どうしても、死ななければならぬわけがあるのなら、打ち明けておくれ、私には、何もできないだろうけれど、二人で語ろう。一日に、一語ずつでもよい。ひとつきかかっても、ふたつきかかってもよい。私と一緒に、遊んでいておくれ。
太宰治「秋風記」
「貴方を、解いてみたいと思うんです」
光らない瞳が輝いて私を映す。解く。何をとは言わない。事実それで伝わった。
「……勝手なことをするな」
「貴方はそう言うと思いました。でも、やめません」
鉢屋の瞳は真摯だった。反論を拒絶するくせに、ひたすら声は優しかった。息が詰まる。真綿で首を絞めるように。
「私は断ったぞ」
「ええ」
逃げの一手だ。
どうやらこれは逃げ切れないらしい、と気付いたのはいつのことだったか。
(私には、ちょーじが居れば良かったのに、ね)
私は化け物扱いされるのにすっかり慣れていたので、人間扱いされて驚いた。
無理はだめです、ご自愛ください、と素顔を隠した後輩は笑う。
どうしてそんなことを言う。私は他の奴らみたいにするの、得意じゃないんだ。
「私が大事にしたいので」
いつもは我が儘なんて言わないくせに。
他の誰でもない貴方が
(好きなんですよ、と言っても貴方はきっと戸惑うのでしょうけど)
貴方より優しい人も、強い人も、明るい人も居りましょう。それでも私は、他の誰でもない、貴方が好きなのです。
私の太陽だろうと、勝手に思っていたりして。まあ、この人に言うつもりもないけれど。
「鉢屋!一緒に遊ぼう!」
「……仕方がないですねえ」
そのまま生きて、幸せになってくれますように。なんて。
「鉢屋あのね、私のことは好きじゃなくていいから、自分のことを好きになって。ついでに、私のことが好きな場合はなおさら、自分のことは好きになれ。……いいな、約束だぞ」
七松先輩はにこにこして、先輩方皆で鍛錬するのと同じような笑顔で言った。
「……貴方が、御自愛くださると約束されたら」
先輩は笑うばかりだった。
この人は絶対に約束してくれないと分かっているのに、そんなことを言った私も、なかなか懲りない餓鬼だ。
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