嘘でも嫌いなんて言えないから、死んでも良いんだよって、言った。
嘘じゃないけど、嘘みたいな本当のことだった。
先輩の、嘘吐き。
そうとも、俺は嘘吐きなんだ。そんなことも知らないで、一丁前に好きだなんて俺相手に言っていたのかい。
彦四郎は静かに泣いていた。庄左ヱ門の冷静さは一年生らしからぬものだけど、彦四郎だって年相応の泣き方をしない。
ぎりぎりまで我慢して、いっぱいに涙をたたえた瞳から、ぽろぽろと涙の雫が落ちる。
きついだろう、苦しいだろう。
やめてしまえ、こんな嘘吐きを好きでいる恋なんて。
「……貴方が嘘吐きだって、人殺しだって、僕は嫌いになりません」
彦四郎は目を真っ赤に腫らして、俺を睨むように顎を引く。
「貴方が貴方を嫌うから、僕くらいは貴方を好きでいるんです」
噛み締められた唇がいやに赤かった。血が出てしまう。
指を伸ばしてそっとなぞる。
「莫迦な子」
切れちゃうよ、と笑ってやる。
「……尾浜先輩ほどじゃありません」
「さてどうでしょう」
むうと膨らんだ頬をむにむにと押したら「もう!」と彦四郎は声をあげた。
「逃げないでくださいね」
「嘘吐きなの分かってて、俺に念を押す彦ちゃん凄い」
嘘にはさせませんもの、と言いきった。
俺の手を握って、自分の頬に当てる。後輩の腕は誤魔化せないくらいに震えていた。
実力も無い、自信も無い。不安は全部押し隠して。
なんて愛おしい。
「彦四郎は良い子だねえ」
「子ども扱いしないでください!」
生まれたての嘘
(俺ね、君になら、騙されても良いな)
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