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2024/07/01 19:12 |
欲しいんだ、って。言わせて。【尾鉢尾】
深夜のコンビニでバイトする勘ちゃんと、深夜のコンビニに出没する三郎の話し。

現パロ注意。
三郎は雷蔵と双子でもきっとずっと惹かれてるんだと、思います。
勘ちゃんと逢って「一番」を変えられるかな、ってきっと初めて思う。

拍手[2回]



いつも気だるそうな目をした彼は、例の如くモンブランとプリンをレジにおいてがさがさとポイントカードを探し出した。
先に財布を構えているあたりレジ係としてはポイントが高い。レジで順番が来てから財布を出す奴はろくな奴じゃないのだ……って、これは勘右衛門の持論だけども。
「一点、二点、二点で五百二十五円になります。商品を。カードをお預かりいたします」
しかしまあ少なくとも、モンブランとプリンは深夜に買うものではないだろう、と思う。時間は一時半頃、ほぼ毎日だ。この人一体いつ食べてるんだろうか。まさか帰ってからか。
ぱっと見るに、同い年くらいだ。部屋着にジャンパー、こんな格好だし家は近いんだろう。


珍しく早上がりのシフトだった。
今日はレジであの人に会えないな、また甘いものをアホほど買うんだろうな。そんなことを考えて、裏からコンビニの正面通りに出る。バイト先のコンビニの光が眩しい。
「……あ」
光に目を細めて開ければ、いつもの人が、居た。思わず口をついて出た言葉を拾ったらしく、彼はこちらを向いた。目が合う。無言。
「あ、えっと、このコンビニの。いつもレジ打ってるんですけど」
自分で言い訳するなんて怪しすぎる!怪しい者じゃなくて、って十分怪しいけど。
「……尾浜さん、だっけ?」
覚えられていた。それだけで何だか嬉しかった。
「はい!」
幼稚園児や小学生よろしく良い返事をする。
「今日居ないな、と思ってたんで」
それだけ言って彼はマフラーを巻きなおした。もう帰るのかな。彼の持つコンビニの袋が光を反射して眩しい。
「いつもありがとうございます」
「年変わんないでしょ、タメでいいよ」
そういうわけには、と愛想笑いをしたら「あ?」と低い声を出された。不機嫌になったりするのか、覚えておこう。
「んじゃ、業務時間外ってことで俺もタメでいーです。えーと」
「はちや。宜しく、尾浜さん」
尾浜勘右衛門です!と勢いよく自己紹介をしたら少しだけ笑った。
「そんな簡単に個人情報言っちゃっていいの」
「……あ」
いや、たぶん、良くはないんだけど。
「まあ、いっかなあって」
あ、また笑った。

駅のあたりまで一緒だった。鉢屋さんの家は駅の反対側らしい。
最近のコンビニスイーツは侮れないそうで、うちのコンビニのが一番だ、とか。おそらく彼にとってはどうでもいい話なんだけど、俺は真面目に頷いていた。俺が深夜シフトである限り切らさないようにしなくては。


「鉢屋さんは年いくつ?」
俺の週四のコンビニバイトは週六になった。そのうち二回が早上がりのシフト、つまり鉢屋さんと並んで帰れる日だ。なんとなく俺が上がるのを待っていてくれるようになった、ような気がして喜んでいる。多分俺の思い込みだけど。そうに決まってるけど。
「二十一」
「俺、来月誕生日だからそれで同い年だ」
ふーん、と興味なさげに鉢屋さんは笑った。
「いつ?売上に貢献してやるよ」
「売上って深夜のスイーツでしょ、鉢屋さん以外買う人居ないんで貢献してもアレ以上増えません」
ちっ、とあんまりはっきり舌打ちされたので「ひでえ」と笑うほかなかった。

それで、そのまま忘れていた。

次の月、しれっとした顔で鉢屋さんは小さな紙袋を投げてよこした。
「やる」
「……えっ鉢屋サン?」
「誕生日だろ」
プレゼントだ!
がさがさと紙袋を破らないように取り出す。髪留め。なぜか極彩色。
俺は当然今の今までバイトをしていたわけで、鉢屋さんが今年最初の「おめでとう」だ。
「派手な色が似合う」
「うおおありがとうございます……」
気付いてしまった。一番最初だ。不思議そうな顔をして思ったより反応薄いな、と彼は首を傾げる。
「いやなんか嬉しくって……えへへ」
「それで喜ばれたってなあ……他に欲しいものは?」
変化球が来た。ただでさえ嬉しいのに他に、と尋ねられても何も考えていない。
「あっじゃあ名前で呼びたいなぁ……とか」
無言。俺から動かない視線が痛い。
「嘘ですなんでもないです」
「許可する」
「やっやっぱいい恥ずかしいから」
べしん。後頭部に衝撃が走った。はたかれたらしい。
「今日このまま私のうちな!」
「へっ」
ぐいぐいと腕を引かれる。それなりに騒がしい駅の中を通り抜けながら、彼はどんどん前に進む。
「バイトに入るくらいだから今から予定もないだろ!」
ありました。鉢屋さんに会う予定です。言えやしないけど。
「っていうか深夜に予定入れる人なんていないと思うんだけど!」
「だろうな、知ってる!」


さあ上がって、と楽しそうに鉢屋さんは言った。
「御馳走は用意してないけどケーキは買ったぞ。さっきお前のコンビニで」
「えっ俺のためだったの」
奥の、おそらくリビングだろうドアが開いた。隣に居る彼と同じ顔が覗く。
「お帰り、三郎」
「ただいま、雷蔵!少しキッチンを使うよ」
どうぞ、と奥に通されながら俺は鉢屋さんと同じ顔を見つめた。
「えと、あの……どちらさまですか」
「わ、聞かれたの初めてだ。どうも、双子の兄です。君は?」
「尾浜勘右衛門、です」
「やっぱり。あ、雷蔵でいいよ、今日が誕生日のコンビニのひと?」
その通りです、としか言えなかった。個人情報が筒抜けだ。
「雷蔵もケーキ食べるだろう?改めていらっしゃい」
「お邪魔してます、俺、手伝いとかっ」
まあまあと肩を押される。座っておいてよ、お客さんなんだから。
この人たち深夜だっていうのにケーキを何種類だか食べる気らしい。正気か。
「フォーク出して来るよ。歓迎する。誕生日おめでとう」
あー本当に、鉢屋さんそっくりだ。夢みたい。


ああこの人が好きだな、と思った。
三人で結構な量のお酒を飲んだ。雷蔵さんの方はさっさと飲んで楽しそうに笑って、気持ち良さそうにこたつの中にもぐって寝てしまった。
鉢屋さんは綺麗に泣いていた。ほたほたと落ちるしずくをぐいぐい手のひらで擦って、小さく笑った。
「何言ってるんだ」
「えっ」
「思ったこと口に出してる」
「……マジで?」
「まじで。もう一度言ってみろ」
口に出したって、どれだ。好きのことですか。そうじゃないと言って下さい俺のばか!
「鉢屋さんが好きです。大好きです」
ああもう、言っちゃえ。
「ん」
鉢屋さんの舌が俺のそれに触れた。吐息。心臓の音がやけにうるさい。
「は、はちや、」
あつい。厚い熱いあつい。
「三郎だ。覚えが悪いぞ」
「……だって」

はは、と三郎が笑う。なんて顔してるんだ、勘右衛門。


欲しいんだ、って。言わせて。
(好きです、大好きです) 


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2013/03/06 00:00 | RKRN(小噺)

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