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2024/07/01 18:34 |
それでも僕は幸せだった。【綾勘】
一人で考えるとろくなことにならない勘ちゃんと、駄目な先輩を幸せにする喜八郎の話し。

死ネタからの現代転生設定。綾勘とちょっぴり竹鉢風味。

汝は曲者なりや?(リンク)、という人狼のRKRNパロディゲームの中の学園での設定をお借りしました。
「前世報われなかったCPたちが現世で再会する」というもの。


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腕が裂かれて血が溢れる。
足払いと同時に突き飛ばされ、綾部はそのまま後ろに倒れた。
的確な動きだ。どくどくと脈打つ音がするのと同じ速さで流れ出る、自分の血が温かい。腕の感覚は既になかった。押さえ付けるように腹が抉られる。
(ああ、きっともうこの傷では穴は掘れないだろう)
綾部に馬乗りになった男は確実に敵を殺すため、苦無を振り上げた。
よく知った瞳。直接的な関係なんて何もなかったけど、僕の先輩だった。
おはませんぱい、と僕の喉は最期の最期にきちんと動いた。


僕が最期に見たのは、聴いたのは、呼んだのは、触れたのは、全部ぜんぶ貴方だったから。
もしかしたらこれは幸せなことかもしれないなあって、想ったんです。独りよがりな考えですけど。
だから、貴方が謝るようなことなんてひとつもないんですよ。おはませんぱい。



それでも僕は幸せだった
(最期の最期にお名前を呼んで、僕の方こそ、ごめんなさい。)



数人が集まって、あるゲームをした。
僕は尾浜先輩から呼び出しを受けた。高校時代に二年、僕から逃げおおせたあの人に。
彼と僕は別の陣営だった。初日から僕には分かっていた。
尾浜先輩は勝つために、僕に処刑投票をした。正しい選択だった。だって僕は敵だったんだから。
あのときも。今回だって。


「あやべ?あやべー?あっ、いた」
どこに行ったかと思った、と、ゲームが終わって会議室から出た尾浜先輩は控室から消えていた僕を探しに来たらしい。
「尾浜先輩がいじめる」
僕はむうと頬を膨らませた。
「だからここで不貞寝してました」
学校の屋上なんて、べたなところ。隠れる僕も僕だが、捜しに来る貴方も貴方だ。
ゲームには、負けてしまった。それは別に構わない。ゲームの途中で、僕は途中で居なくなってしまったから、この人のお話しを詳しく聴けなかった。それだけが不服だった。
「い、いじめてないし。俺はお前に酷いことしたからだな、こう謝るだけ無駄なのは知ってるけども、ええと、許してくれとも言わないし」
年相応に慌てている尾浜先輩をみて、ああ良かった、と思う。この人は何も変わらない。何も変わらない、知らない人だ。僕より一つ上の、学校の先輩のまま。
「いじめてますもん。お話しもちゃんと聴いてないし、ひどいことされてませんもん」
「したし。だって、……惨殺だよ惨殺!」
言葉にするのを躊躇いながら、尾浜先輩はちゃんと僕に言った。平和な学校に似つかわしくない言葉。屋上は春の風が気持ちいい。
「お前を城から持ち逃げもしたし」
「忍び込まれた方が声掛けるのも悪いし、知ってて抵抗しないのが悪いんです。さいごのは、べつに、いいことじゃないですか」
だって僕は知っていた。


ずたずたになっても、それが僕の幸せだったのだ。



綾部が優しい、赦すようなことを言ってくるから、俺の涙腺は緩んできた。やめて。ゆるさないで。俺は赦されちゃいけないんだ。
「抵抗しない子惨殺した挙句、死体持ち帰るとかもう俺マジ地獄落ちるべきなのにまた生まれるわ、またお前に会うわもう俺どうすりゃいいんだよもう」
泣きそうな声になってしまって格好悪かった。きっと、今更だろうけど。
「いっそ忘れちゃっても良いんですよ?僕はまたお話しできて嬉しいです。先輩の大学に行きますから、もう逃がしませんし。嫌だって言っても、赦しますし。幸せにしますし」
どうしてそういうこと言うの。
「幸せに?」
お前の幸せって、なに。自分を殺した男を幸せにすることか?
「ちなみに僕は幸せにするほうなので、お任せあれ」
ふふんと鼻を鳴らして誇らしそうにする。
ああ、昔よりちょっと、表情が顔に出やすくなった。分かりやすくなった。これが綾部の表情で、年相応の顔なんだろうか。
「……俺幸せにされるわけ?ちょっと待て。それはさすがにどうかと思うんだけど、年上の矜持的な意味で」
これは逃がしてもらえないや。そう思ったら、軽口も言えた。笑わなきゃ。綾部が泣いてないのに、俺に泣く資格はない。
「昔から大した差も無いでしょう。ひとつだかふたつだか知りませんけど、無茶し過ぎて死ぬような人に言われたくないですぅ」
綾部の言葉は、重い。
ちゃんと綾部の顔を見て俺が話せるようになったら、といえば、そんないつかより今お話ししてください、ときたもんだ。どんな口説き文句だよ。
「僕の分まで長生きすべきじゃないんですかぁ、い組の先輩なんですから、お仕事に逃げる前にもっと色々考えてくださいー」
色々考えたので一応自死はしなかった。考えすぎた結果、仕事に逃げた。
ああ、そうか。長生きするっていうのも選択肢にあったのか。考えたこともなかった。綾部を殺してから、俺の世界は色がなくなってしまった。
「考えたんだよ、いっぱい」
たくさん、たくさん。考えたんだけど、あのときの俺にはもう何も無かったのだ。
綾部を殺してから、自分は綾部が好きなんだって気付くようなばかなのに。
「そんなの考えたうちに入りません。のーかんというやつです。尾浜先輩は自分で考え過ぎるとろくなことがありません」
「考えた。考えましたとも。まあ、確かにろくでもないことになったのは間違いないわけだけど。死因がお前と同じとは思わなかったし」
後輩の言うことはいちいちもっともだった。俺は一人で考えるとろくでもない、ことに、なるらしい。同級生たちからも指摘を受けた。皆は綾部に謝る決心を、させてくれた。
「だーめ……ってなんですかそれ聴いてません。知りません。まあ死んでたから知ってたら怖いですけど、さあ、詳しく」
仕事仲間に裏切られて殺された話をした。綾部はじっと大きな眼をこちらに向けて、大人しく聴いていた。
だから、あの死に方だって、当然の報いだったんだ。好きな子を殺して、ひどいことたくさんしたくせに、俺はそれでもしばらくの間は生きてたんだけど。殺されちゃった。そんな話しを。
聴き終わって、こくん、とひとつ頷く。
「あー、それはちょっと許しがたいですね。僕の先輩なのに」
「僕の先輩って、あー、あの、俺、お前のになるの?」
こんなんを、お前のにしてくれるの。
「おやまあ。ご存じありませんでした?はい、僕のになります。一人で悩むとろくでもないことにならない先輩は、僕に幸せにされておいてください。逃がしませんし」
「……宜しくお願いします?」
綾部の表情を読むのは、やっぱり難しい。
無表情に、たんたんと、受け答えをする。
「宜しくお願いされます。尾浜先輩が余計なことを考えないように、僕が見張っておきませんと」
「見張られるの……俺。ということはあれか。俺は綾部のカテキョやればいいのか。同じ大学入ってもらうために」
「僕、結構優秀ですよ?ああ、でも、家庭教師という名目で僕の家に来て頂けるのは悪くない。その案採用しましょう」
そっと俺の手が握られた。俺とほとんど変わらない、ちょっと硬いくらいの、男の人の手だった。
「生憎と、また男ですが」
「そんなん俺もだよ」
部屋に戻ろうか、と言えば手をつないだままでも構いませんか、と静かな声。ふわふわの短い髪の間から赤い耳が覗いた。
俺は覚えている。死んだこの子の白さを。俺が殺したこの子の指先の冷たさを。
温かい指を彼のそれに絡めると、綾部はばっと上を向いた。正確には俺の方を。
「……逃がさないんでしょ?」
へら。笑いかけると、怒ったような顔をした綾部の視線が俺を射抜いた。
「もちろんです」



鉢屋は三白眼を細めて溜息を吐いた。
今世の鉢屋は随分と可愛らしい。変装云々はともかく、表情が読める。悪戯が好きなのは相変わらずだけど、嘘を吐くのはやめたという。どの口が言うんだ、嘘吐き常習犯め。どちらかといえば素直になれない常習犯だけど。
「お前は口を開けば綾部あやべとうるさい」
「うっ」
そんなこと言われても。だって。
綾部はそれは嬉しそうに俺に質問をする。俺は一応家庭教師をしてるのに、勉強はほとんど訊かれないのが寂しいところだ。自分で優秀と言っただけはある。
そもそも、名前を呼ばれるだけで嬉しいんだからもうどうしようもない。
「だけど、ちょっと安心した。あっ私じゃないぞ、八左が言ってたんだからな」
「はいはい、ありがと。だってさ、勝手に殺して、勝手に逃げ回ってるようなのを好きでいてくれる奴なんて綾部以外にいないんだもん」
鉢屋は白い目をこちらに向けた。本当だ、俺また綾部って言ってた。
二人共何してるの、と肩掛け鞄を揺らしながら雷蔵が近寄ってくる。……確かに誰でも取れる一般教養の授業だけど、何で雷蔵まで居るんだ。この授業、そんなに雷蔵が興味のある内容だっただろうか。
顔に出ていたのか、鉢屋はどや顔で「私が雷蔵の授業組んだからな」と誇らしげにした。こいつ本当に雷蔵馬鹿だ。多分、雷蔵も決めきれなかったんだろうけど。
「三郎、はっちゃんがお昼一緒にどうかって言ってたよ」
「……私雷蔵と食べる」
はは、と雷蔵の笑みは冷たい。僕は勘ちゃんと食べるからね、来るんじゃないぞ。いやだ、と騒ぐ声。
どうしてそう、自分だけ逃げられると思うんだろうこいつは。
「勘ちゃん、今度綾部と一緒に三郎とはっちゃん誘ってみてよ」
「雷蔵の頼みなら仕方ないなあ」

俺はこれから、綾部にたくさんたくさん、お返しをしないといけないからさ。
ちゃんと好きなんだよーっていっぱい伝えなきゃいけないんだ。

ああ全く、誰かと一緒に生きるのはこんなに楽しくて忙しい! 


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2013/05/22 20:00 | RKRN(小噺)

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