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2024/07/01 18:37 |
たったひとこと【文鉢・伊雷】
言わせておくれ たとえぶつともころすとも

素直になれない双忍の話し。


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好きの反対は、無関心だ。私はそれを知っている。

「俺はお前の素顔なんざ興味がねえ」
だから、そう言われたとき私はみっともなく動揺した。だめだ。
気付いたときには滲んだ視界が歪んでいた。
「さようで」
潮江先輩はぎょっとした顔でこちらを見る。ああ、いけない、見つかってしまった。
いつもはこんなとき見向きもしないのに。
「鉢屋、おい、どうした」
下を向く。この人の瞳が見えないように。早く全て流れて枯れてしまえばいい。
「何でもありません」
「嘘吐け。いくら何でも無理があるぞ」
恐ろしく鈍いくせに、どうして、こんなときだけ。
「……不破にならなくていい」
貴方は核心をつくのだろう。

別に、と鉢屋は口角をあげた。
「私でも雷蔵でも構いやしないでしょう?分からないってのはそういうことですよ」
くそ生意気なと思うものの、事実、俺には見分けがつかない。
「潮江先輩は妙なところで神経質ですねえ」
分からないというのは、そういうことだ。
(確かにその通りだが、俺には、お前たちが一人になりたがっているように、見える)
鉢屋は不破に。不破は鉢屋に。二人が一人で在りたいと、そう願うように。
気になってはいけないことか。お互いに忍びならば、否、好きな相手ならば、気になって何がおかしい。
それが、お前だからこそ。
「おい、鉢屋」
泣き出しそうな後輩に手を伸ばすのと同時、足を払われる。受身を何とか取り起き上がろうとしたところで、鉢屋が馬乗りになった。
「逃げないでくださいよ」
囁くようにそう言って。
好きなんです貴方のことが、とゆっくりと上体を起こした鉢屋は俺の腹の上で笑った。
「だから、いいでしょう?」
俺の身体を押さえ込む腕が震えていた。
良い訳がないだろう、ふざけたことを言うな。
そう言いたかった。いつも悪戯をしては楽しそうに笑っている後輩が泣きそうな顔で、また笑う。
「逃げねえよ」
鉢屋を、捕まえた。


たったひとこと言わせておくれ
あとでぶつともころすとも


(お前はそのままで十分、俺に相応しい。)


どうしよう隠しきれない、と、三郎は囁いた。琥珀色の瞳がゆらゆらと揺れる。捕まってしまったよ。
自分の存在が曖昧で、とても壊れやすい、大事な大事な僕の片割れ。
「こんなものは恋じゃないのに」
目が合えば息が苦しい。全部が欲しくなる。
「何を言うのさ、お前のそれは確かに恋だよ。何を隠す必要があるのさ」
それを言うなら、僕の方が、よほど。
「君は、もう少しやりようがあるだろうに」
「うまく出来れば苦労はしないだろ?」
「もっともだ」
くすくすと隣の布団から響く笑い声。
良かった、三郎が笑った。


くだらない言葉の応酬は、得意だ。
日常であり、習慣でもあり、既に生活の一部ですらある。
「どうせ寝てないんでしょ」
「そういう貴方は、どうせ眠れないんでしょ……手、冷たいです。触らないでください」
するりと伸ばされた指が腕に触れる。ひんやりと冷たい肌、先ほどまでの熱が嘘のようだ。
「そういう君はなかなか子ども体温。暖くらいとらせてよ、まださむい」
「わけが分かりません」
「分かられても、困る」
ふふんと漏れた声が、言葉よりずっと楽しそうで。
分からない。貴方を分かったことなんて一度もない。


「……背中、痛いんですけど」
何のために別々の時間に医務室を出たと思ってるんだ。結局、医務室に逆戻りになった。
背中がじくじくしていて、肌蹴れば風が流れると痛いのだか熱いのだかもう分からない。
「不破ってば不注意だなあ」
「誰が食堂で不運な人に後ろから汁物をかけられるなんて予想しますか」
棒読みにいらいらしながら言い返す。火傷するほどの汁物なんて飲まないで欲しい。
よく同室の食満先輩はこの不運に六年間も付き合っておられるなあ、なんて、触れられる感覚を誤魔化すように考える。
「まあ僕の所為だけど。キズモノにした責任を取ってあげようか?」
「寝言は寝床でどうぞ」
馬鹿馬鹿しい。軟膏を塗る指がつう、と背骨を下から上になぞる。
ふむ、と興味深そうな声。
「綺麗に出たねえ、鬱血痕」
「はっ!?」
いつつけた。口吸いの痕なんてただの鬱血痕だよといったのは、そもそもこの人じゃないか。
「包帯も巻いてあげようか、不破」
道理で朝の着替えのときに三郎が固まっていたわけだ。
今朝のこと。
僕の背中を見て一瞬息を詰めた同室は、自分は頭巾を結びながら僕に話しかけた。
「恋というのは苦いそうだよ」
三郎はころころと楽しげに笑って言った。何て性質の悪い冗談だろう。

(僕のこれは恋ではないのに!)



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2013/06/22 00:00 | RKRN(小噺)

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