んだ大学で、長く艶やかな黒髪を見つけた。記憶の中のミカサのそれとは違う、ベルトルトのそれ。
咄嗟に駆け寄ろうとした俺は、パンツスーツではあるもののベルトルトに胸があるのを確認した。初めてのパターンだ。初めて女子の胸をみたわけでもないのに、死ぬほど動揺して、入学式が行われる体育館前の芝生に突っ込んだ。隣を歩いていたマルコは盛大に吹き出したし、スーツを汚した所為でババァには怒られた。どうでもいい。


だって、見つけた。
あいつを見つけたんだ、今度こそ!


配布された入学者名簿一覧で調べると、違う学部であることが判明した。俺よりも偏差値の高い学部だった。さすがベルトルト、やりやがる。何でこんなところでまた負けてるんだ俺は。
……しかし、こんなことではめげない。情けなさすぎるが、負けるのなんていつものことだ。
ベルトルトが顔を出すと聞いた歓迎会等の飲み会にことごとく顔を出し(そんなに回数は多くなかった)、あいつが居なければ見向きもしないだろう読書サークルに所属し、彼氏の影がないことを確認した。ちなみに飲み会の席でも何となく逃げられて、メアドすらゲットできていない。ベルトルトと連絡が取れるのなんて3つ上のサークル会長(女性)だけである。それ以外にゲットした奴はなし。声を聴いたのは自己紹介のときだけ。ぼそぼそと、俯いて。
彼氏が居る相手に言い寄るほど非常識ではない。……居たとしても居なくなったら言い寄るけど。居なくなるまで待つのがお前のいいところだよ、とマルコの言葉だ。遠い昔に一目惚れしたのだ、と嘘ではないが本当でもない事実を告げれば親友は快く手伝ってくれた。
別学部で見つけたサシャをパンで釣り(歪みなくホイホイされた)、情報提供を求めたが間違いなさそうだ。
ということで、俺は勢い込んで、少々噛みつつも結婚を前提に付き合いを申し込んだ。大学の学食で、出会い頭に。

「ベルトルト!結婚をぜんてっていに付き合ってください!」
「ひっ」

玉砕した。
ごめんなさい、と叫んだベルトルトは泣きながら逃げた。ひって。ひって、お前。会話にすらならなかったのは初めてだ。


マルコは笑いながら溜息を吐いた。
「ジャン、なんて言うか、もっと考えよう?」
大人しい子だし、内気みたいだし、君が凄くアタックしてるからさすがに他の男は寄って来ないだろうけど、大勢の前であの告白をするのはちょっとデリカシーがない。ていうか全くない。
流れるように注意された。ごもっともだった。
「結婚を前提にするからただでさえ目立つのに物凄く視線を集めるんだと思うけど」
「いや、でも、大事なことだぞ」
どうでもいいことだが、俺の大学でのニックネームは「求婚の人」になった。動画サイトに投稿したわけでもないのに妙な二つ名を貰ってしまった。正直要らなかった。
昔より声が高くて、俺より少しだけ大きいベルトルトなら、捕まえられるだろうか。


2回目は、人の少なくなった閉館前の大学図書館で。逃げられた。場所のチョイスミスだ。
3回目はサークルの飲み会のあと、駅のホームで。この3回目の失敗で、駅のホームに居る所為で逃げだせないベルトルトにようやくメールアドレスを教えてもらえた。最寄駅から意外と家が近いことも知った。しかもこの最難関大学への志望動機は「家から近かったから」。男だったら殴ってるところだった。相変わらず他人に自分の行動を委ねる悪癖があると分かった。


スーツを買った。あの頃は高価で訓練兵の身分では用意できなかった花束も小さいながら用意した。


正直自分でも引くくらいに気合を入れた。ベルトルトが俺を覚えている様子はなくて、妙な奴に言い寄られているのだとライナーやアニが居れば相談したしつこさだと思う。知ったことか。こっちはウン千年単位で追いかけているのだ。
泣きそうになりながら、メールを送った。
俺はめげない。巨人も居らず、戦うこともなく、そんな平和な世の中で諦めきれるはずがない。何回生まれて、死んでを繰り返したと思ってやがる。俺は自殺が出来ない質なのだ。毎回天命尽きるまで生き残ってしまった。
「……っし」
ベルトルトの門限は中学生もびっくりな午後8時。
カップルが多い高台の公園で、待ち合わせは午後6時だ。少しずつライトアップが始まる公園に30分前に到着したはずが、ベルトルトは既に居た。
「わ、悪い、待たせたか!」
どっきりした。
ベルトルトは背筋を伸ばして立っていて、あの頃と同じような服を着ていた。紺色のサマーセーター、下から少しはみ出したシャツ。長い黒ズボン。季節感は丸無視で。
「この間ので、103回目」
「…………はあ?」
声が裏返った。何を言っているのかさっぱり分からない。
「本当はもう、受けても良いなって思ってたんだ。でも怖かったし……どうせなら、104回目にしようと思って。ごめんね。ありがとう」
俺は、ベルトルトが喋るのを聴いて少し呆けた。
きっとこれは、嘘と本当が混ぜられた言葉だ。
覚えてたのか。思い出したのか。言いたい言葉がいっぱいあるのに、俺はうまく喋れなかった。
「嫌いになった?」
「嫌いな奴に100回超えでプロポーズすんのかよお前は……」
僕ならしないけど、とベルトルトはあっさり答える。そういうあっさりしたところに何度振り回されただろう。自分の命も投げ出すような奴が嫌じゃないってんだから、俺もかなり物好きだ。


「もしお前が断っても、俺はこの言葉、もう二度と、誰にも言わない。」
何度生まれ変わっても。勝手に誓う。緊張で、心臓が妙な音をたてる。聴こえるんじゃないかと、思うほどに。


「俺と、結婚してくれ」


「……はい、喜んで」


告げられた肯定の言葉にくらくらする。俺のこれまでの告白は103戦103敗、1勝だってしたことがなかった。
「僕のこれからを、全部君にあげる」
ああでも少しでいいからライナーやアニの分は残しておいて、なんて泣きながら笑う。
ふざけんな、当たり前だ。俺だってマルコや同期たちの分は貰う。お前もその分、一緒に過ごすんだから。手始めに、マルコとサシャだ。
「僕は死ぬまで君の手を離さない。だから君も、死ぬまで僕の手を離さないでいて欲しい。君と結婚して、最後は一緒のお墓に入りたいです……とか」
今まで考えてた返事、とはにかんで頬を染める。ごめんねの代わりに。

「ずっと、もうずっと、好きだよ」

ベルトルトの頬は、林檎なんて生易しいくらいに赤い。俺もたぶん、負けないくらいだ。


「結婚しよ……」


あの頃のライナーがクリスタに言っていたみたいに、冗談ではなく真顔になった。幸せを噛み締めるように言ってぎゅうと抱きしめる。えへへ、と背中に回された手はあの頃よりずっと小さかった。
「結婚を前提にお付き合い、だからね、ジャン」
「もちろんだ」
柔らかい。守らなきゃ。今度こそ俺が、守るんだから。
「……ジャンなら頑張れると思うけど」
ベルトルトの長い髪が俺の頬を撫でる。


「今の僕の父親、ライナーなんだ」


「…………あ?」
絞り出した声、ぺったんこの靴を履いていても俺より少しだけ高い位置にベルトルトの顔はあった。
やっぱり、泣き笑いみたいな笑顔で、きらきら光る灰色の瞳に俺を映す。
「頑張ろうね!」


お前の冗談は笑えないっつってんだろうが。
冗談じゃないよ、といつかの声が聴こえた。そうだろうとも。


「上等だ、やってやらあ!」




◆閲覧ありがとうございました!

◆何で104回目、って訊かれたら「だって僕たちは104期生だもの!」っていう仲間大好きベルトルト。
 ライナーとは仲良くして欲しいしたぶんジャンは仲良くなれる。段々と皆も見つかるよ!
 在学中に結婚式だけしちゃったりするよ!

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2013/09/07 00:00 | 進撃(SS)

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