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2024/07/01 19:07 |
あなたのあいしたなみだ【金こへ】

泣き虫金吾と七松先輩の話し。

5年後・成長注意、です。

 

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あの人の手がとても好きです
あの人の手が触れた髪が愛しくて、あの人の手が触れた頬が愛しくて、あの人と繋いだ手が愛しくて
あの人のあの手が触れるもの全てに嫉妬すら覚えてしまうのです


あのね、金吾。それはきっと気の迷いだ。もう少ししたら私のことなんて忘れるから、待っていてごらん。

また遊びに来て下さいますか。泣きじゃくる僕に先輩はそう言って笑った。
うん、もちろん。
だけど、七松先輩は忍術学園に一度だって遊びに来られなかった。
先輩方はたくさん声をかけてくれて、慰めてくれて、それでも僕はずっと泣き続けていた。
あのときの言葉だって誤魔化しだとわかっていたのに、僕は問い詰めなかった。


いつも通りの、裏山から先へ続く体育委員会のマラソンコース。
一年生や二年生の低学年は四年生に任せて、それでも気だけは配りながらひたすらに走る。前へ。まえへ。もっと。
終着地点は、時季さえ間違えなければ居心地の良い、花のあふれる野原になっている。食堂のおばちゃんに包んでもらったお弁当を食べるのにちょうどいい。一年生だったときに教えていただいた場所だ。
(七松先輩に、会いたいなあ)
ふ、と。
視界を過った影があった。コースを逸れて、追いかける。
「皆本先輩!」
後輩の焦った声が遠くで聞こえる。ごめん。この人は逃がせない。この人だけは。
誘うように、高い位置で結われた黒髪が揺れる。
手を伸ばすと、嘘みたいに簡単に袖に触れた。
「つかまえました」
僕の宣言に、七松先輩は自分から野原に倒れ込む。枯れ草と若草の匂いがたちこめた。春の匂いだ。
誰かを好きになるということは、寂しさや弱さの誤魔化しでしかないと思う。僕はずっとそう思っていた。
でも、誤魔化すのをやめてしまったら、寂しさばかりの人生だ。
人は皆いつかは死ぬのだから、誤魔化しながらでも満たされていたい。大好きな貴方が寂しくないように、僕が満たしていたい。
そう願いながら、僕はここまで大きくなった。
「金吾は相変わらず泣き虫だなあ」
そう言って七松先輩は笑った。昔みたいに。知らない傷がいくつか増えていた。大きなものも小さなものも、きっと見えないところにもある。
ああ、こんなに小さい人だっただろうか。
「誰のせいだと思ってるんですか。全部貴方のせいでしょう」
温かい手のひらが頬に触れて、僕の涙を乱暴に拭った。
男前が台無しだ、と楽しそうに言って、ありがとうと囁いた。私を諦めないでくれてありがとう。ずっと待っていたんだ。
ななまつせんぱい、と言葉を紡げばくすぐったそうに彼は笑う。
「金吾は優しいけど、いや優しいからこそ、私の一番にはなってくれないんだと思っていた」
「……貴方がずっと一番ですよ」
そっと屈んで額に唇を落とす。
そうならいいなあ、と七松先輩の声が春の匂いと混ざって、消えた。

あなたのあいしたなみだ
(泣き虫なのは貴方の所為なんですからね)

「七松先輩もお弁当を一緒に食べましょう。もうすぐ皆来ますから」
「体育委員会か」
足音が聞こえる。全員そろっているようだ、良かった、なんて自分からはぐれたくせに思う。次屋先輩のような方向音痴な後輩が増えていなくて本当に良かった。
「はい」
貴方の残して下さった僕の大事な委員会です。
おばちゃんの持たせてくれたお弁当を思い出したら、途端にお腹がぐるぐるとなった。
「色気より食い気だなあ」
「何を仰いますやら」
のびのびと身体を伸ばした七松先輩の指に、自分の指を絡める。
「今度という今度は逃がしませんからね。勘違いではないと証明してみせます」
「……おー」
期待してるぞ、なんて、これだから貴方は! 


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2013/04/21 00:00 | RKRN(小噺)

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